[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

16 / 65
15 代償

『どうして……そんなことを知ってるのかな』

 

クオンの一言。

それは記憶喪失であり、コールドスリープさせられていた自分が、ボロギギリの習性やこれから起こる事を知っていたからだろう。

そして、一番初めに。

 

『ク……オン……』

 

自分は、クオンの名前を呼んだ。

あの時は咄嗟に誤魔化したが、やはり引っかかっていたのだ。

 

「昨日の話、してもいい?」

 

月明かりに照らされる、クオンの真面目な表情に胸が締め付けられた。

 

「……ああ」

 

もし、自分が未来から来たと言えば……どうなる?

クオンは信じてくれるのか?先日、遺跡で見つけたばかりで、彼女達にとっては大いなる父と呼ばれる存在。

そんな人間が、まさか自分たちのことを知っていた。

そして、これから戦乱が起き、共に戦ったと言って信じてもらえるのか?

 

「うん。それじゃあ、ね」

 

あるわけ、ないだろう。

クオンはお忍びだ。トゥスクル皇女という仮面を隠し、家出してまでこの旅に来たんだ。

そこに自分のような異物。縁を結んだならまだしも、出会って数日だぞ……?

 

「どうして、ハクはボロギギリの事を知っていたのかな」

 

マロロから聞いたんだ。

すれ違いで起きた事故。自分達の前で、引き裂かれ食いちぎられた仲間達。必死に逃げて、そこでマロロに教えてもらったんだ。

 

「……」

 

「答えて。じゃないと、私……」

 

「……前に聞いたんだ」

 

「前?それはいつ?」

 

「…………」

 

「ハク!」

 

クオンの声に、身体が跳ねる。

言うしかない……よな。

 

「マロロに……教えてもらったんだ」

 

「え……マロロって、あの?」

 

「ああ」

 

クオンは目を見開き固まった。が、すぐに目を細める。

 

「嘘かな。マロロはあの時酔い潰れていたはず。そしてその前に関わりもなかった」

 

「……」

 

「ねえハク……私はそんなにも信用出来ないのかな」

 

「ち、違う……!」

 

「じゃあどうして、本当の事を言ってくれないのかな」

 

言えるもんなら……言えるもんなら言いたいさ。こっちだって、お前を愛しているのに、嫌われたくない、見限られたくない一心で嘘をつくのは嫌なんだ。

だが……クオンは自分の知ってるクオンじゃないだろう?

 

「……ハク」

 

自分の右手に、クオンの手が重ねられる。

 

「どうして、そんなに辛い顔をしているのに……」

 

「ッ……!」

 

唇を噛み、顔を下に向ける。

拳が震えるのを、クオンがそっと抑えてくれている。

 

 

「……言えるもんならッ」

 

 

ーーそうだ。

もういっそ、ここまで彼女が言うなら。

いっそ、全てをーー

 

「自分はッ……」

 

未来から。

 

「自分はッ……」

 

お前達と一緒にいた、あの時間から。

 

「じ、自分はッ……!」

 

お前達を置いて、自分だけ生き残ったあの場所から。

 

 

「未来かッ………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチリ。

骨が軋む。頭蓋が、割れる。

痛い。痛い痛い痛い痛い痛い!!!!

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

 

あまりの激痛に、叫ぶ。

それはまるで、オシュトルの仮面を使った時の。

骨に何かが埋め込まれていくような。あの。

 

「ハクッ!!」

 

「がぁぁぁっ!!いだぁっ!ああぁぁぁあ!!!」

 

「あっ!」

 

クオンを突き飛ばし、頭を床に何度も打ち付ける。

自分は、某、ナ、ニガ、オーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「どうしたッ!」

 

暴れるハクを必死に抑えていると、ウコンと数人の男が部屋に飛び込んできた。

私はウコンに叫ぶ。

 

「ウコンッ!ハクを抑えてッ!!」

 

「なっ……」

 

ハクの様子は、誰が見ても明らかにおかしかった。

頭……正確には額を抑え、いつもの落ち着いたハクはどこにも見当たらない。

白目を向き、血まみれになった顔、そして乾ききった、しかしひび割れるような悲鳴。

 

「アンちゃん!?おいネェちゃん、これは……」

 

「いいから早くッ!!!」

 

そう叫ぶと、ウコンは頭を何度か振って、こちらに駆け寄るーー

 

「ァァァァァァ!!」

 

と同時に、私は弾き飛ばされた。

その力はハクとは思えないほど強く、私は寝室の壁に叩きつけられ、そこにあった棚が崩れ落ちる。

 

「大丈夫かッ!!」

 

ウコンがこちらに声をかける。が、視線はハクに向いたままだ。ウコンと男三人で、必死に暴れるハクを抑えている。

 

「うん!とにかくハクを抑えて!」

 

私はその間に、荷袋から強力な睡眠作用のある薬草や根、花弁を取って調合する。

そしてそれが完成すると、布に含ませた。

 

「そのままじっと……!」

 

ウコンがハクの頭を床に押付け、こちらにハクの顔が向いた。

その瞬間、ウコンと私の動きは止まった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なっ……!?」

 

「あれは……」

 

その油断をついて、ハクはウコンに後頭部の頭突きを食らわせる。

 

「ッ……!!」

 

ウコンの鼻から血が吹き出す。

しかし、ウコンはそれに耐えながらもう一度ハクの頭を抑えた。

 

そしてクオンもすぐに駆け出す。

動きそうになる前に、ハクの口元に布を押し付けた。

それから少しして、暴れていたハクの動きは止まっていった。

 

「ハアッ……ハッ……」

 

その場にいた者達の荒くなった呼吸だけが、部屋に響いている。

やがてウコンが、寝息を立てるハクの身体を抱え、布団へと寝かせた。

 

「……何があった、ネェちゃん」

 

私は常用していた傷薬をハクの傷口に塗りながら答える。

 

「分からない、かな。ちょっと話をしていたら、その……突然暴れだして……」

 

ウコンはその言葉に、部屋の周りを見回した。

破れた障子。そこらじゅうに散乱する徳利や盃の破片。家具は壊れ、そして所々にはハクの……血飛沫。

 

「これを……アンちゃんが……?」

 

ありえない。全員がそう考えていた。

ハクは冷静沈着で、しかし性格は大人しく暖かい。

ヒトを惹き付ける性格だ。

ボロギギリ討伐でも、ここにいるウコンとその仲間たちはハクと会話をし、ハクの性格をよく知っている。

 

だからこそ、こんな状況に頭が混乱しているのだ。

 

「……とにかく、落ち着いてよかったかな」

 

薬を塗り終わり、包帯が巻かれたハクの頭を撫でる。

後ろでは、ウコンが女将さんに話をしていた。

 

「女将、この部屋の修理費は俺が出す。騒がしちまってすまねぇ」

 

女将も動揺しているようで、震える手で口を抑えながら言葉を発した。

 

「い、いいんだよ。アンタらのおかげで助かったんだ……でも、ハクさんは大丈夫なのかい?」

 

「ああ、とりあえずアンちゃんは落ち着いたみてぇだ。だが、この後に何かあるかもしれねぇ。だから今日は俺とネェちゃん以外、この部屋に近づかせねぇでくれ。いいな?」

 

ウコンの気迫に、周りにいた部下たちも頷いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そして女将と部下がその部屋を去り……。

 

「ネェちゃん、いるかい?」

 

ウコンが自室から酒を持ってきていた。

 

「……もらおうかな」

 

「ほれ」

 

クオンに盃を手渡し、酒を注いでいく。

そしてウコンも自分の盃にも酒を注ぎ、徳利を置いた。

一気に流し込み、互いに相手の言葉を待った。

 

そして先に口を開いたのは、ウコンだった。

 

「さぁネェちゃん。何を話してあぁなったのか、聞かせてもらえるかい?」

 

ウコンの視線には、少しばかりの殺気がこもっている。

 

それは、ハク達がもし……危険人物であれば。

明日、彼らを帝都へ行かせる訳には行かない。

しかし、自分達を助けてくれたのもハクとクオン。

だからこそ、まず話を聞くのだ。

 

「……ハクは、自分の名前すら分からない……記憶喪失で」

 

クオンはハクの寝顔を見ながら、ポツリとこぼした。

 

「それで、シシリの山奥で……倒れていたんだ」

 

「ほぅ……」

 

ウコンは顎髭をそっと撫でた。

 

「そして、最初に目覚めた時……ハクは私の名前を呼んだかな」

 

「……ネェちゃんとは初対面だろう?拾ったってこたぁよ?」

 

「うん。だからその時、私の名前をどうして知ってるのか、ハクに聞いたんだ。でもハクは……教えてくれなかったかな。知り合いと間違えたって、下手くそな嘘までついて」

 

「アンちゃんが……騙していた、と?」

 

クオンはその言葉に首を振る。

 

「ううん……言えないんだと、思う。あの時のハクの顔、とっても辛そうで、何かを我慢してるようで……」

 

「なら別に、記憶喪失だからって偶然もあるだろう。それこそ、知り合いと間違えたっつぅのも……」

 

おかしくない、そう言おうと思った時。

 

「……分からない?」

 

クオンにそう聞かれる。

その言葉の真意が分からず、静かに首を振るウコン。

 

「……ボロギギリのことについて、教えてくれたのは誰?」

 

「ッ……!!」

 

ウコンは理解する。

記憶喪失なんて、なってみなきゃどんなものかは分からない。

それこそ、無意識に誰かと重ねてしまった……なんてこともあるかもしれん。

だが……自分の名前も分からない記憶喪失の奴が、よりによって俺ですら見たことの無い、話で聞いたことしかない蟲の事を知っている?

 

「……俺らの中でボロギギリについて知っていたのは、マロロだけだ。それこそ、アンちゃんが言った通りだった」

 

「そして、ハクが立てた作戦は全て上手くいったかな。でも、上手く行き過ぎてる」

 

「……こりゃあ、ちとまずいな」

 

「うん、少しまずいかな」

 

二人とも、互いに互いが大物だと勘で察している。

だからこそ、その二人が理解出来ない状況。それはトゥスクル皇女にとっても、右近衛大将にとっても、危険すぎる状況だ。

 

トゥスクルが、ヤマトが……もしかしたら、と。

そして何より……。

 

「「仮面……」」

 

ポツリと、しかし二人が同時に零したその言葉。

顔を勢いよく上げ、互いに睨み合う。

 

「……見えたのか、ネェちゃんも」

 

「ウコンも、見えたんだ」

 

そう、それはハクをウコン達が取り押さえた時。

いつもそこにない。今まで見た事もない。

ハクの額に、二本の角のようなものが生えたーー

 

 

 

 

 

ーー仮面<アクルカ>を付けていた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。