[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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16 記憶

翌日、目を覚ますと。

 

「な、なんじゃこりゃ……」

 

部屋の中が、お化け屋敷状態になっていた。

物はグチャグチャ。障子に穴あり箪笥にひびあり。そして畳には乾いた血の跡。

そして自分の頭には包帯が巻かれ……爪の間に血が固まっている。

見ているだけで背筋が凍る光景だ。

 

「あ、おはよう。目が覚めた?」

 

クオンが水の入った湯呑みを持って、自分の傍に座る。

 

「ハク。昨日の事、覚えてる……?」

 

不安げに聞いてくるクオン。

昨日……。

 

「確か自分は、マロロの惨劇後……クオンとふたりで、月を肴に飲んだよな?」

 

「……うん」

 

「そして……」

 

そして……どうしたんだ?

 

「ん……? 思い出せない……」

 

「え……」

 

どんなに思い出そうとしても、クオンと乾杯をして、月が綺麗だと語り合って……そこから思い出せない。

 

「なあクオン、何かあったのか?この部屋の様子からして、何が……ッ!」

 

「ハクッ!?まさかーー」

 

自分は両手で頭を抑えた。

 

「じ、自分が……クオンを怒らせたのか……!?」

 

その言葉に、クオンは口をポカンと開けた。

いやいや、クオンが怒ってこうなったんなら、きっと自分は謝罪をしたはずだ。……もしかすれば、謝罪をする前にトドメを刺されたのかもしれんが。

 

「ああ、わ、忘れてないぞ!ちゃんと反省した!反省したからな!」

 

「……えっと、ハク?」

 

「な、なんでしょう?」

 

クオンが怒る!?と尻尾に視線を向ける。が、こちらに牙を剥くことは無かった。

そしてクオンの表情を見れば、何やら訝しげにこちらを見ている。

 

「本当に、覚えてないの?」

 

その言葉に、自分は首を傾げた。

 

「いや、分からん。クオンと月を肴に飲んだことは覚えてるんだが……クオンが怒ったわけじゃないのか?」

 

「どうして私が怒ると、部屋がこんな有様になるのかなぁ……?」

 

「じょ、冗談です!」

 

「……はぁ、ちょっと外に出てくるから、ハクはここで水でも飲んで待っててほしいかな」

 

クオンは立ち上がる。

 

「あ、ああ……分かった」

 

「もし何かあったら、すぐに大きな声を出してね」

 

自分は子供か!

 

「了解」

 

「……必ずだよ」

 

自室の入口から出ていったと思いきや、ひょこりと顔を出してもう一度そう言うクオン。

 

「分かってるよ〜」

 

自分は水を飲みながら、手をひらひらと振る。

そしてクオンが立ち去った後、もう一度部屋を見渡した。

 

「この状況……獣でも来たのか?」

 

それなら、何とも恐ろしい獣である。

きっと昨日のボロギギリよりも怖いんだろうな。うん。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あぁ!?覚えてねぇだと!?」

 

「ちょっと!声が大きいかな!ハクに聞こえちゃう」

 

「あ、ああ……すまねぇ」

 

食堂の隅で、クオンとウコン、そして止めに入った三人と一緒にハクの様子を話し合っていた。

 

男の一人が、手を挙げてクオンへと口を開く。

 

「しっかしクオンの姉御。それはハクの旦那が嘘をついてるとかじゃ……」

 

しかし、クオンは首を振った。

 

「ううん、ハクは嘘をついてない。一番に動揺して、最初に私のせいにしてきたかな」

 

「なっ……もしそれが嘘で、ワザとネェちゃんのせいにしていたんなら、アンちゃんは命知らずだなおい……」

 

「どういう意味……かな?」

 

クオンはイラついていたのだろう。

右手に持っていた湯呑みが砕け散った。中身は空っぽのため被害はなかったが。

しかしその様子に、ウコン含め男達は全力で首を横に振った。

 

「でも、それじゃ昨日のは……」

 

「ああ、アンちゃんも知らない力ってことになる」

 

うーん、と唸りながら腕を組む二人。

ウコンがそこで思いついたように、クオンへと質問した。

 

「なぁネェちゃんよ。昨日、アンちゃんがああなったのは、あの話を聞いたからだよな?」

 

「……うん、そうかな。それ以外だとお酒……違う。それだったら初日からこうなってたかな」

 

「ってこたぁ……」

 

そこまで言いかけると、ウコンは口を閉じた。

そしてクオンに向けて、顎で外の方を示す。

 

「テメェらは準備を進めてくれ。俺はこのネェちゃんと話してくる。……ああ、それと昨日の事は誰にも話すな。女将には俺から口止めしてある」

 

ウコンの言葉に、三人の男は返事をした。

そして、クオンとウコンは旅籠屋を出る。

 

 

「それで、何に気づいたのかな」

 

 

しばらく歩き、人気のない場所でクオンは問いかける。

 

「もしかしたら、一瞬見えたあの謎の仮面と……記憶。そいつらに何かあるんじゃねえのかってよ」

 

ウコンの仮説に、クオンは手を顎に当て考えている。

 

「いや、正直こういう頭を使うようなこたぁ、俺は得意じゃねえ。だから単純に、ネェちゃんがアンちゃんの事を聞き出した時ってのしか思いつく点はねぇんだよな」

 

「確かに……それはあるかも」

 

ハクがあんな風に暴れた事は、これまで一度しかない。

酒を飲み、ハクの記憶について深く質問した時だけだ。

 

「いや、本当はよ。アンちゃんに危険が及んだからあんな風にになっちまったのかとも思っていたんだが……ネェちゃんの様子を見た限りだとそれはないと思ってな」

 

「?……ああ、そういうことかな」

 

クオンがハクをボコボコにしたから。だからああなったと。

 

「ヴッ!」

 

いつの間にか、ウコンの腹に素晴らしい正拳がめり込んでいた。

 

「うーん……それじゃあ、とりあえず私やウコンがハクに記憶の事を聞かなければ……いいってことかな?」

 

蹲ったウコンに目も向けず、指先を顎に当てながら首を傾げるクオン。

ウコンは捻り出すような声で、

 

「そ、そうですね……」

 

と答えるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

クオンが戻ってきたのは、水を貰ってから結構な時間が経った頃だった。

どうしたのかと聞くと、女将に頼まれていた薬草を渡し、ウコンから依頼を受けたらしい。

 

依頼ということは、また帝への献上品を護衛するのか。

 

こちらとしては出来るだけ前の時代……なんて言えばいいんだろうな。過去というのか?そこから逸脱した状況は作りたくない。

まあ、昨日のボロギギリ討伐で色々と逸脱しちまってるが。

 

そして、クオンに持ってきてもらった朝食を済ませる。

なぜ自室で?と思ったが、そう言えば食堂は昨夜の宴で潰れた男達の阿鼻叫喚状態だったと思い出した。

クオンに感謝だな。

 

「そう言えば、結局自分は昨日、何があったんだ?」

 

その言葉にクオンは肩をピクリと跳ねさせる。

 

「そ、それは……ウコンに聞いて欲しいかな。私は〜その……寝ていたから」

 

あは、あはは……と乾いた笑いを浮かべるクオン。

まさか、本当にクオンがやったのか!?

 

それなら、別に追求する必要もないか……いやむしろしない方がいいな。

 

「ああ、包帯を取り換えないといけないかな」

 

クオンが自分の頭に手を伸ばし、するりと包帯を解いていく。

そして包帯が完全に取れた瞬間、クオンの表情が固まった。

 

「……クオン?」

 

声をかけても反応がない。

震える手で、自分の額を触っている。

 

「嘘……なんで……?」

 

「おい、クオン!」

 

「えっ!?」

 

クオンがやっと反応した。

どうしたんだ?そんなにも顔を真っ青にして……。

 

「って、そういえばこの包帯……自分はどこか怪我でもしたのか?」

 

「……い、いや?」

 

「は?」

 

「ちょ、ちょっと……イタズラかな?」

 

今、自分の顔はかつてないほど呆れているだろう。

だがしかし、クオンがそんなことをするとは思えん……ちょっと聞いてみるか?

 

「クオンがそんなことするとは思えないぞ。薬師なんだろう?」

 

「えっ?あー……ごめんなさい」

 

「……本当なのか?」

 

「……うん」

 

本当にイタズラなのかよ。子供か。化粧品を勝手に使う子供か。

 

「おいおい、クオン。それじゃあ薬や包帯がもったいないだろう。お前の薬はよく効くんだ。ちゃんと怪我をしたヒトに使ってやってくれ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

尻尾がペタリと元気無く地面についている。これは注意しすぎたか……?

 

「なんで私が……なんでかな……」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「ううん!なんでも!」

 

クオンは全力で首を振り、少し荒い手つきで自分の額を拭いた。

そしてそれらを片付けに井戸まで走っていってしまった。

 

「……さて」

 

自分も、着替えて準備しますか。

……クジュウリの姫と大きなホロロン鳥、そしてあの双子との邂逅に向けて。

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