[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
うん、何かおかしい。
身支度を済ませ、自室を出てから何かおかしい。
「よっ、飲みすぎで辛くないか?」
と、話しかけてみれば。
「ヒッ!?」
と、自分より図体の大きな男が、まるで乙女のような驚き方をする。
ウコンの仲間だぞ?ボロギギリ戦でもすごく頼りになる漢だったのに。
そして、
「ああ、女将さん。昨日は騒いで、すみませんでした」
「えっ!?あ、ああ!い……いいんだよ?」
女将さんの様子もおかしい。先程の男よりかは驚きはしなかったが。
これは……何か嫌われるような事をしたのか?
しかし昨日は飲みすぎたわけじゃない。いや確かに、結構な量を飲んだ気もするが……それでも記憶は残っている。その後、クオンと呑むまでだが。
「なあ女将さん。昨日、クオンと呑んでから……」
「知らないよ!」
「ん?そうです、か……」
なんで食い気味なんだ。
そしてなぜ自分の額しか見ないんだ。目を合わせてくれ。
「ま、まあ……酒は呑んでも呑まれるなとも言うだろう?もしかしたら、クオンさんと何かあったのかもしれないね」
そう言って、女将さんはそそくさと裏へ入ってしまった。
何か、おかしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
旅籠屋から出ると、何やら外が騒がしい。
もしかして……と覗いてみれば、やはりクジュウリから帝への献上品を載せた荷車が数台停められていた。
そして、それを運んできたと思われる人達と、集落の人々が気楽に談笑している。
「……よぅ、アンちゃん。よく眠れたかい?」
後ろを振り返れば、ウコンがこちらを見ながら元気な笑顔を浮かべていた。
「ああ。記憶が無くなるくらい、グッスリ寝たよ。起きたら部屋の中が大惨事になってたんだけどな」
「大惨事?」
「ん?クオンにその原因を聞いたら、自分は寝てたからウコンに聞けと言っていたぞ?知らないのか?」
「うぐっ……あ、あ〜!アンちゃんの部屋だな。知ってるぜい」
「一体何があったんだ?あまりの悲惨さに、肝が冷えたが……」
ウコンはポリポリと頬を掻きながら、遥か遠くを見つめている。
「……アンちゃんが、ネェちゃんの怒りを買った」
「なんだって!?」
ウコンはタラタラと汗を流し、顔を真っ青にしている。それにチラチラと周りを警戒してもいる。
こ、これは……
「……まずいな」
「アンちゃん……もう二度とあんな事はするなよ」
「い、一体自分は何をしたんだ?」
「そ、そりゃあ……」
「それは……?」
「も……」
「も……?」
ウコンは捻り出すような声を出しながら、拳をプルプルと握りしめている。
「揉んだ」
「…………は?」
もんだ……問題か?
「何が問題なんだ?」
「違う違う!アンちゃんがネェちゃんのアレを揉んだんだ。それはもう、情熱的に……」
「ネェちゃん……クオンの……アレ……ハッ!?」
まさか、揉んだのか!?
確かにあの時、自分とクオンはロマンチックな空間に二人きり。そして酒も入って身体も火照っていた。何より自分にとって、クオンを愛していることには変わりない。
……揉んだのか、自分。
「よく生きてたな、自分は」
「あ、ああ……もうネェちゃんも気にしてねぇようだし、この話はここで終わりだ。いつでも出れるよう準備を済ませておいてくれ。こっちの要件が終わり次第、出発だ」
「ん、ああ。分かった」
「あと……掘り返すなよ?特にネェちゃんには言うな」
その時のウコンの表情は、戦で見た表情よりも険しかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
逃げるようにウコンが去っていった後、クオンが準備を済ませこちらに来た。
「ハク。準備は出来た?」
先程、ウコンから聞いた話のせいで妙に気まずい。特に目線が……勝手にその場所へ集中して……
「ハク?」
「あっ、ああ!自分は特に荷物もないからな」
危ない危ない。掘り返すなとウコンにも言われていたからな。
「しかしクオン。今更なんだが、どうして急にウコンの依頼を受けることにしたんだ?」
「……特にはないかな」
「そうなのか?」
こちらの質問に対して、カラッとした答えを返すクオン。ただ視線がこちらに向いておらず、何故か荷車の方を眺めている。
自分も釣られるように、そちらへと視線を向けるとーー
ドンーー
「おっと?」
余所見をしたせいか、何か壁のようなものに……壁……これは……。
「あっ、ごめんなさい……」
「ッ……!!」
頭上から、透き通るような声。いつも、この声に支えられていた。
自分はゆっくりと、その声の主を見上げた。
「ホロロロロ……」
「コッ……!」
巨大なホロロン鳥。それを見た瞬間、つい名前を呼びそうになるのを、口を両手で塞いで止める。
しかしその行動に何かを感じたのだろう。その鳥に乗った少女が、必死に頭を下げ始めた。
「本当にごめんなさい……あの、ココポは大きいですがとても大人しいので……その……」
どこが……大人しいんだよ。
ルルティエ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ルルティエ。
クジュウリ皇オーゼンの末姫。優しさと慈愛に溢れた少女。
そして……自分を支えてくれた、愛らしい仲間。
彼女が作る飯や菓子は、どれもが舌を鳴らすものばかり。
愛情が込められていて、食べるヒトを幸せにしてくれた。
話すだけで、その柔らかさに心が洗われる。
エンナカムイでも、どれだけ彼女に支えられていたか。
彼女に何故、戦乱の中で自分達と共に来たのかを聞いた時。
『わたしは、ハクさまの想いを追いかけているのかもしれません』
自分の正体を、知ってしまった時。
『待っています……』
そして、自分が塩となって別れる時。
『やっと……ハクさまを温めてあげることが出来ます……』
自分なんかを……慕い続けてくれた、一人の少女。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あの……」
「ん……ああ。別に構わんよ。こっちもよそ見をしてたしな」
「良かった……」
そして少女は、乗っている大きな鳥を撫でる。
「行こ、ココポ。ここに立ってると、みんなの邪魔になっちゃう……」
「ロルルル……?」
しかし、ココポはこちらに顔を寄せ、ジッと見つめてきた。
「……ココポ?」
「ホロロ……ホロロロ……!」
その瞬間、自分の視界は一瞬で闇へと染まった。