[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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第壱章 『辺境』
1 再会


視界を覆う闇の中、自分の意識が漂うような感覚。

上手く頭が回らない。

 

「ゥ……ア……」

 

あぁ……あたたかい……?

 

「ダレ……ダ……ワタシヲ……ヨブノハ……」

 

頭に浮かぶ情景。それはかつてーー達との思い出。

しかしどこもかしこも霞んでいてよく見えない。

不意に、誰かの声が聞こえる

 

『もう、また部屋を散らかしたまま』

『やっほ〜、おじちゃん、来てあげたよ〜』

 

この、声……は……。

 

『ふふ〜ん、喜んでよね。今日はおじちゃんの為に、大好きな……』

 

おじ……ちゃん……?あ……ああ……そうだ……自分……は。

 

『ふ〜ん、じゃあ、おじちゃんがおじいちゃんになってもお嫁さんいなかったら、あたしが……』

 

はは……これ、は……チィ……ちゃん……の……。

 

『私は心配だわ……せめて、ここじゃなくて向こうに……いつ帰ってきてもいいのよ』

 

この声は……、

 

『なんだか、あなたが急に遠くなったみたい……昔は何かにつけて私やあの人の後をついてまわっていたのに』

 

ああ、姉さん……か。

 

『薬は飲んだか? 目覚めた時には、お前の前に新しい世界が待っているだろう……ふふふ』

 

兄貴……兄貴だ……よな……

 

『そうだ、お前が最初にして……最後……の……』

 

『覚醒処理ヲ開始』

『しすてむ、いえろー。5秒後ニ、再起動』

『しすてむ、えらー』

『覚醒処理ニ問題。対象ニ深刻ナ影響』

『停止処理きゃんせる。しすてむノ停止ハ出来マセン。かうんとだうんヲ開始』

『5.4.3.2.1……』

 

 

『あなたに、よき目覚めをーー』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

パチパチと何かが燃えるような音。自分の周りが暖かい事を感じながら、ゆっくりと目を開ける。

最初に映ったのは見慣れぬ布の天井……いや……これは……。

それに仄かに明るくて、胸を締め付けるようなこの香り、は……どこかで……。

「ん…………そ、う……だ……」

 

ここは、確かに……あの時の……あの場所。

愛しい、彼女との……あの……。

 

「目が覚めた?」

 

その声に、歪んだ景色がはっきりとする。心臓が飛び跳ね、目頭が急に熱を帯び始める。

 

「ま……さか………」

 

身体の震えが止まらない。寒さのせい、では無いだろう。

きっとこれは……夢だろう。けれど、しかし、いや……それでも、これまで見たことない夢の続きを見ることが出来ただけで……。

視線をゆっくりと、天井から少し左にそらす。声の聞こえた方向へと。

そこにはーー

 

「ご気分はどうかな。外傷は無かったけど、どこか具合の悪いところがあったりする?」

 

あ……ああ……!!

艶やかな黒髪。柔らかく微笑む目元。三角のふさふさとした白い毛並みの耳。

 

「……まだ、意識が混濁しているのかな?」

 

彼女は……そうだ……彼女は……。

 

「ク……オン……」

 

名前を呼ぶ。

何年も、この名前を呼びたいと願った。

何度も、もう一度彼女に会いたいと願った。

 

「え……?」

 

「クオ……ン……クオン……ク……オン……!」

 

涙が溢れ止まらない。喉が震え、呼吸が苦しくなる。それでも、彼女の名前を呼びたくて仕方がない。

 

「クオン……」

 

これは、夢だろうか。

夢だとしたら、何て意地の悪いことをする。クオンと最初に出会ったこの思い出を、全てが終わった今。何もかもが去っていった今。見せてくるのだから。

 

しかし、自分の感情は上手く止められない。

仰向けで彼女の顔を見ながら、ただひたすらにその名前を呼び泣きじゃくる。

クオンはその様子を見て、動揺したように視線を逸らした。

 

「ど、どうして、私の名前を……?あの、えっと……」

 

「……」

 

ピタリ、と周囲の音が止まった。

待て、待ってくれ。これは、夢……なんだろ?

なのに、なぜ……彼女が反応する……?

 

「どこかで会ったこと……は無いよね。うん、だってさっき……私が……」

 

「き……こえるのか……?」

 

「え?聞こえる……かな」

 

あまりにも信じられない状況に、自分の頬を抓ろうと腕を上げようとする。が、どうにも力が上手く入らない。

視線だけでも動かし、今自分がいる場所があの時の場所だと理解する。

そして、目の前にいるのは……クオン、だ。

 

夢を見る時、自分の声は誰にも届かない。

相手が話していて、返答を待つ言葉だとしても、自分は返すことが出来ない。しかし、相手から返答が返って来る。

まるで一つの映像をただ見るように、流れ続けるのだ。

 

「だ、大丈夫……?」

 

動揺し訝しげに見ていたクオンが、心配そうにこちらに問いかける。

それに答えようと頭に浮かぶ考えを取り払い、言葉を出そうと口を開く。

 

「あ、ああ……大ーーぐあっ!!」

 

「えっ」

 

その瞬間、白い光が視界を照らす。頭に走った激痛によって、返答は叫びにかき消された。

 

「あぁあがぁぁっ!!……ぐっ……」

 

「ちょっ、ちょっと!無理しちゃ……!」

 

痛みが収まらず、動かない身体を震わせる。

クオンは急変した自分の身体を抑え、額や頬、首筋などを触っていく。

 

「暴れないで!今、鎮痛薬を……」

 

視界が白く染まっていく。

ああ、せっかく彼女に会えたのに。

 

「クオン……」

 

その言葉を最後に、自分の意識は途切れた。

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