[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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19 野営

クオンに助けられ、その後ルルティエとクオンが友達になった。

初めて同士……なんて可愛らしいことを言っていた。その様子に、自分はココポに齧られながらホンワカとした気持ちになった。

 

そして、ついに出発の時。

自分には、妙な引っかかりがあった。

あの双子が現れないのだ。

 

「確かに……ここだったんだがなぁ……」

 

「ん?どうしたの、ハク?」

 

「あ?い、いや……なんでも……」

 

「そう?もうそろそろ出るかな」

 

そう言って、クオンとルルティエが乗っているココポが、自分の乗っている荷台から少しだけ離れる。

仲良く二人乗り……自分もそっちがいいな。

 

そして荷車は動き出した。

自分は荷台に座りながら、頭の中にあるそれを深く考え込む。

 

確か、ココポに乗られている時。

あの双子が現れて、自分の頬をついてきたのが始まりだったはずだ。

だが、結局あの二人は現れなかった。

 

もしや今もどこかで見ているのか?

 

「もしそうなら……まぁ、いいや」

 

待っていれば現れるだろう。

とりあえず、今は考えなくていいか。

 

「あぁ、いい天気だ……」

 

森に入ると、澄んだ空気が肺を通り抜けた。

揺れる度に固い荷台にぶつかる尻が少々痛いが、我慢できないほどでもない。

風も穏やかで、本当にいい陽気だ。

 

と、思っていたんだがなぁ。

 

「うえっぷ」

 

酸っぱい匂いをさせたやつがいて、清々しい気分は水の泡。

まあ、ほとんどは自分のせいなんだが。

『マロロの惨劇』を起こした張本人である自分に、今のマロを責める資格はない。

 

「しかしなんだ……」

 

ここでも、現れないのか。

時間が経てば、荷台の中に来ると思ったんだが。

 

「ホロロロ〜」

 

荷台に寄り添うココポの顎なのか腹なのか分からん場所を撫でる。

 

「ホロ……ロルルル〜……」

 

気持ちよさそうに鳴くもんだ。

やっばりこうしてみると、コイツ可愛いな。

自分の上に乗ってくるのはあれだが、久しぶりに会うと愛着も振り切れるというもの。

 

「う……うぅ……うえっぷ」

 

「……吐くなよ、マロ」

 

「うぅ……ハク殿……」

 

マロがこちらへと手を伸ばしてくる。

それを笑顔で払い、またココポを撫でた。

 

「ハク……殿ぉ……」

 

ああ、ココポは可愛いなぁ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

それから日が落ち始めた頃。

 

「よーし、今日はここまでだ。各自野営の準備、歩哨班は周囲の警戒を怠るな!」

 

ウコンの掛け声で、長い荷台の移動がとりあえず終わった。

 

「ん……っ」

 

荷車から出て、体を起こし大きく伸びをする。

ポキポキとあちこちから骨が鳴った。

 

周りを見渡してみれば、既にほとんど準備が終わりかけていた。

柵が建てられ、天幕がいくつも張られている。

 

「さて、どうするか……」

 

「あ、ハク」

 

「ん?」

 

振り向くと、クオンがいた。

 

「はい、これお願い」

 

そう言って、桶を手渡される。満面の笑みで。

 

「……これは?」

 

「向こうに井戸があるから、まずは大鍋をいっぱいにして」

 

「ふむ」

 

「次は盥がいっぱいになるまで、そしたら次は集められた壺にもいっぱいに」

 

いっぱいいっぱい……こんがらがるなおい。

 

「働かざる者食うべからず。頑張ってね」

 

「あぁ……」

 

クオンはそう言うと、スタスタとその場を去っていった。

どうやら仕事は……いっぱいだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

クオンから頼まれた水汲みが終わり、流石に少し疲れたので休憩しようと思った矢先。

 

「アンちゃん、手空きならチイと、ウマの世話を頼まれちゃくれねぇか?」

 

ウコン……。

 

「嫌だ」

 

「なっ……いいのかアンちゃん」

 

なんだよ。お前が悪いんだろ。

自分は疲れているんだ。

クオンやルルティエの頼みでもなければ……

 

「ネェちゃんに言うぞ」

 

「受けよう!」

 

サボった後に報告なんて、確実に説教コースまっしぐらなのを分かって言ってるなコイツ!?

根に持っているのか? 『防壁』にされたのをそんなにも怒っているのか!?

 

「よし、いい返事だ。そこにある餌をやってもらいてぇのと、ちょっとした手入れを頼む」

 

「手入れっていうと……束子で擦るやつか?」

 

「おう、よく知ってるな。その通りだ」

 

ウコンは少し驚いたように眉を上げる。そして、手にしていた短い毛が植えられた大きな束子を胸の前まで持ち上げた。

 

「こいつで皮をこすってやれば、ウマ共も喜ぶ。ウマは大切な運搬手段だ。しっかり面倒見てやらねえといけねえし、大切に扱えば向こうもそれに応えてくれるもんだ」

 

「そうだな、やらせてもらうかね」

 

「おう、ウマはそこの幕舎に繋いである。頼んだぜ」

 

ウコンの示した幕舎に入り、さっそく繋がれたウマに餌をやる。

前回は確か、ここであの双子が来て手伝ってくれたんだよな。

 

「しかしなんだ……お前ら」

 

前は馬鹿みたいに暴れてたよな?

自分の指を食いちぎろうとしたり、束子で撫でて欲しいからって頭突きや突進……双子の時は落ち着いてるのに。

だが、今は……

 

「クルル〜」

 

なんだコイツら。別の個体か?

それともなんだ……まさかとは思うが、自分が未来から来たということに気づいているのか!?

動物は勘が鋭いとも言うしな……元神だった自分の存在に、恐れを成しているのか。

 

「よしよ〜し、良きにはからえ〜」

 

自分が撫でても、ウマ達が暴走する気配はない。

気持ち良さそうに喉を鳴らしているだけだ。なんだ……可愛いじゃないか。

 

「おっ、こりゃ楽だ」

 

と、思ったのも束の間……

 

ドッドッドッーー

 

何か、聞き覚えのある足音。

この重量感、そして小さく鳴くホロロ音。

 

「ココポかッ!」

 

すぐさま幕舎の入口を見る。

そこには、超スピードで束子を加えた巨大なホロロン鳥が、こちらに走ってきていた。

 

「ちょっ!ココポ!お前もしてやるから、止まッ……」

 

 

少しして、なぜかヒトの悲鳴と嬉しそうなホロロン鳥の鳴き声が聞こえてくる、と準備を進めていた傭兵達がウコンに訴え、ウコンはニタリと笑うのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ココポが満足するまで束子で擦り続け、やっとどいてくれたと思いきやウマ達から束子を押し付けられ、腕が上がらないほど束子で擦り続けた。

 

やっと終わったので、野営地へと戻る。

そこには、中身がグツグツと煮込まれた大鍋が置かれ、さらにアマムの皮が大量に焼かれていた。

 

ぼんやりとそれを見ていると、後ろからのほほんとした声がかけられる。

 

「ハク殿、こんな所で何を眺めているでおじゃるか?」

 

そこには、手に小さな袋を持ったマロが立っていた。

 

「流石にこれだけの人数になると、その支度も豪快だと思ってな。マロは何をしてるんだ?」

 

「マロでおじゃるか?マロは……そうでおじゃる!お手伝いの最中でおじゃった!」

 

お手伝い?

マロは慌てたように辺りを見渡し、ルルティエを見つけると声をかけた。

 

「ルルティエ様、頼まれたお塩でおじゃる」

 

「あ……ありがとうございます……」

 

ほう、ルルティエの手伝いだったのか。

ルルティエのいる天幕の下には、簡易的な炊事場が作られており、机の上には切られた野菜や乾燥させた果物などが置かれている。

ルルティエの作る飯は上手いからな。今日は楽しみだ。

 

「ハクさま……?」

 

じっと手元を見ていると、ルルティエが頬を染めながら首を傾げる。

 

「おっと、すまん。ついじっと見ちまったな」

 

「いえ……」

 

「ルルティエが作るなんて、随分久しぶーー」

 

「え?」

 

「ーーりじゃなくて!珍しいな、姫様なのに」

 

「?……は、はい……その……お城の厨房は私が取り仕切っていましたから……」

 

危ない危ない。

つい気持ちをストレートで言ってしまうところだった。

しかしルルティエの飯なんて、本当に久しぶりだ。

あの暖かい味がまた食べられるのか……なんだ、響くものがあるな。

 

「ハクさま?」

 

「あ、ああ。すごいなルルティエは。ルルティエに作ってもらえるなんて、城の皆も喜ぶんじゃないか?」

 

そう言うと、ルルティエはポッと花の咲くような笑顔を浮かべた。

 

「そんな……ふふ。でも、お父様もお兄様もお姉様も、いつも美味しいって食べてくださるので、どちらかと言えば、私がいつも嬉しい気持ちになっています……」

 

「ほら、やっぱりルルティエの料理はすごいじゃないか」

 

「え……?」

 

「人を幸せにするってのは、当たり前のようで、すごく難しいことなんだ。でも、ルルティエはいつも家族を幸せにしているんだろう?なら、それは凄いことだ」

 

自分はその幸せにされた一人、だからな。

 

「…………」

 

「ルルティエ?」

 

なんだ、どうした。

ルルティエがぼーっと、こちらを見つめたまま動かない。

 

「ルルティーー」

 

「あ、ハク。ルルティエも」

 

「ーークオン?」

 

ルルティエにもう一度声をかけようとしたら、背後からクオンがひょこっと現れた。

 

「く……クオンさま!」

 

「おおっ!?どうしたルルティエ、急に大声なんか出して」

 

「ハクさま……い……いえ」

 

うーん、やっぱり少し様子が。

 

「ハクはここで何をしてるのかな?」

 

「ん?ああ、ルルティエの料理を見てたんだ」

 

「ふーん……」

 

クオンは何を思ったのか、ルルティエと自分を交互に見る。

 

「で、クオンは何でここに?」

 

「私はルルティエの手伝いをしてるんだ。ハクは邪魔しちゃダメ」

 

「ん?別に見てるだけだが……」

 

「はい、出ていって」

 

グイグイと背中を押される。

 

「わ、分かったって」

 

結局、ルルティエの料理を見ることは叶わなかったな。

まあ飯が食えるだけでもいいか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ルルティエとクオン、そして食事班の作ってくれた夕餉を食べ終わり、ふぅと夜空に息を吐いた。

とにかく……美味かった。

 

ここで思い出して欲しい、自分よ。

確か前も、自分はルルティエとクオンの食事を食べた。だが、その前に一度味見をした覚えがある。

ルルティエの料理はもちろん完璧だった。ただ……クオンの料理は?確か大きすぎる煮物だったよな?

 

しかし、今出された料理達は全て形も良く美味かった。

クオンの料理が上手くなったのかと思ったが、よくよく思い出せばルルティエが手直ししてくれていたのだ。

だからクオン、そんなに満足な顔をするな。恥ずかしいぞ。

 

「よし、皆食い終わったな。そのまま聞いてくれ」

 

焚き火の前に立ったウコンが、パンパンと手を叩く。

 

「予定通り、日が暮れる前に露営地に着くことが出来た。だが、問題はこの先だ。判っていると思うがここから先、国境にかけてまで深い森が続く。街道とはいえ泥濘が多い、だから足を取られたり、荷車がはまったりしないよう、注意しとけ」

 

「「「「「ウィッス」」」」」

 

「それと、だ。最近、この先で賊の被害が頻発している」

 

その言葉に引っかかりを覚える。

 

「賊の規模からして、俺達が襲われることはまず無ぇだろうが油断は禁物だ。各々警戒を怠らず、気を引き締めて取り掛かってくれ」

 

「「「「「ウィッス」」」」」

 

「それから、飲むのも騒ぐのも明日の仕事に響かない程度にしとけよ!話は以上だ」

 

「「「「「ウィ〜ッス!」」」」」

 

賊……ああ、アイツらか。

さてどうしたもんか。一応、ウコン……オシュトルの仕掛けたモンだとも知っているし、自分らに危害が加わることもなかった。

ココポのおかげで何とかなったし、別に行動する必要も無いか……?

 

「……」

 

そこで、チラリとルルティエを見る。

盗賊、という言葉が怖いのか、少し顔が青白い。

 

「うーん……」

 

そういえば、確かルルティエに怖い思いをさせることになるんだよな。

出来れば自分としても、ルルティエには怖い思いをさせたくない。

 

「よし」

 

罠でも考えるか!覚悟しとけよ賊達め!

と、考えた自分が後悔することになるとは……思いもよらなかった。

 

 

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