[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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21 義賊

「何だか不気味でおじゃるのぅ……」

 

マロの怯えた声が、生い茂った木々によって暗い森の中に溶る。

早朝、露営地を撤収し予定通り帝都へと向かう途中だった。

 

ウコンが昨晩言っていたように、地面は成長した木々の根が古くなった石畳を押し上げデコボコ。それに雪融け水と湿気のせいか、土はぬかるんでいる。

 

ちなみに自分は、昨夜遅くまで色々してたせいで寝不足気味だ。

 

「こうも不気味だと、昔読んだ絵巻物を思い出すでおじゃるよ」

 

「絵巻物?」

 

キョロキョロと辺りを見回しながら、気味が悪そうにマロは語った。

 

「昔々、とある貴人が旅の途中、森の中でそれは美しい女と出会うという話なのでおじゃるが……実は女の正体は、森に迷い込んだヒトを拐かして喰らう、世にも恐ろしい禍日神だったのでおじゃるよ……ヌヒィィ、恐ろしや恐ろしや」

 

……マロ、すごいぞ。

これから起きるであろう事態を、見事に突いている。

こういうのを死亡フラグ、とでも言うんだろうな。まだ地下に住んでいた時代にそういう物語をよく見たが、マロなんて即座に襲われそうだ。

 

「ふむ……」

 

「ハ、ハク殿は怖くないでおじゃるか?」

 

「いや、特に」

 

「そ、そうでおじゃるか……ハク殿は肝が座ってるでおじゃるな」

 

「そういう話をするから怖くなるんだ。適当なことでも考えてれば、すぐに森を抜けるさ」

 

なんて、慰めにもならないか。

というかすまん。これから起きるんだ。

 

心の中でマロへ合掌した瞬間、遠くで何かが見えた。

よく目を凝らしてみると、道の先でアイツがこっちに向かって両手を大きく振っていた。

 

「ノスリ……」

 

ノスリの隣には、大きく傾いた荷車が、道を塞ぐような形で止められていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ノスリ。

義を尊ぶエヴェンクルガ族の出身であり、イズルハの元族長で元八柱将ゲンホウの娘。

色々と抜けた部分もあるが、正義感が強く、皇女さんを一番に支えていたと言っても過言じゃない。

そして自分にとっても、彼女には救われた場面も多い。

ノスリが暗い空気を変えてくれる。

ノスリがそばに居ると安心する。

 

そう思わせてくれた。

 

『襤褸を纏えど心は錦!』

 

……これじゃない。思い出すのは全裸じゃないぞ。

 

『こう見えても、昔はお転婆でな……』

 

……昔だけじゃないだろうに。なんでノスリとはこういう思い出ばかりなんだ?

 

『お前は……必要としている者を置いて、行ってしまうのか!!』

 

…………。

 

『私は……もっといい女になるのだからな……!』

 

……お前は、いい女だよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ハ、ハク殿……あ、あれは」

 

マロの怯えた声に、ふと意識を戻す。

いかん。感傷に浸りすぎたようだ。

 

「……ああ、いるな」

 

荷車に気づいたウコンが隊列を止め、ノスリへと近づく。

以前は、まさかこの二人が協力関係だとは思いもしなかったな。

 

「すまない、助けてくれないか」

 

しかし今見ると……貼り付けたような笑顔、そして少々棒読み感のある言い方。

共に戦い過ごしてきたから分かる、のだろう。

 

「どうした?」

 

「荷車が溝に填って、抜け出せなくなってしまったんだ。今、仲間が助けを呼びに行っているんだが、それを待っていたら日が暮れてしまう……」

 

うわぁ……なんだあの猫撫で声は。

 

「すまないが、荷車を押し出すのを手伝って貰えないか?」

 

「ありゃま、そいつァ災難だったな。よしテメェら、荷車押し出すから何人か手伝え」

 

そう言って、ウコンと数人の男達が荷車へと近寄る。

……なんかいつもよりやる気がすごいな。やはり綺麗なノスリの頼みだからか?

 

「ハク殿……ま、まままさか」

 

「……禍日神かもな」

 

「ヒィィィッ!!」

 

冗談で言ったつもりだが、マロの肝は持たなかったようだ。涙を吹き出しながらこちらへ抱きついてくる。

 

「なっ!冗談だ冗談!離れろっ!」

 

ひっぺがそうとするも、必死にしがみつくマロは離れない。

やがて自分は諦めた。体力をここで使いたくない。

 

「ぐすっ……オェッ……」

 

「おい、吐くなよ」

 

「ハク殿……あ、あれは本物……」

 

「待て待て。マロが話した絵巻物には絶世の美女が禍日神なんだろう?だが、よく見てみろ。確かに美しいが、絶世の美女という訳でもない」

 

自分はノスリを指さす。

すまんノスリ、マロを落ち着かせるためなんだ。

 

「確かに……そう言われればそうでおじゃるな」

 

先程までのビビり様はなんだったのか、ケロっと立ち上がるマロ。

 

「ちょっと可愛いくらいで、全然美女とは違うでおじゃる!いやいやホント、美女でなくてよかったでおじゃるよ!」

 

「ちょっ、マロ……!」

 

それは言い過ぎだ。

そして今の声量は、多分ノスリにもーー

 

「ぐっ……ぐぐぐ……」

 

ああ、聞こえちゃってるよ……恐ろしい形相でこっちを睨んでるよ……。

 

「ん?どうしたぃ、ネェちゃん」

 

「いや、別に……ふふ、ふふふ……」

 

完全に怒ってらっしゃる。

自分は知らないからな。

 

「……いや、本当に助かる。厚かましくて申し訳ないが、もう一つだけ頼んでもいいだろうか?」

 

「ッ……!」

 

……来た。

自分は急いでクオンとルルティエの近くに寄る。マロも一応連れて。

 

「ハク殿?」

 

「ハクさま?」

 

「……ハク?」

 

三人共、首を傾げている。

しかし自分はそれに反応せず、ウコンとノスリを見続ける。

 

「おう、言ってみな」

 

ノスリの頼みとやらに、ニカッと笑いながら返すウコン。

 

 

「ウム、ならばお前達の荷物を置いてってくれ」

 

 

冷たいノスリの声が、暗い森に響き渡った。

 

 

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