[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
ウルゥル、サラァナ。
常に自分のそばにいてくれた仲間であり、家族のようなものだった。
自分の事を慕ってくれた。オシュトルとなった時は、すぐに気づいてくれた。
決戦の時は、自分達を庇って二人だけで行ってしまった。
怪我だけで済んだが、その時の背筋の冷える感覚は忘れられない。
『主様』と、自分を呼ぶ。
黒は、口数が少ないというのか……単語をただ発するだけ。
白は、その言葉を補完するように語る。
双子は二人で一つ。どちらか片方でも離れてしまえば、心は崩れ去る。
脆くてか弱い女の子、それでも、自分の傍らに居続けた。
『ウルゥル、サラァナ』
『やめて』
『聞きたくありません』
『私達は常に』
『主様のお傍に、居させてください……』
……最後は、強引に離してしまった。
『ヤマトに戻り、皇女さんを支えてやってくれ』
『『主様……』』
あの時の表情は、忘れられない。
『……命令だ』
『『……御心の……まま、に』』
位相をずらして、もう二度と戻れないようにした。
あのまま共に居たら、彼女達を巻き込んでしまうだろうから。
永劫の枷、使命の楔に。
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これまでの出来事について、軽く説明をするウコン。
しかし、耳には入ってこなかった。
こちらが視線を向けても、返してくれない双子。
なぜ、今まで接触をしてこなかった?
三度ほどタイミングはあったはずだ、記憶にも残っている。
頬を突かれたり、袖を引っ張られたり、頭を撫でられたりしたはずだ。
前の自分は気にしていなかったが、もしあの出会いが無くなったのだとしたら。
これからの未来に、どう影響するか分からない。
あの二人はいないのか?
まさか、別の主がもういるのか?
きっと、兄貴から自分の監視を頼まれたはずだ。そうだよな?
「流石にアンちゃんが吹っ飛ばされた時は……アンちゃん?」
それがもし変わったのなら、起点は何だ……!
もう、自分の元には来てくれないのか……?
「ハク!」
肩を強く揺らされ、意識を戻す。
視線をその揺らした本人に向けると、心配そうにこちらを覗き込んだ。
「ハク、大丈夫?……顔が青白くなってるかな」
「アンちゃん、痛むのか?」
二人の言葉に今の状況を思い出す。
「あ……いや、大丈夫だ。すまん続けてくれ」
そう言って、目を逸らした。
ウコンはその様子に眉を寄せたが、すぐに説明を再開する。
「……そんなワケだ。これから俺達は待機していた討伐衆と合流ののち、奴らの拠点に襲撃をかける。アンちゃんだが……ネェちゃんと共にルルティエ様の護衛を頼みたい。頼めるか?」
そう言って、ウコンは拳を自分の胸に当てる。
「……ああ、分かった」
「……大丈夫か?」
「……クオンがいるからな」
そう言って、自分は何とか笑う。
ウコンは目を瞑り、息を大きく吐いた。
「任せたぜ、アンちゃん」
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しばらくして、戦の音。
自分はウコンに頼まれた通り、ルルティエの護衛としてクオンと共に残っていた。
「ど、どうぞ……クオンさま……」
「うん。ありがとう、ルルティエ」
持ち歩いていたのか、ルルティエは簡易的な茶道具を使って温かいお茶を容れてくれた。
「ハクさまもどうぞ……」
「ああ、ありがとう」
自分はその湯呑みを受け取り、口に含む。
頭の中では、やはり双子の事が駆け回っていた。
しかし、その考えを今は振り払う。
「……ここだ」
湯呑みを持ちながら歩き回り、一つの大きな岩を見つける。
手で触れてみると、軽い素材……木材に装飾を施したようだ。しっかりと見なければ気づかないだろう。
ここからアイツらは出てくる。
「……ハク?それは?」
クオンがひょこっと顔を出し、その岩を眺める。
そして、自分は持っていた袋から縄を出した。
昨日、夜なべして作った罠用の縄だ。先端を輪っかにして、もう片方を強く引っ張れば輪っかが締まる。
「……これは、隠し通路だ」
「え……」
「今からここに罠を張る。クオンはルルティエの傍にいてやってくれ」
「あ、ちょっと」
今はこっちに集中しなければ。
ルルティエに怖い思いはさせたくない。例えオーゼンがオシュトルに社会経験をさせるために預けたとしてもだ。
もし罠が失敗しても……徹底的に叩き潰す。
「……ハク!」
「グエッ!!」
ぐっ、と、後ろ首を掴まれる。
首が恐ろしいほど強く締まり、舌を出した。
「な、何をするんだクオン!」
「……ハク、どうしたの?」
クオンが、気遣うように上目でこちらを見る。
「自分はただ、ルルティエを守るために……」
「ううん。そうじゃないかな」
「……こっちは急いでるんだ、邪魔をしないでくれ」
つい、冷たい口調で言ってしまった。
すぐに謝罪をーーと思ったが、クオンは悲しげに俯くと、ルルティエの元へ向かった。
「っ……くそっ」
どうしてこんなに腹が立つんだ。
モズヌに蹴られたからか?それともルルティエやクオンが危険な目に会いそうになったからか?
「……違うな」
自分は大きな輪になった縄を隠し通路の入口に置き、縄の先を木の枝に引っ掛け、地面に刺しておいた杭に結び付ける。
これで、とりあえず簡易的な罠は出来た。
後はアイツらが現れれば、これを足に絡めて引っ張りあげる。
「……ハクさま」
「ッ、邪魔をするなとーー」
「ひうっ……」
また、クオンが話かけてきたのかと大声で叫んでしまった。
そして、そこに居たのはクオンではなかった。
自分の声に驚いて尻もちをつき、怯えたように顔を青くして震えているルルティエだ。
「あ……すまん」
自分はルルティエに、急いで手を差し出す。
しかし、ルルティエはビクッと身体を震わせ、その手から顔を逸らした。
「…………」
「ハク」
ルルティエの後ろからクオンが近づき、ルルティエの身体を起こす。
そしてこちらに目を向けた。
「ッ……!」
どうして、そんなに冷たい目をするんだ。
「ハク、変だよ。いつものハクなら、こういう時は一番に落ち着いてるはず。でも今のハクは、どこか焦っている様に見えるかな」
「それは……」
「ルルティエを守るため……そう言ったハクが、ルルティエを怖がらせてどうするのかな?」
「…………すまん」
自分が謝ると、クオンはやがてその視線を和らげる。
そしてルルティエの着物に付いた土を払い、またいつもの優しい笑顔を浮かべた。
「私じゃなくて、ルルティエに」
そして、ルルティエの背中を少しだけ押す。
自分がルルティエに視線を向けると、ルルティエも心配そうにこちらを見上げていた。
「すまんルルティエ。ちょっと……色々と焦っていた」
謝罪をすると、ルルティエはゆっくりと首を横に振った。
「いえ……いつものハクさまに戻られて……良かったです」
「……ああ、ありがとうな」
小さく笑い、そこにココポが身体を寄せてくる。
「はは……ありがとうな、ココポ」
自分がココポを撫で、張り詰めた空気が柔らかくなった。
そこに……
「ハク殿ぉ〜!」
手を振って満面の笑みで走ってくるマロが来て、つい自分達は大きく笑ってしまった。
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ゴゴゴゴゴーーー
岩がひとりでに動き出す。
その下には人が入れそうな大きさの穴と、ハシゴが掛けられていた。
そして、その穴から数人の男達が出てくる。
「クソがッ! ったく、見張りは何をしてやがったんだよォ!あの隠れ家がバレるはずねえってのにヨ!」
「お頭……やっぱりアレじゃねえですかい?あのノスリって小娘が裏切ったんじゃ……」
「うるっせェな、仕方ねぇだろバカ。おめェらだって見たろあの乳!ありゃ反則じゃん!」
男たちは気づかない。
話しながら、やがて不自然に盛りあがった地面の上に立っていることを。
そして近くには、一匹の大きなホロロン鳥がそちらを睨んでいることを。
「ククッ……だが残念だったじゃん。あの乳娘、こんな所に隠し通路かあるとは夢にも思わねえーー」
ーー男が下卑た笑いを浮かべたその瞬間。
「今だッ!」
一人の青年の声が、森に響いた。
「う、ウオォォォォ!!?」
青年の合図で、男達の立っていた土が盛り上がった。
現れたのは縄で作られた輪。シュルりとそれは縮まり、男達の足をまとめて絡みつかせる。
「あがっ!?」
「いだっ!?」
地面に顔を叩きつける男達。
「な、なんだコレーーヒギャァァァァ!!」
そして、縄はやがて勢いよく近くにあった木に吸い込まれていく。
男達も共に。
その縄を引っ張っているのは、白い尾をゆらゆらと揺らす一人の少女。
「…………ウソじゃん」
「お、お頭ぁ……」
そして、宙ぶらりんとなった男達の前に、号令をかけた青年が現れた。
「残念だったのはどっちだろうな?隠し通路を知っていたのは、アンタらだけじゃないんだ」
青年はニヤリと笑う。
作戦は、全て完璧に上手くいったと確信して。
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「コココッ!!!」
「ちょっ、このデカ鳥ーーひぶっ!?」
ココポの素晴らしい蹴りがモズヌの顔面を捉え、意識が刈り取られる。
ルルティエに迫った事、腹に据えかねていたんだろうな……あれは痛そうだ。
「……あー、これで最後かな?」
「それじゃあマロ、自分と一緒に縄でこいつらを縛るぞ。ルルティエはココポと一緒に後ろに下がっててくれ。クオンはルルティエの護衛を頼む」
「分かったでおじゃる」
「は、はい……」
「うん」
「ホロッ!」
よしよし、上手くいった。
自分の合図で、土に軽く埋めた縄をクオンに引っ張ってもらう。
そして縄に絡まったモズヌ達を気絶させて無力化。縄で縛って、ウコン達が来るまで待機。
我ながら見事な作戦だ。
……まあ、クオンのおかげで冷静さを取り戻せたんだが。
「ほいっと」
口から泡を吹いているモズヌを縛り、他の男共の所に放り投げる。
「ふぅ……終わったな」
「流石、ハク殿。鮮やかな手腕、惚れ惚れするでおじゃるよ」
「自分は作戦を立てただけさ。みんながいなけりゃ、きっと失敗しただろうな」
「ハク殿は謙虚でおじゃるな〜」
おっと。そう言えば、隠し通路を塞がないとな。
もしかすれば、残党が出てくる可能性もある。
自分は隠し通路へと赴き、岩に手をかける。
そしてその岩で穴を塞ごうとした瞬間。
ーーギロリと。
「ッ……!!!」
その気配は右手に持った刃物をこちらに突き出した。
「ヤバっ……!?」
そしてその刃が喉元に触れる瞬間。
ーーバチッ!!
「ギャァァァァ!!!!」
紫色の閃光。
そして男は、ハシゴからバランスを崩し落下していった。
「な……」
「ハクッ!」
腰が抜けた自分を、クオンが咄嗟に受け止める。
「……あの、呪法は」
一瞬だけ見えた、術の陣。
あれは……あの見慣れたものは……。
「……どうやら、また助けてくれたみたいだな」
自分は笑った。
あの双子と、またどこかで会えそうな気がしたから。