[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
隠し通路の穴も塞ぎ、モズヌ達は無力化させた。
絶体絶命の場面も、あの双子によって助けられた。
しかし油断は禁物。またあのようなことが起こらないとも限らない。
気を引き締めなければ……
「はい、ハクさま」
「あぁ……」
パッと花が咲くような笑顔で、ルルティエに湯呑みを渡される。
警戒しないといけないが、しかしこんな笑顔で渡されれば受け取るしかない。
そして他の連中も……。
「ルルティエ様のお茶は、なんとも素晴らしいでおじゃるなぁ〜」
マロは自分とルルティエと一緒にお茶会。
「こんな所に生えてるなんて……」
クオンはそこら辺で薬草採取をしていた。
なんとも気の抜けた状況だが、ウコンが戻ってこない間は暇なのだ。
「……うん、美味いな」
ルルティエの茶を啜り、ホッと息をつく。
そして、しばらく話し込んでいると……
「な、なんじゃこりゃーー!!!?」
モズヌが目を覚ました。
縛られミミズのように身体をくねらせている。
その様子を見ながら、自分達は茶を啜った。
「テメェら!これを解くじゃんよッ!」
「分かりました……なんて従うわけないだろ」
「グッ……こんな縄……って、力が入らないじゃん!?」
ふふ、そうだろうそうだろう。
「クオンの薬師の腕はピカイチだからな。お前ら全員に毒を飲ませた」
「ど、毒ッ!?」
「ああ、これから四肢が腐り、呼吸もーーイデッ!?」
ちょっと脅かしてやろうと思った矢先、脳天にチョップ。
「もう、私が飲ませたのは毒じゃなくて痺れ薬かな。ハク」
「……別にいいだろう、こいつらは悪党なんだ」
「悪党でも禍日神でも、私の薬にケチをつけないで欲しいかな」
クオンは腰に手を当て、頬を膨らました。
自分はとりあえず謝罪し、モズヌに視線を戻す。
「というわけだ、別にお前らは死ぬわけじゃない。ただ、ウコン達が来るまでーー」
「いやはや、これは素晴らしい」
「ッ……!!!」
その瞬間、自分とクオンは振り返り武器を構える。
「誰だッ!?」
声の聞こえた方向。木の影から、一人の男が出てくる。
「お、オウギ……」
「おや?あなたとは今日初めて出会ったはずですが……まあいいでしょう。先程は失礼しました」
そう言って、オウギは軽く頭を下げた。
「ああすることになっておりましたので、申し訳なく思いましたがご了承の程を」
自分はクオンに目配せする。
コイツは敵じゃない。
するとクオンは、静かに拳を下げた。
「あなた達が……?」
協力者。
その言葉は伏せ、クオンは首を傾げた。
しかし、返答は縛られたモズヌの大声によってかき消される。
「テ、テメェ、オウギ!コイツらとツるんでるってことは、やっぱり裏切りやがったんか!」
すると、オウギは自分達の横を通り過ぎ、モズヌの前に立った。
「……もとより仲間ではありませんでしたから、裏切ったなどと言われるのは心外ですね」
あくまで冷静に、しかし殺気は濃く。
モズヌは頭に血が上っているのか、それでも声を荒らげた。
「同じ盗賊を朝廷に売りやがったんだ!裏切り以外、何がーー」
ヒヤリーーと。
次の瞬間、モズヌの首には刃の先が当たっていた。
自分には全く見えなかったぞ……。
「同じ?……貧しい者から奪わず、犯さず、殺さずが我らの流儀です。力のない者を襲いら戯れに弄び、命を奪う貴方がた畜生と一緒にされるのは…………甚だ不愉快」
殺気がさらに膨れ上がる。
オウギは基本、冷静沈着で感情をあまり外に出さない。
しかし、言葉の重みでその怒りはすぐに分かった。
「ケッ……綺麗事を抜かしやがって、結局盗みに変わりはねぇんだろうがヨ」
「まぁ、貴方がたと問答をするつもりはありませんので、どう思おうがご自由にどうぞ……どうせ、すぐに何も言えなくなりますので」
そこで、モズヌは気づいたのだろう。
目の前の青年から、恐ろしいほどの殺気が向けられているのを。
ガタガタと震え始めるモズヌ。
「ま……まさかオメェ……冗談は止すじゃん……」
しかしオウギは、カチッと刀を鳴らした。
「汚い手で姉上に触り、姉上の志への罵詈雑言……最後に言い残すことはありますか?」
その様子を見ていたクオンが、自分の袖を引っ張った。
「いいの……?」
その言葉に、自分は小さく笑った。
「大丈夫だ」
「ふ、巫山戯るな!死んで、死んでたまーー」
オウギが刀を振り上げる。
そしてーー
「ギャァァァァーーー!!…………」
モズヌは悲鳴をあげ、意識は途絶える。
殺した……のではなく、頭のすぐ隣、その後ろの木にオウギの剣先が突き刺さっていた。
そうだよな。お前はモズヌを殺さない。
なぜならそれをノスリが認めないからだ。
「貴方には切り伏せる価値すらありません。さて……」
オウギは素早く刀を収め、自分達とは別の方向に目を向けた。
「来ました、か……」
「ッ……!!」
頭痛。
今までよりは軽いが、この感じは……。
「仮面……!」
複数のウマの足音。
先頭には一つの角が生え、目元を覆う白き仮面を着けた武士。
……オシュトル。
オシュトルがオウギの前に立ち、自分らと縛られたモズヌ達を一瞥した。
オウギは一礼をし、口を開く。
「オシュトル殿。依頼は無事遂行しました……まあ、この盗賊共は彼らの手によるものですが」
その言葉に、オシュトルは小さく口元を上げた。
「オウギ殿、感謝する。ノスリ殿にも力添え感謝いたすと伝えてもらいたい」
「はい、お預かりしていた荷物は指定の場所に運んでありますので、お受け取りを」
「確かに、承る」
「……それと、姉上からの伝言ですが」
「お聴かせ頂こう」
「『奴らの行いが許せるものでなかった故、今回は共闘した迄。馴れ合いはせぬ』と」
「ふ……ノスリ殿らしい言葉だ」
「では、僕はこれにて……ご縁がありましたら、いずれまた」
そう言って、オウギの姿は消えた。
最後に、自分の方をチラリと見て笑いながら。
「まさか……オシュトルさまが来てくださったなんて……」
「もしかして、あの仮面の方のことかな」
ルルティエが顔の前で手を合わせ、安心したように微笑む。それに対して、クオンは真剣な表情だ。
「はい……あの御方……ヤマトの双璧とうたわれる、右近衛大将オシュトルさまです……!」
「……そっか、あのヒトが」
二人の会話を聞いていると、オシュトルがウマに乗りながらこちらへと寄った。
「其方達が賊共の首領を取り押さえてくれたか」
自分は返事をしようと口を開くーーところで止まった。
この時のオシュトルは、まだ自分に正体を明かしていない。
敬語を使った方がいいのか?いやしかし、想像しただけでゾワゾワするな。
前はどうした?何て答えたんだ自分は?
「はい!」
結論、単純思考。
こういう時は適当に相槌だけ打っておこう。
どうせまた後で会えるだろうしな。
「……そうか、おかげで助かった。此度の策、首領を逃がすことはまさに失敗と同義であったからな」
自分の子供らしい返事に、オシュトルは一瞬だけたじろいだが、すぐに調子を戻した。
「この通り、感謝する」
「いえ!」
頭を下げて来たので、とりあえずこちらも頭を下げる。
……なんだか楽しくなってきたぞ。
「ハク……?」
その様子を、クオンは据えた目で見ていた。
「このような場所では謝意も満足に伝えられぬ。其方達の功については、後ほど正式に表彰し、褒賞をもって報いよう」
「はい!」
「……」
オシュトルは完全に流すことにしたそうだ。
こっちを見ているようで、全然こっちと目を合わせてくれない。
そしてルルティエへと視線を向けた。
「ルルティエ殿」
「は、はいっ……!」
「クジュウリ皇からの請願は、これにて遂行されたものとして、よろしいか?」
そして、胸元から一つの封筒を出し、それをルルティエに差し出す。
「詳細はこの書簡に認めております故、皇へはよしなにお伝え頂きたく」
ルルティエはガクガクと震えた手でそれを受け取る。
「た、たしかに……受け取りまま……した……討伐の件……しかと父に伝え……ます……」
緊張しすぎだルルティエ。
声が凄いことになってるぞ。
「某は別件がある故、これにて失礼致す。護衛の者も直ぐに戻る故、安心して帝都までの旅を楽しまれよ」
「は、はい……お、御心遣い……感謝します……」
「では、諸兄諸姉の良き旅路を祈っている」
そしてオシュトルはくるりと反転し
「全軍、速やかに撤収せよ!」
自分達が縛った盗賊達を連れて、ウマを進めた。
オシュトルは最後に、こちらに振り返る。
「またどこかでお会いすることもあろう。ハアッ!」
そう言って、ウマを疾駆させ去っていく。討伐隊もそれに続いて言った。
一糸乱れぬ行軍は、将の器を再度感じさせるものだった。
「ヤマトの双璧、右近衛大将オシュトルと左近衛大将ミカヅチの名前は、海を越えた國にも聞こえてたけど……あの感じ……勝るとも劣らない……あんなのが他にも……」
クオンがオシュトルの去っていった方向を見ながら呟いた。
「あ……」
ペタリと、零れるような声と共にルルティエがへたり込む。
「大丈夫か?」
「あの……ほっとしたら……体の力が……抜けてしまって……」
「ルルティエは、緊張で震えていたからな。無理もない」
「はい……」
自分はへたり込むルルティエに手を差し出す。
ルルティエは自分の手を掴み、何とか立ち上がった。
「そういえばハク、あれはなに?」
「ん?」
クオンが苦笑しながら聞いてくる。
「あの話し方。不気味で、背筋がゾッとしたかな」
「何っ!?クオン、あの話し方はだな……」
それから、ウコンが来るまで自分は、単純思考による返答がどれだけ役に立つのか、長々と語ったのだった。