[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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25 帝都

自分が単純思考について色々と語り、それからウコンが戻ってきた。それにどうやら荷も安全に取り戻し、数人の怪我人だけで済んだようだ。

そして褒賞が出るということで、マロは飛び上がり……やがてマロの家族がまた借金していたことを知り、崩れ落ちた。

 

……そして、自分はまたお小遣い制になった。

なんとか避けようとしたさ……!

だが……完全にねじ伏せられてしまったんだ。

変わらないことが、こんなにも苦しいとはな……。

 

そしてまた、移動が開始された。

あまりにも午前中が騒がしかったせいで、平穏すぎて欠伸が出るほどの道中。

そしてそれから十日ほど経ち……。

 

「見えてきたぜ」

 

なだらかな丘を越えようとした時、先頭を行くウコンが振り返ってそう告げた。

そして、目の前には。

 

懐かしき『帝都』

 

「おぉ……」

 

眼下に広がるは、自分がまだ人間として……ただのハクとして暮らしていた、あの街並み。

高い壁に囲まれ、立派な建物が立ち並び、その広さは遠くまで見渡しても端が見えない。

 

「あれが帝都ーー目的地さ」

 

ウコンの言葉に、ルルティエと一緒にココポに乗っているクオンが口をポカンと空けた。

 

「まさか……あんなに……」

 

その反応に、ウコンは嬉しそうに笑った。

 

「どうだい、ネェちゃんとこと比べて?」

 

「そ、そう……だね。うん、まあまあかな。まあまあ」

 

おい、そこで張り合うなよ。

クオンの声には若干、負け惜しみの響きが聞き取れる。彼女の國であるトゥスクルは自然豊かな國で、確かに広大だ。

 

しかしここは『帝都』だ。兄貴が育て、治める國。

類を見ない程の大都市なのは、仕方がないだろう。

 

「こんなに……大きかったなんて……」

 

「ん?ルルティエも初めてなのか?」

 

「はい……あまり國から出た事がなくて……」

 

「……ああ、そう言えば身体が弱かったんだったな」

 

彼女は確か数年前まで身体が弱く、転べばすぐに生傷を作り、外に出ればすぐに熱を出してしまう子だった。

ヤシュマは元気にしているだろうか。あとシスも。

 

「は、はい……ですから、とっても楽しみでした……」

 

ルルティエはワクワクしているのか、手をギュッと胸の前で握り微笑んでいる。

その笑顔に癒されていると、ウコンの声が響いた。

 

「よ〜し、オメェら。あと一息だ!美味い酒に山海の珍味が待ってるからな、ちゃっちゃと荷物を引き渡しに行くぜ」

 

「「「オオーッ!!!」」」

 

長旅の疲れ、そして間もなく仕事が終わるという開放感からか、傭兵達がウコンの提案に対して大いに盛り上がる。

そんな中、まるでこれから本当の恐怖が始まるかのように、血の気の失せた顔で呟き続けるマロ。

 

「はぁ……やっぱり帰りたくないでおじゃる……また何が借財が増えているのでおじゃろうな……帰りたくないでおじゃる……帰りたくないでおじゃる」

 

……ドンマイ、マロ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そして、ついに『帝都』到着ーー

 

「ああ……」

 

目の前に広がる大きな門と外壁に、懐かしさで声を漏らす。

そして見るのは一点。

 

『大筒』のあった場所。

 

今は壁しかないが、戦乱の時代……ライコウとの決戦で、それが使われた。

自分達が被害を食らうことは無かったが、やはりあれを知だけで作ったライコウは末恐ろしい。

 

……今も、考えているんだろうな。

 

ヤマトは……兄貴によって造られた楽園。

民は愛され、護られ、そして苦しむことは無い。

強力な仮面、病気に強い農作物、常にある食料、大きく頑丈な船、長く揺れたことのない橋。

 

ライコウは語った。

 

『歪』だと。

それは、帝が居るから出来ることだと。

帝がいなくなれば……待っているのは緩やかな衰退。

トゥスクルやウズールッシャのような、揺り籠ではない國から滅ぼされるだろう、と。

 

自分は、兄貴の作った國が好きだ。

それと同時に、兄貴は干渉しすぎた。

孤独から、家族のクローンを造り、そして偽りの愛を求めた。

それは自分や……ウォシス。

この世界の『異物』としての、せめてもの願いだった。

 

もしあの時、帝が崩御せず國が傾かなかったら。

もしあの時、皇女さんに危険が迫らなかったら。

 

……もしあの時、もっと早くウォシスを止められていたなら。

 

オシュトルもマロも、ライコウも兄貴もホノカさんも……誰も死ななかった。

だが後に待つのは……緩やかな衰退と國の崩壊だけだ。

 

 

「……ク……ねえ、ハクってばっ!」

 

身体を強く揺すられ、自分が思考に深く陥っていたことに気づく。

 

「ああ、すまない。なんだ?」

 

「ボーッとしてると危ないかな。ほら」

 

いつの間にか巨大な門を越え、帝都の中へと入っていた。

結構進んでいたようだ。後ろを振り返ると、大門は遠く離れている。

 

「さて、俺達はこのままこの荷を大内裏まで届けに行くんだが……ネェちゃん達はどうする?」

 

「そうだね、まずは寝床の確保かな。都の見物がてらに旅籠屋を探すつもり」

 

「そうかい。そういうことなら、いいトコ知ってるぜ。良ければそこを案内するが、どうだい?」

 

「いい所かぁ……」

 

ウコンの言葉にクオンは顎に指を添え、少し悩む素振りを見せる。

 

「それに……っと、いや待った待った」

 

しかし、ウコンは引き止めるように声量を上げた。

 

「いけねぇ、忘れてた。他の宿を取られちゃ困るんだった」

 

「ん?」

 

「いや、帝都に着いたら皆で仕事納めの宴をするってのが習わしでよ。そのつもりで、もう店の方に予約を入れちまっててな」

 

……ん?まさか、そこは……。

頭に過ったその場所に、呼応するかのように腹の蟲がグゥと鳴いた。

 

「ふふん、つまり私達を歓待してくれるってこと?」

 

悪戯っぽく含みのある笑顔を浮かべ、なぜか『私達』を強調するクオン。

 

「あ〜、野郎共の慰安も兼ねて……な?」

 

綺麗所が欲しい、ってとこだな。

クオンやルルティエに酌をしてもらえれば、疲れも吹き飛ぶというもの。

正直、自分もその宴に参加したいものだ。

 

「あはは、せっかくだから喜んで参加させてもらおうかな。ハクも、それでいい?」

 

「ああ、もちろん」

 

久しぶりにあの飯と酒を楽しめるのか……!

それに宴ということはタダ飯だ。クオンが都に着いたら、外での飲食代はお小遣いで……なんて言ってたし。

 

「そうか、そうして貰えると野郎共も喜ぶぜ。なにせ……」

 

そして、ウコンはこちらを向き……ニヤリと笑った。

 

「アンちゃんの奢り、だからな?」

 

「なっ!?」

 

「タダ酒ほどうめぇもんはねえからな。ガハハ!!」

 

ま、待て待てッ!

自分はそんな約束はしてないぞ!

確か記憶では、以前マロに奢るとか何とか言って、こんな流れになった気もするが、今回自分はその発言をしていない。

マロの肩を叩き、同情の微笑みで慰めてやっただけだ。

 

まさか……これが歴史の『強制力』とやらなのかッ!?

 

「ってのは冗談だ」

 

「ーーウコンッ!!!!」

 

「なっ!?そんなに怒ることねえじゃねえか!」

 

こ、コイツ……!!

ヒヤヒヤさせやがって……こちとら二度目の人生なんだ。

選択肢次第で何が起こるか分からない、肝も冷えるような人生を送ってるんだぞ!

 

「くっ……」

 

しかしここは冷静に……

 

「……ウコンの奢りな」

 

「お、おう?別に、そのつもりだけどよ……」

 

ふぅ、これでよし。

一瞬頭に血が吹き上ったが、とりあえず落ち着いた。

 

……なんか自分、精神が幼くなった気がするな。

 

「……あれは、何かな?」

 

自分とウコンを放って、クオンは何処かを指さした。

そこには白くて平たい山のような……ああ、聖廟か。

やはり大きいな。そして……あそこに兄貴達がいるのか。

 

「ああ、ありゃあ聖廟だ」

 

「聖廟?」

 

「この國の祭壇、みたいなもんだな。祭事の中心になる場とか、五穀豊穣を請い願う場とか、まあそんなようなところだ」

 

「そうなんだ」

 

聞いた割には、クオンはそっけなく返事をした。

視線が釘付けになっているのは、きっと何があるか気になっているのだろう。

別に興味がある事は恥ずかしい事じゃないんだがな。

 

「……ん?何かなハク」

 

「なんでもないです」

 

クオンの謎に圧力のある声に、自分は視線をそっと逸らした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そしてその後すぐ、オシュトルの屋敷がある地区までやってきた。

自分達はオシュトルから隠密として雇われていたため、ここら辺は懐かしさで胸がいっぱいだ。

よく見れば、チラホラ見覚えのある顔もいる。

 

「……クジュ……願い……あります……」

 

後ろが気になる……。

チラリと見てみれば、何やらルルティエがブツブツと呟いていた。

 

「クジュウリ皇オーゼンが娘、ルルティエ……皇の名代として出仕致しました……聖上の御世を言祝ぎ、弥栄なることを願いまして……名産の品などを謹んで奉りたく、ここに参った次第であります……」

 

ああ、そういえば。

前もよく練習していたな、献上品を届ける際の口上の練習を。

しかし……記憶に正しければ、確かルルティエは……。

 

すると、こちらを見て門衛らしき男が近づいてきた。

 

「ここに何用か。目的と名を名乗られい」

 

……うん、ここは黙っておこう。

頑張れよ、ルルティエ。

全員がルルティエへと視線を向ける。

 

「……ッ!」

 

視線を受け、ルルティエは息を飲み込み、手と足を同時に出しながら前に進み出る。

 

「わ、わわ、わたしはっ!……あの……」

 

ん?

 

「ク、クジュウリ皇、オ、オーゼンが、むっ、むすめ、ルルティエ……そ、そのっ、あの……んっ……と……」

 

ああ、ダメだったか。

緊張が度を超えたのだろう。最初は裏返りながら大きい声で言っていたのに、今はもう蚊の鳴くような音量。

そして、ついには俯いてしまい、門衛の男も戸惑いながらこちらとルルティエを交互に見ている。

 

「……ゴホン。あ、あ〜、すまぬがよく聞き取れなかった。もう一度言ってもらいたい」

 

「わ、わた……わたしは……その……」

 

これ以上は見ていられないな。

ルルティエも頑張ったんだ。もういいだろう。

自分はルルティエの元まで進み、ルルティエの隣に立つ。

 

「某達はクジュウリ皇オーゼン様の使い。こちらの御方はクジュウリが姫御子、ルルティエ様であらせられる」

 

「えっ……?」

 

声色を低くして、出来るだけ丁寧な所作で。

一応こういうのは、過去に何度もしてきたからな。

……オシュトルとして。

 

「此度は聖上の御世を祝い、更なる繁栄を願って名産の品など奉りたく、ここに参った次第」

 

「……事の次第、しかと拝聴しました。オーゼン皇の名代とはつゆ知らず、数々の無礼の段、どうかお許しを」

 

ふぅ、どうやらおかしな所は無かったようだ。

自分がオシュトルの口調を真似する時、覚えるのが一番大変だった。

しかしまあ、染み付いたというのか……役に立ってよかった。

 

「では、御印を改めさせていただきます」

 

「……」

 

……ん?ルルティエさん?

どうしてこっちを見て固まってるんだ?クジュウリ皇の御印を出して欲しいんだが……。

 

「ルルティエ様」

 

自分はもう一度声色を低くしながら、ルルティエを呼ぶ。

 

「えっ……」

 

「……御印を」

 

「……は、はいっ。只今……」

 

自分かそう言うと、慌ててルルティエは袖口から、クジュウリの印章が彫り込まれた御印を見せる。

門衛はそれを確認し、後ろに一歩下がった。

 

「……確かに。遠路お疲れ様であります。お通りを」

 

門衛の言葉で、自分達は進み始める。

 

やっと通れた。

こういうのは何度もやってきたが、やはり面倒臭いな。

こう……ピッとカードか何かで……それか暗証番号だったり……。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

後ろから声を掛けられ、振り向く。

 

「ありがとう……ございました……」

 

花のような笑顔を浮かべるルルティエ。

 

「んにゃ」

 

そのルルティエの頭にポンと手を置き、笑ってみせる。

 

「ルルティエもよく頑張ったな」

 

「〜〜!」

 

「ん?あれ?」

 

真っ赤っか……だな。

 

「す、すまん。恥ずかしかったか」

 

「い、いえ……」

 

馴れ馴れしかった、か。

どうしてもルルティエには、こう……年下感というか、守ってあげたくなる気持ちが強くなるんだよな。

しかし距離を離されるのは困るな、もう少し自分の行動に気をつけよう。

 

「……ハク」

 

トントン、と肩を指でつつかれる。

横を見ると、クオンが並んで歩いていた。

 

「なんだ?」

 

「ちょっと見直しちゃった。でも、どこで……」

 

そこで、ハッと言葉を止めるクオン。

 

「……クオン?」

 

「いや、何でもないかな」

 

「ん?そうか?」

 

「……うん、何でもないかな!」

 

そしてーー肩を叩かれる。

 

「フギャッ!!?」

 

激痛。

あまりの痛みに悲鳴をあげ、先程の門衛の首がグルンとこちらに向いた。

 

「あ、ごめんね」

 

「ク……クオン……!」

 

肩を押さえながら、涙目でクオンを睨みつける。

 

「あはは……」

 

しかしクオンは、カラカラと笑っている。

 

 

「痛い……」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

しばらく歩いていると、オシュトルの屋敷前にたどり着いた。

ここら辺は美しい瓦屋根の屋敷が並んでおり、分厚い土堀で囲まれているが、その中でもオシュトルの屋敷は特に大きい。

 

「よぅし、ここだ。着いたぜ」

 

ウコンの掛け声に、門の前にいた男が駆け寄る。

 

「お待ちしておりました、ウコン殿。お疲れ様であります」

 

「おう、今戻ったぜ。コイツがクジュウリからの献上品だ。丁重にな」

 

「ハッ!」

 

門衛は恭しく返事をする。

そしてウコンは回れ右をし、後ろ手を振った。

 

「んじゃ、後のことは頼んだぜ」

 

「ハッ……はっ?いや、ちょ、ちょっと待ってください!」

 

それを門衛は慌てて引き止める。

 

「何処へ行くんですか! 報告やら手続きやらをやっていただかないと困りますって!」

 

「いやぁ悪ィな。疲れてるんで細かい事はまた明日にな」

 

「ちょ……!」

 

ウコンはスタスタと、こちらへ歩く速度を早めた。

はあ……まあ、ウコン及びオシュトルの屋敷だからいいか。仕事もコイツがやるんだし。

一方、自分の隣でルルティエは何か言いたげにオロオロしている。

一応聞いとくか。

 

「ウコン、大丈夫なのか?」

 

「ああ、もともとあそこ、オシュトルの屋敷に届ける手筈になっていたからな。あそこに届けとけば、後の手続きやら品定めやらは全部やってくれる」

 

そう言って、ウコンはルルティエに小さく笑った。

 

「だからルルティエ様、そんな心配しなさんなって。名代として来たお姫さんとしては不安だろうが、後は向こうに任せておけば何の心配もいらねえからよ」

 

「は、はい……」

 

どうやらルルティエも納得したようだ。

 

「てなわけだ、さあて、宴、宴!」

 

楽しそうに腕を上げるウコンに、自分たちはついていく。

 

 

 

そしてついに……『白楼閣』に到着した。

 

 

 




こんにちは、ハラダです。

二次創作小説『うたわれるもの 真白の願い』
いかがだったでしょうか。

あ、最終回じゃないですよ。
第一章『辺境』がここで終わりなので、一度皆様方に挨拶をと。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

マシロとなり幾星霜。
愛したヒトや仲間達が去り、一人ぼっちのマシロ様が始まりでした。
そしてタイトル通り『真白の願い』が叶えられ、なんと一番最初まで戻ってきてしまいました。

そしてクオンとの出会い。
更にはウコン、マロロ、ルルティエ、ココポ
ノスリ、オウギ、ウルゥル、サラァナとの出会い。

まだまだ序盤ですが、ハクさんにとっては手からこぼれ落ちたものが戻ってきている感覚で、毎回驚いて感動してます。

ただ、孤独の時間が長すぎたため、依存……っぽいものになってるかも知れません。
もう二度と失わない……その気持ちが強すぎて、色々と変化が起きています。

そして『記憶』と『仮面』
これらが今回『うたわれるもの 真白の願い』のキーとなるものです。

気付いてる方も多いだろうな〜、というか気づかないわけもないだろ……と鼻で笑われそうですが。

さて……ハクのこれからの二度目の人生は、仲間達との出会い、更にはこれまでとは違う『変化した日常』になっていきます。

第二章のタイトルは『帝都』
ぐんっと、話数が増えます。もちろん、変化していますが。
あったものが無かったり、新しいエピソードが出てきたりします。

キャラ崩壊、設定崩壊、誤字脱字等あると思いますが……
是非、IFストーリーとしてお楽しみください。

そして、評価や感想など頂けると励みになります。

これからも、よろしくお願い致します。
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