[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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27 歓迎

 

「おい、ウコン」

 

宴会の席にて、ウコンやマロ、そしてその仲間達が楽しそうにガヤガヤと騒いでいる。

そんな中、ずぶ濡れの状態で入口に立った自分は、静かにウコンを睨んだ。

 

「おっ!アンちゃんが来たぞ!」

 

「ハク殿ぉ〜!」

 

二人とも既に顔が赤い。

 

「……なんで自分だけ先に飲んでるんだよ、ウコン!」

 

ウコンの元にドスドスと荒い足並みで向かい、声を張り上げる。

 

「あん……?そりゃ……巻き込まれたくないからな」

 

コイツ……本音を……!

 

「お前が助けてくれれば、ルルティエは犠牲にならずに済んだんだぞ!」

 

「別に、嬢ちゃん達だけなんだからいいだろ?風呂に入りてぇってネェちゃんが言うのに、それを止めるこたぁねえよ」

 

そういう事じゃないんだよ……!

あの時、自分はルルティエを見捨てた。

その瞬間のルルティエの絶望した表情が、頭にベッタリと張り付いてしまっている。

そして、白く透き通った肌も……。

 

「それよりもほれ、飲みねぇって」

 

ウコンが盃をゆらゆらとこちらに見せてくる。

自分は溜め息を吐きながらも、その盃を頂くことにした。

 

「よぉし野郎共!もう一回だ!」

 

『うい〜ッ!』

 

ウコンの掛け声と共に、全員が盃を掲げた。

 

「帝都への帰還と、このアンちゃんを歓迎して、乾杯!」

 

『カンパーイ!!』

 

「はぁ……乾杯」

 

少し微妙な気分だが、酒の味に免じてここは許してやるか。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ぷくーっと。

まるで餅のように、自分から少し距離を離してこちらを睨む少女。

 

「あ、あの……」

 

自分が声をかけようとすると、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

 

「……はぁ」

 

ルルティエが怒った。

まあ、自分のせいなんだが……いやいや。クオンのせいだろう?

しかしルルティエにとっては、自分を見捨てて逃げ、更には宴を始めていたというのがどうも癇に障ったようだ。

入ってきた時、満面の笑みで自分を無視する様は、あまりにもショックすぎて盃を落としたほどである。

 

「んくっ……ぷはぁ……」

 

そして全ての元凶であるオフロスキー……クオンは、美味そうに盃を空にしている。

自分か?自分が悪いのか?

 

「あ、どうぞ……」

 

「あっとと……」

 

空っぽになったクオンの盃に、ルルティエが酌をする。

クオンは溢れそうになった盃に急いで口をつけ、ぐいっと飲み干した。

 

「ふはぁ……お風呂上がりにキンと冷えたお酒をキュッと……うん、格別だね!」

 

どこぞの親父かお前は。

それに先刻の風呂場の一件は、既に頭の中には残っていないのかよ。

 

と、とりあえず自分もルルティエに酌を……

 

「ル、ルルティ……」

 

「こちらも美味しいですよ、クオン様」

 

「そう?あむっ……ん〜、美味し〜い」

 

「…………」

 

自分で酌をするのが、こんなに寂しいものだとは思わなかった。

ルルティエの機嫌は、簡単に治ってくれないようだ。

 

「何でぇアンちゃん。そんなしみったれた顔をしよってからに」

 

酒瓶片手に、先程よりもさらに赤くなった顔のウコンが、隣りに腰を下ろす。

 

「それ、もう一度乾杯だ。素晴らしき仲間に乾杯ッ」

 

「……自分は何も悪くないと他人顔する仲間に乾杯」

 

自分とウコンは盃を傾けた。

 

「ぷは〜っ!うめぇ!!」

 

「ルルティエが許してくれないんだが」

 

「あん?ダハハハ!気にすんなって!すぐに姫様の機嫌も治まるだろうさ!」

 

そう言いつつ、ウコンは盃を掲げて笑った。

ぐぬぬぬ……せめてコイツもいてくれれば、罪は自分だけでは無かったんだがな。

 

盃に酒を注ぎ、グイッと流し込む。

 

「はぁ……美味い」

 

「ほれほれ、せっかくの歓迎の宴なんだ。もっと飲め飲め」

 

そう言って、ウコンは自分の盃に酒を注いだ。

それをグッと飲み干して、自分の酒瓶をウコンに向ける。

 

「ほれ、返盃だ」

 

「ほいよっ……んぐっ……くはァ、ホント、一仕事終わったあとの酒は美味ぇなァ」

 

そういえば、ウコン達と出会ってもう十日以上経ったのか。

考えてみると、自分の願いが叶えられて過去に戻り、親友や仲間と一緒に呑めるとは。

 

「はい、ハクの分ね」

 

感傷に浸っている自分に、クオンが手馴れた様子で特大のアマムニィを作って差し出してきた。

そして、既に皿の上に山積みにされているアマムニィを、幸せそうに頬張る。

 

「はむ……ん〜、美味しい」

 

トロンと惚けたように溜息をつくクオン。

 

……クオンとまた会えたっていうのも、自分にとっては幸せなことだ。

こんな美味そうに食べるクオンを見れたのも、大神だった自分に感謝だな。

 

「…………」

 

さっきから頬を膨らませていたルルティエが、何故かじっとこちらを見ている。

自分が視線を向けると、また頬が膨らみ始めたが。

まぁ……あんなことをしたからな。ルルティエの機嫌はまだまだ治ってくれないようだし、後でちゃんと謝らないと。

 

そんなルルティエの様子に気づいたクオンが、アマムニィを彼女の顔の前に差し出した。

 

「はい、ルルティエも」

 

「え?あ……ありがとうございます」

 

ルルティエは戸惑いつつも受け取ろうとするが、クオンはその手を避けて、ルルティエの口元へ近づけた。

 

「え?」

 

「はい、あ〜ん」

 

「え?え?」

 

ルルティエがクオンとアマムニィを交互に見る。

 

「あ〜ん」

 

「あ、あの……」

 

そして、自分の方をチラリと一瞥した。

どう見ても恥ずかしいと言っているようなものだが、クオンはそんなことを気にしていない。

ひたすら、口元に差し出している。

 

「あ〜〜ん」

 

「え……えと……あ、あ〜ん……んむ……もくもく……」

 

ルルティエが折れたようにそのアマムニィを小さな口で食べると、クオンはそれはもう嬉しそうに笑った。

 

「あはっ、美味しい?」

 

「ぁ……は、はい……」

 

そんな様子を、自分はニンマリと見ていた。

気に入ったのか、クオンはルルティエに更にアマムニィを突き出す。

 

「それじゃあもう一口、あ〜ん」

 

「ぇ……あ、あの……」

 

「はい、あ〜ん」

 

ああ、いいなぁ。

自分もあれほど押しが強ければ、ルルティエに許してもらえるんだろうか。

……よし、やってみるか。

 

「ほらルルティエ、こっちも」

 

自分はクオンの皿からアマムニィを取り、身を乗り出してルルティエに差し出す。

 

「ハクさま……!?」

 

「ほれ、あーーゴボボッ!!」

 

しかし、クオンの持っていたアマムニィが何故かこちらの口に詰め込まれ、自分のアマムニィを奪い取られる。

 

「ゴッ……グオ゛ン゛……」

 

「これは私の仕事だから、ハクは駄目かな」

 

「クオンさま……」

 

なんだよ仕事って。

なんとかアマムニィを飲み込み、自分は溜息を吐く。

その間に、クオンはひたすらルルティエに餌付けするようにアマムニィを食べさせ、乾杯を繰り返す。

 

これはクオンが気を使って場を和ましてくれている、ということでいいのか?

そのルルティエはされるがままで、雛みたいになってるが……。

 

「ほれアンちゃんも、盃が乾いてんぜ?」

 

「あ、ああーー」

 

そう言って、ウコンから酌をしてもらおうと盃を持ち上げた瞬間。

 

「ハク殿〜、マロとも酒を酌み交わして欲しいでおじゃるよ〜」

 

ヌルりとマロが間に入り、自分の盃に酒を注いだ。

 

「おっとと……びっくりしたぞマロ。いたのか」

 

「ヒドイでおじゃる、いたでおじゃるよ〜」

 

……完全に出来上がってるな。

 

「おう、そうだな。マロ、アンちゃんの盃に注いでやってくれ」

 

「いや、自分の盃は今……」

 

「まかせるでおじゃるよ」

 

「バッ……んぐっ」

 

マロが酒瓶を持ち上げ、まだ中身の入った自分の盃に酒を注ごうとする。

その前に盃の中身を飲み干し、溜め息を吐きながらマロに盃を突き出した。

 

「ささ、遠慮せずに飲むでおじゃーー」

 

バタンッ!

 

「んお?」

 

マロが注ごうとしたその時、不意に座敷の襖が勢いよく開かれた。

その音に飛び交っていた喧騒が途切れ、辺りが静まり返る。

 

そして、皆が開け放たれた襖の方に目を向けた。

 

自分は、盃を落とした。

 

「ネコネ……」

 

あまりにも消え入りそうな声量の呟きは、誰の耳にも入っていない。

襖の所で立っている、小さな少女によって。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ネコネ。

オシュトルの妹であり、自分とは犬猿の仲だった。正確には、あっちが一方的に嫌っていたんだが。

まだ子供だと言うのに、マロと同じ殿試に合格した天才少女。

しかし、それと同時に子供らしいか弱さを持つ少女。

 

オシュトルが死んだ理由を自分のせいにして、それでもやるべき事のために耐え続けていた。

 

『兄さまが……兄さまであるほど……ハクさんがいなくなってしまう……』

 

ただ一人。死んだオシュトルの正体を知りながらも、その男を兄と偽り続けた。

 

『どうして兄さまは……いつも……そんなに、どうして……』

 

自分の心を後回しにして、壊れかけてしまうほど弱かった。

 

『違うのです……兄さまは……私の……兄さまは……』

 

オシュトルは死んだ。ネコネという妹と、意志を自分なんかに託して。

 

『でも……でも、私の大切な兄さまなのです』

 

それでも、偽りの自分を兄と呼んでくれた。

 

 

オシュトルと自分が愛した妹、それがネコネだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……何を、してるですか」

 

いつの間にか、ネコネが目の前に立っていた。

ジトリとした目で、溜息をつきながら。

 

「いったい何をしてるですか、兄さま」

 

「ッ……ネコネ」

 

兄さまと呼ばれ、自分は咄嗟にネコネの名を答える。

 

 

ネコネの瞳が、大きく開かれた。

 

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