[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
「いったい何をしてるですか、兄さま」
「ッ……ネコネ」
自分に名を呼ばれたネコネの目が、驚きで見開かれる。
そして、何かを言おうとしたその時ーー
「おぅネコネ!」
後ろから、ウコンの嬉しそうな声が響いた。
ネコネはそちらにジトリとした視線を向ける。
「いいとこに来たなぁ。どうでぇ、おめェも一緒に」
しかしネコネはむすっとしたまま、ウコンを睨んでいる。
「んぉ?どうしたぁネコネ、ンな不機嫌そうな顔してっと、男が寄り付かなくなるぜ?」
「余計なお世話なのです。それに、男のヒトなんてどうでもいいのです」
淡々と冷たく返すネコネ。
「いや、そろそろ年頃なんだし、いつまでも兄ちゃんっ子てのもなぁ」
ウコンは酔っ払っているため、ネコネの不機嫌な様子には気づいていないようだ。
「ーーそんなことより、こんなトコで何してるですか?しばらくぶりに帝都に帰ってきたというのに、報告も引き継ぎもなく、家にも帰らずこんなところで飲んだくれて」
ズン、とネコネは一歩進んだ。
「いったい、どういうコトです?」
「ああ、その辺りならちゃんと他のヤツに頼んどいたから問題無しだ!……ヒック」
「頼んだだけでなく、ちゃんと本人が居てくれないと困るのです」
「まぁ、そう怒んなって。それよりも今は皆を労って、新しい仲間を歓迎することの方が大事なんだからよ」
ウコンは手をヒラヒラと振ると、自分たちに顔を向ける。
そして親指でネコネを指さした。
「っと、そうだ。いい機会だから紹介するぜ。コイツは俺の妹のネコネだ!俺にゃあ勿体ねぇくらい出来のいい妹でな。ちょいと融通がきかねぇのが玉に瑕だが、よろしくしてやってくれぃ」
あぁ……見事に出来上がってるな。
ウコンに紹介され、自分達はネコネへと視線を向ける。
すると、ビクッと身体を震わせ、おずおずと口を開いた。
「ぅ……はじめまして……です」
そして、ぺこりと頭を下げる。
「んで、この薄幸そうなアンちゃんがハク、そっちのベッピンなネェちゃんがクオンで、可愛い嬢ちゃんがルルティエ様だ」
続くように、ウコンが自分たちをネコネに紹介した。
「私はクオン、よろしくお願いかな」
「ぁ……ルルティエです……よろしくお願いします……」
クオンとルルティエが、ネコネにニコリと微笑む。
しかしネコネは、返事もせずウコンの方へと向いた。
「……ではなく、話を逸らさないでほしいのです!」
「まぁまぁまぁ、ネコネ殿〜」
そこに、酔っ払ったマロ参戦。
「今は、せっかくの祝いの席でおじゃるにょ。もっと笑って欲しいでおじゃる」
「学士様になった途端、私にご高説ですか。ずいぶんと偉くなったものなのです」
しかし、ネコネは死んだ蟲を見るような目で、バッサリと叩き切った。
「ひぐぅ!?い、いいいや、そ、そんなつもりでは……」
マロ重傷、そして撤退。
すごすごと座敷の隅へと戻っていき、そのまま膝を抱えてシクシク泣き出してしまった。
その様子に、ウコンは大きく笑う。
「だっはっは、そんなに怒るな。せっかくの可愛い顔が台無しだ」
「むぅ……怒ってなんていないのです」
そう言いながら、プイッと目をそらす。
「もし怒っているように見えるのなら、兄さまが怒らせてるのです」
そして、少し寂しそうにウコンに視線を戻した。
「ウコン、それはダメかな」
「んぉ?」
すると、クオンが人差し指を立てながらウコンに注意する。
「私達を優先してくれた心遣いは嬉しいけれど、帰ってきたのならまず妹さんに顔を見せてあげないとダメかな」
「ぁ……」
ネコネはそんなクオンをじっと眺めていた。
「可哀想に……こんな不安そうにさせちゃって。心配している妹さんが居るのなら、まずは無事な顔を見せて安心させてあげるのが、兄としての義務かな」
「ぬぐ……」
ズバッとクオンに言われ、バツが悪そうに唸るウコン。
「いやまぁしかし、わざわざ心配する程の事じゃねえしなぁ……こんな務めは毎度のことだし、ちょろっと行って帰って来るだけで、何でもねえってことは判ってると思うんだが」
「心配かどうかを決めるのは、ウコンの方じゃなくて妹さんかな。貴方がどんなに心配要らないと思っても、妹さんにとっては心配で仕方の無いことなんだから」
「そんなモンかねぇ」
ああ、ウコンが完全に押し潰され口を尖らせている。
確かに今回はウコンが悪いが……かっこ悪いぞウコン。
「そんなものだよ。兄であるのなら、その気持ちをちゃんと察してあげないとね」
「……」
「ね?」
「ぅ……」
そう言うクオンを、少し呆けた様子で見つめていたネコネ。クオンがそれに気づき、ニコリと微笑みを返すと、ネコネは戸惑いの色を浮かべつつ頬を赤らめた。
「むぅぅ……」
対してウコンはあまり納得していないのか、首を傾げて唸った……本気で心配するほどのものじゃないと、まだ思っているんだろうな。
仕方ない。自分も出来れば、ネコネには心配をして欲しくないのだ……相変わらずウコンは、顔に似合わず細かな気配りが出来るのに、身内の心情には疎いな。
「ウコン」
「んぉ?」
自分はネコネをチラリと一瞥し、頷いてみせる。
『任せろ』と。
ネコネは警戒しているのか、後ろに一歩引いた。
「つまりネコネは、お前に構って貰えないのが淋しいんだ。だからそれに気づいて欲しくて、拗ねて怒って気を引こうとしてるんだよ。そのくらい気づいてやれ」
「んな……!?」
「……」
ネコネもクオンも、そこまで驚かなくてもいいだろうに。
自分だって人の気持ちは判ってるつもりだ。助け舟くらい出せるさ。
「な……なな……」
ウコンは自分の言葉に合致がいったようにポンと手を叩いた。
「ああ、なんでぇ。そういうことだったのかい」
「何を言ってるですか、そんなことーー」
「ネコネも素直に気持ちを言うべきだ。自分はそう思うんだが、違うか?」
「なに……を……!!」
「すまんかったなぁ、淋しい思いをさせちまってたのに気づいてやれなかったとは」
「……ッ!!」
ったく……照れくさいのは分かるが、自分を睨むのは辞めてくれ。
何故か脛が痛くなるんだ。脛が。
しかしこれでウコンはネコネの気持ちに気づいただろう。
さあ、どんと家族の親睦を深めてくれ。
「ハク……」
「ん?」
クオンが呆れたように、溜息を吐いた。
一方、ウコンはネコネの近くに寄り、ひょいと優しく抱き上げ膝の上に座らせた。
「ヨッと。ハハハ、相変わらず軽いなネコネは」
「うなっ!?うなーっ!?」
それからしばらくジタバタと抵抗していたネコネだったが、ウコンに優しく頭を撫でられると、大人しく身体を預け始めた。
「ずいぶんと大きくなったし、昔みたいに甘えてくることも無くなったからなぁ……もう寂しがることは無いんだと、勝手に思い込んじまってた」
ウコンはネコネを撫でながら、優しく呟いた。
ネコネは服の裾をギュッと掴み、顔を俯かせている。
「別に……わたし……」
「本当に、俺は駄目な兄貴だな」
「そんなこと……ないのです……」
頭を撫でられ続け、どんどんトロリと惚けたような表情に変わるネコネ。
「ダハハハ、しかしまぁ、こういうのも久しぶりだな」
「……兄さま」
「んぉ?」
ネコネが小さくウコンを呼び、ウコンがそれに反応する。
「……おかえりなさい」
「おう、ただいまだ」
自分はその光景に、グイッと盃に入った酒を流し込み、顔の熱を下げたのだった。
『お知らせ』
すみません、あまりにもこの話が長くなってしまったので、一度切ります。
ネコネとウコンとハク……あまりにもこの状況に熱が入りすぎまして。