[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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28 兄妹

「いったい何をしてるですか、兄さま」

 

「ッ……ネコネ」

 

自分に名を呼ばれたネコネの目が、驚きで見開かれる。

そして、何かを言おうとしたその時ーー

 

「おぅネコネ!」

 

後ろから、ウコンの嬉しそうな声が響いた。

ネコネはそちらにジトリとした視線を向ける。

 

「いいとこに来たなぁ。どうでぇ、おめェも一緒に」

 

しかしネコネはむすっとしたまま、ウコンを睨んでいる。

 

「んぉ?どうしたぁネコネ、ンな不機嫌そうな顔してっと、男が寄り付かなくなるぜ?」

 

「余計なお世話なのです。それに、男のヒトなんてどうでもいいのです」

 

淡々と冷たく返すネコネ。

 

「いや、そろそろ年頃なんだし、いつまでも兄ちゃんっ子てのもなぁ」

 

ウコンは酔っ払っているため、ネコネの不機嫌な様子には気づいていないようだ。

 

「ーーそんなことより、こんなトコで何してるですか?しばらくぶりに帝都に帰ってきたというのに、報告も引き継ぎもなく、家にも帰らずこんなところで飲んだくれて」

 

ズン、とネコネは一歩進んだ。

 

「いったい、どういうコトです?」

 

「ああ、その辺りならちゃんと他のヤツに頼んどいたから問題無しだ!……ヒック」

 

「頼んだだけでなく、ちゃんと本人が居てくれないと困るのです」

 

「まぁ、そう怒んなって。それよりも今は皆を労って、新しい仲間を歓迎することの方が大事なんだからよ」

 

ウコンは手をヒラヒラと振ると、自分たちに顔を向ける。

そして親指でネコネを指さした。

 

「っと、そうだ。いい機会だから紹介するぜ。コイツは俺の妹のネコネだ!俺にゃあ勿体ねぇくらい出来のいい妹でな。ちょいと融通がきかねぇのが玉に瑕だが、よろしくしてやってくれぃ」

 

あぁ……見事に出来上がってるな。

ウコンに紹介され、自分達はネコネへと視線を向ける。

すると、ビクッと身体を震わせ、おずおずと口を開いた。

 

「ぅ……はじめまして……です」

 

そして、ぺこりと頭を下げる。

 

「んで、この薄幸そうなアンちゃんがハク、そっちのベッピンなネェちゃんがクオンで、可愛い嬢ちゃんがルルティエ様だ」

 

続くように、ウコンが自分たちをネコネに紹介した。

 

「私はクオン、よろしくお願いかな」

 

「ぁ……ルルティエです……よろしくお願いします……」

 

クオンとルルティエが、ネコネにニコリと微笑む。

しかしネコネは、返事もせずウコンの方へと向いた。

 

「……ではなく、話を逸らさないでほしいのです!」

 

「まぁまぁまぁ、ネコネ殿〜」

 

そこに、酔っ払ったマロ参戦。

 

「今は、せっかくの祝いの席でおじゃるにょ。もっと笑って欲しいでおじゃる」

 

「学士様になった途端、私にご高説ですか。ずいぶんと偉くなったものなのです」

 

しかし、ネコネは死んだ蟲を見るような目で、バッサリと叩き切った。

 

「ひぐぅ!?い、いいいや、そ、そんなつもりでは……」

 

マロ重傷、そして撤退。

すごすごと座敷の隅へと戻っていき、そのまま膝を抱えてシクシク泣き出してしまった。

その様子に、ウコンは大きく笑う。

 

「だっはっは、そんなに怒るな。せっかくの可愛い顔が台無しだ」

 

「むぅ……怒ってなんていないのです」

 

そう言いながら、プイッと目をそらす。

 

「もし怒っているように見えるのなら、兄さまが怒らせてるのです」

 

そして、少し寂しそうにウコンに視線を戻した。

 

「ウコン、それはダメかな」

 

「んぉ?」

 

すると、クオンが人差し指を立てながらウコンに注意する。

 

「私達を優先してくれた心遣いは嬉しいけれど、帰ってきたのならまず妹さんに顔を見せてあげないとダメかな」

 

「ぁ……」

 

ネコネはそんなクオンをじっと眺めていた。

 

「可哀想に……こんな不安そうにさせちゃって。心配している妹さんが居るのなら、まずは無事な顔を見せて安心させてあげるのが、兄としての義務かな」

 

「ぬぐ……」

 

ズバッとクオンに言われ、バツが悪そうに唸るウコン。

 

「いやまぁしかし、わざわざ心配する程の事じゃねえしなぁ……こんな務めは毎度のことだし、ちょろっと行って帰って来るだけで、何でもねえってことは判ってると思うんだが」

 

「心配かどうかを決めるのは、ウコンの方じゃなくて妹さんかな。貴方がどんなに心配要らないと思っても、妹さんにとっては心配で仕方の無いことなんだから」

 

「そんなモンかねぇ」

 

ああ、ウコンが完全に押し潰され口を尖らせている。

確かに今回はウコンが悪いが……かっこ悪いぞウコン。

 

「そんなものだよ。兄であるのなら、その気持ちをちゃんと察してあげないとね」

 

「……」

 

「ね?」

 

「ぅ……」

 

そう言うクオンを、少し呆けた様子で見つめていたネコネ。クオンがそれに気づき、ニコリと微笑みを返すと、ネコネは戸惑いの色を浮かべつつ頬を赤らめた。

 

「むぅぅ……」

 

対してウコンはあまり納得していないのか、首を傾げて唸った……本気で心配するほどのものじゃないと、まだ思っているんだろうな。

仕方ない。自分も出来れば、ネコネには心配をして欲しくないのだ……相変わらずウコンは、顔に似合わず細かな気配りが出来るのに、身内の心情には疎いな。

 

「ウコン」

 

「んぉ?」

 

自分はネコネをチラリと一瞥し、頷いてみせる。

『任せろ』と。

ネコネは警戒しているのか、後ろに一歩引いた。

 

「つまりネコネは、お前に構って貰えないのが淋しいんだ。だからそれに気づいて欲しくて、拗ねて怒って気を引こうとしてるんだよ。そのくらい気づいてやれ」

 

「んな……!?」

 

「……」

 

ネコネもクオンも、そこまで驚かなくてもいいだろうに。

自分だって人の気持ちは判ってるつもりだ。助け舟くらい出せるさ。

 

「な……なな……」

 

ウコンは自分の言葉に合致がいったようにポンと手を叩いた。

 

「ああ、なんでぇ。そういうことだったのかい」

 

「何を言ってるですか、そんなことーー」

 

「ネコネも素直に気持ちを言うべきだ。自分はそう思うんだが、違うか?」

 

「なに……を……!!」

 

「すまんかったなぁ、淋しい思いをさせちまってたのに気づいてやれなかったとは」

 

「……ッ!!」

 

ったく……照れくさいのは分かるが、自分を睨むのは辞めてくれ。

何故か脛が痛くなるんだ。脛が。

しかしこれでウコンはネコネの気持ちに気づいただろう。

さあ、どんと家族の親睦を深めてくれ。

 

「ハク……」

 

「ん?」

 

クオンが呆れたように、溜息を吐いた。

一方、ウコンはネコネの近くに寄り、ひょいと優しく抱き上げ膝の上に座らせた。

 

「ヨッと。ハハハ、相変わらず軽いなネコネは」

 

「うなっ!?うなーっ!?」

 

それからしばらくジタバタと抵抗していたネコネだったが、ウコンに優しく頭を撫でられると、大人しく身体を預け始めた。

 

「ずいぶんと大きくなったし、昔みたいに甘えてくることも無くなったからなぁ……もう寂しがることは無いんだと、勝手に思い込んじまってた」

 

ウコンはネコネを撫でながら、優しく呟いた。

ネコネは服の裾をギュッと掴み、顔を俯かせている。

 

「別に……わたし……」

 

「本当に、俺は駄目な兄貴だな」

 

「そんなこと……ないのです……」

 

頭を撫でられ続け、どんどんトロリと惚けたような表情に変わるネコネ。

 

「ダハハハ、しかしまぁ、こういうのも久しぶりだな」

 

「……兄さま」

 

「んぉ?」

 

ネコネが小さくウコンを呼び、ウコンがそれに反応する。

 

「……おかえりなさい」

 

「おう、ただいまだ」

 

自分はその光景に、グイッと盃に入った酒を流し込み、顔の熱を下げたのだった。

 




『お知らせ』
すみません、あまりにもこの話が長くなってしまったので、一度切ります。
ネコネとウコンとハク……あまりにもこの状況に熱が入りすぎまして。
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