[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
……と、そこまでは良かったんだがなぁ。
「よく考えてみりゃ、ちょいと前まで一緒に風呂に入るって駄々こねてたんだよなぁ」
「え……」
その無駄な一言で、その場の空気が凍りついた。
「最近じゃあ、ンなコト言わなくなったし、夜中に寂しがって寝床に潜り込んでくることもなくなったからなぁ」
「「「一緒に風呂……」」」
何人かが、ボソリと呟いた。
「寝床……」
「潜り込んでくるのか……」
そして別の誰かの呟きが、それに続く。
「あ、ああ、兄さま!?」
ネコネはギギギっとウコンの方に顔を向ける。
すでにその顔は赤い。
「厠にいけなくて起こされることも無くなったからなぁ。寝小便する癖もすっかり治って……」
そこにまた地雷を踏みまくるウコン。
「なっ、なー!!!なー!!!!」
そりゃ、こうなるよな……。
自分の兄が、自分の恥ずかしい思い出を語るなんて、こっちとしては死にたくなる。
『ヒロシがおねしょ……』
『あらあらまあまあ……』
待て、今兄貴とホノカさんの幻聴がッ……!!
……ヒロシって誰だよ。
「い、いったいいつの話をしてるですか!オネショなんて、もう二年も前に治っーー」
ネコネはそこまで言いかけると、ハッと我に返り恐る恐る周囲を見回す。
そしてこちらと目が会い、ピタリと動きが止まった。
「……二年前か」
「ぅぐ……」
頭の中に響いた兄貴達の幻聴の動揺で、つい口に出してしまった。
「二年前でおじゃるか……」
マロもそれに続く。
そして、次々と部屋の男たちが呟き、やがて大きなざわめきとなった。
「…………」
最後の救い……!と思ったんだろう。
ネコネはクオンに視線を向ける。
……クオンは、あちゃ〜……と言うかのように額を抑えていた。
「〜〜!!」
ついにネコネの限界が来たのか、またジタバタと暴れ始める。ウコンの膝の上で。
その様子に、自分は可愛いもんだと暖かい目を向けていると、ネコネがこちらを睨む。
……なんだ、自分は悪くないぞ。
「……さっきから、何ジロジロ見てるですか」
「は?」
「おいおい、兄ちゃんの仲間にそんな言い方はねェだろう?」
「うぅ……」
自分に鋭い目を向けていたネコネだが、ウコンが頭をまた撫でると一瞬でトロリと惚けた。
それを見て、クオンは小さく笑う。
「あはっ、本当に可愛い妹さんだね」
「ぇ……」
「応よ、自慢の妹だからな」
「そっか……」
クオンは優しく微笑むと、ネコネの前に移動する。
ネコネは少し不安そうに、上目遣いでクオンを見た。
「あらためて初めまして。ネコネさん、だね。ネコネと呼んでもいいかな?」
「えっ!?は、はい……はじめ……まして……です」
「私はクオン。見識を拡げる旅の途中で、ネコネのお兄さんと知り合ったんだ」
それからクオンは、自分の好きな食べ物や好きなことをネコネに話していく。
そしてルルティエを紹介し、ネコネがルルティエに恐れ入りながらも、最終的に友達になったようだった。
ネコネが古代の話をすると、クオンがそれに反応し……ネコネが前のめりには反応し、クオンとルルティエとネコネの三人で遺跡話に花を咲かせ始めるという、暖かい光景が広がった。
そこに、マロが感心したようにこちらを見て呟いた。
「あんなに楽しそうに話をするネコネ殿を見るのは、初めてでおじゃるよ。ネコネ殿は『大いなる父に愛されし者』と呼ばれるほどの才女であるからして」
大いなる父に愛されし者って……また凄まじい異名だな。
こっちとしては何だか微妙な気分になるぞ。
「その才はあの年齢で最難関である殿試に一度で合格し、哲学士の資格を手に入れたほどでおじゃるよ」
「マロと一緒のやつだよな。やっばり難しいのか?」
殿試については聞いた事があるが、結局どれくらい難しいのか分からん。
「それはもう、でおじゃる。合格者が出るのは、せいぜい数年に一度。そんな試験に、ネコネ殿は歴代最年少で受かったのでおじゃるよ」
「へぇ、やはり凄いな」
「おじゃ?やはりとは?」
「ああいや、何でもない……しかし、最年少で受かったネコネはともかく、マロもそれに受かったんだよな?」
自分がそう言うと、マロは目を煌めかせた。
「もちろんでおじゃる!苦労したでおじゃるが、やっと何とか合格することが出来たでおじゃるよ」
「凄いじゃないか」
「にょほほほ……もっとも、マロはあくまで助学士。ネコネ殿の哲学士と比べられたら胃が痛くなるくらいに切なくなってしまうでおじゃる。それに本来なら……」
「なぁ、マロ」
こういう所が、マロの自信を無くしているんだろうな。
結局、人と比べて良かったこと……なんてのはそうそう無いもんだ。それに、競走し成長するならまだしも、落胆して折れてしまえば何の意味も無くなる。
「何でおじゃるか?」
「クオンが言っていた言葉を借りるが……『ヒトはヒト、マロはマロ』なんじゃないか?」
「ハク殿……?」
「お前はどうも自信が無さすぎる。まあ、色々とあるんだろうが……結局、今聞いた限りだと哲学士も助学士も、すごく難しい試験なんだろ?」
「そ、そうでおじゃるが……哲学士とは……」
「どっちも凄いってことには変わりないんだろう?」
「……そうでおじゃる」
「じゃあマロは胸を張ってればいいんだ。自分は助学士だ。凄いだろう!頑張っただろう!ってな」
マロの肩をポンと叩き、手に持っていた盃に酒を注ぐ。
「哲学士も助学士も、根本は変わらない、死ぬほど努力して、難しい試験に受かった。そうだろ?」
そして、酒を注いだマロに盃を差し出す。
「もっと自信を持て、マロ」
「ハ……ハク殿……」
マロはそれを受け取ると、涙ぐみながら盃を煽った。
そして、飲み干した後に向いた表情は、とても自信の溢れたものとなっていた。
「ハク殿、ありがとうでおじゃる」
「いいんだ。それで?本来がなんだって?」
「あぃや、何でもないでおじゃる。とにかく、ネコネ殿は間違いなく本物の天才ということを言いたかったのでおじゃるよ。なのでおじゃるが……」
そこで、マロは小さく息を吐いた。
「……それ故に、同年代の子供と馴染めなかったのでおじゃるよ。周りがネコネ殿の話題についていけず、またネコネ殿も周りの話題についていけず……家で一人勉強にいそしんでたでおじゃるよ」
「天才ってのも大変なもんだな」
「そうでおじゃるな……だから、あんなに子供らしい表情のネコネ殿を見るのは、久しぶりでおじゃる」
マロが少し悲しげに笑いながら、ネコネを見ている。
そこには、クオンとルルティエと楽しそうに話すネコネがいた。その様子は、学士の位を受けた天才少女ではなく、花を摘んだり人形遊びをするような女の子に見えた。
こうして見てみると、やはりネコネには笑顔が似合うもんだ。
「ネコネさまは、その歳で殿学徒なんて、本当にすごいです……」
どうやら、あっちも殿試の話をしていたようだ。ルルティエがネコネを褒めている。
しかしネコネは、それを少し暗い表情で答えた。
「そんなことないのです。わたしなんて、ぜんぜんダメダメなのです……殿学士になれなければ意味ないのです」
その言葉に、マロの表情は曇る。
「幼すぎたのでおじゃる」
「ん?」
「ネコネ殿は、本来なら哲学士の資格を拝領していたのでおじゃるが……幼すぎるという理由で保留にされたのでおじゃるよ」
「ああ……」
そういえば、そんな事を聞いたこともあるな。
「そんなことないと思うな」
暗い顔をするネコネに、クオンが目尻を下げる。
「私がネコネの歳の頃なんて、野山を駆け回って一日遊んでいただけだから。なのにネコネは、その歳で殿学徒……もっと自慢してもいいかな」
「はい、わたしもそう思います……ネコネさまは……とても頑張り屋さんです」
クオンとルルティエがそう言うと、ネコネは照れくさそうに頬を染めて俯く。
「ネコネ」
ウコンが、黙ったネコネをただ優しく撫でる。
その姿は、兄妹の強い絆を感じさせた。
「兄さま……」
ネコネはゆったりと、安心した顔でウコンにもたれかかった。
「ホント、羨ましいな……」
「はい……わたしも……國の兄に会いたくなりました……」
クオンとルルティエも、その様子に自分の家族達を重ねているようだ。
「仲良きことは素晴らしきかな……これで、とりあえずは一件落着だ」
ネコネの機嫌も治り、兄妹間の言い合いも収まった。
更にはネコネに友達が出来て、全部万事恙無く……ってな。
「何故そこで、とてもいい事をしたという顔をするのか判らないかな」
「え?そんなこと別に……」
「……兄さま、また変なのを拾ってきたですか。ちゃんと元の場所に戻してくるべきなのです」
な、なんだとこのチビッ子……。
「だっはっはっ、そう邪険にしてやるな。一見冴えない感じで、実際も腕っ節はからっきしだが、なかなかどうして面白いやつだぜ?」
ウコンはそう言って、ポンとネコネの頭を叩く。
「それに、このアンちゃんには助けられた恩もあるからな……正直な話、アンちゃんがいなけりゃ、今回のヤマはちとヤバかったんだぜ?」
「そうだね。確かにハクの情報と機転がなかったら、危なかったかな」
「そう……なのです?」
「そういうこった。新しき仲間との固めの盃だ。ネコネからも、アンちゃんの盃に注いでやってくれ」
その言葉にネコネは溜息を吐きながらも、近くにあった徳利を持ってトコトコとこちらにやってくる。
「兄さまがそう言うなら……ハクさん、でしたか。さぁ、それでは一献つぎますです」
ネコネが酌をしようとしてくれるその姿に、目の奥がじんと熱くなる。
ハクさん……だってな。
「……ああ、頂こう」
「では……」
盃をゆっくりと差し出すと、ネコネは慣れていないのかどこか危なっかしい手つきだ。
「どうぞ、なのです」
「おっとと……」
徳利を大きく傾けてしまい、中の酒が一気に流れ出る。
零れないように、慌てて口を付け啜った。
「……美味い。ありがとうな、ネコネ」
「えっ……」
礼を言って、ネコネの頭を撫でる。
一緒ビクッと身体が震え、それから目を見開き驚いたようにこちらを見つめているが、振り払われたりもしないのでそのまま撫で続けた。
「ネコネは可愛いな……本当にウコンの妹なのか?」
「ふふん、当然よ。どうでぇ、可愛く賢い自慢の妹だぜ」
「な……」
そしてウコンの褒め言葉に、顔が真っ赤になった。
「まあ、少々無愛想なのが玉に瑕だがな」
「なに、そいつは愛嬌ってヤツだろ?少しくらいそういうのがあった方が、可愛げがあるってもんさ」
「にゃ、にゃにを……い、言ってるですか……」
「いや何、色々と気にすることはないってことだ。ネコネはまだ子供で、これから成長していくんだ。いっそ更に可愛くなるかもしれんぞ?」
殿学士とか、友人関係とか……まぁ、色々とな。
……しかし、何か様子がおかしい。
自分の手がネコネの小さな手に握り締められ、ニコニコと笑顔を浮かべている。
普通に見てみれば、ただの可愛い子供の笑顔だが……これには見覚えが……。
「違えねぇ。ネコネは可愛いが、もっと可愛くなったっていいんだぜ?だっはははははーー」
不意に、ネコネの小さな手が自分の首に当てられた。
ん?と首を傾げようとした瞬間ーー
「キュッ……?」
そこで、落下するような感覚と共に、辺りが暗闇に包まれ……自分の記憶は途切れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「んお?どうしたアンちゃん」
ウコンは、突然白目を向いて倒れたハクに声を掛ける。
その視界を庇うように、ネコネが立った。
「兄さま、ハクさんがこれを飲みすぎて倒れてしまったです。ああ、こんな所で寝たら風邪をひいてしまうのです」
あまりにも棒読みだが、特にウコンに気づいた様子はない
「やれやれ、しょうがねえな。ネコネ、毛布でもかけてやってくれ」
「ハイなのです」
そしてネコネはハクの顔に毛布をかける。
その様子は、まるで死人の顔に布を被せるように見えた。
「指南書に書いてあったのが、こんなに上手くいくとは思わなかったのです……これが通用するなんて、どれだけ貧弱なのですか」
ネコネは小さく呟いた。
そしてギュッと拳を握り、吐き捨てるような目でハクを見る。
「良いヒトかと少しでも考えたわたしがバカだったのです。あんな遠回しにおね……のことを言うなんて、嫌味でしかないのですよ」
勘違いによって、ハクが過去に戻ってもネコネは変わらないようだった……。
『独り言』
友人にこの小説を見せた時
「あまり変わってなくない?原作コピーだよね」と言われてしまったのです。
この物語は小さな変化から大きく変わっていくので、セリフと反応がちょこちょこ違うのを楽しんでいただきたいのです。
すみません……文章力無くて……。