[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
薄暗い廊下に、鈴のような音が響く。
果てしなく長い廊下に、黒い外套を目深に被った二人の影が歩いていた。
二人は無言のまま進み、やがて大きな扉の前で立ち止まる。
すると、どこからともなく女の声が響いた。
『……二人とも、よく戻りましたね。大義でした』
「「……」」
『お入りなさい』
ギギギ……と、目の前の扉か勝手に開く。
そして先の王座のような場所の傍らには、乳白色の髪の美しい女が立っていた。
「こちらへ」
外套を被る二人は頭を垂れたまま進み、玉座の前に跪いた。
「『見つけた』という報せに、間違いありませんか?」
王座の傍らにいた妙齢の女がそう二人に問いかける。
「「……」」
問われた二人は無言のまま、小さく頷く。
「そうですか、ではーー」
「そうか、見つけたか……」
「ーーはい、我が君。やっと……やっ……」
言葉を遮るしわがれた声に、女は心から嬉しそうに微笑み、王座向けて頭を下げた。
しかし、不意にその言葉は止まった。
「……それは、どういう意味ですか?」
妙齢の女は二人の方へと向き直り、問う。
外套の二人はそれに、分からないという風に首を振った。
「何があった……」
「彼女達に、彼の者と共にした『記憶』が……」
「ほう……?」
男の声は訝しげに響いた。
「話を聞きたい……」
「御心のままに……二人とも、こちらへ」
妙齢の女がそう言うと、スススと二人は頭を下げたまま王座へと近寄る。
そしてしばらくして、しわがれた声の男の唸る声が響く。
「うむ……一度、彼奴に聞いてみなければ分からないかもしれぬな……」
「我が君……」
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「死ね……死ね……死ね……!!」
その景色は戦場。
いくつもの火煙が上がり、悲鳴と何がが潰れるような音が鳴り響く。
ぐちゃり、ぐちゃりと。
自分は……何をしている……?
「死ね……死ねッ!!」
開けていく視界に、背筋が急に冷え込む。
自分は確かーーーにいたはずだ。
あレ、自分は、どコニ……?
「ーール、やーーて!」
「ーーさま!!」
ダレ……ダ……?
いつもの自分よりも遥かに高いその視点が後ろへと動く。
「ーーは大丈ーーいて!」
「オシューーはー!」
ク……オン……?
ソレニ……皆モ……ナゼ……ジブンハ……。
視点が、自分の掌を映す。
見覚えのある大きな手。まるでそれは、仮面のーー
『アアアーー!!』
赤い。紅い。朱い。
ドロリとした赤黒いソレは、指の間から垂れ続ける。
ナンダ……コレハ……。
地面には、いくつもの……かつてヒトの形をしていた肉片。
そしてこちらに何かを叫んでいるクオン達の近くに、一人の少女が倒れている。
「ルル……ティエ……?」
少女の着ている桃色の着物は、腹部が赤く染まっていた。
顔は青白く、まるで……シンデイル……カノ……ヨウ……。
『シ……ネ……!』
勝手に動く。
仲間達のいた場所に、拳が何度も打ち付けられる。
赤い飛沫が、幾度となく吹き出して。
ヤメロ……ヤメロ……ヤメロヤメロヤメロ!!!!
『オオォォォォォォアアアア!!!!』
そこには、赤しか残っていない。
誰にも届かない悲鳴をあげながら、その視界は閉じた。
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「ハッ……!!」
目を開ける。
呼吸が苦しい。頭がジンジンと痛み続けている。
「ハァッ……ハァ……夢、か……?」
自分の手を、視界の前に持ってくる。
ちゃんと自分の手だ。肌色の、指が五本ある……自分の手だ。
「……チッ、趣味の悪い」
身体を起こし、周りを見回す。
どうやら、宴をした会場のようだ。自分はここで寝ていたらしい。
近くを見れば、涎を垂らしたウコンや、服を剥ぎ取られたマロが、そして何人もの男たちが、鼾をかいている。
「水……」
喉が乾いたため、立ち上がろうとした瞬間。
コトンと、自分のすぐ横にある机に、茶色の湯のみが置かれた。
「ああ、ありがっ……!?」
ーー双子。
黒い外套を目深に被った影が二人、自分の近くに座っていた。
自分は叫びそうになる口を両手で抑え、周りを見回す。
今のところ、誰かが起きる気配はない。
「……少し、話せるか」
二人は静かに首を振る。
「なぜだ?」
そして、とある方向を指さした。
それは、確か聖廟のある場所。
「兄貴……帝と話すまでは、ってことか?」
双子の身体がピクリと反応する。
「お前達のことは知っている。だから、出来るだけ早く兄貴と話せるようにしてくれ」
自分がそう言うと、双子はしばらく固まっていたが、やがて小さく頷いた。
「頼むぞーーウルゥル、サラァナ」
自分が最後に名前を呼ぶと、二人はこちらに近寄り、自分の手を片手ずつ握った。
そしてもう一度コクリと頷くと、突然発生した霧と共に消えていった。
「……風呂でも入るか」
ウルゥルとサラァナが用意してくれた水を飲み干し、自分は風呂場へと向かった。
直前に見たあの気色悪い夢を、早く忘れるために。