[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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31 見物

「……帝都見物?」

 

朝風呂から戻ってくると、散乱とした宴の跡は綺麗に片付けられ、朝食が用意されていた。

席につき朝食を口にしようとすると、クオンから今日の予定について話される。

 

「うん、ネコネが都の案内をしてくれるって。だから帝都の名所を回ったり、美味しいお店も……せっかくだから、この機会に着物を新調するのもいいかな」

 

そう言って、クオンは隣のルルティエにも声をかける。

 

「もちろん、ルルティエも一緒だよ」

 

丁寧な所作で朝食を食べていたルルティエが、花のように笑う。

 

「わたし……都を見て回るの初めてですから……楽しみです……」

 

クオンもルルティエも今日は凄くテンションが高い。

昨日の風呂の件も、ルルティエはもう気にしていないようだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

白楼閣の玄関にて集合し、さっそくネコネの案内で帝都に繰り出す。

都の中央を貫く大路を南に進みながら、行き交う人々の様子や活気づいた店が目についた。

 

「改めて見ても、流石は帝都なんだね……」

 

「は、はい……大きすぎて眩暈がするくらいです……」

 

この都は周囲を山に囲まれた盆栽のような所にあるが、ルルティエの言う通り本当に大きすぎて眩暈がするほどだ。

 

しかし大きさもさることながら、目を見張るのは帝都の形。

 

地図を見れば、街の形はきっちり長方形で道が規則正しい縦横に走り、兄貴……帝の入念な計画の元に建設された都だと再度理解する。

 

「すごい都を作ったもんだ……」

 

つい自分の口から漏れた感想に、ネコネがくるりと振り返った。

 

「この都は、このヤマトを樹立された帝が何百年も前にお開きになられたのです」

 

まだ兄貴が帝だと知らない時は、まさかこの都を作った帝と、今生きている帝が同じだとは思いもしなかった。

延命治療……だったな。それで永い間、兄貴はこのヤマトの頂点に立っていたのだ。

……ちなみに、そのせいで若干兄貴はボケていたが。

 

「帝……か」

 

「……何かとても失礼なことを考えている言い方なのです」

 

「ん?別にそんなことは……」

 

冷えた目でこちらを見ていたネコネが、呆れたように溜息を吐く。

 

「帝は、わたし達ヤマトの大いなる父であり、全知全能であられる御方なのです。言い伝えでは、この帝都を築く際に、不思議な力を使われてたった一人で山を切り開き、巨石を積み上げたとか」

 

帝の偉業をツラツラと語るネコネ。その様子は、まるで学んだことを自慢する子供のようで微笑ましい。

 

「……何にせよ、わたし達ごときが帝を知ろうとするなど恐れ多いこと。身の程というものを知るべきなのです」

 

そして、ネコネはこちらに一歩詰め寄る。

 

「でなければ、その身を滅ぼすですよ……?」

 

うん、怖がらせようとしているのかもしれないが、しかしあんまり怖くない……小動物の威嚇かな?

しかし忠告してくれているので、とりあえず頭を撫でてやろう。

 

「偉い人には気安くふれるなってか。気をつけるよ」

 

そう言って、ポンポンとネコネの頭を軽く撫でた。

 

「う〜……ハッ!?ちょ、な、何するですか!?」

 

すると一瞬、ウコンに撫でられた時のように顔を綻ばせていたネコネだったが、自分ではお気に召さなかったのか、顔を真っ赤にして手を振り払った。

 

「イダッ!」

 

「何をするですか!?」

 

「い、いや、自分は忠告してくれた礼をと……」

 

「どう結びついたら、そうなるのですか!それにわたしにも馴れ馴れしく触れないで欲しいのですよ!」

 

前言撤回。可愛くないぞこのチビッ子。

 

「分かった分かった、自分が悪かったよ」

 

「フゥーッ!」

 

いや、威嚇かよ。

ネコネはクオンの背中に隠れ、こちらを恐ろしい形相で睨みながら、尻尾の毛を逆立たせている。

 

それからクオンとルルティエによって、なんとか機嫌を治したネコネによる案内が再開され、物流の要であるオムチャッコ川、そして帝が一夜で作ったらしい大門、中央の大通りから北に戻って、その先にある聖廟についての説明もしてくれた。

 

「それじゃあ、もうお昼過ぎだし、どこかで食事にしよっか」

 

クオンの言葉を皮切りに、自分たちは商店の並ぶ路地へと足を運ぶ。

沢山の露店や食事処が並ぶその通りで、さて何を食べようかと思案していると……

 

「喉が乾いていないですか?」

 

と言って、いつの間に買ってきたのかネコネがクオンとルルティエに美味そうな飲み物を差し出していた。

 

「自分には無いのかよ……」

 

まあ、それも仕方ないことなんだが……。

しかし何だ。ここまであからさまに冷たい態度を取られてしまうと、胸に深々と突き刺さるものがある。

 

そんな自分には目もくれず、クオンとルルティエはネコネに礼を言って飲み物を受け取り、それを口にした。

 

「あ、美味しい……」

 

「ハ、ハイ……な、なんだかとっても不思議な味わいです……」

 

ああ、いいなぁ……美味そうだなぁ……。

そう二人に羨望の眼差しを送っていると、ルルティエがそれに気づいたのかおずおずとこちらに器を差し出した。

 

「あ、あの……宜しければこれを……」

 

中身はまだ半分近くも残っている。

 

「いいのか?まだずいぶんと残っているようだが……」

 

「だ、大丈夫……です。わ、わたし、そんなにいっぺんにたくさん飲めないから……」

 

「なら、ありがたく頂こうかな」

 

さっそく器を受け取り、それに口をつける。

ほのかな酸味と香ばしさを感じる不思議な味わい……それに炭酸だろうか。ちょっとシュワシュワしている。

不思議な飲み物だが……これはこれで……。

 

「ふぅ……一息ついたよ。ありが……ん?」

 

礼を言いながら器を返そうと見れば、ルルティエは顔を赤くして唇を隠すように覆っていた。

そして何やらブツブツと呟いている。

 

「ハ、ハクさまの唇が……わたしの……」

 

「顔が赤いな、疲れたのか?」

 

「い、いえ、な、なんでも……」

 

ルルティエは身体が弱かったし、もしかしたら無理しているのかもしれんな。

そう思い、顔を覗き込んでみるが、更に赤くなって俯いてしまった。

 

「大丈夫か?」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

大丈夫には見えないんだが……まあ本人が言っているなら、いいか。

 

「さて、何を食べようかな」

 

クオンの言葉に、自分は店へと関心を戻す。

 

「お、あの揚げ物は美味そうだ」

 

あれは、確か……ん?何だったか……。

 

「カムカですか。炒めた挽肉と野菜を薄い生地で三角形に包んで揚げたものなのです」

 

「それは食べたことないかな。じゃあ、それにしてみよっと」

 

クオンがすぐさま、カムカの露店へと足を運ぶ。

 

「んじゃ、自分は……シェルチチにするか。ちょっと塩辛いが、これはこれで……」

 

「ハクさん、シェルチチを知っていたですか」

 

「ん!?」

 

やべっ、よく酒の摘みにしていたからつい名前を……!

 

「い、いや。その……ウコンと飲んだ時にな。はは……」

 

「そうなのですか、兄さまと……」

 

「……飲んだ時、か」

 

うん、せっかくだから少しくらいは……

 

「こんな真っ昼間から飲ませないのですよ」

 

「な、なぜ判った……!」

 

「兄さまと同じ顔をしてたら、バレバレなのです」

 

「うぐ……」

 

流石ネコネ。兄さま繋がりで自分の表情すら読み取るとは。

 

「あ、あの……ネコネさま……あの黄色の……甘い香りのするのは何ですか……?」

 

そう言って、ルルティエがゆっくりとその場所を手で示した。

 

「見たことなくて……」

 

「あれは、クニュイというお菓子なのです。確か甘く溶いた卵の生地に、煮詰めた果物や香草を入れたもの……だったと思うのです」

 

「ふふっ……黄金色にキラキラしています……」

 

クニュイか……。

 

「ああ、綺麗だな」

 

「ひゃいっ!?」

 

「……ルルティエ?」

 

自分が感想を述べた瞬間、ルルティエが勢いよくこちらへと振り返り、大きな声を上げた。

なぜかまた顔が赤い。

 

「何でだろ、ルルティエは微笑ましいのに、ハクが言うといかがわしく感じる」

 

「きっと存在そのものが、いかがわしいからなのです」

 

「おいこら」

 

失礼な奴らめ……自分のどこがいかがわしいってんだ。

 

「ハ、ハクさまは……優しい方ですから……」

 

ああ、ルルティエは優しいな。

……んでも、いかがわしいは否定してくれないのね。

 

それから、他の菓子や他國の料理などを見て回り、色々と食べ歩いていたら腹がパンパンになってしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふぅ、なんやかんやで結構食ったな」

 

「ちょっと喉が乾いちゃったね。一服しながら、はしやすめでもしたいなあ……」

 

やっぱり、あれだけ食ってまだ食い足りないのか……。

そんなクオンに畏敬の眼差しを向けていると、近くにあった通りの前でルルティエがふと足を止めた。

 

「あ……」

 

「どうかしたの……か……」

 

その小さな路地には、絵巻物や書冊を扱っている店が並んでいる。

しかし覚えがあるぞ。確かここは……

 

「あ、あの……ネコネさま……この通りは……?」

 

「ここですか?確か書物や絵画などを扱っているお店の多い通りなのです。扱っているのは大衆文芸中心なので、わたしはあまりよく知らないですが……」

 

あまり広くない路地に、ルルティエと同じ年頃と思わしき少女達が行き交いしていて賑わっている。

……ルルティエさん、そういえばそんな趣味を持っていたな。

 

「あ、あのっ……そ、その……少し、見てきても良いでしょうか……?」

 

「いいんじゃないかな。よかったら一緒に行く?」

 

「いっ、いえっ!一人で!!」

 

クオンの言葉に、あからさまに動揺するルルティエ。

その様子に、クオンは首を傾げた。

 

「ルルティエ?」

 

「あ……いえ……大丈夫です……この辺りはちゃんと調べ……いえ、知っていますから……」

 

ルルティエさん……落ち着きがないですよ。

 

「それなら私達は、そこの茶屋で待ってるかな」

 

「一応、地図は渡しておくのです」

 

「あ、ありがとうございます……それでは……!」

 

地図を受け取ったルルティエは何度もお辞儀すると、いそいそと小路へ入っていった。

 

「そんな時もあるのかもね……じゃあ、私達はルルティエが戻ってくるまで待ってよっか」

 

クオンは気づいているっぽいな。

そう思いながら、自分達が移動しようとした時……

 

「ーーっと」

 

ちょうど小路から出てきた誰かにすれ違いにぶつかってしまう。途端に、その誰かが手にしていたであろう包みから紙の束がこぼれ落ちた。

 

「ああ、すまな……ッ!」

 

そして、自分はその男の顔を見て固まった。

 

「いえ、こちらこそ。うっかり、余所見をしていました」

 

……ウォシス、だ。

自分は突然現れたウォシスに言葉が出ず、固まる。

しかし自分の様子に気づかず、ウォシスは身を屈めて、紙を拾い始めた。

 

「……おや」

 

そして全て拾い上げ、ウォシスが顔を上げた時、何かに気づいたように声を上げた。

 

「あ……」

 

ネコネも何かに気づき、困惑したような声を漏らす。

男はそんなにネコネの表情を察しているのかいないのか、破顔してネコネの前に進み出た。

 

「これはネコネさん。ここで出会うとは奇妙な巡り合わせですね」

 

「あなたは……」

 

「もしかして、ネコネの知り合い?」

 

口を開け驚くネコネに、クオンが問う。

 

「知り合いという程では……」

 

「ネコネさんは才女として知るヒトぞ知る方ですからね。年齢のせいで学士にはまだなられていないのが残念です」

 

「そんな大層な事ではないのです。それを言うなら、あなたこそ……」

 

そこで、ウォシスはそっと自分の唇に人差し指を当てる。

 

「あ……何でもないのです」

 

「……それで見た所、ネコネさんは都に遊びに来たお友達を案内しているという感じですか?」

 

「はいなのです。それより、どうしてあなたがここに?」

 

「私がこんな所にいると不都合でも?」

 

「不都合じゃないですけど、何だか似合わないのです。普段は、大路のもっと格式高い店にいそうな……」

 

「いやいや、普段は遣いの者をやりますので、そういった所にも出歩かないのですよ。ただ今日は少し大切なことがありまして」

 

「大切なこと、ですか?」

 

ウォシスの言葉にネコネは首を傾げる。

 

「ええ、やっと新刊の入稿……いえ、届け物に。大切なものですので、こればかりは人任せに出来ませんからね」

 

そう言って、ウォシスは愉快そうに目を瞑る。

 

「最近は筆のノリが軽やかでして。お陰様で依頼が多く、副業がおろそかになってしまいましてね……いやはや、困ったものです」

 

「それって副業ではなく本業……あなたが困ったヒトなのですよ……」

 

「おっと、こうしてはいられない。次なる構想を書き留めなくては。では名残惜しいですが……おや?」

 

ネコネが口を滑らせる前に去ろうとしていたウォシスだが、そこで自分と視線が合い、首を傾げる。

 

「顔色が少々悪いようですが……」

 

そして、自分の顔の前にウォシスの顔が迫る。

 

「っ……だ、大丈夫だ」

 

「そうですか……では、ネコネさん。そちらの御方達も失礼します。縁がありましたら、また……」

 

ウォシスは軽くお辞儀をすると、すたすたと人混みの中へ消えていった。

 

「ハク?どうかした?」

 

クオンに声をかけられ、自分はそちらを向く。

 

「……いや、なんでもない」

 

自分はそう言って、茶屋に先に向かう。

 

「ハク……?」

 

そしてしばらくして、自分は体調が悪いとクオンに伝え、先に一人で白楼閣へと戻った。

腹の中に、グルグルとした気持ちの悪い感情を抱えて。

 

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