[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

33 / 65
32 表裏

 

一人、自室の布団に寝転がる。

 

「……ウォシス」

 

その男の名前を口に出すと、胃のあたりがグルグルと渦巻くような感覚がした。

 

八柱将の一人、そしてヤマトの実質的な大老。

『影光のウォシス』の二つ名を持ち、帝からの信頼も篤い。

 

だが、奴は孤独だった。

兄貴の後継者として『造られた』彼は、過去の遺物……旧人類の知識や歴史を学びながら育つ。

 

しかし、兄貴はウォシスを愛してしまった。

優しい子だと……後継者にするよりも、自由に生きて欲しいと願ってしまった。

だがウォシスにその愛は伝わっていなかった。

 

そのせいで……。

 

「どうすれば止められる……?」

 

拳に力を入れ、頭を必死に回転させる。

 

ウォシスが行動を起こすのはいつからだ?確か自分の記憶通りなら、奴が黒幕として現れたのはトゥスクルでマスターキーを受け取ろうとした時だ。

 

だか奴の事だ、それ以前から動いていたのだろう。可能性ではあるが、帝の崩御や皇女さんの茶に毒を入れたのも奴かもしれない。

 

それともライコウが……?

 

奴は帝を愛していたはずだ。それに、帝の力を知っている。

自分の望む國にする為、殺そうと考える訳がない。

 

「クソっ……!」

 

ダメだ、気分が悪くて頭が上手く回らない。

いっそウォシスに全てを伝えるか?兄貴と共に話して、自分の正体を……信じてもらえる確証もない。

 

「……ウルゥル、サラァナ。いるか?」

 

ふと、自分は呼ぶ。

すると、鈴の音と共に黒の外套を被った二人が現れた。

自分は布団から起き上がり、双子に身体を向ける。

 

「「……」」

 

「兄貴……帝と話せるのはいつになる?」

 

「「……」」

 

二人は首を横に振った。

 

「……兄貴には伝えたのか。自分が全てを知っている、と」

 

「「…………」」

 

間を置いてから、小さく頷いた。

その返答に、自分の焦燥は更に膨れ上がった。

 

「出来るだけ早く話しておきたいんだ。このままじゃ……兄貴が……ホノカさんが……ッ!」

 

突然走った激痛に、自分は頭を抱え倒れ込む。

二人はすぐさま自分に駆け寄り、身体を支えてくれる。

 

「ぐっ……なんだ、この痛みは……!」

 

あまりの激痛に、意識が朦朧とする。このままじゃ……!

 

「「……」」

 

そっと、布団に身体を寝かされる。

そして朦朧とした視界の中、ポツリと。

 

「……今は休む」

 

「ご無理をなさらないでください、主様」

 

「ウルゥ……ル……サラ……ァナ……」

 

「すぐに会える」

 

「私達は未来永劫、主様の御傍にいます」

 

柔らかな声が聞こえ、やがて自分の意識は闇の中へ落ちていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ーーク……ハク……起きて」

 

身体を揺すられ、目を開ける。

 

「……クオン?」

 

目の前にいたのは、心配した表情を浮かべるクオンだった。

 

「ハク、今大丈夫……?」

 

「あ……ああ」

 

そう言って、自分は身体を起こした。

どれぐらい寝ていたのだろうか、と外を見る。

いつの間にか、朝を迎えていたようだ。

 

「自分は……どれほど寝ていたんだ?」

 

「ネコネ達と帝都見物から帰ってきてから一日くらい。ぐっすりと眠っていて、夕餉の時に起こそうとしたけど起きなかったかな」

 

「……そうか」

 

最後に聞こえた、あの双子の言葉。

所々、記憶に靄が掛かっているような気もするが……

 

「ハク?」

 

「……ん、ああ。それで自分に用か?」

 

今は考えるのをやめよう。

自分はそう決めると、身体を起こしクオンへと向き直る。

 

「体調は大丈夫?」

 

「ああ、もう大丈夫だ」

 

「良かった……実は」

 

クオンが自分を起こした理由は、買い物の最中にネコネからとある言付けを聞いたそうだ。

内容はウコンから『大切な話がある、俺の所に顔を出して欲しい』と。

そして、ネコネが言うには自分に関係ある感じらしい。

 

「それでね、もしハクの体調が良いなら、一緒に行かないかなって」

 

……そろそろ来るとは思っていたが、まさか昨日の今日でとはな。

 

「ああ、いいぞ」

 

「そしたら私はネコネとルルティエに声を掛けてくるね。ハクは準備が終わったら、玄関まで来て」

 

「了解」

 

そう言ってクオンは優しく微笑むと、部屋を出ていった。

 

「さて……と」

 

とりあえず、兄貴とウォシスの件は今は置いておこう。

あの二人に任せておけば、きっと大丈夫だろうしな。

 

「準備するか」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

クオン達と合流し、早速ネコネに案内されてオシュトルの屋敷の前に到着した。

自分達に気づいた門衛が一瞬こちらに鋭い目を向けるが、ネコネの姿を見てすぐに緊張を解き頭を下げてきた。

 

「お役目ご苦労様なのです」

 

そして門を潜り、屋敷に入るネコネについていく。

ネコネは慣れたように屋敷の中を進んでいくと、とある一室の前で足を止めた。

 

「お二人をお連れしたです」

 

『入るといい』

 

ネコネが扉の外から声を掛けると、凛とした応えが返ってきた。

 

「失礼しますです」

 

そこは、オシュトルの執務室だった。

質素な調度品の類を囲むように、沢山の絵巻物や書物が整頓されて置かれている。

 

もちろん、その奥に座っていたのは……

 

「よく来てくれたな」

 

「右近衛大将……オシュトル」

 

クオンが目の前の男に、警戒したように声を固める。

 

「ハク殿、クオン殿、賊討伐の件では世話になった。改めて名乗るとしよう、某はオシュトル」

 

知ってるさ。

自分が、お前を知らないわけがないだろう。

 

「突然の呼び出しに、色々と思うところはあるだろうが、まずは座ってもらえるか」

 

そう言って、オシュトルは机を挟んだ先の床に敷かれている三枚の座布団を手で示した。

そして自分達が腰を下ろすと、オシュトルはネコネに声を掛ける。

 

「ネコネ、客人にお茶を」

 

ネコネはオシュトルに頭を下げると、素直に部屋を出ていった。

 

「初めまして、とあらためるべきなのかな?」

 

「そうだな。だが、紹介は要らぬ。失礼ながらそちらの報告は受けているのでな」

 

「あ……あの……私もこの場にいて良いのでしょうか……?」

 

ルルティエは気まずそうに、おずおずと尋ねる。

 

「お邪魔なようでしたら……」

 

それに、オシュトルは安心させるようにゆっくりと首を振った。

 

「構いませぬ。これは貴女の父君から頼まれた事でもあります故」

 

「お父さまから……?」

 

「はい。娘のことを、どうかよろしく頼むと」

 

「お父さまが……」

 

そう言えば、オシュトルがルルティエを迎えたのは、八柱将オーゼンからの頼みだったな。

経験を積ませて欲しい……だったか?

 

「お茶をお持ちいたしましたです」

 

ネコネが、卓上に茶の入った湯呑みを並べていく。

そして茶を並べ終えると、オシュトルの隣の席に腰を下ろした。

 

「……美味しい」

 

「とても美味しいです」

 

「ありがとうございますです」

 

「おっ、じゃあ自分も……」

 

二人が先にネコネのお茶を口にして、感想を述べる。

自分も……と前に置かれた湯呑みを持ち上げ、自分も一口すする。

 

「……美味いな」

 

「ふっ……」

 

なんだ、その勝ったとでも言うようなドヤ顔は。

……まあ、美味いんだが。

 

「それで、自分達を呼び出して一体何の用だ?」

 

「ふむ。やはりまどろっこしい話は好まぬか。ならば、単刀直入に言わせてもらおう」

 

そして、オシュトルは一度間を置いて、こちらに用件を伝えた。

 

「ここに招いたのは他でもない。其方達を引き立てたいと考えたからだ」

 

やっぱり、その話か。

内容は何となく予想できるが、一応詳しく聞いておこう。

 

「引き立てたい、というのは?」

 

「其方達には、某の協力者になってもらいたいのだ」

 

「ほう……」

 

もちろん自分は受けるつもりだが、ここで即答しても……つまらんな。

ちょっと、色々やってみるか。

 

「協力者、ねぇ……」

 

「そんなにおかしいか」

 

「……ああ、おかしすぎる。オシュトル様ともあろう御方が、その立場で手駒に欠くとは思えない」

 

そう言うと、オシュトルの口元は小さく笑った。

そして続けろと言わんばかりに、こちらの言葉を待つ。

 

「そして……ただの一般人である自分やクオンを雇いたい、なんて言ってくるのは怪しすぎる」

 

「ふむ……」

 

「何かを企んでいると考えるのは、当然だと思うがな。例えば……使い捨ての駒、とかな」

 

そこで、ネコネから蔑んだ視線を向けられていることに気づく。

自分だってオシュトルがそんなことをするはずも無いのは理解しているつもりだ。

だが目の前のコイツは、まだ自分がウコンと同じ人物だということに気づいていないことをいいことに、色々とこっちを試してやがる。

だったらこっちも少しくらい……な。

 

「ふむ、そう考えるのも当然であるか……これは信じてもらうしかないのだが、何も貴公等を陥れようとしている訳では無い」

 

オシュトルが、ふっ……と小さく息を吐く。

 

「ある理由があって、某は信頼のおける人物を捜していてな。しかし、そのような者は中々見つからなくてな……そこで、某の協力者でもある友人に相談してみたところ、貴公等を推薦されたのだ」

 

そこで一息つくようにお茶を口に含み、話を続ける。

 

「ギギリの駆逐や、賊討伐の際の活躍は耳にしている。頭も切れ、戦いにも通じた優秀な薬師に、腕っ節はともかく機転が利き、不思議とヒトを統率する魅力を持った男」

 

クオンはともかく、自分は過大評価しすぎじゃないか?

 

「付き合いは短いが、共に死線を潜り抜けた信頼のおける人物だと絶賛していたよ」

 

これは……マロだったな、確か。

 

「マロロがあれだけ太鼓判を押すのだ。ならば間違いないと思ってな」

 

「マロ……だけか?」

 

自分がそう聞くと、オシュトルは自分の表情から何かを感じたのか、笑みを深めた。

 

「と、いうと?」

 

チラリとクオンを見ると、美味しそうに茶を啜りながらこちらを見ている。

 

「自分には、もう一人ダチがいるんだ。そいつの名前がな……ウコンって言うんだが」

 

「ああ、ウコンか」

 

よし、ここだ。

 

「しかしまあ……そのウコンは何も言ってくれないらしい。悲しいもんだ」

 

「……ふむ」

 

「そしてダチは……どうやら自分がいつ気づくのかを試してるっぽいんだが……オシュトル様よ、これをどう思う?」

 

自分の言葉に、オシュトルの目が見開かれた。

そして……

 

 

「何でィ、気づいてやがったのか」

 

 

そう言って、奴は不敵な笑みを浮かべた。

 





『独り言』

お気に入り登録、ついに100件に……!!
あまりの事に、それを見た瞬間手が震えました。
趣味というか、ただマシロ様のその後を妄想したくて書き始めた作品が、ここまで皆様に読んでいただけるとは……

いつもお気に入り登録、評価や感想など、ありがとうございます。
これからも『うたわれるもの 真白の願い』をよろしくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。