[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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『独り言』

前回からの続きです。
ハクにとっても、作者にとってもこの結成の話は大事な事だったので、今回めちゃくちゃ長いです。
ネコネの反抗っぷりをお楽しみください。


33 隠密

「何でィ、気づいてやがったのか」

 

と言って、笑みを浮かべたまま髪をかき乱し、どこからか取り出した外套を羽織った。

そして口元に手を持っていけば、見慣れた無精髭。

 

「ったく、気づかれないと思ったんだがなァ」

 

仮面を外し、正体を現した。

 

「はぁ……めんどくさいぞ」

 

自分は溜息を吐きながら、湯呑みの茶を啜る。

今回オシュトルの正体がウコンだと気づいたのは、記憶にある通り自分が一度騙され翻弄されたからだ。

あの時はまさかこんな裏表があるとは思わなかったもんだが……どうやら今回は自分が勝てたようだ。

 

「まあそう言うなって、アンちゃんよ。ウコンとは仮の姿。その正体は右近衛大将オシュトルってんだ。そうすぐに言えたもんじゃねェよ」

 

「ふふ……まさかハクも気づいているとは思わなかったかな」

 

隣から少し感心したように、クオンが笑った。

先程まで蔑んだ目を向けていたネコネは、まさか自分が気づいているとは思いもしなかったのか、口をポカンと開けていた。

 

「……どうしたネコネ?そんなに可愛い顔をしよってからに」

 

ちょっと揶揄ってみるか、と満面のドヤ顔をネコネに向ける。

 

「うぐ……兄さまの悪ふざけに少し腹が立っただけなのです。それよりも、話しかけないで欲しいのです」

 

「なっ……!」

 

その言い方は……少し傷つくぞ自分。

トホホ、と肩を落とすと、ウコンがガッカリしたように溜息を吐いた。

 

「アンちゃんもネェちゃんもお見通したぁ……はぁ、バレてねぇと思ったんだがなぁ。」

 

そしてもう一度、先程よりも長い溜息を吐く。

 

「ンで、なんでバレたんだ?これでも、この変装には自信があったからな。実際、このことを知ってるのは極わずかだ」

 

それに、クオンが答える。

 

「巡察の時、ネコネを見てなかった?」

 

「おう、楽しそうにネェちゃんと姫様と話していたんで、ついな」

 

「巡察?」

 

自分の疑問に、クオンがふふっと笑った。

 

「実はね。ハクが帰ったあの後、飴屋で飴を買って食べていたら、オシュトル達が近くを通ったんだ」

 

「飴屋……」

 

うっ、ボロギギリが過ぎったぞ今。

 

「それで、その時オシュトルがネコネに向けたあの瞳……」

 

「んぉ?」

 

「ネコネを見る、あの優しい瞳。それがウコンと同じだったかな」

 

「む……そうだったのかい」

 

ネコネが少し照れくさそうに俯いた。

 

「それに、いくらオシュトルが民に慕われていたとしても、ネコネがあそこまで一生懸命になるのが不思議だったから」

 

ん……?

 

「一生懸命ってなんだ、クオン」

 

「あっ、姉さま……」

 

「ふふ、私がオシュトルについてネコネに聞いたら、目をキラキラさせながら説明してくれたかな。それがまるで兄に対する態度と同じで……」

 

「姉さま!」

 

「ごめんね。というわけで、そのネコネの態度から考えていったら、後はスっと当てはまったかな」

 

クオンは説明を終えると、茶を口に含んだ。

 

「つまり、ネコネが兄に向ける熱い眼差しのせいで、クオンにバレたと」

 

「うなっ……!?」

 

「やれやれ、ホント切れるお嬢さんだねぇ……ちなみに、アンちゃんはどうして気づいたんだ?」

 

ネコネに脛を蹴られながら、自分は答える。

 

「まあ……そうだな、勘ってところか?」

 

「勘?」

 

「まあそんなもんだ……って悪かった、悪かった」

 

ネコネからの蹴りが、段々と痛くなってきたので、早めに頭を下げる。

流石にそれ以上続けられないとわかったのか、鼻息を荒くしながら自分の席に戻っていった。

 

「なるほどなァ……っと、話が逸れちまったな。知っての通り、俺は帝から右近衛大将という身に余る官位を預かっている」

 

そして、ウコンは少し姿勢を正した。

 

「自分で言うのも何だが、近衛大将ってのは帝を、そしてこのヤマトの民を……あらゆる災いから護ることを任とする、と〜て〜も偉い官位だ。ホント、なんで俺なんかがなぁ」

 

「なるほど」

 

「それで当然、右近衛大将に伴う力をは絶大だ。有事には全軍の采配も許されている。だがな、それ故に身動きが取りづれえんだ。位が高すぎるから、何をするにも世間の注目を集めちまう」

 

「だからそうして正体を隠している……ということかな」

 

「ご明察。この身は雁字搦めというか、何をするにも大規模になっちまう。見ただろう?ちょいと都を見回ろうとしたら、あの物々しい行列だ」

 

「……それが、身分相応の義務なのです」

 

嫌々そうにそう語るウコンに、ネコネは呆れたように返す。

 

「確かにそうだ。それは判っている、判っちゃいるんだがなぁ……オシュトルじゃあ民の声が聞こえねえのさ」

 

「うっ……」

 

「その声を聞くにゃあ、上辺だけじゃダメだ。いかがわしい場所に潜り込む必要が生じたり、時にはヒトを欺くことだってある……そして、咎を背負う覚悟もな」

 

その言葉には、オシュトルとして、ウコンとしての覚悟の重みを感じた。

 

「だから、こうやって世間様の目を欺いて、自由に動くことの出来るもう一人の俺が必要だったのさ」

 

「……簡単にまとめると、有名になりすぎて色々いかがわしいことが出来なくなったってことだな」

 

ウコンの言葉に、自分も合わせる。

 

「もっと過激で犯罪めいた行為をする為には、変装して身を偽るのが不可欠ってことだろ?」

 

そして、ウコンに確認するように視線を向けようとした時。

 

「……お茶のおかわりなのです」

 

「ん?ああ、ありがとな」

 

ネコネが突然、急須をこちらに持って歩いてきた。

丁度茶も無くなっていたので、自分は礼を告げ湯呑みを持ち上げる。

しかし、ネコネはその急須をぐっと背伸びをして持ち上げ

 

ジョボボボボーーー

 

「ぶるぁぁぁぁッ!?あぢゃぢゃぢゃーー」

 

熱々になった中身を、自分の頭にぶっかけた。

さらに……

 

「お茶請けにございますです」

 

サクッ……

 

「ひぎぃッ!!め、目が……目がぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

サッと机の上に置いてあったお茶菓子を手に取り、目にも止まらぬ早さでそれを自分の両目に突き刺した。

その表情は、とてもとても可愛らしい、満面の笑みである。

 

あまりの痛みに、自分はその場をゴロゴロとのたうち回る。

そして赤くなった目でネコネを睨み、怒鳴った。

 

「な……何をする!このガキンチョ!」

 

「おかわりなのです?どうぞどうぞです」

 

ジャァァ……

 

「ぶるぁぁぁぁぁッ!!?」

 

「兄さまを侮辱した当然の報いなのです」

 

「ハァ!?」

 

な、何を……。

自分は別にオシュトルを……ウコンを侮辱なんかしてないのに……!

 

「兄さまがいかがわしいことをどうこう言ってたのは、何処のどいつです?兄さまは、いやらしいことを考えたりなんかしないのです」

 

「何でそこでいやらしいだの何だのになる!しかも、兄はいやらしくないだと……!?」

 

自分の言葉に、腰に手を当て、ぺったんこの全く主張の無い胸を張るネコネ。

 

「当然なのです、兄さまはそんな不潔な考えは持たないのです」

 

その態度に、更にイラッとする自分。

 

「お前は何を言ってるんだ……!男がいやらしいこと考えないはずが無かろうに。幻想にも程があるぞ!」

 

いっそこのチビスケに現実を突きつけてやろう。

 

「いや、男だろうが女だろうが関係ない。そう簡単にヒトが三大欲求を抑え込めるわけないだろ!」

 

自分は床に寝転がりつつ、ビシッと指を指して指摘してやった。

何やら誰かさん達の忍び笑いが聞こえるが、そんなのは関係ない。

 

「サ、サンダイ……ヨッキュ……?」

 

ネコネは三大欲求を知らなかったのか、コテンと首を傾げる。

 

「何だ、知らんのか?睡眠欲、食欲、そして性欲だ。生き物である限り、これからは逃れられんよ!」

 

「せっ……!!」

 

自分の説明に、身体をのけぞり顔を真っ赤にするネコネ。

なにか言い返そうとしているが、口をパクパクさせるだけで二の句が告げないようだ。

 

「お前だって、兄さまの前では顔を赤くしているだろ?あれだって性欲の延長と変わらん!」

 

コイツはマジでオシュトルに懸想しているからな。

 

「な、な、な……」

 

「別に実の兄にそういった気持ちを持っていることに口を出そうとは思わんが、自分が言ってるのはそういう……」

 

「なーーっ!!うなーーっ!!」

 

自分が言いかけた言葉に、ネコネは更に顔を赤くさせバタバタと腕を振り回し始める。

 

「な、なんだ!?」

 

「う……」

 

そして、ピタリと動きが止まる。

 

「う?」

 

「うなーーーー!!!!」

 

ーードゴォッ!

 

「ごふぉぉぉぉぉッ!?」

 

ネコネの渾身の頭突きが鳩尾にめり込み、自分は悲鳴をあげて吹き飛ぶ。

そして自分にとどめをさしたネコネは、オシュトルの前に駆け声を荒らげた。

 

「兄さま、やっぱりダメです!これは駄目です!このような品性お下劣な最低男はダメダメです!!」

 

「だぁーっ、はははは!!」

 

何とか立ち直りウコンの方を見ると、ネコネの乱れ様に腹を抱えて爆笑している。

ちなみにクオン。口を抑えて何とか笑いをこらえているようだが、後ろの尻尾がプルプルと震えていてバレバレだからな。

ルルティエは止めようとしているみたいだが、状況に置いていかれアワアワと目を白黒させている。

 

「ウコン!お前、笑っていないで止めろよ!」

 

「いやいや、こいつァ驚いた。まさか人見知りの激しいネコネが、アンちゃんにこんなにも早く懐くたぁな」

 

「懐いてなどないのです!!」

 

「何処を見たらそうなるんだ!?以前からずっと思っていたが、お前の目はアレだ……そう、節穴だろ!!」

 

「だから兄さまの悪口を言うなです……!」

 

どんだけ急須の中に湯が入っているんだと思わんばかりに、また頭の上から熱々お茶投下作戦が実行された。

 

「熱ッ!熱ッ!だからヤメロって!!」

 

「だぁーっはははは!!」

 

「だから笑ってないで助けーー熱ぁッ!?」

 

「あ〜、笑った笑った。おいネコネ、そのくらいで止めとけ。アンちゃんは大事な客なんだからな」

 

「むぅぅ……」

 

そう言われ、ネコネは恨みがましい目でこちらを一瞥したあと、席へと戻った。

そして自分はルルティエから手拭いで頭を拭いてもらい、何とか会話が出来る状態になる。

 

「ったく、酷い目にあった」

 

「まぁ、許してやってくれ。コイツは幼い頃から本の蟲でな、あまり人付き合いには慣れてねえから、加減がよく判ってねえのさ」

 

「あ、兄さま……」

 

ウコンは話を戻すように、自分の膝を叩く。

 

「さて、どこまで話したか……そうそう、いかがわしい云々だったな。ネコネは怒っていたが、アンちゃんが言ったことは、あながち間違っちゃいねえ」

 

ウコンがそう言うと、ネコネは少し悲しそうに目を伏せた。

 

「実際この姿は、右近衛大将として為すことが出来ないことをする為の、咎を犯すことを前提としたもう一人の姿だからな」

 

「……兄さま」

 

不安そうな顔になるネコネの頭を撫でながら、ウコンは語り始めた。

 

亡き父に憧れ、民を助け苦楽を共にする士卒になるつもりで上京。そして恩師の伝手により近衛の末席へと。

そして、いくつもの偶然と幸運と重なり武勲を上げ成り上がることは出来たものの、右近衛大将という位を授かることになってしまった、と。

 

そして、ウコンという顔を作り、何とかこれまで民のため、そして自分の目標の為に動いてきたが、やがて顔が広くなりすぎてしまった。

周囲を嗅ぎ回る者も出始めた、と。

 

「そこで、アンちゃんの出番ってとこよ」

 

「なるほどな……自分にその役目をやれ、と」

 

「流石はアンちゃんだ、話が早え」

 

自分に頼まれたのは、ウコンの後を引き継ぎ『隠密』として民と都を護って欲しいということだった。

 

「出会ってまだ間もねえが、アンちゃん達なら信用できるからな」

 

「ふぅん、随分とハクを高くかってるんだ」

 

クオンがその言葉に、不敵に笑った。

 

「まあな、これでもヒトを見る目はあるつもりだ。ネェちゃんこそどうなんだい?」

 

「さて……どうなんだろ?」

 

そう言って、自分の方を見てくる。

自分は溜息を吐き、ウコンに向け口を開いた。

 

「一応聞くが、こんな素人にどんなお役目をやらせようってんだ?」

 

「あぁ、簡単なところでは都の見回りや清掃……場合によっちゃ溝浚いや、この間やった害虫駆除なんかもそうだな」

 

やっぱ溝浚いかよ……。

 

「それ以外にもあるだろ?」

 

「あー……」

 

ウコンは言い淀む。

まあ、ここら辺は自分も色々と知っていたから、別にウコンの口から直接聞く必要も無い。

どうせ受けるつもりだったんだ。

 

「分かった。その仕事、受ける」

 

「お?いいのか?」

 

「お前が頼んだんだろう……クオンはどうだ?」

 

来てくれるとは思いたいが、もしかしたら気分が乗らないなんてこともあるかもしれない。

そう思い、クオンの意志を尋ねる。

 

「……ウコン、報酬はどのくらい?」

 

「ネコネ」

 

ネコネへとすぐに声を掛ける。

待っていました、と言わんばかりに、ネコネはすぐに小さな袋をウコンへと渡した。

ウコンは小袋を開き、中身を少し盆の上に零す。

 

「随分と、念を入れてるんだね」

 

クオンは袋の中身から出された金を見て、声色を少し下げる。

 

「まぁな、金ならカネの流れを辿られにくい。少しでも不安の要素を取り除かにゃならんからな」

 

「……うん、引き受けちゃってもいいよ」

 

クオンの意思も揃ったので、自分に向き直る。

しかしウコンは、何やら気まずそうに眉をひそめた。

 

「いや、誘っといてなんだがいいのか?ネェちゃんの事だから判ってるとは思うが……」

 

まあ、そんな顔をするのも仕方が無いだろう。

 

「支度金のこと?確かに『報酬の前金』として頂くなら十分すぎるのだけど、支度金としてはどう見積っても少々足りないかな」

 

「……やっぱ判るか。だが、今出せるのはそれで限界だ。これは朝廷を通した正式な雇用じゃねェからな。俺の懐からはそれが精一杯でな」

 

「ん〜、それだとちょっと困っちゃうかな。別にそれでも構わないけれど」

 

クオンは指を顎にあて首を傾げるも、すぐにニコリと笑った。

 

「でも、いいよ。こんな面白そうなことに乗らない手は無いから」

 

「……クオン殿、忝ない。恩に着る」

 

そう言うと、ウコンはまるでオシュトルのような口調に変わり、頭を深々と下げた。右近衛大将として、例を守ったのだろう。

 

「姉さま、ありがとうございますです」

 

ネコネもならって頭を下げている。クオンへの憧憬の念が溢れるのが見えるほどに。

 

「……あれ?自分には無いのか?」

 

ちょっとばかし、クオン贔屓すぎやしませんかお二人さん。

しかしウコンはそれを華麗に流した。ネコネも同様に。

 

「そういうワケでして、ルルティエ様」

 

「へっ……ハ、ハイ?」

 

それまで黙って話を聞くだけだったルルティエが、突然話を振られて動揺する。

 

「お聞き頂いた通り、某の役目をクオン殿達へお任せすることになりました」

 

「は、はい……」

 

「そこでルルティエ様には、その手助けをお願いしたく思います」

 

「わたしも……ですか?」

 

「はい。先日お預かりしたクジュウリ皇よりの文に、その旨が綴られておりました。オーゼン殿は、ルルティエ様可愛さの余り、鳥のように籠に閉じ込めたかもしれぬ、と」

 

その言葉に、ルルティエの視線が少し下がる。

 

「だから都にいる間に、多くのヒトとふれあい、世間への見聞を広めさせて欲しいと」

 

「……お父さまが」

 

「なれば、このことは良い機会かと。困難もありましょうが、力強く羽ばたくには時に嵐も必要でしょう」

 

ルルティエの表情は変わった。

覚悟を決めた真っ直ぐな眼差しで、ウコンを見る。

 

「……はい。わたしも……そう思います」

 

ウコンはニコリと笑うと、自分の方へ視線を向けた。

 

「というわけでアンちゃん、ルルティエ様の事も頼めるか」

 

「ああ。自分としても、ルルティエが居てくれれば心強いしな」

 

主に料理と癒しと優しさと……ココポ。

 

「ハクさま……クオンさま……どうかよろしくお願いします」

 

ルルティエはペコりと頭を下げる。

自分はそれに返事をし、一度頷いた。

クオンは……嬉しそうに手を握り、尻尾をビュンビュンと唸らせていた。

 

「……ちなみに、ネコネもな」

 

「うなっ!?」

 

そして、最後のオマケと言うように、傍らにかしこまっていたネコネをウコンが持ち上げ、自分たちの前にストンと置いた。

 

「兄さま、なにをいうですか!」

 

慌てたように手をばたつかせ、ネコネは叫ぶ。

 

「何なら、オメェさんの好きにしてくれてもいいんだぜ?」

 

「あ、兄さま……!!」

 

「ダハハハ!まあそいつは冗談として、こう見えても頭は優秀だからな。何かしらの力になると思うぜ。幸いなことに、そっちの界隈でもまだ顔バレしてねぇしな」

 

「兄さま、冗談にしても酷いのです!勉強をしなくてはならないですし、兄さまのお手伝いもあるのです!」

 

ネコネはギュッと拳を作り、ウコンへと抗議をする。

そして、まるで塵芥を見るような目でこちらを見た。

 

「それに、こんな変態と一緒に居て……その……何されるか判ったものじゃないのです」

 

「誰が変態だ、そんなぺったんこな身体に手なんか出すか!」

 

自分の好みはお姉さん……いや……人づ……いや……未亡人……ああ分からん!!

だが断じて、ネコネだけはないな。うん、ないない。

 

「まずは勉強の前に、もっと色気というモノを学んでから出直してこい」

 

「うにゅぐぐ……!」

 

「いいじゃねェか。机の前に座ってるだけじゃ、得られねェ知識だってある。知識が偏っていては、立派な学士にゃなれねェぞ」

 

こちら恨めしそうに睨みながら震えるネコネの頭にそっと手を置き、ウコンは柔らかな声色でそう言った。

 

「俺はネコネに、書物だけの知識で世を語って欲しくねェのさ……」

 

「あ、兄さま……でも……だからって……」

 

「まあとにかく、世間知らずのまま取り返しのつかないことになる前に、少々世間の荒波に揉まれた方がいいと言う兄心であってだな」

 

「そのせいで、取り返しのつかないことになったらどうするのです!」

 

ネコネはこちらに怯えた眼差しを向け、ぺったんこな身体を手や尻尾で守るように隠した。

 

「そしたら責任を取ってもらえばいいんじゃねェの?変な蟲がつくよりずっと安心だと思うがな」

 

「なっ、ちょっと待てウコン!」

 

「だから、これが特大級の変な蟲なのです!」

 

「誰が蟲だっての!」

 

「ああ、そうそう。ネコネはオシュトルではなくウコンの妹ということになっているから、気をつけてくれ。オシュトルの妹と知られた場合、ネコネを利用しようとする輩が現れねえとも限らんからな」

 

「ああ、そうだな……じゃなくて!」

 

「こんな大変態で超特大のヘンな蟲、頼りになるわけないです!」

 

「なっ……!」

 

おいネコネ。一応これでも、お前の元兄さま(仮)をしていた時期もあったんだが……そんな辛辣な……。

 

「大丈夫だ。こう見えても、ヒトを見る目だけはあるつもりだ。ソイツが感じてるんだよ、アンちゃんは信用できるってな」

 

ウコン。お前がそこまで言ってくれるとは。

……そうだな、自分もお前のことーー

 

「ーー兄さまが信用してるとか親しくしている連中に、ロクなのがいないということに関しては無視ですか」

 

「むぉ?い、いや、ンなことは……」

 

…………確かに。

 

「兄さまはヒトを見る目だけあるのではなく、ヒトを見る目だけないのです。フシアナなのです。そもそも、姉さまだけを呼べばいいものを『コレ』を呼んだのがいい証拠です」

 

「コレ……?」

 

自分は『コレ』扱いなのかよ。

 

「フシアナが!フシアナを!呼んだのです!」

 

「フシアナ……」

 

おいウコン、お前まで落ち込んでいる場合じゃないだろ。

何か言い返せ、何か。

 

「大体わたしを貧相な身体と言うくらい、コレはフシアナなのです!」

 

「「……」」

 

ウコンは負けたようだ。つと目を逸らし、ネコネからの視線から逃げる。

 

「どうしてそこで目を逸らすですか……」

 

その後、追い込まれたウコンへネコネの追撃が始まり、収拾が着くまで時間がかかったのは言うまでもない。

 

しかし、これで自分はまたオシュトルの隠密だ。

仲間達とまた再会することも出来るだろう。

 

ーーその日を信じて、自分は笑った。

 

ネコネからまた、熱湯をかけられながら……。

 

 

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