[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
オシュトルに隠密の仕事を任された日から、二日ほどが過ぎた。
この間に、自分は少数精鋭の隠密の顔役となり、白楼閣に拠点を張ることになり、ルルティエの茶は美味い……じゃない。仲間を探すこととなった。
しかし自分としては、もう仲間達は決まっている。
……ちなみにマロは、今回も仲間入り出来ずに落ち込んでいた。
これに至ってはマロが助学士という位を持っているため、俸禄が高すぎる、払えないということで却下となった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ルルティエ、大丈夫?」
そして、今は昼下がり。
「はい……大丈夫で……あっ、ご、ごめんなさい」
「この時期は、いつもこんな感じなのです」
ルルティエが今、ヒトとぶつかってしまったように、今この大通りはヒトで溢れている。
それもこれも、今から始まるパレード……行列を見に来たからだろう。
「ちょうど来たのです」
そう言ってネコネが通りの方を向くと、何やら派手な飾り付けをした行列が陽気な楽を鳴らしながら練り歩いてくる。
金銀の煌びやかな装飾の施された、大きな車。
その後にも同じように飾られた荷車がいくつも続いている。
「もうすぐ姫殿下の聖誕祭があるです。その祝儀のため、諸國より皇や貴族の子息達が、帝都に上京してくるですよ。次の帝となる姫殿下に、家督を譲られるより前から忠誠を違うのです」
「つまりあれが、聖誕祭の為に来たどこかのボンボン……ってことだな」
「なぜあなたがまとめたのですか」
「ん?いや特には」
軽く睨んできたネコネから目を逸らす。
というか騒がしいな。これ、記憶にある時よりも騒がしくないか?
「ちなみに上京してくるのは、ただ聖誕祭のためだけに来る訳では無いのです」
ネコネは自分を無視して、クオンとルルティエに向き、また説明を始めた。
「それがなくとも、もともとこの時期になると有力者たちは、跡継ぎなどを帝都へ送る仕来りとなってたです。そして、何年かここで過ごさせ、様々なことを学ばせるのですよ」
「そうなんですか……皆さん凄いのですね……」
ルルティエが感心したように頷く。
その様子に、ネコネは気まずそうに頬を引き攣らせた。
「あの……ルルティエさまもそうなのですけど」
「えっ……?」
びっくりした様子でルルティエは聞き返す。
「……あの、もしかして知らなかったですか」
「わたしは……名代として、帝に献上品を届けてきなさいとしか……」
少々気まずい二人の間に、クオンが助け舟を出した。
「それは多分、ルルティエを不安にさせないよう、親御さんが内緒にしてたんじゃないかな」
「あ……」
ルルティエは合点がいったように、口をぽかんと開けた。
「ルルティエの話だと、とても子煩悩の御方みたいだから」
「うぅ……」
クオンが言うと、説得力が増すな。
クオンの父親……あれは凄まじかったからなぁ……。
「それにしても、上手く考えられてるね。世継ぎなどをお膝元に置くことで、必要な知識を学ばせること。忠誠心を植え付けること。絶対的な富と権力を見せつけて叛意をへし折ること。ここで散財させることによる富や文化の活性化」
おお、流石はクオンだ。
自分が聞いても、絶対にパッとそこまで出てきてはくれないだろう。
属國へと牽制や散財させることにやる弱体、人質といったどちらかと言えば悪いイメージの意見しか出てこないのだ。
「流石は姉さまなのです。この意味に気づいたですか」
ネコネがチラリとこっちを見て、フフンと自慢げな笑みを浮かべる。
何故お前がドヤ顔をするんだ。
まあ、自分はそんな挑発には乗らんがな?
その意味を込めて、手を皿のように上に向け首を横に振る。
やれやれ……と。
「なっ……」
ネコネもその意味を理解したのか、顔を赤くしてこちらを睨んだ。
そんな下らない争いをしていると、例の行列が目の前を通り過ぎていく。
「相変わらず派手だな……飾られた衣装に煌びやかな装飾。楽を鳴らして歌って踊って……まるで何かのお祭りだ」
自分達がルルティエのお供として来た時とは随分と違うものだ。
話からしてルルティエも姫殿下なんだが、今目の前を練り歩いている連中と比べるとすごく地味だったというか。
だからといって、あんな格好をして歌って踊りながら練り歩けとか言われても困るだけなんだが。
「……権力の誇示と名を知らしめる為に、こうして豪華な飾り付けをして派手に練り歩く家が多いのですよ。さらに都の人達はお祭好きが多く、こういった行列に拍車をかけてしまっているのです」
「貴族や豪族達が力を誇示する絶好の機会だからね。遠方の有力者にしてみれば、少しでも名を売りたいから力が入るのも無理ないかな」
なんでネコネもクオンもそんなスラスラ出てくるかね。
自分なんて、貴族は大変だな……とかはあの装飾にかかった料金でどれほど呑めるのか……なんてことしか考えなかったんだが。
「わたしは、こういったのはあまり好きでは無いのです。見苦しいですし騒がしいのです」
ネコネは嫌そうな顔をしながら、行列に視線を向けた。
「中には見栄を張って、分不相応に飾り付けたりする者もいるですよ。その為に、普段は爪に火を灯すような生活をしている家もあるとか……本末転倒もいいところなのです」
「……ネコネとしては、こういうギラギラしたのは趣味じゃないのか?」
「はい。わたしはどちらかというと、質素で落ち着いた……」
「兄さまの部屋のような……とかか?」
「〜〜!!」
しばらくネコネに脛を蹴られながら豪華な行列を眺めていると、その後から次の行列がやってきた。
前の行列が派手すぎて地味さに拍車がかかってしまっている。
というか、あのえらく地味な車は……
「うぅ……」
ネコネが恥ずかしそうに、その行列から目を逸らした。
やっぱり、エンナカムイのだよな。あれ。
「ネコネさ〜ん!」
ああ、キウル……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キウル
ヤマトの属國エンナカムイの皇子、オシュトルと義兄弟を結ぶ美少年。
年相応で真っ直ぐな性格をしており、何よりネコネにご執心。
そんなキウルと自分は、よく隠密の仕事……主に雑用で共に仕事をしたこともあり、何よりオシュトルとなった時もあって弟のような存在だ。
『ネコネ、サン』
……アトゥイに振り回され、ネコネに告白するつもりがシノノンに告白してしまった可哀想な少年。
『……ね、ネコネさん!?いや、あのっ!これはその、違うんですよ!』
……フミルィルに見とれていただけなのに、ネコネに冷たい目を向けられた可哀想な少年。
『兄上……!』
自分を……オシュトルではない自分を兄と、呼んでくれた。
オシュトルの……自分の……意志を継いだ、一人前の漢。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お久しぶりです、ネコネさん!嬉しいなぁ、まさか帝都に着いたと同時にネコネさんに会えるなんて」
「……どうもです」
キウルは嬉しそうに破顔する。
それに対して、ネコネは真顔……あまりにも素っ気ない態度で返答した。
「お元気そうでなによりです、その後お変わりありませんか?」
「ええ、特に」
ウッ……再会した喜びもあるが、それ以外の理由で目頭が熱くなってしまう……。
そしてキウルよ。毎回思っていたが、結構あからさまな態度なのに何故気づかない?
あれか?恋した乙女に発動する『王子様フィルター』的なのがお前にも発動しているのか?
「紹介しますです。この方はキウルという同郷の者です」
「……それだけか?」
「はい?何がです?」
「…………なんでもない」
ネコネの簡潔すぎる紹介にツッコミを入れるが、本人は意味が分からないという風に首を傾げる。
そしてキウルは少し残念そうな顔を浮かべ、微妙な笑みで自分達に礼をした。
「ネコネさんのお知り合いの方ですか?申し遅れました、私はエンナカムイのキウルと申します。よろしくお願いします」
「初めまして、クオンです。よろしくお願いします」
……んん?
今自己紹介したのは?いつもの口癖はどこに行ったんだ?
「姉さまは薬師をなさっている、とても聡明な方なのです」
「そうですか、薬師様でしたか……って、え?姉……さま?」
「本当の姉さまでは無いのです。姉さまとお慕いしている方なのです」
「そ、そうですよね。びっくりした……でも、ネコネさんが……ですか」
そう言って、キウルがチラリとクオンを見る。
その視線にクオンが微笑むと、キウルは見惚れたかのように呆けていた。
「…………ハッ!」
しばらくして我に返ったキウルは、慌てて視線を逸らした。
自分はクオンへと視線を向ける。
「……お前は誰ーーガヘブッ!?」
その瞬間、目にも止まらぬ早さで肘打ちが入り込む。
ちなみに何故かネコネにも。
そしてキウルは首を傾げているだけだ。
キウルよ、騙されるな。これが本性だぞ。
「こちらの方がルルティエさまです。訳あって、ご一緒していただいてるです」
何事も無かったかのようにルルティエを紹介するネコネ。
「あ……その、クジュウリのルルティエです……よろしくお願いします……」
「クジュウリ……ルルティエ、様?もしかして……」
緊張して固くなったルルティエの名前を聞き、キウルは眉を寄せる。
しかしネコネが首を傾げるのを見て、直ぐに頭を下げる。
「あっ、いえ何でも。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」
「あの……エンナカムイのキウルさまということは、もしかして……」
「え、ええと……やっぱりそちらも……?」
「「…………」」
二人は少々見つめ合っている。
……まさか、キウル。ルルティエか?
そしてルルティエ、キウルなのか?
「よ、よろしくお願いします……」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
駄目だぞキウル……ルルティエには怖いお姉さんがいるんだ。
お前なんか即座に喰われる、猛獣の……って、次は自分の番か。
「……このヒトはハクなのです。以上です」
「……え?」
あまりに単調な紹介に、キウルは間の抜けた声を出した。
「おい、短すぎだろ。なんでそこで止める」
「面倒くさくなったので。あまり説明することも無いですし、別にいいかなと」
「あるだろイロイロと!?こう、例えば……例えば……」
まずい。
身元不明。記憶喪失。自分より年下の保護者。
「……何も無いな」
「なのです」
「えっ?えっ?」
「だがそこは、ネコネがこう……何とかするもんだろう?」
紹介する側として、的な……。
「本人ですら何も無いのに、他人にそれを求められても困るのです」
「ぬぐ……じゃあ何て言うか、あれだ。頼りになるとか、信頼出来るとか……もう一人の……」
そこで自分の口は止まる。
もう一人の兄さま……とは言えんな。
今はもうウコンがいるんだ。あの時のように、自分が兄さまの呼ばれるような資格はない。
そう考えると、少し寂しいもんだな。
「心にも思ってないことを言わせる気ですか。『まるで鬼畜のようなヒト』を追加してあげるです」
……今、落ち込んでいる時にそれはキツすぎるだろ。
「え、ええと……」
「あの、この方は……」
ルルティエ……!
そうだ。お前なら、何か自分の事を……!!
「その………」
何も無いのかよ。
しかし、そこであの頼りになる助け舟が来た。
「彼はハク。一応私達の……まとめ役、ということになるのかな」
「ク……クオン……!」
「こう見えて、中々非凡で頼りになる面白いヒトなんだ。共々、よろしくお願いね」
さっきはその猫を被った態度をやめろとか考えてすまんかった。お前はいつでも頼りになる保護者クオンだ。うん、素晴らしいぞ。
ルルティエ、お前も沢山頷いてくれて……ありがとう、癒しのルルティエよ。
「まとめ役って……皆さんのですか?」
キウルは何やら戸惑った感じで自分とクオン、ルルティエ、ネコネの顔を交互に見比べる。
「不本意ですが、そうなるです」
このチビ助は放っておこう。こうやってヒトに冷たい態度を取るから、クオンやルルティエのような女性と違ってぺったんこになるんだ。
「ハクだ、よろしく頼む」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
そう言って、キウルは頭を下げようとしたが、自分が差し出した手を見てすぐにそれを握った。
「キウル君も、この帝都で色々と学ぶために?」
「あ、はい。やっと祖父からお許しが出まして……今年から」
祖父といえば、イラワジ殿か。
あのヒトにもお世話になったからな……お礼を言えるならぜひ言いたいものだ。
あの行列にいたりするのか?
「……他の方々と違い装飾もなく、田舎者みたいで恥ずかしいのですが」
自分が向けていた視線に気づいたのか、キウルがそう言った。しかし恥じている様子はない。
別にそういうつもりで見てたわけじゃないんだがな。
「実際に田舎者なのです」
「あぅーー」
ネコネの何気ない一言に、胸を抑えるキウル。
恥じている様子はなかったが、ネコネに言われるとショックを受けるようだ。
恋心とはなんと儚い……。
『おにーさん』
「ッ……!!」
幻聴共に背筋に悪寒が走り、自分は辺りを見回す。
しかしその声の主も、シャッホロの関係者も見当たらない。
恋心……いや、彼女のも一応恋心だが……。
「私は田舎者の方が好きなのです」
ネコネの声に、自分は視線をキウルに戻した。
「そ、そうですか!いやぁ、そう言われると田舎者で良かったなぁって思います」
「キウル……」
「はい?」
「……いや、なんでもないよ」
嬉しそうに破顔する少年に、自分は胸が締め付けられた。そのせいでつい、声を掛けてしまったが……。
今のネコネの言葉は『私は田舎者(兄さま)の方が好きなのです』が正しいと思うぞ。
「そうですか……いやぁ、今回も『華美も過ぎれば醜いだけ。落ち着いた方が好きだ』と言ってたネコネさんの言葉を思い出しまして、そうしてみたんですよ」
フフッ、と周りに花が咲いているように笑うキウル。
「あはは、その甲斐があったなぁ……」
「そう、ですか」
ウッ、ネコネのキウルを見る視線が……!
「それはいいのですが、そろそろ移動した方がいいのです。いつまでもそこで立ち止まっていると、周りの迷惑になるのです」
そして行列を指すネコネ。
キウルの列が止まったことで、後続の列も立ち往生している。
「あっーー!?いけない、長々と申し訳ありません。後ほど挨拶に伺いますので、それではまた……失礼します!」
慌てた様子でキウルが車に乗りこみ、停まっていた行列が動き始めた。
「……いい子だね。素直で明るくて礼儀正しくて」
そう言って、チラリとこちらを見るクオン。
「ハクもあのくらい……とまでは言わないけど、もう少しだけあのコみたいなら可愛げがあるのかな?」
「……」
ほう?それがクオンのご所望か。
愛した女の願いを聞くのも、自分の役目だろう。
自分はクオンの正面に立ち、何度か咳払いをする。
「……アネウエ!イツモアリガトウゴザイマス!アネウエ!」
限界までキウルに似せた高い声を出しながら、自分はペコペコと頭を下げる。
アネウエ……というのは、なんだか別の男が笑いながら脳裏を過ぎ去っていくが……これでもオシュトルを演じ続けていたのだ。
結構モノマネは得意……なんだ……ぞ?
「……うわ」
「気持ち悪いのです……」
「ハクさま……」
……ドン引き、というのはこういうことを言うのだろうな。
クオンは後ろに身を引き、顔を引き攣らせ。
ネコネなんか、道端のンコを見るような目で、こちらを見ている。
ルルティエは……大丈夫だ。体調は悪くないぞ?
だから、自分の額や首筋を触る必要は全くないんだ。至って正常だからな。
「……あー、それにしても」
クオンが自分から三歩ほど離れ、ネコネの隣にくっつき、頬をぷにぷにと突っつく。
あっ、今のは見なかったことにするんですね。
じゃあ自分は下がります。
「姉さま?」
「随分、あのコと仲が良さげだったね」
「そうです?別に普通だと思うのです」
この鈍感さ、あまりにも酷すぎるだろう。
これがウコンの言っていた、本の蟲で人付き合いが少ない弊害なんだろうな……。
「あんなに熱心に話しかけたりして。あれは多分……ううん、きっとネコネのことが……」
そう呟いて、未だ背伸びをしながら自分の首筋を触るルルティエに声をかける。
ルルティエは即座に自分の首筋から手を離し、動揺しながら返答する。
「は……はい……何だか温かな気持ちが伝わってくるような……ポカポカしました……」
「それは違うのです。キウルが話しかけてくるのは、わたしが兄さまの妹だからなのです」
おい、せっかく女の好きな色恋沙汰の話になったのに、その鈍感さで話をへし折るな。
「それって?」
「キウルは兄さまの弟分なのですよ。兄さまとキウルは兄弟の誓いを結んでいるのです。なので、妹であるわたしがいつも本ばかり読んでいるのを気にかけて、よく話しかけてくるのです」
お、おい……。
「自分が好きでしていることですから、気にする必要は無いと言ってるですが……」
「そう……なんだ。ちなみに、ネコネは彼のこと、どう……思ってるのかな?」
「わたしですか?」
あっ、やめて。
それは聞きたくない。自分はこれでもキウルの事は応援して……
「未熟、金魚の糞、世話の焼ける、詰めが甘い、泣き蟲、精神的にもろい、努力は認める、才能はあるのに、あきらめが肝心ら美的感覚が無い、素朴なのと雅とを履き違えてる」
ううっ……キウル……自分はお前をいつまでも応援しているからな……!!
「うーん、まだありますが、とりあえずそんな感じなのです」
まだあるのかよ……。
「あー……」
「姉さま?」
クオン、分かるだろう?
このキウルの不遇さが……お前にもよく分かるだろう?
「…………」
「ルルティエさま?」
「えっ?あ、その……」
ルルティエ、お前はやっぱり優しい子だな……。
「あぁ……うん。なんて言うか……もしかして、彼のこと迷惑に思ってたりなんて……?」
「?」
ネコネがクオンの言葉に、心底判らないと言うように首を傾げた。
「意味がよく判らないです。何故、迷惑に思う必要があるですか?」
「ぐっ……」
涙が……滲み出てくるぞ……。
迷惑にすら、思われていないんだな……。