[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

36 / 65
35 海娘

隠密の仕事。

 

今はまだ依頼は来ていないが、そろそろオシュトルから話が来るだろう。

その前に、とりあえず今日はやることがある。

 

それは、一人の少女と出会うことだ。

 

……なんだか言い方が軽い男のような感じになっている気もするが、実際言葉通りの意味である。

 

もしかすれば、後で白楼閣に来るかもしれないが、それでも出来るだけ自分の記憶から逸脱しないようにしておきたい。

 

「おっちゃん、一つくれ」

 

そう言って、自分はアマムを練って蒸した食べ物ーー蒸しパンのようなものを買って、それを食べながら市場通りを歩き回る。

サボってるわけじゃないぞ?記憶の通りなら、確かここで声を掛けられるはずなんだが……

 

しかし……

 

「あ、あれ?」

 

歩いても歩いても、彼女を見つけることが出来ない。

 

流石に何度も往復していたせいか、市場の店の者にも顔を覚えられ、少し不審な目で見られている気もする。

 

「……ムグムグ」

 

ちなみに、アマム蒸しパンもちゃんと食べている。

もうこれでいくつ目だろうか。腹が結構……うぷ……。

 

「……あっ」

 

あの特徴的な水色のプカプカと浮いている浮遊物は……!

まさかッ!!

 

自分は蒸しパンに一口かぶりつきながら、ゆっくりとそちらに向けて歩き続ける。

海のような青色の髪、茶色のもさっと垂れた獣耳。

周りを見回し、どこかを探しているようなそのくりくりとした丸い目。

 

「いた……アトゥイ……!」

 

自分は声を抑えながら名前を呼び、彼女に向かって歩みを進める。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

アトゥイ。

八柱将の一人であるシャッホロの皇ソヤンケクルの愛娘。

武勇に優れ、恋に憧れて帝都へと上京した少女。

 

……本人は男を見る目があると言うが、何度失恋して呑みに付き合わされたことか。

だが、彼女には彼女の魅力がある。

柔らくおっとりとした性格で、雰囲気を和ませてくれた。

まあ……戦闘になると狂気じみた性格に変わるんだが。

 

『そこのかっこいいおにーさん』

 

最初は変な奴だと思った。

 

『あやや、後ろ姿は恰好良かったのに、前からは残念賞や……』

 

失礼なことをサラリと言う。だが、本人には悪気がないため、不思議と腹が立つこともない。

 

『ずっと……オシュトルはんのままで……いるんやね』

 

月夜に照らされた船上で、彼女からの気持ちを酒のせいにして誤魔化した。

 

『おにーさん、結局、何も言ってくれへんかった』

 

最期の時、初めて彼女の悲しげな表情を見た。

 

『とても大切なこと伝えようって……ずっと待ってたんえ』

 

……本当に自分は、彼女に甘えてばかりだったな。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…………」

 

アトゥイの場所まで、もう目と鼻の先。

 

まずは、彼女に話しかけられるはずだ。

そして白楼閣を案内するついでに、色々と話をしたんだっけか……懐かしい記憶だ。

 

「うーん……」

 

彼女が周りを見回しながら、眉を寄せている。

 

「クラリン、どこかわかるけ?」

 

「ぷるぷるぷるぷる」

 

近くの浮遊する生き物に聞いているようだが、それは激しく震えるだけだった。

 

そして、もう二、三歩ほど歩けば接触する距離まで来た時。

 

「うーん……あっ」

 

彼女がこちらに視線を向け、声を上げた。

自分はアマム蒸しパンを齧りながら、声を掛けやすいように歩く速度を緩める。

 

ついに、こちらに走ってくるアトゥイ。

そして……

 

 

「美味そうやぇ、これ」

 

 

自分の隣を通り過ぎ、串焼きの出店へと向かった。

その出来事に数秒思考が停滞し、自分の足だけは前に進み続ける。

そして数歩ほど歩いてその場に留まり、すぐさま振り返った。

 

「なんで……!?」

 

おかしい。

 

この市場通りで、アトゥイは自分に声を掛けたはずだ。

確かセリフは……『そこのかっこいいおにーさん』だったな。

 

別に自分をかっこいいと思っているわけでもないが、アトゥイの目に自分が映れば、そう声を掛けてくるのだと思っていたのだが……

 

「と、とにかくもう一度……」

 

自分はそう呟き、出店で串焼きを買って歩き始めたアトゥイを追い越した。

そしてアトゥイと数十歩離れた場所で、歩く速度を遅める。

 

もしや、後ろ姿ならば……声を掛けてくるんじゃないか?

 

サラリと失礼なことを言われた覚えがある。後ろ姿は良いのに前からはそうでも無い的なことを……。

そうして次こそは、と待ち構えていると。

 

「クラリン、おいしいけ?」

 

「ぷるぷるぷるぷる!」

 

手に持っている串焼きを浮遊する生物……ああもう、クラリンと呼ぼう。

クラリンの口元……なのか?そこに差し出して食べさせているアトゥイが、自分の横を通り過ぎた。

 

……嘘だろ?

なぜ話しかけてこない……?

 

「ま、まさか……」

 

今、やっと鮮明に思い出した。

 

自分は確かに、後ろから声を掛けられた。

そして残念賞と言われ、手に持っていた食べ物をやり、白楼閣へと案内をした。

 

 

ーーそれは、声を掛けるまでアトゥイが自分の『残念顔』を知らない状況だったからじゃないのか……?

 

 

背筋に、スッと寒気が走る。

と、とにかく何度かやり直せば……!!

 

「……歩く速度、速すぎるだろ」

 

いつの間にか、めちゃくちゃ遠くにいるんだが。

自分は早歩きで、アトゥイを追いかける。

 

アトゥイがたまにチラッとこちらに振り返った時は、アマム蒸しパンを食べたり、市場のヒトに話しかけたりして何とか誤魔化す。

 

だが……

 

「なんで……ゼェ……ゼェ……追いつけ……ないんだ……」

 

アトゥイは見た限り、マイペースでいつも通りに歩いているだけだ。

なのに早歩きをしても、時には全力疾走をしてもその距離は縮まらない。

 

「こりゃ……まずいな……」

 

額から垂れる汗を、袖で拭った。

 

このままじゃ、記憶通りの出会いが無くなってしまうだろう。

ただでさえ今の状況は逸脱しているというのに、これ以上変化すれば、未来にどう影響が起きるか判らない。

 

アトゥイがもし……いなければ。

 

豪族の遺産であるユゥリの護衛は?

ウズールッシャの戦争に自分達を連れてったのもアトゥイだったよな……?

それにトゥスクル侵攻、ヴライとの戦い、その後の戦乱……

 

「ア……アトゥイがいなかったら……勝てるのか……?」

 

彼女は強い。戦闘面では多数の敵を打ち倒し、道を切り開いてくれた。

特にナコクでは、こちらの危機を救う唯一の手段だったはず……もし居なければ、自分達はマロの怨嗟の炎によって焼かれ、死んでいたかもしれない。

 

増え続ける不安、そして焦燥。

……とにかく、今は追いつくしかない。

 

自分は既に悲鳴を上げている足に喝を入れ、アトゥイを追い続けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

それからどれだけ時間が経っただろう。

 

既に陽は落ちかけ、自分は未だ歩き続ける少女の後ろを着いて行く。

 

人気の無い廃屋が並び、聞こえるのは動物の鳴き声だけ。

 

そして自分の状態は、息は絶え絶え、上手く足には力が入らず、鉛のように重くなっていて今にも倒れそうだ。

 

「クソっ……なぜ……!」

 

なぜ、追いつけない……!?

 

そしてその答えは、彼女が路地裏のような場所に入ったことで理解した。

 

「まさか……」

 

自分もすぐに、路地裏へと入る。

一本道。そこは、廃屋と廃屋に挟まれたまっすぐの道だ。

そこまで距離は無い。だがーー

 

 

「おにーさん、だれ?」

 

 

ゾワリ……と。

 

「っ……!!」

 

目の前には、見慣れた二叉の槍を構えるアトゥイ。

逃げようと後ろを振り向けば、触手を放電させ待ち受けるクラリン。

 

絶体絶命。

 

彼女はきっと、最初から気づいていたのだ。

自分が後をつけられていることに。

 

視界に度々入り、追い越したと思えばまた視界に入る男。

そして歩を早めれば、相手も早めてくる。

そんなの……

 

「ははっ、怪しい……よな」

 

自分の口からポツリとその言葉が洩れる。

 

「なぁ、おにーさん」

 

アトゥイが、槍を構えたままもう一度そう呼んだ。

 

「……なんだ」

 

自分は両手をゆっくりと上げ、それに答える。

危害を加えるつもりは無い、と。

 

「おにーさん、誰?」

 

……そこで自分の名前を告げても、判らんだろうに。

 

「自分は……その……」

 

「なんでウチの後ろをついてくるん?」

 

お前と話すためだよ。

話して、白楼閣に案内して、自分との縁を繋ぐために。

 

「…………」

 

「おにーさん、無視するのはダメやぇ」

 

アトゥイの殺気が強まる。

自分は何か言おうと口を開くが、動揺で何も出てこない。

 

「……ふぅん、そっかぁ」

 

チャキ、と。

二叉の槍に、夕陽が反射する。

こちらに突っ込んでくるのだろう。アトゥイが姿勢を低くした。

 

 

「ッ……ま……待て……!!」

 

 

「ほんなら……行くぇ?」

 

 

ーーその瞬間、アトゥイの姿が消えた。

 

 

「ーーッ!?」

 

自分の腹に、彼女の槍がめり込む。

内臓がメリメリと音を立て、自分の身体は後方へ吹き飛び、誰も使っていない廃屋の壁に叩きつけられる。

 

「カハッ……!」

 

視界が白く染まる。

先程口にしたアマム蒸しパンが込み上げ、自分はそれを嘔吐した。

 

「……汚いなぁ」

 

コツコツと、こちらに迫り来る足音。

自分は何とか顔を上げ、右手を前に出す。

 

「ま、待て……!!」

 

「ウチなぁ、急がないといけないんよ」

 

彼女の歩みは止まらない。

 

「……自分は……怪しい者じゃ……!」

 

この状況、どうする……!?

 

幸か不幸か、自分の腹は貫かれていない。中身はどうなっているか分からんが……まだ痛みもあるし意識もある。

そこはアトゥイの優しさ、なのだろう。

自分みたいな弱者なんて簡単に殺せるだろうに、怪我をさせるだけで済ませようとしてくれている。

 

「はぁ……せっかく帝都に来たのになぁ」

 

自分は、どうすればアトゥイと話せる……?

 

失敗した。あまりにも目標を達成しようとしすぎて、逆にその意識が足を引っ張った。

自分はこれまで通り、流されるままに行動しておけば良かったんだ。

 

「変な男に絡まれるなんて、ツイてないぇ」

 

ここで、彼女と敵対することだけはありえない。

考えろ。せめて、少しだけでも話が出来れば……!!

 

不意に、先程まで聞こえていた足音が止まった。

自分は無意識に下を向いていた顔を、恐る恐る上げる。

 

 

目の前には、アトゥイ。

 

 

「ほんならおにーさん」

 

 

槍先が、自分の目の前に向けられる。

 

 

「さよーなら」

 

 

……待て、待ってくれ。

お前がいないと……ダメなんだ……。

頼むよ……なぁ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アトゥイ……ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『独り言』

だ、誰か……アトゥイの話し方(方言)を教えてください……。

京言葉と関西弁が混ざったようなイメージで、頭がぐちゃぐちゃになってます……。

原作やアニメだけじゃ……セリフの表現の幅が………。

ちなみに今回のお話は、ハクの感情表現強めです。
そして少しは戦闘感(勘違い)のために、改行多めにしております。

読みにくかったらすみません。本当にすみません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。