[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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36 串焼

 

「アトゥイ……ッ!!!」

 

「……へ?」

 

最後の力を振り絞り、自分は彼女に向かって叫んだ。

同時に、風を切るような音が廃屋内に響いた。

 

ゆっくりと目を開ける。

痛みは……腹だけだ。それに意識もちゃんとある。

顔を上げると、そこには首を傾げたアトゥイ。

 

「おにーさん、なんでウチの名前知ってるん?」

 

現状を理解するのに数秒ほどかかったが、すぐに返答する。

 

「シャ……シャッホロのソヤンケクル、その娘ッ!」

 

とにかく、その場を誤魔化すために。

 

「じ、自分は……案内でッ!」

 

せめて少しでも、彼女と対話するように。

 

「は……『白楼閣』へと、アトゥイを案内しようとッ!」

 

首を傾げる彼女に、必死に叫んだ。

しばらくして、アトゥイは手に持っていた槍を収める。

 

「……なんやぇ。とと様から言われてきたなら、もっと早く言って欲しかったぇ」

 

やれやれとため息を吐くアトゥイに、自分は安堵する。

 

だが、ソヤンケクルの頼みと勘違いされるのは困るんだ。聖誕祭にもし、八柱将かシャッホロ皇のどちらかとして参列すれば、アトゥイと話すこともあるかもしれない。

 

こ、こういう時は……。

 

「ち、違うんだアトゥイ」

 

「……何が違うん?」

 

「その……自分が頼まれたのは、シャッホロ皇ソヤンケクルではなくてだな……」

 

「うん」

 

「……ヤマトの双璧とうたわれる右近衛大将、オシュトルに頼まれたんだ」

 

すまん、オシュトル。

お前の名前を使わせてもらうぞ。

これが通用するかは、アトゥイ次第だが……

 

「はえ〜、オシュトル……はん?の頼みなんやね」

 

おぉ、大丈夫そうだ。

そういえば基本、アトゥイは天然というか、抜けてる部分があるのを忘れていた。

 

「そ、そうなんだ!ただ、アトゥイが……頑張って白楼閣を探しているようだったから、邪魔をしないようにと……」

 

自分が言うのもなんだが、怪しすぎる。

 

しかし、アトゥイが自分を疑っている様子はない。

この無防備なのか無頓着なのかよく分からんが、逆にこっちが心配してしまう。

いやまあ、無理に手を出せば、逆に返り討ちにされてゴミ箱にポイッとされるわけなんだが。

 

「ウチの勘違いだったぇ、ごめんな?」

 

全く悪びれてない様子で、言葉だけを発するアトゥイ。

しかし自分はそんなの慣れっこだ。

腹の痛みが酷いが、何とか力を込めて立ち上がった。

 

「いやいや、自分が何も言わずに後をつけたんだ。自分が悪い」

 

そう言って、アトゥイに手を差し出す。

 

「自己紹介がまだだったな。自分の名はハク。オシュトルに雇われている者だ」

 

しかし、アトゥイはその手を握ろうとはしない。

 

「……おにーさん、さっき吐いたぇ?」

 

「ん?」

 

「汚いから、触りたくないぇ!」

 

「なっ……!!!」

 

ただでさえ、アトゥイが来るまでアマム蒸しパンを食べ続け、更にはアトゥイを追いかけながらアマム蒸しパンを食べ、そしてここに来るまでアマム蒸しパンを食べ続けたんだぞ?

 

「……わ、分かった」

 

自分はとりあえず、差し出した手を引いた。

 

「それじゃあ、行くか」

 

必死に腹の痛みを抑えながら、アトゥイとクラリンと共に白楼閣へと向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

それから少し経って、先程の市場近くまで戻ってきた。

道中、あまり会話をすることはなく、自分の数歩後ろをアトゥイがついてきている状態だ。

ちなみに本人は、所々に並ぶ屋台を見ながらクラリンと話している。

 

しかし、このまま何も話さないというのもマズイ気がする。

先程自分はアトゥイに悪い印象を与えてしまったため、出来れば少しでも印象を良くしておきたいのだ。

……ちなみに顔や口、手などは洗った。服も特に汚れていない。

 

「どうするか……」

 

色々と考えながら、街を歩く。

すると、肉の焼ける香ばしい香りが漂ってきた。

香りの元に視線を向けると、そこには串焼きの屋台があった。

 

そういえば、アトゥイのおかげで胃袋空っぽにされて、腹が減ったな。

 

「なぁ、アトゥイ……」

 

声をかけようと後ろを振り返る。

 

「はぇ〜……」

 

そこには、涎を垂らしながら串焼きの屋台を見つめるシャッホロの姫君。

 

「アトゥイ?」

 

「……なあなあ、おにーさん」

 

「ん?」

 

先程まで全く近こうとしなかったアトゥイが、スススと自分の前に来た。

 

「あれ、美味しそうやなぁ」

 

「……はい?」

 

アトゥイが指差す方向に、自分も視線を向ける。

そこにあるのはやっぱり串焼きの屋台。

 

「食うか?」

 

自分はそう言って、財布を取り出す。

二本や三本くらいなら、別に大丈夫だろう。

 

「いいのけ?」

 

アトゥイはわざとらしく首を傾げ聞いてくる。

どうやら奢ってもらえることには気づいているようだ。

……ちなみに、目線は串焼きの屋台に固定されており、たらたらと涎が口元から垂れていることには気づいていない。

 

「ああ、ちょっと待っててくれ」

 

そう言って、自分は串焼きの屋台へと向かった。

 

「おっちゃん、二本……いや、三本くれ」

 

「はいよ」

 

そして三本の串焼きを手に、アトゥイの元へと戻る。

 

「アトゥイ」

 

その中の一本を差し出すと、アトゥイは嬉しそうに受け取った。

 

「うひひ。催促したわけやないけど、ありがとうなぁ」

 

いやいや、あれは自分に買ってこいという催促以外の何物でもないと思うんだが。

 

「はぷ……ん〜!美味いなぁ、これ」

 

「そうか?そりゃ、良かった」

 

自分は残りの二本を両手に持ち、アトゥイの隣を歩く。

 

こうやって隣を歩いても何も言われないということは、少しは警戒されなくなったのか?

心の中で安堵しながら、アトゥイを横目で見る。

 

「……?」

 

これは……どうも警戒より、串焼きに意識が向いているようだな。

 

「まあいいか」

 

自分はそう言って、早速串焼きを口に運ぶ。

濃厚な肉汁が口の中に広がり、噛めば噛むほどココロモの旨みが溢れた。

あぁ……空腹の時に食べる飯がいちばん美味い。

 

「…………」

 

ん?

 

「どうした、アトゥイ」

 

先程から何やらこちらをじっと見つめるアトゥイ。

視線の先には、自分がまだ口をつけていない串焼き。

 

「……いや、流石にこれはやらんぞ?」

 

自分はお前に殴られたせいで腹が減ってるんだ。

しかし自分がそう言っても、アトゥイの目は串焼きに夢中である。

 

「ダメだ」

 

チロリ、とこちらに上目遣いを向ける。

 

「……な、なら自分で買えばいいだろう?」

 

ゴソゴソと腰から財布のような袋を取りだし、アトゥイはそれを逆さにする。

どうやら中身は空っぽのようで、パラパラとホコリが落ちた。

 

「全部使ったのか?」

 

「ううん。ウチの財布は、荷物と一緒に白楼閣に送ってしまったんよ」

 

「……つまり?」

 

「お金、持ってないぇ!」

 

一応、あなたシャッホロの姫君ですよね?

それから何度も、ダメだ、欲しい、ダメだと問答を繰り返す。

やがて……自分が折れた。

 

流石に今日の行動は、あからさますぎたと反省している。

アトゥイが不審に思うのは当たり前で、自分が追いかけたせいでこんな夜遅くまで街を歩くことになったのだ。

 

「どうぞ……」

 

右手に持っていた最後の一本を、アトゥイへと手渡す。

それはもう嬉しそうに破顔しながら受け取ると、勢いよくかぶりついた。

 

「あー……口の周りがベタベタじゃないか」

 

自分の手拭いを取り出し、アトゥイに差し出す。

 

「ほれ、これで拭いとけ」

 

……しかしアトゥイは受け取らない。

まるで自分が拭けと言わんばかりに、口をこちらに寄せた。

 

「はぁ……それでも姫さんだろう……」

 

溜息を吐いて、アトゥイの口周りに付いた肉の脂を拭き取る。

そして綺麗になると、最後の一口を食べてまた汚した。

 

「……食べ終わったな?」

 

「うん」

 

「なら、自分で拭けるな」

 

次こそは、と自分は手拭いを突き出した。

アトゥイは受け取ろうとしたが、ピタリと動きを止めて自分と手拭いを交互に見る。

 

「……おにーさん、拭いて?」

 

そうしてまた、口をこちらに寄せた、

少々イラッとしたので、次はぐしゃぐしゃと乱暴に拭いてやる。

しかし、自分の力では全く痛くなかったようだ。

 

「うひひ、おにーさん。えぇヒトやったんやなぁ。ウチ、勘違いしてたぇ」

 

「良い人かどうかはよく分からんが、勘違いさせた理由は自分にあるからな。アトゥイがこれで許してくれるなら、安いもんさ」

 

脂まみれになった手拭いはもう使えないがな。

串焼きを食べ空腹を少し満たした自分達は、白楼閣への道をまた歩き出したのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

串焼きのおかげで、少しだけアトゥイに信用して貰えたのか、その後の帰り道は途切れることなく話し続けていた。

 

会話の内容としては、アトゥイの好きなタイプやこれまでの恋愛経験など。基本的に桃色一色である。

 

そして、気づけば白楼閣の門前に到着していた。

 

「アトゥイ、着いたぞ」

 

「ふわぁ〜〜、なんか他のと違う、見たことない感じで綺麗やなぁ。いい雰囲気やぇ」

 

「だろ?ここの泊まり心地は最高で、寝床も広いし、飯も美味いし、更には湯の張った大浴場まであるんだ」

 

「こっちにして正解やったなぁ。とと様が用意してくれた屋敷よりも、楽しくなりそうやぇ」

 

門の前で少し話していると、玄関からこちらに誰かが走ってきた。

 

「……ハク!」

 

「ん?クオン?」

 

クオンは自分達の前に駆け寄ると、自分の顔を睨んだ。

 

「もう、こんな夜遅くまで何をしてたのかな?」

 

「へっ?」

 

「朝食を食べて直ぐに出ていったと思ったら、全然帰ってこなくて、ルルティエもすごく心配して……た?」

 

クオンの視線が、自分の肩からひょこっと顔を出したアトゥイに向けられる。

 

「ほわわ、すごい別嬪さんや。なぁなぁおにーさん、この別嬪さんて、知り合いなんけ?」

 

「ん?知り合い……というか、同じくここの住人だな」

 

「ハク……この方は?」

 

クオンの質問に、ビクッと身体が震えた。

正直に言うと、ここでクオンにオシュトルの事を言われては、自分がアトゥイに嘘をついていたことがバレてしまう。

多分だが、ウコンがもう少ししたら自分の部屋にの見に来るはずだし、その時にでも言おうと思ってたんだが……。

 

「ハク?」

 

「あ、ああ。コイツはアトゥイ。その……シャッホロの姫さんだ」

 

「シャッホロ……姫……?」

 

「ウチ、アトゥイいうぇ。今日からここでお世話になるんよ。よろしゅうなぁ」

 

クオンは一時固まっていたが、溜息を吐いてアトゥイへと体を向ける。

 

「私はクオン、こちらこそよろしくお願いかな。同じくここを仮住まいとしているから、何か困ったことがあったら遠慮なく言って欲しいな」

 

「うひひ、なぁなぁおにーさん」

 

「なんだ?」

 

「もしかしてアレなん?クオンはんとおにーさん、ひょっとして……恋人同士だったりするんけ?」

 

「まあ、そんなもの……ゲフンゲフン!!」

 

あ、危なかった。

この時のクオンと自分は、互いを異性としては全く意識していない時期だ。

あくまで自分にとってはクオンは保護者であり命の恩人。

それだけなのである。

 

「おにーさん、ちゃうのん?」

 

「ああ……ちゃうちゃう」

 

「ホントけ?アツアツちゃうんちゃうのん?」

 

「違うぞ。自分にとってクオンは……命の恩人で保護者だ」

 

成人男性が自分よりも年下の少女を保護者というのは、なかなかにキツイ。

 

「あはは。ご期待に添えなくて残念だけど、私とハクはそんな関係じゃないかな」

 

笑いながらそう言うクオンに、アトゥイは心底ガッカリしたように肩を落とした。

 

「なんやぁ、ホントにちゃうのん……もしそうなら、今後の参考にいろいろ聞いて見たかったんよ」

 

チラッ……とクオンを見て姫らしくない笑みを浮かべる。

 

「アレとかコレとか、恋人同士ならいろいろスゴいことしてるんやろなぁって」

 

「ア……アレとかコレ……?」

 

「せっかく帝都に来たんやもん。どうせなら火傷をするような恋の一つでもしてみたいんよ」

 

いやいや、相手を火傷させるの間違いでは……?

実際、アトゥイは魅力的な少女だ。出る所は出て、締まる所は締まっている。顔立ちも綺麗だし、姫君という玉の輿。

 

だがなぁ……中身がなぁ……。

 

「うひひ、恥ずかしいぇ」

 

「が、頑張れよ……アトゥイ」

 

「ありがとうなぁ、おにーさん」

 

自分としては、今回アトゥイにはちゃんとした恋をしてもらいたいものだ。

出来ることなら何でも協力しよう、出来ることで。

 

「ほんなら、もう行くな?色々歩き回って、ちょっと疲れちゃったんよ」

 

「それなら、お風呂で汗を流してくるといいかな。ここのお湯は最高だから」

 

「そうさせてもらうぇ。おにーさんに聞いて、ここのお風呂も楽しみにしてたんよ」

 

そして、アトゥイはこっちに向き直る。

 

「そんならおにーさん、ここまで案内してくれてありがとうなぁ」

 

「いや、自分も今日は悪かったな」

 

「ううん。楽しかったからいいぇ。それに、串焼きも美味かったしなぁ」

 

「あ、ああ……」

 

手を振りながら去っていくアトゥイ。

それを見送り、自分はクオンに視線を向ける。

 

「クオンも、心配かけてすまんかった」

 

「次はちゃんと、早めに帰ってくるって約束するなら、許してあげるかな」

 

「……」

 

「返事は?」

 

「は、はい!」

 

こうして朝から騒動ばかりだった一日は、やっと幕を閉じたのだった。

 





『独り言』

実は、毎回投稿してる分は全て前日に書き終わっている分なんです。
なので後々見てみると、その時に気づけなかったミスが見つかりやすいんですよね。
こう、精神力というか集中力というか眼精疲労というか……。
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