[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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3 絶体絶命

 

「こ……ここは……」

 

視界がまだ揺らいでいる中、ゆっくりと身体を起こす。パチパチと燃え続ける焚き火を見ながら、思考をどうにか集中させた。

 

「……クオン?」

 

先程までそばに居た彼女は、今この天幕にはいない。

辺りを見回す。どうやら急いでどこかに行ったらしい。荷物が散乱し、薬草や道具がそこかしこに置かれていた。

 

「ああ、助けて……くれたんだな」

 

激痛に見舞われ、暴れていた自分を治療してくれたのだろう。その優しさに、また目頭がじんと熱くなった。

 

「しかしここは……夢、なのか?」

 

これまで見ていた夢とは、どうも様子がおかしい。頬を抓ってみれば、ちゃんと痛みは感じるし、何よりまず行動出来ていること自体が違うのだ。

さて、この状況をどう理解するか……。

 

「……クオン?」

 

数分かかって、身体に力が入るようになった自分は、天幕の中を歩き回る。

しかし待てども待てどもクオンは帰ってこない。何かあったのだろうか。いや、流石にクオンに何かあるとも思えんし……いや……うーん。

 

「よし、探しに行こう」

 

この時の楽観的な選択をした自分に、渾身の鉄扇を食らわしてやりたい。

馬鹿な自分は、この時この場所で何があったのかを……すっかりと忘れてしまっていたのだから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふぇっ……ぶぇっくしょん!!!!」

 

ああ、馬鹿だった。なぜ自分はこんな行動を取ってしまったのか。

今の格好は薄着だけ。靴なんて履いてないし、何より下着もない。ノーパン、The Not Pantiesである。

ううっ、スースーする……。

 

「……バクショイ、ブァクショイ!!」

 

この寒い中、どうしてこんな格好をしているのに外に出たのか。バカか?バカなのか自分は?

今はまだいいが、すぐにあの天幕に戻らないと冗談抜きで凍え死ぬぞ。

せっかくクオンに会えたというのに、ここで死んでたまるか!

 

「早く戻ろ……っ……!?」

 

ゾワリ。

今の感じ、覚えがある……。

何か得体の知れない物に睨まれたような……いや、この感覚は確か……

 

「ボ、ボロギギリ……」

 

そう言いながら、恐る恐るその気配に視線を向ける。

 

「……やべっ」

 

視界に写ったのは、鋭い鋏のような大きな二本の牙を生やした超巨大な蟲。

そう、ボロギギリである。あのボロギギリである。

 

『キシャァァァッ!』

 

「うおおおっ!!」

 

ボロギギリが咆哮しながらこちらに向かってくるのを、すんでのところで近くにあった崖へと飛び込んだ。

背後で鋏の交差するような金属音。

 

しかしここで、自分はまたやらかしたことに気づく。

 

「ーーあぁぁぁ!!!」

 

そう、崖に飛べば落ちる。誰でも分かる初歩的なことだ。

明らかに自分は今、落ちている。ここまでくると空を飛んでいる気分にすらなった。

 

「いだだだだだ!」

 

幸か不幸か、すぐに斜面に着地することができ、ゴロゴロと転がることで衝撃は免れた。身体が地面に擦れる痛みはあるがな。

悲鳴混じりにしばらく転がっていると、ようやく地面に背中をうちつけ、止まることができた。

 

「がっ……!」

 

衝撃で肺の中に息が詰まったが。

 

「う……ぐぐぅ……ッ!」

 

痛みで悲鳴を上げる身体を無視し、蹌踉めきながら立ち上がり走り出す。

 

「ヤバいヤバいヤバい!!どうして忘れてたんだ自分はッ!?」

 

ただひたすら、右も左も分からない山道を走り続ける。

流石にここまで走れば、もういないだろう。振り返ってみよう。うん、きっとそこにはみんなの満面の笑顔が……!

 

「グガァァァァァァ!!!」

 

「ふぬァァッ!!やっぱいるじゃねえかァァァ!」

 

動きが単調にならないよう、右へ、左へとジグザグに走る。

ま、まずい……このままじゃきっと……!!

 

「なっ!?」

 

足の裏が不自然にめり込む。

この感覚、このデジャブ。覚えている、覚えているぞ。

 

「うわぁぁぁぁぁッ!!」

 

視界が真っ暗に染まり、落下する感覚。

そして地面にまた背中と腰をうちつけ、痛みにその場を転がり回る。

 

「いっ……痛ゥ……!!」

 

しかし痛みに嘆いている場合ではない。

すぐに自分が落ちてきただろう穴に視線を向ける。そこにはポッカリと開いた穴から光が差していた。

 

「あいつは……来てないな。とりあえずこのままじゃボロギギリに喰われちまう。この穴を通られても困るし、確かここは洞窟だったはず……」

 

そう言って周りを見渡せば、確かに覚えのある洞窟だった。

奥へと道が続いている。ここを行くしかない……だろうな。

しかしここには……いや、考えている暇はない、か。

 

「覚悟を決めろ……自分は元神だったんだ……大丈夫……大丈夫……」

 

必死に自分を鼓舞しながら、急ぎ足でその場から立ち去った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

雪に覆われた地面の一部が、瞬間的に吹き飛んだ。風を切るような音と共に、一人の少女が高速で森の中をひた走る。

 

「どこっ……どこに……!!」

 

天幕から少し離れただけ、だった。彼が寝ていて、私は彼の食事を作るために川へ水汲みに行って。

そして帰ってきたら、彼はいなくなっていた。

 

「どうして……ッ!」

 

危険信号が身体に走り、即座にその足を止め、近くの茂みに身体を隠す。

しばらくすると、何かが這いずるような音。

 

「あれは……ボロギギリ……!?」

 

まさかあんな大物がいるなんて……待って。もし、あの大物が彼と出会っていたら……!

 

「まさか……!」

 

しかし、その心配は懸念だった。ボロギギリの口や鋏、身体に血の跡はない。食べられた、ということは無いだろう。

 

「けれどどこに……?」

 

そこでもう一つ、不自然な点に気がついた。よく目を凝らしてボロギギリの近くの地面を見てみると、そこにはヒトがひとり入れるような穴が空いているのだ。

その周囲をボロギギリは周回し、やがて別の入口を探すように去っていった。

 

「……流石にここに落ちたとかじゃ……ないよね?」

 

まさか、いやそんな、まさかね……と何度かクオンは頭を回転させ、一度溜息を吐くとその穴に身を投じるのだった。

 

 

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