[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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すみません、0時に予約投稿をする予定でしたが、間違えて2時に設定していました。

というわけでこの時間に投稿します。
よろしくお願いします。


41 危惧

 

 

暗闇の中……目が覚めると、そこは地獄だった。

 

「……おにーさん」

 

自分は布団に寝かされていたのだろう。

随分と長く寝ていたせいか、少し頭痛がするが……それよりもガッチリ腕ごと固められた部分がめちゃくちゃ痛い。

 

「知ってたぇ?なぁなぁ、おにーさん。知ってたんやろぉ?」

 

目の前には、まるで悪鬼の様な笑みを浮かべるアトゥイさん。

仰向けで寝ている自分の腰に、馬乗りになってこちらを見ている。というか、顔が近くて圧力が凄まじい。

 

「う……ぁ……!」

 

あ、声が出ない。

あまりの恐怖に、声が出てくれない。

 

「……うひひ」

 

笑顔と共に振り下ろされた拳で、自分の意識はまた深く沈んでいった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

襖の間から差し込んだ朝日の眩しさで、目を覚ました。

怖い夢を見たからか、なんだか少し頭が痛い。

……うぅ、寒気がするな。

 

「ふわぁ……ってやばっ!!」

 

欠伸をしている最中、自分は布団から飛び出す。

 

ユゥリの護衛任務。

その途中で、自分の記憶はハッキリと途絶えていたからだ。

 

「な、何が……?」

 

確か自分は、下水道を通って帝都の外へと向かう途中に、人攫いに襲われたはず……。

そして奴等を……あれ、自分は何を?

 

「……クオン」

 

ポツリと、その名を呼ぶ。

湧き出てくるのは不安。自分は自室を飛び出し、彼女の部屋へと駆ける。

 

もし自分が、何かしらの理由で意識を失っていたら。

……仲間はどうした。クオンは?ルルティエは?ネコネは?キウルは?アトゥイは?

 

「ッ……!!」

 

頭に浮かぶのは最悪の状況。

それを振り払うように、自分の頬を引っ叩く。

自分の仲間達が、あんな連中に負けるわけが無い。

頼むから……無事でいてくれ、と。

 

何度も願いながら、やがてクオンの部屋の前へと到着した。

 

「ッ……クオ……!」

 

襖を激しく開き、クオンの姿を……

 

「う〜。これ、どうやっても分からないよぉ」

 

普通にいた。

 

そこには、机の上にひろげた問題集を眺めながら、渋い顔で頭を抱えているクオン。

 

自分の声に気づいたクオンは、こちらに首をグルンと向けると、慌てて姿勢を正しニコリと微笑んだ。

 

「あ、あら……ハク、起きたんだね??」

 

その様子に、つい唖然としてしまう。

一体、先程までの自分の焦燥は何だったのか。

 

「……ハク?」

 

いつまでも固まっている自分の姿に、クオンは首を傾げた。

 

「あ……」

 

「ハク!」

 

極度の緊張からなのか、それとも起きた後すぐに走ったせいなのか、自分の身体から突然力が抜け、その場にへたり込む。

しかしクオンがすぐに駆け寄り自分を抱えてくれたため、痛みは無かった。

 

「大丈夫?まだ起きない方が……ハク?」

 

そう言いかけたクオンの手を、両手で強く握り込む。

クオンは驚いた表情を浮かべたが、すぐにもう片方の手を自分の手に重ねてくれた。

その温もりに、心の底から安堵する。

 

もし自分のせいで……またクオンを失ってしまったら。

そう考えただけで、身体中に寒気が走る。

 

「ハク……私は大丈夫かな」

 

「っ……ああ、良かった……本当に良かった」

 

クオンの親指に手の甲を撫でられ、段々と手の震えが収まってくる。

そしてしばらく時間が経ち、自分はその手を離した。

 

「クオン。自分はなぜ……」

 

しかし、その問いにクオンは答えず、立ち上がってニコリと笑った。

グイッと手を引かれ、自分も直ぐに立ち上がる。

 

「……まずは皆に、ハクの無事な姿を見せに行こうか」

 

そして自分はクオンと共に、食堂へと向かった。

 

食堂に着くと、一番奥の席に仲間達が座っていた。

どうやら昼食を食べている最中のようだ。ルルティエやアトゥイ、キウルとネコネが食事を楽しんでいる。

 

「私はやらなければいけない事があったから、皆には先に食べてもらってたかな。ハクもお腹が空いたでしょ?」

 

「そ、そうだな……」

 

クオン、そして仲間達の無事な姿を見て安心する。

だが同時に……なんとも言えない気まずさがあるな。

 

「ほら、行くよ」

 

自分の気持ちがどうやら顔に出ていたようで、クオンはクスッとからかうように笑いながらそう言って自分の手を引いた。

されるがまま、自分はクオンと仲間達の元へ向かう。

 

「そうなのですね……あっ、ハクさま……!」

 

いち早くこちらに気づいたルルティエが、微笑みながら手を振っている。

ネコネやキウル、アトゥイも自分に気づいたようで、その表情は様々。

 

「あ、ハクさん!おはようございます!」

 

キウルは安心したようにニコニコと笑ってくれているが……

 

「……遅いのです」

 

「おにーさん……」

 

ネコネはいつもながら、なぜアトゥイまでジトリとした目でこちらを睨んでいるんだろうか。

やはり、仕事を途中で放棄したことに怒っているのか……?それなら早く謝罪をしなければ。

 

自分は皆の前に正座し、深く頭を下げた。

 

「……皆様、この度は誠にすみませんでした」

 

これは『土下座』である。

かつて自分たち旧人類が、最大の謝意を相手に伝えるために行う伝統的な儀式。

土下座をすれば、とりあえずそれ以上の謝罪方法は無いということで許してくれる人も多かった。

 

……許してもらえるだろうか。

 

「……ぷっ」

 

「あはは!おにーさん、みっともないぇ!」

 

「ハクさま……?」

 

「その格好は……平日の昼間から恥ずかしくないのです?」

 

前言撤回。

キウルは自分の姿に吹き出し、アトゥイも爆笑。

ルルティエはどうやら心配してくれているようだ。

ネコネは……あっ、いつもの蟲を見るような目ですね。

 

「ほらハク。そんな所で寝ていないで、こっちに来るかな」

 

そう言いながら、クオンは隣の座布団をポンポンと叩いた。

いつの間にか、その場所には二人分の食事が用意されていた。

……クオンが貰ってきてくれたんだろうな。

 

「で、でもいいのか……?自分は、その……」

 

「いいからさっさと食べるのですよっ!」

 

「んぎゃっ!?」

 

ジメジメとした態度が気に入らなかったのか、ネコネの懇親の蹴りが、座っていた自分のふくらはぎに直撃する。

そ、そこは……ダメだろう。

 

「姉さまにここまで気を使わせるなんて、ハクさんは相変わらずどうしようも無いヒトなのです」

 

「グッ……」

 

自分は痛みに耐えながら、なんとかクオンの隣へと座る。

 

「ネコネったら、ハクが帰ってきて嬉しいのかな?」

 

「んなっ!?」

 

クオンの言葉で顔を真っ赤にするネコネ。

 

「そういえば……ネコネさまは、ハクさまが寝ていらっしゃる時も……」

 

「なぁ〜っ!なぁ〜っ!」

 

ルルティエの言葉を途中で遮るように、手をバタバタさせる。

 

「……え?う、嘘ですよね、まさか、そんな……ははは……」

 

……キウル、自分は悪くないからな。

それにお前の考えているのとは違うと思うぞ。

だからそんな死んだ目をするな。そしてその目で、こちらをチロリと見るな。

 

「ネコやん、なんだかんだ言ぅておにーさんのこと心配してたぇ」

 

「ァ、アトゥイさん……」

 

そう言われネコネが睨み返すが、アトゥイはパクパクとおかずを口に運び込んでいる。

 

その様子を呆気にとられながら見ていると、クオンが自分の方を突いた。

振り返ると、優しく微笑みながらクオンは言う。

 

「皆、ハクのことを心配してた。だからハクも……あまり心配かけないでほしいかな」

 

「……ああ、気を付けるよ」

 

その時に口にした食事は、とても美味かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

食事を済ませた自分たちは、ネコネに言われてオシュトルの屋敷まで足を運んだ。

 

「オシュトルさま、ハクさんを連れてきたのです」

 

『ああ、入るといい』

 

「失礼しますです」

 

返ってきたオシュトルの言葉に、ネコネは襖をそっと開ける。

 

「オシュトル……」

 

机の前に座り険しい顔をしているオシュトルを見て、自分は苦い顔をする。

オシュトルの依頼を自分は放棄したんだ、そりゃ……怒るよな。

 

自分とクオンはオシュトルの対面に腰を下ろし、ネコネはオシュトルの隣についた。

 

そしてしばらくの沈黙。

先に口を開いたのは、オシュトルだった。

 

「さて、ハク。何が某に言わなければならないことがあるのではないか?」

 

「……ああ、本当にすまなかった」

 

「分かっているのであればそれで良い。某も話は聞いているのでな。但し、次またこのようなことがあれば、某も簡単に許すことは出来ぬからな」

 

「……自分も気を付けるよ」

 

そう言って頭を下げると、フッとオシュトルの表情が和らぐ。

 

「さて、ネコネから報告は聞いた。どうやら任務の途中で人攫いに襲われたようだが……ハク、それからの事については覚えているか」

 

「いや、それが自分にもサッパリで……」

 

オシュトルの目がまた険しいものとなる。

そしてクオンに視線を向けた。

 

「……クオン殿」

 

クオンも険しい表情となったまま、ゆっくりと躊躇うように頷いた。

 

「……ハク」

 

「な、なんだ……?」

 

「単刀直入に言おう。其方は……何者であるか」

 

「……は?」

 

意味が分からない。

どういう事だ?一体、何が……

 

「某もクオン殿やネコネから話を耳にしただけで、実際には見ていないが……どうやら其方は、不思議な力を持っているようだ」

 

「力……?」

 

今の自分に力など無いはずだが。

 

「ふむ……であれば」

 

そう言って、突然オシュトルは腰を上げた。

そしてネコネの耳元で何かを伝える。

 

「兄さ……オシュトルさま、それは……」

 

「確認しなければならない。某も、ネコネもな」

 

「……分かったのです」

 

ネコネは動揺したようにオシュトルへ何かを言うが、返答を聞いて静かに部屋を出ていった。

 

「オシュトル、どうしたんだ?」

 

「……ハク、こちらへ」

 

オシュトルがそう言って部屋を出ていったので、自分もすぐに出ていこうとする。

が……

 

「クオン?」

 

突然、不安そうな顔をしているクオンに手を掴まれた、

 

「ハク、そのね……ううん、やっぱりいいかな」

 

「どうした、クオン。顔色が……」

 

しかし、クオンはそれに返答せず、自分の手を離して部屋を出ていってしまった。

その様子に、自分は不安を覚えながらも、急いでオシュトルとクオンを追うのだった。

 

しばらくオシュトルに着いていくと、少々狭い修練場のような場所へ到着した。

 

「ここは……オシュトル、なぜこんなとこに自分を連れてきたんだ?」

 

しかしオシュトルの返事はない。

 

「……オシュトル?」

 

すると、ネコネが何かを抱きかかえてこちらへと来た。

 

「……オシュトルさま」

 

「ああ、感謝する」

 

ネコネがオシュトルに手渡したのは……武器。

 

「なっ……!」

 

「……ネコネ、離れていろ」

 

驚愕し声を上げた自分に目も向けず、オシュトルはネコネの背を押した。

言われるままにネコネはオシュトルから離れ、修練場を眺める場所にいるクオンの元へ向かった。

 

「おい、オシュトル……?」

 

「……」

 

ピリピリとした空気が肌を刺す。

目の前の男は、なぜか刀を持ってこちらを睨んでいた。

 

「オシュトルッ!」

 

名を叫んでも返答はない。

一歩、自分は後退る。なぜこんな状況になったのか分からない不安にかられて。

 

「……ハク」

 

後退する自分に、静かな声が響いた。

 

「其方には……某と戦ってもらう」

 

「なっ……!?」

 

なぜ、どうして。

自分には分からない。

自分は弱い。オシュトルに敵うわけが無い。

ただでさえこっちは力を失って、子供にも負けるくらい弱いんだ。

 

なのに、なぜ……

 

「どういう事だ、オシュトル」

 

「……某は帝に、この帝都と民を護ると誓った」

 

ああ、よく知っているさ。

 

「しかし、ハク。某は……其方も信じているのだ」

 

どういう意味だ。信じている?自分だって……

 

「……人攫いと相対した時の記憶が無い。そう言っていたな、ハク」

 

……確かに、自分は覚えていない。

どんなに思い出そうとしても、途中でプツリと途絶えてしまう。

 

「ああ」

 

「其方が倒したのだ」

 

「……は?」

 

倒した?自分が?

 

「クオン殿からそう報告を受けている……まるでヒトが変わったように、圧倒的な力でねじ伏せたと」

 

「クオンが……?」

 

「……後に捕らえた人攫いの者もそう証言した。一人は顎が砕け、一人は眼を失い、一人はかつてないほど怯えていた」

 

それを……自分が……?

 

……いや、ありえない。

自分が持っているのは記憶だけだ。神としての力も、オシュトルを演じた時に鍛えた力も無くなってしまっているはず。

 

自分の願い……クオンに、仲間達に、そしてお前に会いたいと願った……その代償に消えた、はずなんだ。

 

「な、なぁオシュトル。自分は……」

 

ゾワリと。

自分に向けられるのは殺意。

オシュトルに向けられた眼光に、咄嗟に自分は鉄扇を構えた。

 

「……これ以上の問答は無用である。某は右近衛大将オシュトル。帝の命によりこの帝都とそこに住まう民を守護せし者」

 

「う、嘘だろ……?」

 

「ハク……其方は危険だ。力を制御出来ず、感情のままに振るう其方は」

 

「待てよ……おい……」

 

オシュトルが鞘からゆっくりと刀を抜き、姿勢を低くして構えた。

殺気、殺気……当てられているだけで気が飛びそうなほど。

 

「自分は……お前と戦いたくなんか……!」

 

鉄扇を構えながら、そう叫ぼうとした時。

 

「……信じさせてくれ、アンちゃん」

 

オシュトルの悲しげな表情と共に。

 

「ッ……!!」

 

鉄扇と刀が交差した

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