[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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46 仲直

「すまぬハクよ……疲れた……」

 

あれほどホノカさんとイチャコラしていた癖に、それが終わると一気にしわくちゃの顔になり一気に情けない声を出した兄貴。

 

これまでの感動が少し吹っ飛んでしまったぞ、おい。

 

……まあ、別に焦る必要は無いだろう。

 

これからまた何かが起きるまで、または起きないかもしれないが、まだまだ時間はあるのだ。

 

今日は兄貴とホノカさんが真に結ばれたということで、自分はホノカさんからそのお礼に高級そうな菓子を貰って帰ることにした。

 

した……んだが。

 

「……おい、ウルゥル、サラァナ」

 

自分の腕にぎゅっとしがみついて離れない二人。

 

聖廟から道を開いて、この白楼閣まで送ってくれたのはもちろん有難い。その間にくっついていたのも特に気にしてはいない。

……しかしこのまま離れてくれないのは困る。

 

白楼閣には連れて行けないし、何よりクオン達に会わせるのはまずいのだ。

特にネコネ、後は……オシュトルくらいか?

 

あの二人はきっとこいつらが鎖の巫だと知っているだろう。そして鎖の巫は特別な存在。自分のような一般人が連れていたら、あらぬ誤解が生まれてしまう。

 

自分は溜息を吐いて、一度白楼閣から離れる。

 

「……どうしたんだ?」

 

「「……」」

 

首を振るだけ、か。

先程から何度かこういった質問をしても、何故か沈黙したまま首を横に振り続けるだけなのだ。

 

別に双子がくっついてくるのは日常茶飯事であり、当たり前のようにも思えるのだが……それにしても長い。

この二人は自分の行動を遮ることはしないんだが……

 

「むぅ……しかし、このまま二人が離してくれなきゃ自分は帰れないんだが」

 

「「……」」

 

「離してはくれないのか?」

 

「「……」」

 

「どうせすぐに会うことになるんだ。それでもダメか?」

 

最後の手段として、二人に掴まれた腕の関節を曲げて手のひらをこちらに向け、なんとか二人の頭を撫でてみる。

……が、届かないので外套に覆われた顔面を撫でてしまった。

 

「「……」」

 

しかし二人には効いたようだ。

一度頷くとそっと離れ、いつも通り突然現れる白い霧と共に消えていった。

 

「はぁ……さてと」

 

少し離れた場所から、白楼閣を眺める。

もう陽の光は落ち、完全に辺りは真っ暗。

提灯や部屋の灯りが幻想的に建物を彩っている。

 

自分がオシュトルと戦ったのが……たしか昼過ぎ。

 

そこから随分と時間が経ってしまっているし、何より気まずくて足が進まん。

あれほどウルゥルとサラァナに帰りたいと言っておきながら、情けない話である。

 

しかしこのまま帰らない、なんて家出した子供のような真似でもすれば、きっと自分の保護者がブチ切れるだろう。簡単に想像ができる。

 

だからといって、手を振って「ただいま!」と満面の笑みで帰れるほどの肝は持ち合わせていない。

 

だが……しかし……うーん……でも……

 

「うぐぐ……」

 

考えれば考えるほど沼に嵌っていく気がするんだが。

 

「……お、アンちゃんじゃねえか」

 

「オシュ……ウコン!?」

 

白楼閣の門前をグルグルと回っていると、突然背後から声がかけられる。

後ろを振り向くと、そこには首を傾げたウコンが。

 

「うぉっ、どうしたんでい。そんな大きい声だしてよ」

 

「い、いや……その……」

 

きっ、気まずい。

というか、何故コイツは気にせず話しかけられるんだ?

自分は先程、お前と戦って……怪我をさせたんだぞ。

 

「……アンちゃん?」

 

「う、うん?」

 

「なんだその気色悪い返事はよ。ほら、早く入んぞ」

 

「ちょっ、ま、待てよウコン!」

 

ウコンに腕を掴まれ、無理やり白楼閣まで連れていかれた。

そして中に入ると、宴の喧騒や女子衆さんの忙しそうな姿が目に入った。

 

「って、ウコン。自分は……」

 

足袋を脱ぎ捨て先へ行こうとするウコンに、声を掛けるが……

 

「アンちゃん、早く来いよ」

 

そう言って、ずんずんと進んでいってしまった。

自分も足袋を脱ぎ、ウコンの背中を急いで追いかける。

 

「……んで、何で自分の部屋に?」

 

そして着いたのは、自室だった。

灯りをつけ、ウコンは勢いよく腰を下ろす。

そして……

 

「ほれ、アンちゃん」

 

どこから出したのか、徳利と盃、そして布に包んだ少々の摘みを机に広げた。

自分が呆然と立ち尽くしていると、ウコンは大きな溜息を吐いた。

 

「アンちゃんよぉ……座んねぇのかい?」

 

「あ?ああ……」

 

言われるまま、自分はウコンの対面に座る。

すると、盃をこちらに差し出してきた。

 

「ほれ」

 

「ああ……」

 

差し出された盃を持つと、ウコンはそれに酒を注ぎ、自分の盃にも注いで、それを持ち上げた。

自分も合わせるように盃を持ち上げる。

 

「……乾杯」

 

「あ、乾杯……」

 

盃同士が軽くぶつかり、綺麗な音が部屋に響いた。

ウコンは一気に盃を傾け、中の酒を流し込む。

そして、自分に視線を合わせると、頭を勢いよく下げた。

 

「今日はすまんかった!アンちゃんを知る為とはいえ、あんなことをしちまってよ」

 

「は?なんでお前が……」

 

右近衛大将として当たり前のことをしたはずなのに、何故か謝罪をするウコン。

どちらかといえば自分が悪いんだが、頭を上げようとはしない。

 

「……アンちゃんは、何かを隠してるんだろう?」

 

「ッ……!」

 

頭を下げたままそう言ったウコンに、自分は動揺して盃を落としてしまう。

中に入った酒が太腿に染みるが、気にする余裕なく絶句する。

 

「なにを……」

 

「いや、もうそれを探るような真似はしねえ。許してくれ、アンちゃん」

 

「ッ……ウコン……」

 

罪悪感。

親友に頭を下げさせ、隠し事をしていることも黙認してもらう。

……許されるのか、それは。

 

「ま、待てウコン。自分は……その……」

 

しかし、言葉を紡ぐにも何も出てこない。

頭の中では言いたいことは分かっているんだ。自分は未来から……孤独に耐えられず、願いを叶えてもらいここに戻って来たんだと。

 

だが……言っていいのか?

兄貴にそれを伝えようとした時、ウルゥルとサラァナが何も言わずに止めたんだ。

きっと、何か理由があるんだろう。

 

でもこのまま、黙っているのは……

 

「……アンちゃん」

 

ふと、ウコンの声に俯いていた顔を上げる。

そこには真面目な表情をしたウコンが、こちらへ真っ直ぐな視線を向けていた。

 

「アンちゃんの事だ。俺に隠し事をするのが悪いとか思ってるんだろうが……それは違う」

 

「ウコン……」

 

「誰にでも隠し事はあるもんだ。そんなアンちゃんを俺は否定したりしねぇよ。それにアンちゃんが隠すってことは、言っちゃいけねえ理由でもあるんだろう」

 

「……いいのか?お前は右近衛大将で……自分は……」

 

「いいってことよ。それに今日、あんなことをしちまったおかげで分かった事もある」

 

そう言って、ウコンは自分の太腿を指さした。

 

「酒が零れてんじゃねえか。ほら、こっちに寄越しな」

 

「ああ……すまん」

 

盃を差し出すと、ウコンは持ち手を手拭いで拭い、また酒を注いでいく。

 

「今日分かった事ってのはな……」

 

そして自分に渡し、ニカッと笑った。

 

「アンちゃんは、絶対にその力を悪事に使わねぇってことだ」

 

「っ……!」

 

グッと、込み上げそうになる涙を堪えた。

 

こいつは、自分が友として隠し事をしていても許してくれるのだ。

そして、自分を信用してくれている。

 

「……ありがとう、ウコン」

 

自分はそう言って、盃に入った酒を喉に流し込む。

 

「……おうよ、アンちゃん」

 

空になった盃には、ウコンが黙って酒を注ぎ、そしてまた自分が飲んで……そんな夜が過ぎていったのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

翌日。

ウコンとたらふく飲んだせいで二日酔いが酷く、早朝に目覚めてしまった自分は井戸へ顔を洗いに来た。

 

「ふぅ……」

 

二日酔いで重く感じる身体に、少し冷たい朝の風が心地よい。

手拭いで顔を拭き、グッと背伸びをする。

 

「さて……今日はどうするかな」

 

昨夜、ウコンと自分は盃を酌み交わした。

そのおかげで仲直り……というのも恥ずかしいもんだが、ウコンへの気まずさは無くなったのだ。

 

しかし、まだ話していないヒトが二人もいる。

 

クオン……そして、ネコネだ。

 

きっとクオンならあまり気にしていないだろう……そう思いたいだけなんだが。

 

ただネコネは違う。兄さま大好きなネコネにとって、その兄さまを傷つけた自分は完全に敵、恨まれていてもおかしくはないのである。

 

「うむ……どうやって許してもらうか」

 

ネコネの機嫌の取り方といえば、菓子をあげる……くらいしか分からん。

だかそれだけで許してもらえるだろうか……流石に今回はそれだけで許してくれるとは思えない。

 

「うーん……」

 

「ハクさん?」

 

「どうすれば……」

 

「……どうしたのです?」

 

「いや、どうしたらネコネの機嫌を取れるかと……って」

 

すぐさまその声が聞こえた方向へと視線を向ける。

起きたばかりなのか、まだ寝ぼけ眼のネコネさんがそちらに立っていらっしゃった。

 

「ネコネサァァァン!?」

 

「うひぃぃっ!?」

 

自分は奇声をあげ飛び上がる。

その光景にネコネも身体を跳ねさせ、悲鳴をあげた。

 

「ネ、ネコネ!?いたんなら教えてくれよ!」

 

「なっ、わたしは声をかけたのです!そしたら変な声を出したのではないですか!!」

 

フゥーッ!と小動物のような威嚇をするネコネに、自分は二歩ほど後ずさり、すぐさま脛を守った。

しかしいつまで経ってもあの蹴りは来ない。

 

反射的に瞑っていた目を、ゆっくり開けると……

 

「う……そんなに怖がらなくてもいいのです」

 

「は?」

 

着物をギュッと握り、視線を下げるネコネ。

優しい……いや、壊れたのか?まさかあまりにも自分がストレスをかけすぎて……頭がパッパラパーに!?

 

「す、すまんネコネ!自分が……ほ、ほら!後で菓子もやるし何度でも脛を差し出すから!」

 

足を前に出し、脛を見せながらネコネへと謝罪する。

 

「……」

 

完全にドン引きされていた。

そしてネコネはため息を吐くと、ぽつりと零した。

 

「……怒ってないのです」

 

「……え?」

 

「だから、別にわたしは怒ってないのです。ハクさんにお仕置をするつもりもないのですよ」

 

……何故?

 

「ハクさんは……わたしの事を勘違いしてるのです」

 

「へ?」

 

「わたしがハクさんを怒る時は、ハクさんが悪い事をした時なのです。ですが、ハクさんが悪いことをしていない時に怒ったことは無いのです」

 

いや、そうだった……か?

 

「何です?」

 

「いえ、何でも……!」

 

「だから……そんなに怖がらなくても……いいのですよ」

 

ネコネはそう言うと、スタスタとその場から逃げるように立ち去ってしまった。

 

「……な、なんだ……アレは」

 

自分はそんなネコネに衝撃を受け、呆然と立ち尽くす。

 

その後、再度ネコネに謝罪をして、ホノカさんに貰った菓子をあげると自分を許してくれた。

 

ちなみに……クオンは全く気にしていなかった。

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