[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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48 甘味

 

「何してるんだ、ルルティエ?」

 

聖誕祭の翌日。

 

仕事も終わり暇になった自分は、白楼閣をぶらぶらと当てもなくさまよっていた。

そして昼過ぎのためガラリとした食堂に入ると、そこにはルルティエがいたのだ。

 

「あ、ハクさま……実はこれを……」

 

そう言って、何やら見覚えのある赤茶色のドロドロとした塊が入った皿をこちらに見せてくる。

 

「これ、まさか樹液か?」

 

「ふふっ……正解です……」

 

ルルティエは花の咲くような笑みを浮かべて、コクリと頷いた。

そんな笑顔に癒されながら、自分は記憶の中を掘り出していく。

 

……確か以前、ルルティエと森に行って、キノコや山菜と一緒にこの樹液を採ってきたことがあったな。

 

「しかしなぜ、これを?」

 

今回、自分はルルティエと一緒に森に行っていない。

 

以前は、この樹液を使って甘味料などを作れないかと提案し、ルルティエの失敗談を聞いてそれでも作ろうと決まった訳だが……

 

行ってないのに、なぜ?

 

「実は……クオンさまに……これで甘いお菓子でも作れないかと言われまして……」

 

「クオン……か」

 

……流石クオン。

 

例え自分とルルティエが森に入らずとも、樹液から作れる菓子の『ルル』を期待しているとは。

 

本当に、素晴らしい食い意地である。

 

「つい引き受けてしまったのですが……この樹液を、お菓子にするとなると難しいんです……」

 

「ああ……ちょっと貰ってもいいか?」

 

「はい……どうぞ……」

 

ルルティエに差し出された皿から、ひとつまみだけ樹液の塊を手に取り、口へと放り込む。

 

「……懐かしい甘さだ」

 

癖のある樹の風味と、ほのかな甘みが口の中に広がる。

 

「ハクさまも……ですか?」

 

「ん?」

 

ルルティエが少し驚いたように、目をパチパチとさせた。

 

「私も子供の頃……お兄さまお姉さまが遊びに連れ出してくれた時……これをよく舐めさせてもらっていたんです……」

 

「ああ……」

 

そういえば、そんな話も聞いたな。

 

「甘いものは高価ですから……これをよくおやつ代わりに舐めていました……」

 

「確かに、この樹液はおやつ代わりになるな」

 

「はい……では……ハクさまも……?」

 

「んん?」

 

「いえ、その……懐かしいと仰られたので……」

 

……そういえば、そんなことを言ってしまったな。

何とか怪しくならないように、無難な答えをひねり出す。

 

「あ、ああ〜!そ、そうなんだよ。実は、散歩している時に、ペロッとな?」

 

「ふふっ……ハクさまらしいです……」

 

良かった……どうやら、誤魔化せたようだ。

 

ただでさえこの木の名前も知らない。用事が無ければ森になんか絶対行かない。そんな自分が懐かしいなんて言ったら、そりゃ怪しまれるだろう。

 

「ルルティエにとっても、これは懐かしの味ってやつなんだな」

 

「ええ……お兄さま達……元気にしているかな……」

 

ポツリと独り言を零し、故郷の家族を懐かしむような表情のルルティエに、自分は少しばかり魅入ってしまった。

 

ルルティエは家族を心から愛し、家族に心から愛されている子だ。

オーゼンの膝の上に乗ってよく甘えていたそうだし、ヤシュマには会った瞬間飛びついた。

……シスも、度を超えてルルティエを愛しているしな。

 

「ルルティエは兄姉が大好きなんだな」

 

「はい……とても優しい……自慢のお兄さまお姉さまです。具合が悪くなって寝込んだ時とか……わざわざこの樹液を取ってきてくれたりして……」

 

「そうか」

 

ルルティエと笑いながら、樹液について考える。

 

以前、自分たちはこの樹液を使って『ルル』という不思議な食感の甘い菓子を作った。

最初は甘味料として使えないかと思ったが、案外美味しくできたのだ。

それはもう大層人気となり、一時期は山から樹液が取り尽くされてしまうという事件も起きたが……

 

「どうか……しましたか……?」

 

考え込む自分を見て、首を傾げるルルティエ。

彼女にとってこの味は故郷の味。

 

「いや、ちょっとな」

 

……せっかくだ。自分も手伝ってみるか。

 

「これを使って新しい菓子を作って欲しいと、クオンに頼まれたんだろう?自分で良ければ、手伝わせてくれ」

 

「えっ……?」

 

「ダメか?」

 

「いっ、いえ……その……いいのですか?」

 

「ルルティエが困っているなら、自分はいつでも力になるさ。それに、何か新しいお菓子を自分達で作れるだなんて、何か楽しくならないか?」

 

そう言って、ちょっと胸を張ってみる。

 

「……」

 

しかしルルティエからの反応は無い。

気になって見てみると、何故か恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いていた。

 

「……ルルティエ?」

 

「うっ……あ、ありがとうございます」

 

俯いたままルルティエは頭を下げると、すぐに後ろを向いてしまった。

何度か深呼吸をしてから、こちらへと向き直る。

 

顔の赤みは和らいでいたが……まだ赤いな。

 

「大丈夫か?頬が赤くなってるが……」

 

「へっ……そ、そんな……!」

 

またくるりと後ろを向いて、何度か深呼吸。

もう一度こちらに向き直ると、顔の赤みは完全に消えていた。

 

「大丈夫そうだな……よし、ちょっと着替えてくるな」

 

「あっ……はい」

 

そう言って、前掛けを取りに自室へと戻った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

前掛けを取って、ルルティエの待つ食堂へと戻った自分は、早速それを着けてルルティエの隣に立った。

 

目前の机には、皿に乗った樹液の塊。

 

「じゃあ、始めるか」

 

「はい……」

 

まずは……そうだな。

 

すぐに答えを伝えても面白くないし、何より『ルル』という菓子は、ルルティエの一言があったからこそ出来たのであるからして……

 

「ルルティエは、これをどうしたら菓子にできると思う?」

 

まずは意見を聞いてみよう。

 

この樹液は確かに甘いし、お菓子代わりにもなるだろう。

 

しかしクセが強い。渋いというかエグいというか、これを舐めるだけならまだしも、飲み物や食べ物に入れでもしたら味が台無しになってしまうのだ。

 

砂糖やハチミツを混ぜて作るなら話は別だが、どちらも結構なお値段がするし……さて、ルルティエはどう答えるか。

 

「あっ、その事なんですが……」

 

お……もう思いついたのか?

 

「子供の頃に、お兄さまに樹液を集めてもらって、それを煮詰めてみたんです」

 

……ああ。

しかしこの思い出話がなければ、ルルは完成しなかったかもしれない。

一応、反応だけは返しておこう。

 

「煮詰める……か。それはいいな。で、どうなったんだ?」

 

「……」

 

ルルティエは苦い笑みを浮かべつつ、自分の問いに答えた。

 

「……そしたら、ものすごい煙と匂いでお城の中が大変なことになってしまいました」

 

「そうか……駄目だったのか」

 

「う……で、でも、子供の頃でしたから……今やればもしかしたら」

 

よし来た。

ここから、自分達のルル作りは始まったんだ。

 

「そうだな、やってみよう」

 

「えっ……いいのですか?」

 

「それは、子供の頃の話なんだろう?ルルティエは成長してるし、何より料理の腕も凄くなったんだ。今やってみれば、きっと変わるさ」

 

「……はい」

 

そして、ルル作りは始まった……が。

 

簡単に答えを言うまいと決めてしまった為に、失敗するとルルティエが毎回悲しそうな顔を浮かべるのがちょっと辛い。

 

まあ、すぐに「次を……」と気持ちを切り替えているのは、ちょっとかっこいいと思ってしまった。

 

しばらくして、樹液の雑味を取るために自分が『上澄み』ついて軽くコメントをすると、ルルティエは色々と試行錯誤を重ね、ついにエグい雑味が抜けた樹液の上澄み液が出来た。

 

何故か、少し引っかかりを覚えたが。

 

そして、透明な上澄みを早速味見してみると……

 

「あっ……ほんのり甘いです。あの雑味がすっかり消えて……なんだか不思議な感じ……」

 

味見をしたルルティエが顔を綻ばせた。

 

「ああ。ルルティエは凄いな」

 

「へっ……あ……いえ……そんなことは……」

 

照れているルルティエを横目に、ここからの手順を思い出す。

 

確かこの後が大変で、煮詰める時が一番失敗したんだよな。

 

 

「しかし、このままじゃ薄いな……」

 

自分がそう言うと、ルルティエが両胸の前に両手をグッと構えて、やる気のある表情になる。

 

「では……煮詰めてみましょう……!」

 

「ははっ、そうしてみるか」

 

少しそれが面白かったので、自分はつい小さく笑ってしまった。

 

ルルティエが上澄み液だけを別の壺に移している間、自分は竈に火を入れる。

 

「ハクさま……準備出来ました……!」

 

「よし、こっちもだ。早速、ルルティエのやり方で上澄み液を煮詰めてみてくれ。もちろん、失敗しても構わんからな」

 

「は、はい……」

 

うーん、緊張しているな。

 

「ルルティエ、失敗は悪いことじゃないぞ?」

 

「え……?」

 

「よく自分も使っている『失敗は成功のもと』という言葉があるんだ。失敗を一つ一つ積み重ねることで、いつかは成功するって意味のな」

 

「失敗は成功のもと……」

 

「ルルティエがこれまで料理の腕を上げた時も、何度も失敗を繰り返して上手くなっていったんじゃないか?それと一緒さ……この樹液だって、諦めずに何度もやれば最後には成功するはずなんだ」

 

「ハク……さま……」

 

「どうだ、少しは緊張が取れたか?」

 

自分がそう聞くと、ルルティエは一度顔を伏せる。

そしてすぐに、自信に満ち溢れた顔になっていた。

 

「はい……ルルティエ……頑張ります……!」

 

「よし、やってみよう!」

 

いつもより少しだけ大きい声でそう言ったルルティエは、とてもとても可愛らしかった。

 

しかしこの時、自分が大きな間違いをしでかしていたとは全く思っていなかったのである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

やはり、煮詰める作業は失敗ばかりだった。

 

透明から琥珀色に変わったと思えば、直ぐに黒ずみとなって燻したような香りを発生させてしまうのだ。

 

焦げやすい……のか、先程から何度も失敗が続いている。

 

少し手順を変えたり、竈の火力を調節したり……と、ルルティエは諦めずに頑張っていた。

 

それから時間が過ぎ……。

 

「うぅ……ダメでした……」

 

上澄み液を全て使い切ってしまったルルティエは、顔を両手で覆い俯いている。

 

「そうだな……仕方ないさ」

 

「ハクさま……でも……うぅ……」

 

余程響いたのか、ルルティエはその場にしゃがみこんでしまう。

 

……ここまで落ち込ませてしまうのは、自分としても辛いな。

 

そう思いながら黒焦げになった上澄みが入っている鍋が並んでいる机を見ていると……

 

とある『ソレ』を見て、完全に思い出した。

 

「ああぁぁぁぁっ!!」

 

「ひゃうっ……!?」

 

自分が大声で突然叫び出したため、しゃがみこんでいたルルティエが小さな悲鳴を上げてぺたんと尻餅を着いた。

 

「ハ……ハク……さま……?」

 

「あっ、ルルティエ……すまん」

 

ルルティエに呼ばれ、自分は直ぐにルルティエの手を引いて立たせる。

しかし相当驚かせてしまったようだ。こちらを心配そうにオロオロと見つめている。

 

自分は……完全にやらかしていた。

 

あんなにもドヤ顔で「やってみるか!」とか「失敗は成功のもとだ!」とか言っていた自分をぶん殴りたい。

 

自分がルルティエに作ってもらおうとしていたのは『ルル』

 

しかし、上澄み液では『ルル』は作れない。

自分が『ルル』だと思ってアドバイスしていたのは、もっと先の……とある甘味料の作り方だ……。

 

「や、やば……」

 

チラリと、ルルティエの顔を見る。

 

「ハクさま……?」

 

……優しい子だ。こんなにも愚かで情けない約立たずの自分を今も心配してくれている。

 

「ごめんなさい」

 

「えっ……?」

 

「本当に……すみませんでした」

 

「ハ、ハクさま……なぜ謝られるのですか……!?」

 

そりゃあ……自分が完全に悪いからな。

あれほど失敗を繰り返せば成功するとか言っておいて、実は答えも知っているのにそれを伝えず、ルルティエのプライドを傷つけてしまった。

 

最低です……最低な人間です、自分は……。

 

「あ、頭を上げてくださいハクさま……!」

 

……しかしこれ以上謝ってもルルティエを困らせるだけだろう。

自分は心に膨れ上がった罪悪感に何とか言い訳をしながら、複数の鍋の近くにあった壺を手に取った。

 

「……ルルティエ……さん」

 

「へっ……?は、はい……?」

 

「……これで、やってみませんか」

 

「ハク……さま?お言葉が……」

 

「っ……ああ、罪悪感とか諸々でちょっとな……」

 

うぐっ、と胸を抑えて罪悪感に耐えていると、ルルティエは首を傾げた。

そして自分の差し出した壺を覗き込み、声を上げる。

 

「あっ……これは……!」

 

そう。

 

これこそが……『ルル』の材料なのだ。

 

樹液にアマムの粉を混ぜ、雑味を取ったこの上澄みではない『沈殿物』が。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「こ……これは……」

 

自分の贖罪……及び、アドバイスにより出来た『ソレ』を見て、ルルティエは感嘆の声を上げた。

その様子を横目で見つつ、心の中で何度も謝罪する。

 

まな板の上でプルプルと震えている……『ルル』

 

ついに……完成した。

 

「そ、それじゃあ……き、切ってもらってもいいか……?」

 

ルルのように小刻みに震えた声で、自分はルルティエにお願いする。

ルルティエは包丁を手に、それを賽の目状に切っていく。

 

「すごく柔らかいです……」

 

「あ、ああ……早速味見をしてみようか……?」

 

震える手でその中の一切れを爪楊枝で刺し、ルルティエに渡す。

そして自分も手に取り……

 

「じゃあ……いただきます」

 

「はい……いただきます……」

 

二人同時に、口に入れた。

 

……うっ、美味い。

出来てしまった。完成だ。自分達が作ろうとしていた……『ルル』が完成してしまった。

 

チロリと、隣のルルティエを見る。

 

「わぁ……不思議な食感でとても美味しいです……!」

 

「そ、そうだな。これは……美味いな」

 

モチュモチュとした不思議な食感。

そして雑味が消えた、ほんのり甘い味。

何度もルルティエに作ってもらって、仲間達で食べていたあの『ルル』である。

 

「ハクさまは……すごいです……まさかこんなお菓子を思いつくなんて……」

 

「は、はは。いやいや……」

 

頼むから尊敬の眼差しを向けるのをやめてくれ……!!

自分はそんな奴じゃないんだ……!!

 

「いい香り〜」

 

 

それから、クオンやアトゥイ、ネコネが甘い匂いにつられてやってきた。

 

そして大層気にいられたそのお菓子は、ルルティエが頑張ったということで『ルル』と名付けられ、ヤマト中で大人気となったのだった。

 

……ごめんよ、ルルティエ。

 

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