[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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今回のハクさん……少し怖いです。
後、何故かネコネさんが情緒不安定です、


49 知将

ルルティエが作った昼食を食べ終え、自室で休憩していると……

 

「ハ、ハクさん!大変なのです!」

 

ネコネが突然、部屋に飛び込んできた。

 

「あ!?な、何事だ!?」

 

布団に寝っ転がっていた自分は、ネコネの動揺した様子に飛び起きる。

 

「こ、これを……」

 

ネコネは息を切らしながら、震える手で一枚の書状をこちらに差し出した。

 

それを受け取り、すぐに目を通してみると……

 

「……左近衛大将……ミカヅチから、だと?」

 

宛名に書かれていた名前を見て、自分は呆然とする。

 

突然、何の用だ……?

 

これまで、ミカヅチと顔を合わせたことは一度も無い。

もちろん飴屋にも行っていない。どうせ行っても、ボロギギリの微妙に不味い飴しか買わせてくれないからな。

 

だからこそ、そんな自分にミカヅチからの書状が届くなど、謎でしかない。

 

「……ネコネと二人で来い?どういう事だ?」

 

書状に書かれていた内容としては、自分……ハクと一度話をしたい。そして、ネコネと二人でこい。歓迎する……といった不穏な内容だった。

 

いや別に、アイツが悪い奴じゃないのは分かっている。

それこそネコネを誘う理由も、一応知っているつもりだ。

 

「ハクさん……」

 

不安な声で呼ぶネコネに、自分は書状を閉じて、頭を撫でてやる。

 

「そんなに心配しなくても、大丈夫なんじゃないか?」

 

「何を言ってるのです!」

 

しかし自分の優しさは、ネコネにパチーン!と叩き落とされてしまった。

ネコネはプルプルと震えながら、一度深呼吸をして自分の前に正座する。

 

「いいですか……これは、謀略なのです」

 

「……は?」

 

突然このちびっ子は何を言い出すんだ?

 

「兄さまに近しい者を誘き寄せて拐かし、手駒にする……その為に、わたし達を呼んだに違いないのですよ」

 

「……いや、それはないだろ」

 

「ハクさんはあのヒトを知らないからそう言えるのです。油断すると……パクっと食べられてしまうのですよ!」

 

んん〜?

 

「ミカヅチは兄さまと双璧を成すもの。ですが、兄さまとはいつも剣呑な雰囲気なのです。きっと、これは兄さまを罠に嵌めて蹴落とすために……」

 

……あ、そういえば。

 

ネコネは妙に、ミカヅチを怖がっていたな。

まぁ、あの顔じゃ怖がられても仕方が無いとは思うが……この時はまだ、オシュトルとミカヅチがめちゃくちゃ仲がいいことを知らなかったんだっけか。

 

「……ど、どうするですか」

 

いや、そんな眼前に迫りながら言われても……

 

「自分は別に行ってもいいが……というか、ネコネの考えすぎじゃないか?」

 

「だから、これはミカヅチ様の……」

 

「それにしてはあからさま過ぎるだろう。第一、この書状はどこで受け取ったんだ?」

 

「……兄さまの屋敷です」

 

「誰に渡されたんだ?」

 

「……兄さまからです」

 

「ちなみにその時、兄さまはなんて言ったんだ?」

 

「…………ハクを連れて行きなさい、と言ってましたです」

 

こ、こいつ……あまりの恐怖に早とちりしただけじゃないか……!

冷静じゃなくなってるのか?ここは一度、諭してみるか。

 

「ネコネは頭が良いんだ。それくらい、冷静に考えればわかるだろう?」

 

「うっ……」

 

「なのに謀略だの、罠だの……ミカヅチが可哀想じゃないか?」

 

「で、でもっ……!」

 

「じゃあ、実際にネコネはミカヅチになにかされたのか?」

 

「……凍るような鋭い目で、睨まれるのです」

 

「本当に?ただ見ているだけじゃないのか?」

 

「……残忍な笑みを浮かべ、殺気を向けてくるのです」

 

「それはネコネがそう思ってるからで、実は普通に笑ってて気迫が凄いだけじゃないのか?」

 

「……で、でも……その……うぅ……!」

 

あ、やべ。

ネコネがプルプルと震え、唇を寄せて涙を浮かばせている。

……言いすぎた。

 

「ま、まぁ……その、なんだ。ネコネはそこが凄いんだけどな?」

 

「へ……?」

 

ネコネが驚いたように、涙目でこちらを見上げる。

……鼻水が少し出てるよ、ネコネさん。

 

「えっと……そう。知の優れた策略家ってのは、物事を裏の裏までしっかりと予測し、準備をしてから対処するんだ」

 

その言葉に、ネコネは首を傾げた。

 

「あー……自分は今、単純にネコネを責めてしまったが、ネコネはミカヅチの行動をちゃんと考えて、謀略の線もあると読み、自分に伝えに来てくれたんだろ?」

 

「そ、それは……そうなのです……」

 

「普通の奴にそんなことは出来ない。自分なんか、簡単に行こうとしてたからな。もし謀略だったら、今頃ペロリと平らげられちまってるだろう」

 

「ハク……さん……」

 

「本当にネコネは凄いな。オシュトルがよく自慢するのも分かるよ」

 

そう言って、オシュトルがするように優しくネコネの頭を撫でる。

ぐすっ、と鼻水を啜りながら、ネコネはされるがまま自分に撫でられ続けていた。

 

……こうしていると、オシュトルを演じていた時のことを思い出すな。

 

最初は自分を責めてばかりで、生への執着もない人形のようだった。

しかし時間が進むにつれて、ネコネとの絆も深まっていった。

 

時には布団に入ってきて添い寝をしてきたり、膝の上に座って撫でられに来たこともあった。

 

そんなネコネを自分は実の妹として、接していた。

 

ネコネはそんな自分をもう一人の兄として、接してくれた。

 

「すまない、ネコネ。自分が悪かった」

 

頭を撫でながら落ち着いた声色でそう言うと、ネコネはそのまま頷いた。

 

そして……ぐしぐしと袖で涙を拭うと、真っ赤になった目でこちらをチロリと睨み、撫でていた手を振り払った。

 

「……わ、判ればいいのですよ。全く、ハクさんは詰めが甘いのです」

 

相変わらず冷たい言い方だが、頬に朱が差している。

これは……恥ずかしい、のか?

……気付かないふりをしよう。また泣かれても困るしな。

 

「いいですか。相手は兄さまの宿敵である、左近衛大将ミカヅチ!強い気持ちで臨まないと、のまれてしまうですよ!」

 

フンス!と鼻息を荒くして立ち上がり、拳を上に掲げるネコネ。

 

自分はそんなネコネに溜息を堪えながら、共にミカヅチの屋敷へと向かうのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

白楼閣を出て、ミカヅチの屋敷に向かう途中の大通り。

緊張しガチガチになっているネコネの歩調に合わせて、進み続ける。

 

そしてついに。

 

「こ、ここを真っ直ぐ行くと……ミカヅチ様の屋敷なのです」

 

ネコネに言われた通り、ミカヅチの屋敷の近くまで来た。

 

「んじゃ、行くか」

 

「……」

 

んん?

 

「どうしたネコネ。なぜ止まる?」

 

「……ハクさん、ちゃんと気をつけるのですよ」

 

「もちろん。ネコネが教えてくれたからな……気をつけるさ」

 

しかし、自分がそう言ってもネコネは一歩踏み出せない。

どうするか……と考えていると、少し離れたミカヅチの屋敷から、一人の銀髪の少年がこちらへと走ってくる。

 

「ひっ……!」

 

……あれはミルージュ、だっただろうか。

ミカヅチに仕える小姓で、自分が彼と顔を合わせたのは数回ほどしかない。

しかしなんだ……見れば見るほど、ライコウの小姓だったシチーリヤや、ウォシスの冠童と顔が似ている。

 

結局、エンナカムイでのミカヅチ戦以来見ることも無かったが……まさかな。

 

「……ん?」

 

そこで気づく。

ネコネが自分の背中に隠れ、ギュッと自分の着ている服を掴んでいたことに。

 

「ネコネ、あれはミカヅチじゃないぞ」

 

「……わ、分かっているのです」

 

分かっているなら、とりあえず背中に隠れるのをやめろ……と喉まで出かかった言葉を何とか飲み込んだ、

 

……なんか、以前よりも更に怖がっていないか?

 

ネコネの様子がよく分からないまま首を傾げていると、ミルージュが自分たちの前に立ち、丁寧に礼をした。

 

「ハク様、ネコネ様、お待ちしておりました。私はミルージュ。ミカヅチ様の傍付きをしている者です」

 

「こりゃ丁寧にどうも。自分がハクだ。後ろのは……まあ、分かるか」

 

「ええ……お久しぶりです、ネコネ様」

 

ミルージュは小さく笑いながら、背中に隠れたネコネにも丁寧なお辞儀をする。

 

「うぅ……お、お久しぶりなのです……ミルージュさま」

 

「お、おいネコネ……」

 

一応返答はしたが、すぐに自分の背中に隠れてしまった。

ミルージュはその様子に苦笑を浮かべながらも、屋敷を手で示した。

 

「お屋敷までご案内します。どうぞ、こちらへ」

 

「ああ……よろしく頼む」

 

自分がそう言うと、ミルージュはくるりと身を翻し屋敷へと進み出す。

 

背中の服が引っ張られて一歩が何だか重く感じるが、流石にこれ以上ミルージュを困らせる訳にも行かないので、気にしないことにした。

 

そして、門をくぐり屋敷へ上がる。

玄関からミカヅチの部屋までは、記憶の通りならば結構距離が離れているので、ミルージュに歩きながら質問してみる。

 

「しかし、ミカヅチ……様と呼んだ方がいいのか。一体、自分とネコネに何の用だ?自分はまだ一度も話した事はないんだが……」

 

「それについては私の口からは……ミカヅチ様直々にご説明があるはずです」

 

ふむ、よく分からん。

まさかとは思うが、兄貴が何かしたのか……?

……いや、これは多分オシュトルのせいだな。

そうしよう。そう決めた。

 

「ちなみにミカヅチ様は……『ククク、楽しみに待っているぞ』と仰られていました」

 

「ひ、ひぃ〜……」

 

微妙に上手い声真似で語るミルージュに、へばりついた後ろの小動物が鳴いた。

しかしミルージュは気にすることも無く、歩きながら話し続ける。

 

「それと申し訳ないのですが……今、別のお客様がいらしてまして、奥でお待ち頂くようにと仰せつかっております」

 

「……客?」

 

なんだ、この既視感のような……。

 

「はい、突然のご来訪でお断りも出来ず……」

 

ミカヅチが断れない?

まさかとは思うが……いや、というかこれは。

 

「ーー誰か来たのか?」

 

「ッ!?」

 

ミルージュの案内で廊下を歩いていると、突然……何者かに呼びかけられた。

足音で察したのだろう。自分のすぐ隣にある障子の奥から聞こえた。

 

そして、この声は……!

 

「え、えとっ!?こ、こ、これがその……ミカヅチ様がお呼びしたお客様で、決して怪しい方々では……」

 

ミルージュはその声に動揺し、障子の向こうへ必死に言い繕う。

 

「ふん。貴様に客人か……珍しい。槍でも降るのではないか?」

 

「あ、あの、お気に障ったのでしたらご容赦を……すぐに退散致しますので……!」

 

「構わん、ここに通せ」

 

「で、ででですが……」

 

「こやつの客人に興味がある。いいだろう?」

 

障子の向こう、声の主が誰かに問う。

 

「ああ……」

 

その声の主に、その誰かは同意した。

 

「わ、判りました……」

 

ミルージュは額に汗をびっしり張り付かせながら障子に手をかけると、聞こえないように小声でこちらに語りかける。

 

「申し訳ありません……お付き合い願えますでしょうか」

 

「…………」

 

「……ハク様?」

 

「っ……ああ、大丈夫だ」

 

自分は返答し、後ろのネコネに振り返る。

ネコネもまた、その声の主が何者なのか分かったようだ。更に顔を真っ青にさせて、こちらを見上げている。

 

「……大丈夫だネコネ。何かあれば自分がお前を必ず護る」

 

そう言って頭を優しく撫でると、ネコネも小さく頷いた。

 

「あ、あの……ミカヅチ様より安全ですから、た、多分?大丈夫です」

 

「……そ、そうか」

 

せっかく引きしめた気持ちが、ミルージュの動揺で緩みそうになった。

 

「ど、どうぞ……」

 

ミルージュがゆっくりと襖を開け、部屋にいた者と自分は対峙する。

 

「よく来たな」

 

まず、そう呼びかけたのは左近衛大将……ミカヅチ。

 

そして、その対面に座する者。

 

聖賢のライコウ。

 

自分がオシュトルとなって、戦乱で何度も嵌められ、決戦で一度だけ勝利することが出来た知略の将。

 

そして……ヤマトという國を帝の……兄貴の庇護下から独り立ちさせるために動いた男。

 

「え、ええとぉ……」

 

ミルージュが自分達をどこに置けばいいのか判らず右往左往している間、ライコウに上から下まで値踏むように見つめられる。

 

「ハ、ハクさん……」

 

「……大丈夫だ」

 

その視線に怯えるネコネを隠し、自分はライコウに視線を向けた。

しかしライコウはネコネに気づいたのか、自分から視線を外しそちらに向けた。

 

「貴様……オシュトルの妹か?」

 

「え、ええっ!?」

 

突然秘密にしていたことを言い当てられたネコネは、素っ頓狂な声を上げて自分の背から飛び上がる。

 

しかしどうやら恐怖よりも動揺が勝ったようだ。背に隠れるのではなく、自分の隣で驚愕していた。

 

「ど、どうしてその事を……?その事は一部のヒトしか……」

 

ネコネが恐る恐るチラリとミカヅチに視線を向けた。しかし、ミカヅチは自分では無いというように肩をすくめる。

 

……ライコウなら、気づくだろうな。

 

この男こそ、先程ネコネを慰める時に語った優れた策略家。

 

裏の裏まで全てを読み、対策を講じ、確実に捻り潰す。

この男の策に、どれだけ苦しめられたことか。

 

ネコネが返答を待っていると、ライコウは大したことではないという風に淡々と答える。

 

「世を制するのは情報だ。そこの小娘がオシュトルの妹などということは、とうに知れている。そして……」

 

ライコウはそう言って、次にこちらへ視線を向けた。

 

「ハク、貴様がオシュトルの隠密として、あれこれ裏で動いていることもな」

 

「……」

 

「ほぅ……驚かないのか」

 

「……聖賢のライコウ、お前のことはよく知っているさ」

 

自分がそう言うと、ライコウの後ろに控えていた黒紫色の髪の小姓……シチーリヤの眉が寄せられた。

 

「貴様、ライコウ様にな……」

 

「黙れシチーリヤ。俺は許可していないぞ」

 

「……はい、申し訳ございません。ライコウ様」

 

自分を注意しようとしたシチーリヤの言葉を途中で遮り、下がらせる。

そしてこちらを見たまま、ライコウは小さく笑った。

 

「さて……何を知っているというのだ、ハク?」

 

……ここで全てを話すのは得策じゃない。寧ろ危険、消されるかもしれない。仲間までも、巻き込んでしまうかもしれない。

 

「……さて、何を知っているんだろうな」

 

「ほぅ……?」

 

だが……聞いておきたいことがある。

今、この時……既にそれを考えているのか。

 

「……ただ、聞かせて欲しい」

 

「なんだ?言ってみろ」

 

この問いは、自分がライコウという男に初めて共感した……野望、いや……大義について。

 

「ライコウ……アンタはこの國をどう思う?」

 

沈黙。

ネコネが止めるようにこちらの袖を掴み、ミカヅチの眼光が突き刺さる。

 

そして、ライコウは……

 

「ククッ……」

 

笑った。

そしてこちらに向けられる視線は、先程とは違う。

 

「……面白い」

 

多数の情報の一人ではなく、そこで初めて興味を抱いたかのような視線。

 

……こいつは、もう既に考えているのだ。

帝の庇護下からこの國を独り立ちさせると。

 

『國とはそこに生きる人々の力によって繁栄と衰退を繰り返していくものであり、それが自然の摂理である』

 

その大義を、胸に抱いているのだ。

 

「さて、ハクよ。貴様は俺の事を知っているようだ……が、こうして会うのは初めて。改めて名乗るとしよう」

 

ライコウはそう言って、悠然と立ち上がる。

 

「ライコウだ。ヤマト八柱将の人柱を授かっている。そして……」

 

対面のミカヅチへと視線を向けた。

 

「そこのミカヅチの兄でもある」

 

「……自分はハクだ。隣にいる彼女はネコネ……よろしく頼む」

 

「ああ……覚えておこう」

 

そして自分とライコウの自己紹介が終わると、シチーリヤが一歩前に進み、こちらを睨みながら小さく礼をした。

 

「私はシチーリヤです。ライコウ様の御傍付きをさせて頂いております」

 

紹介が終わると、シチーリヤは一歩下がった。

 

「しかし、あのオシュトルが認めた男か……ククッ、面白い」

 

ライコウは再びらこちらをジッと見つめ不敵な笑みを浮かべると、独り言ちるように言った。

 

「……何が面白いんだ?」

 

「あの男は容易くヒトを信頼するが、反面頼ろうとはしない……つい先日、旅先で出会ったばかりと聞く。そのような男を信頼し、頼りにしているのだ。これを面白いと言わず何と言う?」

 

ライコウの不敵な笑みが、更に深まる。

 

「しかし貴様、何者だ?」

 

しかし、次の言葉を放った途端に……鋭い視線が突き刺さった。

 

「オシュトルがウコンの名で、クジュウリからの荷を護衛した際、貴様と出会った……そこまでは調べが付いている」

 

「……」

 

「だが、その先はプッツリと手がかりが途絶えてしまう。まるである日突然……この世に現れたかのようだ。貴様は一体……」

 

やはりこの男は侮れない。

 

自分が最初に目覚めたのはこの男の言う通り、クジュウリのシシリ州。

そしてクオン、ウコン、マロ、ルルティエと出会った場所だ。

 

その情報をここまで確実に得ているのは、この男の手腕によるもの。

背筋に寒気を感じながら、自分は返答した。

 

「……正直、それに関しては自分が聞きたいくらいでな。もし知っている事があるのなら……ぜひ教えてくれ」

 

自分がそう言うと、ライコウは暫し沈黙していたが……やがて緊張が途切れたようにフッと笑みを戻した。

 

「成る程、な。やはり面白い男よ……貴様の言う通りだ。簡単に知れてしまう答えなぞつまらん」

 

ライコウはそう言って、こちらの目前を通り過ぎ障子に手をかけた。

そのライコウに、先程まで沈黙してこちらを見ていたミカヅチが声をかける。

 

「もう帰るのか?」

 

ミカヅチの問いかけに、ライコウは振り向かずそのまま答えた。

 

「ああ、もともと近くを通りかかったから、愚弟の顔を見に寄っただけの事……だったが」

 

しかし、ライコウは顔を動かし、こちらに視線を向けた。

 

「……クッ、面白いものが見れた。感謝するぞ、愚弟よ」

 

そう言って、部屋を出ていった。

慌ててシチーリヤもその後を追い……二人を見送るためなのからミルージュもまた、一礼すると静かに部屋を出ていった。

 

残されたミカヅチは、ライコウが去った後も微動だにせず、じっと押し黙ったまま障子を見つめ続けている。

 

そんな張り詰めた空気の中……

 

「何をしているのですかッ!」

 

「んがっ!?」

 

隣にいたビビりチビ助が、自分の腹に頭突きを食らわせた。

内臓に直接入ったその痛みに、呻き声を上げながら蹲る。

 

「な……にすん……だ……!」

 

しかし、ネコネは涙を浮かべながら声を張り上げた。

 

「それはこちらのセリフなのです!どうしてライコウさまにあのような無礼を働いたのですか!」

 

「ぐっ……それは……」

 

「あの御方は敵に回してはいけないヒトなのですよ!ハクさんが生意気な態度をとった事で兄さまに迷惑がかかったらどうするつもりなのですか!」

 

うなーっ!とこちらに叫び続けるネコネ。

その様子を、ミカヅチはじっと見つめていた。

 

「い、いや……そんなことより……ほら……アレ……」

 

自分はそんなミカヅチを指差す、が。

 

「そんなことではないのです!兄さまにもちゃんと、報告……を……」

 

頭に血が上っていたネコネは自分を叱り続けていたが、やがて自分が指差した方向から視線を感じ取ったのだろう。

 

ギギギ……と音がしそうなほどぎこちない動きでそちらを見る。

 

「…………」

 

ミカヅチの鋭い視線が、ハッキリとネコネを捉えていた。

ネコネは怒ったことにより顔が真っ赤になっていたが、すぐにその顔も青く染まっていく。

 

そして……

 

「ひぅっ……!」

 

蹲った自分の身体に隠れるように、ネコネも蹲ってしまった。

フサフサの尻尾がピンと伸び、プルプルと震えている。

 

「…………」

 

ミカヅチはただ、それを眺めている。

 

「う、ぐ……」

 

自分は腹の痛みに、悶絶している。

 

「ぁ……あぁ……!」

 

ネコネは鋭い視線から逃れるように、自分にへばりつき蹲る。

 

 

……これを地獄絵図と言わず、なんと言うのか。

 

 

自分には、どうにもそれ以外の言葉が思い浮かばなかった。

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