[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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まず初めに……すみませんでした。
前回の後書きで、朝には投稿すると言っていましたが、気がついたら出勤時間となっており、ここまで遅くなってしまいました。

所々カットしている部分もありますが、今回は相当長いです。
まとめているので不自然な部分もありますが、そこはご了承ください。

では、どうぞ。



53 誘拐

 

「乙女の恋路を邪魔し、あまつさえ引き裂こうなどとは……そのような悪行、見過ごすわけにはいかん!」

 

……なぜ、こんなことに。

 

「おいテメェ!俺様を無視するなじゃんよ!」

 

全てがおかしい。

 

皇女さんと出会ったのは今日が初めてであり、この茶番劇が起きるのはもう少し後だったはずだ。

更にはそこに、これまで顔を見せることのなかった語尾のおかしいあの盗賊さえ出てきた。

 

「そう、それがいい女というものだ!!」

 

「おい!!」

 

さっきまであれほど焦っていたのが嘘みたいだ。

自分にはもう何が何だか判らない。

自分は狂ったのか?もしや、これは夢なのか?

 

「黙れモズヌ!邪魔をするなぁ!」

 

「よくも俺様を嵌めやがったな……ノスリィ!」

 

 

そうだろう?そうであってくれ……頼むから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「これは……一体なんなのです」

 

「ネコネさん、どうしたんですか……って、ハクさん?それに皆さんも……」

 

自分が痛みで動けず地に伏せていると、食堂の入口からこちらに蟲を見るような目を向けてくるネコネと、どうやら自分のアドバイスが上手くいったのかデレデレしていたキウルが立っていた。

 

今現在、自分達……いや、女性陣は楽しそうに菓子を食べながら談笑している。

ちなみに自分は、禍日神クオンの尻尾に脳を破壊され、体が麻痺したように動かない。

 

先程より少し口を開くことが出来るようになってきたため、ネコネとキウルにそう説明した。

 

「……あの御方が、なぜここにいるのですか」

 

「ネコネさん?あの御方って、あの子のことですか?」

 

ネコネはキウルの質問を無視して、不機嫌そうに皇女さん達の元へ向かった。

キウルは無視されたことにショックを受けつつも、倒れている自分を起こそうと肩を貸してくれた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……そこの椅子に座らせてくれ」

 

自分はキウルの優しさに感動しつつ、手伝ってもらい椅子に腰を何とか下ろせた。

 

「それで……先程のネコネさんが言っていたあの御方、というのはなんなのでしょうか?」

 

「……まあ、見てれば分かるさ」

 

「は、はい……」

 

キウルが不安な表情を浮かべ、皇女さん達の所へ向かったネコネに視線を向けた。

……しかし、そのまま皇女さんに目を凝らしたのだろう。やがて顔を真っ青にさせながら、プルプルと震えてこちらへと問いかける。

 

「あ、あれ……?あの子……もしかして……でもまさか……そんなハズ……ないですよね……?」

 

ああ、気づいたか。

しかし自分は返答せず、ニコリと笑った。

 

「その笑顔はなんですか!?」

 

キウルが悲鳴混じりでそう言った時、ネコネも皇女さんへと声をかけた。

 

「何をしているのですか。御身を弁えてくださいです、姫殿下」

 

「……ん?」

 

「あ、ネコネさま……」

 

「ネコやんやぇ」

 

「ネコネ?」

 

楽しそうに談笑していた女性陣が、一斉にネコネへと視線を向ける。

 

「…………」

 

そしてキウルは、ネコネの『姫殿下』発言に硬直した。

 

「……其方、もしやオシュトルによく引っ付いておる者か?」

 

「ネコネなのです。オシュトルさまの補佐を任されているのですよ……それよりも姫殿下。このような場所で何をされているのですか?」

 

「や、やっぱりぃぃぃぃ!!?」

 

ネコネの二度目の姫殿下発言によって、遂に確信したようだ。

キウルは飛び上がり悲鳴をあげると、すぐに皇女さんの近くへと跪いた。

 

「ハハーッ!」

 

「な、なんじゃ!?」

 

突然土下座し始める少年に、皇女さんも驚いたようだ。手に持っていた菓子を落とし、ビクビクとしながらそちらを見ている。

 

「おーい、皇女さん」

 

そんな皇女さんに向けて、自分は見事な土下座をしているキウルの説明をすることにした。

 

「そいつはエンナカムイの皇子、キウル。そして自身でも名を言っていたが一応……その隣にいるのはネコネだ。自分達と同じ、オシュトルに雇われている奴等だよ」

 

「そ、そうなのか」

 

「ちょ、ちょっとハクさん!姫殿下になんと言う無礼を……!」

 

キウルが涙目になりながら、こちらに振り向いて叫ぶ。

しかしそれに答えたのは、皇女さんだった。

 

「よいよい、キウルよ。

今の余はただのお忍びであって町娘のアンという身分じゃ。堅苦しい挨拶も言葉遣いもいらぬ」

 

それを聞いて、ネコネは一気に不機嫌そうな表情を浮かべた。

 

「まさか、御一人で来たなどということは……」

 

しかし図星をつかれているというのに、皇女さんは余裕な笑みを浮かべた。

 

「当然じゃ。町娘は供を引き連れて歩かないのじゃろう?つまり、一人でもなんらおかしくはないのじゃ」

 

「ひ、一人でって……うぐ……」

 

キウルも先程から顔が真っ青で、胃の辺りを手で抑えている。

……心中お察しするぞキウル。後でクオンに胃薬をもらおうな。

 

「それで、こんな所へ何しにいらしたですか。姫殿下がいらっしゃる理由など考えられないのですが」

 

あっ、それは……

 

「そこにいるハクに声をかけられ、連れてこられたのじゃ」

 

「ちょっ、おまっ!!?」

 

「……ハク……さんが……です?」

 

あ、あああ……!!

怖い、ネコネの真顔がいつもより数段怖くなってるぞ……!

何やら黒い波動を出して、ジリジリとこちらに詰めてきているような……す、脛が寒くなったのは勘違いか……?

 

「お、おい……自分はただ……」

 

「なんです……?」

 

やばい、非常にやばい。

流石にネコネもブチ切れた。そりゃそうだ。このヤマトのお姫様を、一般市民の自分が連れてきたのだから。

 

しかし、ここで死にたくはない。

 

「皇女さんが、オシュトルに会いたくて自分の所に来たんだ!じ、自分は悪くないぞ!」

 

「なぬっ!?」

 

「兄さ……オシュトルさまと?」

 

突然全てを皇女さんのせいにした自分に、皇女さんは驚愕した。

そしてネコネは……どうやら少し怒りか収まったようだ。

 

「あ、ああ……オシュトルと親しいなんて噂を聞いて、自分の所……つまり白楼閣にくれば会えると思ったんだと。んで、その来る途中に会ってだな……」

 

「……そうなのですか、姫殿下」

 

「お?いや、それは……ええいハク!嘘をつくのではない!」

 

「嘘じゃないだろう!?実際、お前さんはここに来るつもりで、噂を聞いて自分に会いに来たのも真実なんだ!お前さんこそ罪を認めろ!」

 

「な、なんじゃと……?」

 

「や、やるか……?」

 

シュッと二人とも席から飛び出し、互いに拳を構え対面する。

これに負けるわけにはいかない。もし負けたら……二度と膝は機能しなくなるだろう。

 

そしてついに、二人は交差する……いや、しなかった。

 

「姫殿下、はしたないのです。このようなヒトの相手をする必要は無いのですよ」

 

「ん?そ、そうじゃな……」

 

「ハクさんは黙って隅っこに座ってて下さいなのです。正直、邪魔なのです」

 

「なっ……ネコネぇ……!?」

 

間にスっと割り込んだネコネにより、皇女さんは落ち着きを取り戻し、自分はざっくりと心を傷つけられた。

 

……隅に参ります。

 

「それで姫殿下。先程の……オシュトルさまに会うためというのはどういう意味なのですか」

 

「うぐ……」

 

それから皇女さんが来た理由について語ると、またネコネは真顔となり黒い波動を発し始めた。

 

自分は隅で固まっていただけだが、あまりの怖さに身体も震えてしまうほどである。

他の皆も皇女さんの目的には苦い笑みを浮かべていたが……

 

「もしかしてお姫さま、オシュトルはんに恋をしてるん?」

 

一人だけ、菓子の食べかすがついた口を嬉しそうに歪める少女……アトゥイ。

 

「よ、よく判ったの!?」

 

いや、誰がどう考えても判るだろうに……

 

「ウチは恋に生きる女やもん。そのくらいお見通しやぇ」

 

「なんと!?スゴいのじゃ……」

 

アトゥイが自慢げに胸を張り、皇女さんがぱちぱちと小さく手を叩いている。

……あれ、何かこの光景見たことある気がするぞ。

 

「なぁなぁ、お姫さま。よかったらウチに話してみぃひん?お姫さまの恋、ウチも応援して上げるぇ!」

 

「お、おぉ……!本当か?」

 

「もちろんやぇ。恋のことなら、ウチにドーンとおまかせや」

 

反らせた胸をポンっと叩き、キラキラとした目を皇女さんに送るアトゥイ。

 

「そうか……では、語るとしようかの」

 

皇女さんもどうやら、アトゥイに相談することにしたようだ。

 

「実はの、最近……余の配下であるオシュトルが、宮廷で会っても録に会話もせず、こちらから話しかけてもあまり相手をしてくれぬのじゃ」

 

「最近、オシュトルはんも忙しそうやからねぇ」

 

「それは余も判っておる。しかし、余のこの胸の高鳴りは、切なさは膨れ上がるばかり……もはや、オシュトルに嫌われているのではないかと不安になることもあるのじゃ」

 

「うぅ……お姫さまをこんなんにするなんて、オシュトルはんも罪な男やぇ」

 

落ち込むような素振りを見せる皇女さんの頭を、アトゥイは優しく撫でる。

 

「じゃろう?余はこんなにもオシュトルを想いを寄せておるというのに、オシュトルは余の気持ちに全く気づいてくれぬ」

 

それはあえて気付かないふりをしているんだと思うが……まあ、まだ子供である皇女さんには判らないか。

 

「ちょ、ちょっと待ってアン」

 

そこに、クオンが苦笑を貼り付けたままツッコむ。

 

「オシュトルって、帝の直属だよね?アンの配下じゃ……」

 

「余の寵臣で、いずれ余の隣に立つ漢なのじゃからそう言っても過言ではないじゃろう?」

 

「あ……そう、だね」

 

それが当たり前だとでも言うような皇女さんの言い方に、クオンは折れたようだ。

そしてなにかに気づいたのか、ふとネコネに視線を向ける。

 

「そうじゃ、確かネコネじゃったな。もしや其方も、オシュトルに心を寄せておるのか?」

 

「んなっ!?」

 

純粋な眼でネコネにそう聞く皇女さん。

素晴らしいほど直球である。

 

「そ、そんなことは……ないのです」

 

「隠さなくてもよい、オシュトルは良い漢じゃからの。じゃが駄目じゃぞ?惚れるくらいは許してやるが、オシュトルは余の良人となる漢なのじゃからな……諦めるが良い」

 

良人って、國が揺れるぞおい……

しかし皇女さんは気にしていないようで、ネコネに淡々と告げた。

 

「…………」

 

ああ、ネコネさんから更に黒い波動がゆんゆんと溢れ出ている。

皇女さんは全く気づくことはなく、またオシュトルへの気持ちを語り始めた。

 

「余はいつでもオシュトルを受け入れる準備は出来ているというのに。もしやとは思うが、衆道の道があったり……」

 

「っ……ええっ!?」

 

……いやあの、ルルティエさん?何で妙に嬉しそうにこちらを見ていらっしゃるんでしょう?

無いから、絶対無いから。

 

「あに……そ、そんな趣味はないのです!」

 

「そうか?では何故……」

 

ネコネが必死に否定したことで、とりあえずオシュトルの衆道という話は消えたが、皇女さんは更に落ち込んでしまった。

そこに、アトゥイが何かを思い出すように声を発した。

 

「あ……そういえば、この前読んだお話に、似たような感じなのがあったなぁ」

 

「む?」

 

落ち込んでいた皇女さんも、アトゥイの言葉に反応し顔を上げる。

 

「無愛想な男を好きになった女の子のお話でな?そのヒトの気持ちを知りたくて、いろいろと行動を起こす話なんよ」

 

「おぉ……それは余とオシュトルではないか」

 

えぇ……

 

「でも、邪魔が入ったり失敗したりで中々上手くいかなくて、勢い余って狂言誘拐されて男の気持ちを確かめようとしたんよ」

 

……あれ?狂言誘拐?

 

「そしたら、本当に誘拐されてしもてなぁ?」

 

「そ、それで……どうなったのじゃ?」

 

嫌な予感。

いやしかし、まだ出会ってすぐだぞ?まさかそんなことに……ならないよな?

 

「最後は、そのヒトが全てを投げ出す覚悟で助けに来てくれるんよ。男のヒトが素っ気なかったのは、そのヒトも少女を憎からず思っていたけど、不器用で態度に表せなかったってオチやったぇ?」

 

「なっ、アトゥーー」

 

「ーーそれじゃ!」

 

「はぇ?」

 

既に遅いがアトゥイを止めようとした時、皇女さんがおもむろに立ち上がり、人差し指をビシィッとアトゥイに差した。

 

「その方法なら、オシュトルの気持ちを確かめられるのじゃ。攫われた余をオシュトルが救い出す……語られる本心……姫殿下、いやアンジュ……某はあなたが……ぐひゅひ……」

 

あ、ああ……乙女にあるまじき笑みを……。

 

「そして、結ばれる二人……でゅふふ、完璧じゃ」

 

「……ああ、それいいぇ!流石にウチやぇ!恋の百戦錬磨に隙はなかった!」

 

「うむ、頼もしいのじゃ」

 

ぷ……百戦錬磨……ぁ……?

 

「……おにーさん、なんぇ?」

 

「いえ、何でもありません」

 

こ、怖い。

そのホワワンとした笑みで青筋立てるの本当に怖い。

自分がアトゥイに睨まれていると、突然というか予想していたというか……皇女さんがこちらの目の前に立った。

 

「うむ、そうと決まれば早速……ハク、余を誘拐するのじゃ」

 

「お前さんは自分を殺す気か。無理に決まってるだろう」

 

「なっ、何故じゃ!?其方が謎の悪漢となってオシュトルと対峙……」

 

「まずそれだ。自分がオシュトルと対峙なんてしたら絶対死ぬぞ。あの強さはお前も知っているだろう?」

 

「た、確かに其方は些か弱そうに見えるが……オシュトルならきっと手加減してくれるのじゃ!」

 

「は、はぁ……」

 

「そしてオシュトルにボコボコにされたハクは、余に剣を突きつけこう言うのじゃ!姫……」

 

「姫殿下の命は預かった。貴様が真に姫殿下を思っているのなら、命がけでかかってくるがよい……とかじゃないだろうな」

 

「お、おぉ……凄いのじゃ。ハク、余は感動したぞ」

 

「馬鹿か、それくらい誰でも予想できるわ。そしてもしそれを言えば、確実にオシュトルの手加減云々は無くなる。判らないのか?」

 

「う、うぐ……よく判らんが、細かなことを気にするでは無い」

 

「おい……」

 

このまま止められればいいが……まだコイツの目は諦めていない。

 

「では、キウルよ!」

 

「はっ!……あっ」

 

「其方が悪漢となるのじゃ!」

 

「わ、わわ私がですか!?そ、それも……兄上と!?」

 

「そうじゃ。ハクが断ったのじゃからな、もう残っている男は其方しかおらぬ」

 

「ハ……ハクさぁん……」

 

いや、断れよ。

真面目で気弱なキウルじゃ断るのも辛いと思うが、時には上司の間違いを正すのも部下の役目なんだぞ。

 

「姫殿下、それくらいにしておくのです」

 

「ネコネ、邪魔をするでない。これはオシュトルと余が結ばれる為の大事な計画なのじゃ。ネコネには申し訳ないが……」

 

「んなっ!何が申し訳ないですか!べ、別にあに……オシュトルさまに……その……あぅ」

 

ネコネ、撃沈。

きっと心の中で戦ったんだろうな。好きだが言うのは恥ずかしい。だからといって嘘をつくのも辛いと。

 

「うむ、ではキウルよ……」

 

「待て、皇女さん」

 

「邪魔するでない、ハク」

 

流石にこれ以上はキウルの胃が持たない。

そしてキウルは断りきれず、何が起きるかもわからない。

 

それだったら……いっそコテンパンに叩き潰すしかないだろう。

 

「皇女さん……いや、姫殿下」

 

自分は皇女さんの前に膝をつき、オシュトルの際に行っていた礼をする。

そして以前……ムネチカが言っていたことを真似して、皇女さんをなんとか止めさせようとした。

 

「な、なんじゃハク……突然畏まりおって……」

 

「姫殿下、己が立場を理解しておいででしょうか」

 

そして眼光。少し睨みを効かせ、皇女さんに事の重大さを知ってもらう。

 

「その身にもしもの事があれば、この國の未来が閉ざされましょう。民は活気を失い、お父上であらせられる帝もきっと悲しまれましょう」

 

「民が……お父上が……」

 

「そして、姫殿下のお気持ちとはいえこのヤマトの要であるオシュトル殿を狂言で動かし、姫殿下の身に何かあれば……後は、姫殿下でもお分かりになられるかと」

 

皇女さん、そしてネコネも想像が出来たのだろう。

顔を白くさせ、頭に浮かぶ情景を消し去るように頭を振っている。

 

「……姫殿下」

 

「っ……わ、分かった。やめる、やめるのじゃ……じゃからそう怖い顔をするでない」

 

皇女さんも分かってくれたようだ。

自分は小さく息を吐き、怯えてしまった皇女さんの頭を撫でる。

 

「……怖がらせてすまんかったな。でも分かってくれたようで良かったさ。もし皇女さんに何かあれば、自分達も悲しいからな」

 

そう言って笑ってやると、皇女さんも安心したようで小さく微笑んだ。

そしてネコネ達に振り返った。

 

「皆も余の我儘で困らせてすまぬ。そしてアトゥイよ、其方の案も素晴らしいものじゃったが……」

 

「そんな気にする必要ないぇ。ウチはお姫さんの恋をいつでも応援してるぇ!」

 

「そうか……」

 

アトゥイの言葉に、皇女さんは嬉しそうに微笑んだ。

 

……とりあえずこれで、面倒事は回避出来ただろう。

 

そして気がつけば、外は夕陽に染まっていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

食堂での一悶着も終わり、外も暗くなってきたため自分は皇女さんを家まで送ることにした。

クオンやルルティエ達も一緒に……と言っていたが、流石に大勢で動いては目立ってしまうだろうと止めておいた。

 

「のう、ハクよ」

 

「ん?なんだ」

 

隣では、夕暮れの街並みを眺めながら微笑む皇女さん。

 

「今日は……楽しかったぞ」

 

「……そうか」

 

「また、来ても良いかの?」

 

「次はちゃんと、書き置きとか身代わりを置いてくるならいいぞ」

 

「……ふふ、分かったのじゃ」

 

そんな会話をしながら、聖廟に向かって歩いていく。

……が、そこで問題が起きた。

 

「のう、ハク。先程の狂言誘拐の話じゃが……やはりダメなのか?」

 

「え?……はぁ、ちょっとこっちに来い」

 

まさかの、諦めていなかったのである。

それはもう皇女さんに聞こえるほどの溜息を自分は吐き、流石に道の真ん中でする話では無いので人気の少ない路地に連れていく。

 

そして気まずそうにしている皇女さんの前に膝を着き、視線を合わせた。

 

「まだ諦めてなかったのか?気持ちは判らんでもないが、さっきも言ったように……」

 

「それはもう聞いたのじゃ。じゃが……オシュトルの気持ちを確かめるには、それ以外の方法がないと思っての」

 

皇女さんの表情に、段々と影が落ちていく。

 

とは言っても、流石に狂言誘拐はな……色々なヒトに迷惑がかかりすぎる。

それに、もしかすれば死人だって……

 

「この頃な、何故かとても胸が苦しくなる時があるのじゃ……オシュトルを見ていると、寂しい気持ちがの……」

 

「皇女さん……」

 

ただ、皇女さんの気持ちも判らなくはない。

オシュトルへの恋心。それは彼女にとって、孤独を癒した存在の一人だ。

自分もクオンが亡くなった時は、心が悲鳴を上げた。

 

だからこそ……その気持ちだけは痛いほどよく知っている。

 

「オシュトルは……ヤマトから出たことの無い余に、色々なことを教えてくれたのじゃ。外の景色がいかに美しかったか……民の暮らしがどうであったか……辺境の様々な生き物のことなども……」

 

皇女さんの瞳に浮かぶ涙が、夕陽に反射して物悲しく映った。

そしてその雫は、俯いた皇女さんの下に落ちていく。

 

「……いっぱい……話してくれたのじゃ。そんなオシュトルが……余は……余は……」

 

「……皇女さん」

 

そんな皇女さんの頭を撫でようとした、その時。

 

「ーーその話、聞かせてもらった!」

 

突然、一人の女が目の前に現れた。

 

「なっ……おまっ!?」

 

「……誰じゃ?」

 

皇女さんは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を、その声の主に向けた。

 

「くっ……恋に悩みし少女よ、ならば私が協力してやろう!」

 

その声の主は皇女さんを痛ましい表情で見ると、グッと胸を張り、手を差し伸べる。

 

「お、お前……なぜこんな所に……!」

 

「ふふふ、いい女は神出鬼没なものだ」

 

せっかく皇女さんの狂言誘拐を止めたというのに、ここでまたひっくり返されてはたまったもんじゃない。

そして……

 

「其方……協力してくれるというのは……」

 

マズい。皇女さんも揺らいでしまっている。

 

皇女さんは先程まで、オシュトルに振り向いて貰えないことが辛いと、悲しいと落ち込んでしまっていた。

それはもう泣きまくり、心も弱くなっていたのだろう。

 

そんな所に、自分の望みを叶えてくれそうな奴が出てきたら……

 

「狂言誘拐……ふふふ、つまりお前を攫うふりをし、助けに来た男と立ち回りを演じればいいのだな。そして最後は想い人に敗れ、逃げ去れば良い……」

 

「お、おい……!」

 

「ふ、いい女とは、恋に悩む乙女を助けるものだ……そうだな、オウギ」

 

その瞬間、背後に突然の気配。

振り向こうとしたが、背中に何かが当てられていて振り向くことが出来ない。

 

「……姉上の言う通りかと」

 

「オウギ……」

 

「……おや、こんな所で奇遇ですね。なかなか面白そうな話をしていたので、つい聞き入ってしまいました」

 

コイツ……ぐぐ……!

 

「協力するとか聞こえたが、絶対にやめとけ。その子はこの國の……ッ!」

 

皇女さんの事を口にしようとした瞬間、背中に当てられた何かがググッと押し込まれた。

 

「……これはどういう真似だ、オウギ」

 

「いえ、姉上の邪魔をするようでしたら……と思いましてね」

 

口止め……つまり、コイツは皇女さんの正体をやはり知っているわけだ。

そして自分がそれを話せば、ノスリはその場に平伏して狂言誘拐なんて無かったことになるだろう。

 

それを理解しているから……オウギめ、脅してきたな。

 

「もう一度だけ言うぞ、オウギ。絶対にやめておけ、お前の姉の為でもあるんだ」

 

……なぜ自分が、これを必死に止めていたのか。

 

以前は、皇女さんがムネチカに説教され、それでも諦められずノスリに誘拐された。もちろん自分達は直ぐに連れ戻しに向かい、オシュトルが来たことで一件落着となった。

 

……が、ノスリ達は大逆の徒として指名手配されることになる。

 

しかしこの一件は、皇女さんの正体を知らず、彼女の切ない恋心を叶えようとした行動だった。

皇女さんもノスリ達の無実を訴えたが……神聖なる姫殿下に過ちがあってはならない。だからこそ、聞き入れて貰えなかった。

 

結局、自分達がなんとかしてノスリ達に罪が振りかかることは阻止できたが……今回は訳が違う。

 

ノスリ達の身代わりにした……モズヌ。

 

自分は最初の一度しか、奴と会っていない。

それ以降、抜け出したという話も聞いていないし、何か罪を犯したという話もオシュトルから聞かなかった。

 

つまり……ノスリ達の身代わりはおらず、今回は本当に大逆の徒として処刑されてしまうかもしれないのだ。

 

それだけは有り得ない。

駄目だ。自分の仲間を失う訳にはいかない。

 

「何故です?こんないたいけな子が困っているのですから、協力してあげたくなるのが、人情というものではありませんか」

 

「オウギ……!」

 

自分が声を尖らせていると、不意にノスリとアンジュが目に入った。

ノスリが差し出した手に、皇女さんが手を伸ばしている。

 

「ダメだ皇……ムグッ!」

 

皇女さん、と叫ぼうとしたが、背後にいたオウギによってその口を塞がれる。

振り払おうと身体を動かすが、腕を固定され組み伏せられた。

 

「ハク……」

 

皇女さんが、涙を流しながらこちらに振り向いた。

やめろ……と、自分は首を振る。

 

しかし……皇女さんはノスリの手を取った。

 

「……すまぬのじゃ、ハク」

 

そして、一瞬にして姿が掻き消える。

……行かせてしまった。このままじゃ、本当にノスリ達はヤマトに大逆の徒として手配されてしまう。

 

「……では、僕も失礼しますね」

 

口と腕を抑えていた手が、ふと離れる。

 

「おい!待てっ……!」

 

即座に振り向き声を掛けるも、既にオウギはいない。

 

「クソっ……!」

 

オウギが立っていた場所には、皇女さんのいる場所の地図が記された紙が一枚落ちている。

 

自分は呆然としながらそれを拾い、しかし直ぐに白楼閣へと走るのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

……そして、この状況になったと。

 

「お、おい!だから邪魔をするなと……!!」

 

「うっせぇ、おいテメェら!やっちまえ!」

 

「「おらぁぁぁ!」」

 

「「姉御を守れぇぇ!」」

 

……今現在、皇女さんを取り戻しに来た自分たちは、目の前の光景を呆然と眺めていた。

 

左手側には……

 

「ノスリぃぃぃぃ!」

 

何故か自分達が到着する前にいたモズヌとその仲間達。

 

右手側には……

 

「やっやめ、おい邪魔をするな!」

 

自分達の相手をしようとしてもモズヌが邪魔をしてくるため苛立っているノスリとその仲間達。

 

……自分の心配はなんだったんだ、本当に。

 

「ねぇハク……これ、どうするの?」

 

クオンは頬を引き攣らせている。

 

「さっさと姫殿下を連れて帰るですよ、ハクさん」

 

ネコネは心底呆れたようにジトリとした目で眺めている。

 

「おにーさん、ウチ、もう行ってもいいけ?」

 

アトゥイは久しぶりの戦いだからか、既に瞳に光はない。

 

「ハクさま……アン……アンジュさまは……」

 

ルルティエは相変わらず優しい。こんなにも意味の分からん状況なのに、皇女さんのことを心配している。

 

自分達が急いでこの廃墟まで来ると、その時には既にこうなっていた。

粗方、今まで潜伏でもしていたモズヌが、ノスリを見つけてちょっかいをかけたってことだろう。

そしてノスリは今、皇女さんの恋のために動いているので、相手にしている暇はないとすげなくあしらった。

 

で、この乱戦状態なわけだ。

特に自分達が見え、ノスリが声を発しようとすれば、モズヌがそれを遮り、ノスリがキレるというのは茶番劇でしかなかった。

 

しかし……このまま放置しておく訳にはいかない。

今のところ皇女さんはノスリが守っているし、モズヌ一党の実力もそこまで強くないようだが、流石に数が結構多い。

 

「……仕方ないか。アトゥイ」

 

自分はまず、アトゥイに視線を向けた。

 

「行ってこい!」

 

「おにーさん、分かってるなぁ!」

 

その言葉を送ると、即座にアトゥイが突っ込んでいった。

ばっさばっさとモズヌ一党の連中をなぎ倒していく。

 

「よし、近距離はアトゥイに任せて、キウルとネコネは遠距離から攻撃してくれ。キウルは特に、ネコネに怪我させないよう気をつけろよ」

 

「は、はい!やりましょうネコネさん!」

 

「分かったのです……キリポン!」

 

自分の指示に、キウルは困惑しながらも弓を引き、ネコネは式神を出して術と共に牽制していく。

 

「ルルティエはそうだな……ココポもいるし、相手はあまり遠距離の攻撃手段を持っていない。ただ……」

 

ルルティエの顔色は悪く、どうみても怯えているようにしか見えない。

 

「……ルルティエ」

 

「ハクさま……私は……」

 

震えているルルティエの手を握り、落ち着かせるためにゆっくりと声を掛ける。

 

「ルルティエはここで、二人を近寄ってきた敵から護ってやってほしい……出来るか?」

 

「っ……は……はい……」

 

「大丈夫だ、ルルティエにはココポもいるし、いざとなれば自分もすぐ守りにいくさ」

 

そう言って、ルルティエの手を強く握り、もう片方の手でココポを撫でる。

 

「ココポはルルティエを護れるよな?」

 

「ホロッ!」

 

やる気十分のようだ。そしてルルティエは……

 

「……出来るか、ルルティエ」

 

「……はい。アンジュさまのために……頑張ります」

 

先程よりも震えは収まり、顔色も少しは良くなった。

これなら大丈夫そうだ。

 

「なら、よろしく頼むぞ!」

 

「はい……!」

 

「ホロロッ!!」

 

後は……

 

「ハク、私は何をすればいいのかな?」

 

「クオンは自分と共に、裏から皇女さんのいる場所へ突撃する……んだが、ちょっと耳を貸してくれ」

 

クオンにとある作戦を伝えると少し驚いたようだが、すぐに面白そうな顔になった。

 

「へぇ……うん。分かったかな」

 

「まあ大丈夫だとは思うが……無理はするなよ」

 

「それはハクの方じゃないかな?よく無理をして、こちらを心配させるし」

 

「うぐっ……気をつけるよ。さて……」

 

自分は鉄扇を、クオンは苦無を構える。

 

「それじゃあ、出陣るぞッ!」

 

そして、皇女さんのいる廃墟に向かって飛び込んでいった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ぐっ……!」

 

その頃一方。

ノスリはアンジュを背に護りながら、大斧を振り回すモズヌと対峙していた。

 

「オラァ!その程度かよノスリッ!」

 

ノスリは現在、不利な状況にある。

まず、廃墟の建物は狭く暗い。さらには床や壁が脆いため、足場にすると不安定になる。

 

さらに……

 

「ノ、ノスリ……大丈夫なのかの……」

 

後ろには、怯えているアンジュ。

 

ノスリはアンジュを庇いながら、モズヌの大斧を避け、隙が生まれれば格闘や弓の速射で対抗している。

しかし、その肌には多少の切り傷もできていた。

 

「大丈夫だ!」

 

笑顔を作り声を張り上げ、アンジュを安心させるノスリ。

……とは言っても、この建物に追い込まれた時点で窮地。

入口はモズヌ一党とノスリ旅団が乱戦状態のため、出ることは出来ない。

 

「オラァ!もらった!」

 

「ッ……!!」

 

油断。

思考に陥ったためか、一瞬の隙をつかれ腹に蹴りを入れられる。

肺からは空気が漏れだし、ノスリはアンジュの隣を過ぎて壁に激突する。

 

「ノスリッ!」

 

吹き飛ばされたノスリに、アンジュは駆け寄った。

 

「っ……なんたる不覚……!」

 

「無理するでない!」

 

そこに、モズヌが下卑た笑みを浮かべながら近づいていく。

 

「ガキを連れてこんな所にいたと思えば、随分舐めてくれたなぁ……ノスリ?」

 

「モズヌ……」

 

「このままボッコボコにして、二度と俺様に逆らえないようにしてやるじゃんよ」

 

そう言ったモズヌの前に、アンジュが立ちはだかる。

 

「やめるのじゃ!ノスリをこれ以上傷つけるのは、余が許さぬぞ!」

 

「あぁ?邪魔だガキィ!」

 

そして、モズヌがアンジュを突き飛ばそうと腕を振り上げた瞬間……

 

「……ゴボッ!?」

 

モズヌの隣にあった壁が、轟音と共に吹き飛んだ。

 

そしてそこには……

 

「……クオン……ハク!」

 

アンジュの瞳に涙が滲み、その二人を映し出す。

 

「ったく、余計なことをしてくれたな」

 

「もう大丈夫かな、アンジュ」

 

そこには、何故かノスリ旅団の格好をしたハクとクオンが、アンジュを安心させるように微笑んでいた。

 

 




え、終わり?

となった方が多いと思います。が、この続き……つまりお仕置きは次回になります。

この展開には賛否両論あるかと思いますが、どうしても自分が妄想したかったことですので後悔はありません。常世に行ってきます。

前書きでも言いましたが、今回は遅れてしまい本当にすみませんでした。
ちょっと自分の書きたいことを詰め過ぎたために、こうなってしまいました。

そして、明日もまた遅れて投稿します。
よろしくお願いします。
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