[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
暫くして、モズヌ一党は全員残さず拘束した。
ちなみにクオンが皇女さんの声が聞こえたと言って壁をぶち破った際、頭であるモズヌも無力化。
とりあえずこれで、なんとかなったのである。
そして……
「ぅ……」
「自分たちに何か言うことがあるんじゃないか、皇女さん?」
ノスリ旅団の連中に見られないよう、廃墟にいる自分や仲間たちの前で、皇女さんが気まずそうに正座をしている。
軽いお説教時間だ。
実際、死者も出ず無事に終わったからといって、はい終わりとはならない。
モズヌ一党が弱かったとはいえ、相手は盗賊なのである。
「皇女さんに怪我が無くて良かったが、もしかすれば取り返しのつかないことになったかもしれないんだ」
「うぅ……」
「そして自分は言ったはずだ。皇女さんの身に何かあれば、この國の民や帝が悲しむと。それに……」
そう言って、自分は皇女さんの隣にいる其奴を見る。
「……このままじゃ、ノスリは処刑されるぞ」
「ッ……!」
そこには、皇女さんに向かって震えながら平伏するノスリの姿。
簡単に逃げられないように、ノスリには自分から皇女さんの正体や恋を抱いている相手の事など全て叩きつけてやったのである。
そんなノスリを見て、皇女さんは顔を歪ませた。
「皇女殿下の身を拘束し、あまつさえ危険に晒した。例えそれがノスリ達の好意であったとしても、皇女さんが自らお願いしたからだとしても、その事実は変わらない」
「そ、そうなのか……?」
「ああ、そうだ。例え皇女さんが無実を訴えても、それは許されないだろう」
「何故じゃ……余は、このヤマトの……」
「だからこそだ。神聖なる姫殿下に過ちは無い、あってはならないんだよ。皇女さんの身分というのは、それほど高貴であり、皇女さんがくしゃみをするだけで一族郎党の道が閉ざされることだってあるんだ」
「そ、そのようなこと……」
「ある」
「……ハク」
自分が些か厳しい態度で皇女さんに説教をしていると、後ろからクオンが小声でこちらに言った。
「やっぱり、オシュトル達は来るみたい」
「そうか……」
自分が頷くと、クオンはとある作戦のため廃墟を出ていった。
そして自分は皇女さんの前に膝をつき、とりあえずこれで説教は終わりにしておくことにする。
……流石に無礼だからな、後ろでルルティエやキウルもオロオロしているし。
「……皇女さん、こっちを見てくれ」
「ぅ……」
現実を受け止められないのか顔を逸らしている皇女さんに、自分は優しく声を掛ける。
すると、皇女さんは伺うようにゆっくりこちらに視線を向けた。
「……反省したか?」
「……うむ」
小さく皇女さんが頷いたことを確認すると、自分は皇女さんの手を握り、立ち上がらせた。
「それならいい……はぁ、あまり自分にこういうのは似合ってないんだ。次からはさせないでくれよ」
「へ……?」
「怖かったな、皇女さん」
安心させるように微笑み、皇女さんの手に自分の手を重ねる。
皇女さんの瞳がキラリと光り、ポタポタと涙を落とし始めた。
「すまぬ……すまなかったのじゃ……ハク」
「自分だけか?」
自分の後ろからルルティエが皇女さんの隣へと来ると、もう一方の手を包み込み微笑んだ。
「アンジュさまが無事で……安心しました」
「ルルティエ……其方達も……すまなかったのじゃ……」
「お姫さま、大変やったなぁ」
「もっと怒ってもよかったのです……ハクさんは甘いのです」
「うぐぅ……お腹が……姫殿下の御身がご無事で何よりです……」
そして皇女さんは謝罪をし、仲間達は慰めてくれている。
そんな光景を見ながら、自分は平伏しているノスリの前に立った。
「ノスリ」
「っ……な、なんだ?」
ノスリは気まずそうにこちらに顔を上げた。
「お前は皇女さんの正体を知らなかったとはいえ、このままじゃ牢獄行きだ。逃げても指名手配されるだろう」
「ぐっ……」
「ハ、ハク……!ノスリは……」
ノスリを糾弾していると思ったのか、皇女さんがこちらに来て自分の袖を掴んだ。
そんな皇女さんに自分は小さく笑うと、安心させるように頭を撫でる。
「ああ、分かってるさ。ノスリはお前さんのために協力してくれたんだもんな」
「そうじゃ……ノスリは……余のために……」
「ひ、姫殿下……!」
いや感動するのは分かるが、平伏していたせいで土まみれになった顔が、涙で凄いことになってるぞ……
自分はその面白い顔に吹き出さないように、気持ちを引きしめてノスリに声を掛けた。
「……ノスリ。このままじゃ皇女さんはきっと、自分のせいで捕まったお前さんを思って悲しむだろう。自分も出来ればそんな皇女さんは見たくない」
「姫殿下が……」
「だから、お前にも皇女さんにも協力してもらう。そして……」
そう言って自分は廃墟内を見回し、少し大きい声でその男を呼ぶ。
「お前もだ、オウギ」
「……さて、協力とは?」
すると、ノスリの隣に突然オウギが現れた。相変わらず気配一つ感じさせない男である。
自分はオウギの対面に立ち、クオンと事前に話していたとある作戦を話す。
皇女さんやノスリは驚いていたが、オウギは面白そうに笑った。
「なるほど……それでしたら、姉上も僕も何とかなりそうですね。是非、協力させていただきますよ」
そしてオシュトルが来るまで、自分たちは作戦の口裏併せをするのだった。
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いくつもの揃えられた足音が、廃墟の空間に響き渡る。
そしてピタリと止まり、先頭を歩いていた武人がこちらに視線を向けた。
「オシュトル……」
「……」
皇女さんがオシュトルの名を呼び、彼の元へと駆け寄った。
その後ろを、自分たちもついていく。
「……アンジュ姫殿下」
目前に立つ皇女さんに、オシュトルは膝をついた。
その様子を、皇女さんは耐えるように顔を歪める。自身の立場と行動がどのような影響を与えるのかを理解するために。
「某の為に、アンジュ姫殿下の正常なご判断を鈍らしめ、この様な事態を招いた事、謹んでお詫び致しまする」
そう言って、オシュトルは深く頭を下げる。
オウギによって、彼の元には一通の脅迫状が届いたのだ。
それはオシュトルがよく知っている者の筆跡で書かれており、内容は『アンジュは預かった。返して欲しくば一人で来い』というものだった。
きっとこれはまた、姫殿下が行動したのだろうとすぐに分かったが、それでも行かないという選択肢は取れない。
そして少数の兵と共に、この指定された場所まで赴いたのだ。
「オシュトル……!」
オシュトルに頭を下げられ、悲痛な表情を浮かべる皇女さん。
……しかし、我慢してもらわなければならない。
「全ては某が至らぬ故の失態。尊き姫殿下を易々と攫われたこの罪、万死に値しまする」
「っ……」
「かかる事態を招いたからには、某は位を返上し、お詫び致す所存」
「……そ、それはならん」
そう言って、皇女さんはこちらへと振り向いた。
その合図に自分とクオン、ノスリとオウギは進み出し、皇女さんの隣で跪く。
「其方達は……」
「お待ちください、オシュトル殿」
オシュトルも自分がそう呼んだことに驚いたのだろう。小さく目を見開くと、先を促すように頷いた。
「この度……アンジュ姫殿下を誑かし、その貴き御身を攫った賊共を拘束しております」
「……そうか」
自分の言葉に、オシュトルの視線はノスリとオウギに向けられた。
……違うぞ、オシュトル。
自分はノスリとオウギを……仲間を見捨てるような真似は絶対にしないと決めたんだ。
以前より更に自分が酷い事をこれからするが……頼むから、話を合わせてくれ。
「……モズヌ一党。その者等が、アンジュ姫殿下を誘拐した罪人でございます」
「ふむ……」
オシュトルも自分がこれから言わんとした事が判ったのだろう。
周りに悟られないように声色や表情は抑えているが、少しだけ口角が上がった。
「そして我らは、アンジュ姫殿下をお救いするために、かの『ノスリ旅団』に協力を依頼し、無事……モズヌ一党の手からアンジュ姫殿下を救出することが出来たのです」
そう言って、自分はオウギとノスリを手で示す。
「……そうか、ご苦労であった。しかし……」
オシュトルはもう理解しているが、まだ足りないのだろう。
結局、今回の誘拐事件。その原因は皇女さんだ。
例えその犯人を捕まえて差し出したとしても、皇女さんが誑かされ誘拐された事実は変わらない。
そして……ヤマトの双璧である右近衛大将には、誘拐されたという事実に責任を追わねばならない。
そうなると知っていた。だから、最後の一手はちゃんと用意してある。
オシュトルはノスリとオウギから、皇女さんへと視線を移す。
最後の一手。それは……
「……オシュトル」
皇女さんは手と膝をつき、オシュトルへと頭を下げる。
「余が悪かった……余の未熟さ故、賊の甘言に耳を貸し、周りの者を危険に晒してしまった」
「姫殿下……」
「そんな余のせいで、國の忠臣であるオシュトルを失ってはお父上に顔向けできぬのじゃ……どうか、そのような事を言わず、これからもこの國と……余を補佐し、助けて欲しい」
そう声を震わせながら、更に深く皇女さんは頭を下げた。
これにはオシュトルも驚いたのだろう。目を大きく見開き、口を開けたまま固まっている。
しかしそれも数秒のこと。すぐにオシュトルは皇女さんへと微笑み、声を掛ける。
「姫殿下……どうか、面をお上げ頂きたい」
言われるままに、皇女さんはゆっくりと顔を上げた。
「某の不行届きに、雪辱の機会を授けて下さるというお心遣い……恐悦至極にございまする。このオシュトル。ヤマトのため、これまでと変わらぬ至誠を尽くしましょう」
その言葉に、皇女さんは嬉しそうに微笑んだ。
「思いとどまってくれたか……良かったのじゃ……」
これで、やっと一件落着だ。
オシュトルは皇女さんに手を差し出し立ち上がらせると、背後にいた兵たちにモズヌ一党の連行を命じる。
……が。
「ああ、そうです……姫殿下」
「ん、なんじゃ?」
オウギが突然、オシュトルの手を握る皇女さんへと声をかけた。
その先が予想できた自分は、そっと皇女さんに同情の視線を向ける。
「保護者の方に心配かけるといけないと思い、ちゃんとそちらの方にも連絡しておきましたので……御安心を」
「……保護者?」
訳が分からないという風に首を傾げる皇女さん。
その様子に、オウギはニコリと笑みを深め、オシュトルの背後にあるこの廃墟の入口を手で示した。
「おや、迎えにいらしたようですよ」
そこには……
「このような所にいらしたか、姫殿下」
透き通った銀の瞳を細め、こちらに圧倒的な圧力を向ける武人。
「厶……ムネチカ!?」
……八柱将、鎮守のムネチカである。
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ムネチカ。
平民の出でありながら、八柱将となり帝から仮面を賜った武人。そして自分達と共に、皇女さんをヤマトまで守り抜いた仲間でもある。
とても生真面目で少々お堅いが、性格は温厚で縫いぐるみを作る趣味など可愛らしい一面も持っており、自分にとって彼女も居てくれるだけで安心できる存在だった。
トゥスクル侵攻の際、帝が崩御したという知らせを聞いてヤマトは撤退。その殿としてトゥスクルに残り、虜囚となっていたが……クオンやフミルィルのおかげもあり、皇女さんの元に戻ってきてくれた。
『このムネチカ、八柱将の名にかけて姫殿下を……いや、聖上をお守り致します』
自分たちがライコウによって苦しめられた時、彼女が戻ってきたことでどれだけ心強いと思っただろうか。
『安心されよ。後のこと……確かに任された』
自分が塩となって消えたとしても、彼女がいてくれれば大丈夫だと思わせてくれた。
『なに、しばしの別れだ。いずれ……また逢おう』
……やっと、また逢えたな。
ムネチカ。
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ムネチカは恐ろしい形相で皇女さんの元へやってくると、眉間の皺を更に深くさせた。
「また何も仰らず宮廷から抜け出し、あまつさえこのような事態まで引き起こされるとは……」
ムネチカも皇女さんが狂言誘拐されたことは知っているんだろう。
だからこそ、一日でここまで引き起こした皇女さんに本気で怒っていらっしゃるわけで……。
「姫殿下……これだけの騒ぎを起こしたけじめは、付けなければなりませぬ」
「ま……待つのじゃムネチカ……余が……余が悪かった……か……ら」
皇女さんは腰を抜かし、こちらに這いずりムネチカから逃げようとした……が、ムネチカに後ろ首を掴まれた。
「た……助け……ハク……」
「……姫殿下、ご武運を」
「ハ、ハク……」
涙を浮かべこちらに助けを求める皇女さんに、自分は丁寧に礼をして送り出す。
皇女さんの絶望した顔がこちらに向けられたまま、ムネチカによって遠く離れていく。
「全体、耳を塞げ」
オシュトルは苦い顔でそれを見ていたが、やがてこれから起きる惨劇を知っているのだろう。
兵たちにそう司令すると、自らも耳を塞ぎ目を閉じた。
「た、頼むムネチカ……余は……もう二度とこのようなこと……」
「問答無用」
皇女さんの命乞いもバッサリと叩き斬られ、ムネチカによって尻を出される。
「ふぎゃぁぁぁぁッ!!」
そして……轟音と共に、皇女さんの悲鳴が響き渡った。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさ……」
再度の轟音。
「いっ、ひぎぃ!!」
その光景に、クオンたちも絶句している。
ノスリなんかは、その場で頭を地に擦り付けひたすら泣いて謝っているほどである。
真っ赤に腫れ上がった尻を出し、撃沈していた皇女さんの姿は……自分がこれまで経験したどの戦よりも、酷く悲しいものだった。
皇女さん、反省しろよ。
これで一応、皇女混乱編は終わりとなります。
ムネチカが出てきて、いつも通りというか未来は変わらないというか……アンジュのお尻をひっぱたいていきましたが、何故ムネチカがこんなにも遅く現れたのか、そしてその後のシーンがないのかは次回あかされます。
そして、申し訳ありませんが本日はこの一話だけの更新となります。
実は台風が過ぎてまた一段と暑くなったせいで、体調を崩してしまいました。
仕事は本日お休みを頂けたので、少し休んでまた執筆しようと思ってます。
もちろん毎日投稿は続けますよ……妄想だけは止まりませんから。
次回は明日0時に投稿、そして明日まで一話投稿になります。ご容赦ください。
よろしくお願いします。