[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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お待たせしてすみませんでした。
どうやら軽い熱中症だったみたいで、スポドリを飲んで寝ていたら体調も良くなりました。

本日は一話だけの更新となります。
明日からはいつも通り平日二話の更新となりますので、よろしくお願いします。



55 鎖巫

 

「ん……ふわぁ……」

 

微睡みの中、欠伸をしながら身体を起こす。

昨晩ウコンやキウル、マロと飲みすぎたせいで、どうにも二日酔いで身体がだるい。あと頭痛も。

それに……酒臭いな、自分。

 

「……風呂でも入る、か」

 

そう言って、自分は立ち上がろうと……した時。

 

「は?」

 

何やら掛け布団に隠れている下半身辺りが妙に重く、そしてもっこりしている。

……こんなに自分のは大きかったか?なんてことを思いつつ、少し警戒して掛け布団を捲った。

 

そこには……

 

「ぅ……」

 

「……ね、ネコネ……さん?」

 

何故か、ネコネが自分の上で寝ていた。

自分は即座に周りを見回し、そして額に手を触れる。

 

「……ヤマト……だよな?」

 

額に仮面は着いていない。そしてここはヤマトにある白楼閣の一室。

ネコネが自分の布団に潜り込んでくるようになったのは、戦乱が始まり、エンナカムイに陣を敷いた頃よりも後の話だ。

 

確かミカヅチと……いや、ヴライと戦った時からか?

 

「って、そんなこと考えてる場合じゃないだろ自分」

 

何故ネコネが自分の布団に潜り込んできているのか、全く分からない。

オシュトルがまさか……いや、それはない。自分は白楼閣にいて、つい先日皇女さんの狂言誘拐を何とかしたばかりだ。

 

「うぅ……ん……?」

 

モゾモゾと、ネコネが身体を震わせながら目を覚ました。

どうやらまだ寝ぼけているようだ。自分の太股の上で、目を開けたり閉じたり、欠伸を何度か繰り返している。

 

「……ネコ、ネ」

 

流石にずっとこのままではマズイと思い、自分はネコネを恐る恐る呼ぶ。

するとネコネの視線がこちらを向き……微笑んだ。

 

「……兄……さま」

 

「ッ……!?」

 

な……何故……だ?

何故、ネコネが……自分を兄さまと呼ぶ……?

 

「ま、待てネコネ……まさか……」

 

自分はもう一度、辺りをゆっくりと見回す。

やはりここは白楼閣の自室。ヤマトにいるはずだ。

外はまだ朝早いため薄暗く、しかし鳥や獣が鳴き声を上げている。

平和そのものにしか見えない……んだが。

 

「……へ?」

 

自分の脳裏に過ぎった悪い予感に背筋を震わせていると、ネコネが間の抜けた声を出しながら、ガバッと身体を起こした。

 

「…………」

 

「お、おい……?」

 

ネコネはこちらを見て硬直している。

自分もその状況についていけず、ただネコネをポカンと見つめていた。

 

「なっ……なっ……」

 

やがて……ネコネの顔が真っ赤に染まり、プルプルと震え始める。

 

「……ネコネ?」

 

「うなぁぁぁーーっ!!!」

 

「どへぇッ!?」

 

そして、何やら素っ頓狂な悲鳴を上げたかと思えば、自分の腹に頭突きを食らわせ、自室から飛び出して行った。

 

「ぅ……ぐ……何故……なん……だ……」

 

あまりにも綺麗に内臓へと衝撃が入ったために、自分はそう残して意識を途切れさせたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

昨日は沢山飲みすぎたようだ。どうにも頭や腹の痛みが酷いし、身体もだるい。

しかし……なにやら悪い夢を見た気もするが……いや、気のせいだろう。

 

「もう、ハクってば……」

 

少し遅めの朝食をもそもそと口にしていると、既にそれを済ませたクオンが目前で溜息を吐いた。

 

「ほら、早く食べて欲しいかな。今日の朝、オシュトルに『大事な件がある。急いで屋敷まで来てくれ』って言われたんだから」

 

「悪いな……しかし、二日酔いであまり食が……」

 

宅に並べられた料理が全て、胃の中に入る気がしない。

本当に昨日は飲みすぎたようだ。胃が荒れているのか?とてつもなく痛むんだが……

 

「はーやーく!」

 

「判った判った、急ぐよ」

 

クオンに急かされながら、自分は詰め込むように食事を口に運んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「やはり……こうなるよな」

 

「……ん?やはり、とは」

 

「何でもない」

 

とある場所へと向かう途中の廊下で、自分は大きな溜息を吐いた。

隣にはオシュトルがこちらを見て首を傾げている。

 

しかしもう一度言おう……やはり、こうなったか。

 

自分は少し前に朝食を済ませ、オシュトルの屋敷へと向かった。

そこで話されたのは、皇女さんを救出したことに御礼を言いたいヒトがいる……ということだった。

 

まあそのヒトというのは……兄貴、いや帝なんだが……

 

きっとあの二人を自分に預けてくれるのだろう。鎖の巫……ウルゥルとサラァナを。

 

……しかし、もっと目立たないやり方はないのか?

以前もこんな事があって、自分は悪目立ちしてしまったのだ。あの時の八柱将や重鎮達の懐疑の視線は……ああ、また腹が痛くなり始めた。

 

それに自分が今着せられている高そうな衣装……採寸も出来ずブカブカで、何度着ても落ち着かないったらありゃしない。

 

「そろそろ到着する……気を引き締めよ、ハク」

 

「……判ってる」

 

険しい顔をしたオシュトルにそう言われ、顔だけは引き締めておく。

これから向かうのは謁見の間。例え兄貴と対面するとはいえ、この國の民からすれば頂点に座する帝である。

 

生意気な態度でも取ろうもんなら、即座に自分の首は胴と離れていくだろう。

 

「……行くぞ」

 

「ああ……」

 

見上げるほど大きく豪華な装飾が施された扉が、軋むような音をして開かれる。

そして目前に広がるのは……巨大な柱や階段。数多の重鎮や圧倒的な気配を発している八柱将の連中。

 

そこにはムネチカも並んでいるが……彼女もまた、こちらを軽く睨んでいた。

何故かは知らない。だが、彼女から向けられるのは……敵意。

 

皇女さんを助け出したあの日、無事お仕置を済ませ自分の方へとやってきたムネチカ。

久々の再会もあるし、何か話せるかと待ち望んでいたが……

 

『姫殿下を救出して下さり、誠に感謝いたす』

 

それだけ、だった。

まぁ……初対面だから仕方は無いのだろう。彼女にとって自分はただの隠密。オシュトルの部下なのだから。

 

しかし、オシュトルから自分の名を聞いた時。

……明確に彼女から、敵意の視線を向けられた。

 

やはり、連れ回したことに怒ってるんだろう。

出来れば謝っておきたい所だが……彼女は八柱将。簡単に話せるか分からない。

 

さて、どうするか……

 

「遠来の客人、ハク殿。いざや、参らせ給え!」

 

その声と共に、オシュトルがムネチカについて考え込んでいた自分へと囁く。

 

「某がするように振る舞えば良い。頭を下げたまま前へ進み、某と同じように玉座の前で膝をつく。聖上が面を上げよと仰ったら顔を上げ、お聞きになったことは素直に答える。そして褒美を賜ったら礼を言う……ただ、それだけだ」

 

「……判った」

 

矢継ぎ早にそう囁いたオシュトルに、自分も小さく返事をする。

 

しかしなんだ……緊張してきたぞ。

両隣に立っている重鎮達はこちらをジッと突き刺すように見ているし、この後は……また、あの二人と共に過ごすことが出来ると思うと……な。

 

不意に自分の手へ視線を向けると、微かに震えていた。

それにオシュトルも気がついたのか、またこちらへと小さく囁いた。

 

「ハク、何もそう堅くなる必要は無い。いつもの其方らしく堂々と振る舞えば良いのだ」

 

「うぐっ……」

 

図星をつかれ、自分は唸る。

 

「なに。聖上も其方が市井の民だとご存知だ。多少の間違いや無作法はお気になさらぬよ……むしろ変に取り繕ったり媚びへつらう方が心象を悪くするであろうな」

 

「……ま、マジ?」

 

「ああ、そうだ」

 

待て待て。つまりなんだ……どう兄貴と話せばいい?

オシュトルの言葉遣いを真似して難なく済ませようと思っていたのに、取り繕うのはダメだと……?

 

「……ハク?」

 

呑気に首を傾げやがってコイツ……!

 

「……何でもない、後で覚えてろ」

 

「?……ああ」

 

自分がそう言うと、オシュトルは困惑したようにそう言って前に進み出る。

その後ろを頭を下げながら自分も追った。

 

そして、玉座の前に揃って膝を着く。

 

「聖上におかれましては、ご機嫌麗しくお過ごしであらせられましょうか?」

 

オシュトルが、玉座に向けて深く頭を下げる。

 

「このオシュトル。参内にあたり、件の御仁……ハク殿をお連れ致しました」

 

「……その方がハクか?」

 

暫くの沈黙の後、空間内にしわがれた声が響き渡った。

 

「その顔、よう見たい……面を上げよ」

 

「……はっ」

 

自分は帝の言葉に短く返答し、ゆっくりと頭を上げる。

そこには、顔を簾のようなもので隠し、豪華な衣装で身を包んだ老人が玉座にいた。

 

帝……兄貴はこうやって、ヤマトの頂点に立ち続けていたんだろう。例え見知った顔だとしても、身体には緊張が張り詰めてくるもんだ。

 

そして……その傍に控えているのはホノカさん。

自分がチラリと視線を向けると、ホノカさんも気づいたのか優しく微笑んだ。

……相変わらず、綺麗なヒトだ。

 

「ハク……どうした?そのようにホノカをじっと見つめておるが……」

 

「……は?」

 

あ、兄貴……突然何を言い出すんだ。

自分がホノカさんを見つめていた事にわざわざ触れる必要は無いだろうが……早く要件を言えよ……!

 

「……ハク?」

 

「あ、いや……」

 

ダメだ。これ、自分が返答しなきゃならんやつだ。

 

その証拠に、言い淀んでいる自分を見て、隣のオシュトルはこちらに困惑の眼差しを向けているし、八柱将の面々も些か苛立っているように見える。

 

クソっ……あまり自分としては、こんな恥ずかしいことを言いたくないんだが……

 

「……その、お綺麗な御方だと……つい見蕩れておりました……」

 

「「「ーー!!」」」

 

恥ずかしさが有頂天に達している自分がそう答えると、謁見の間が凍りついた。

 

まあそりゃそうだよな……ホノカさんはこのヤマトの祭事を司る大宮司。そして兄貴の補佐もしているんだ。

そんなお偉いさんに、自分は帝をほっぽり出して見蕩れていたなんて言ったわけで……こうなるのも当たり前である。

 

しかし、凍りついた間とは裏腹に、兄貴は愉快そうに笑った。

 

「フォッフォフォ……そうか、ホノカに見蕩れておったのか」

 

「は……はは……」

 

ぐぐぐぬぅ……!!

ダメだ……相手は帝……帝……口答えは許されないぞ自分……!!

 

「よいよい。ホノカは美しいであろうからな……見惚れるのも仕方がないというものよ」

 

「我が君……」

 

……おい、こんな状況でイチャコラするな。

 

しかしその帝の様子に場の空気も緩んだのか、こちらへと突き刺さっていた視線が減った気がする。

 

「さて、ハクよ。その方が賊に囚われた我が娘を救い出したようじゃな……余はその方の活躍、実に感じ入った」

 

「はっ……恐悦至極にございます」

 

「実に天晴れである。その方に褒美を取らす」

 

そう言って、帝は傍らのホノカさんに目配せをする。

 

「例の『モノ』をこれへ」

 

「承知致しました」

 

ホノカさんはその言葉に、深々と頭を下げた。

 

瞬間。どこからともなく、風雅で魅惑的な楽が奏でられ始める。

そして……

 

「「……」」

 

二つの影が、飛んできたかのようにフワリと自分の前に舞い降りた。

 

深々と黒い外套を被った二人に、自分の目頭が熱くなる。

しかしそれをぐっと堪え、互いの背を合わせその場に立っている二人を見つめた。

 

「「……」」

 

二人は同時に手を空へと掲げる。

そして対称的に身を翻し、掲げた手を揺らしながら扇情的に腰を大きく揺らした。

 

曲に合わせ、掲げた両手を音を刻むように揺らしながら二人はその場で踊り続ける。

 

そして再び向かい合い、互いに向かって大きく飛び上がった瞬間……深く被っていた黒の外套が宙に舞った。

 

「……あぁ」

 

ウルゥル、サラァナ。

 

瞳に映った美しい二人の少女に、自分の口から声が小さく漏れる。

 

まるで匠の手によって彫られたような、対称的な二つの造形。絹のようにきめ細かく輝き舞う髪に、磁器のような滑らかな白色と褐色の肌。

 

懐かしい……ああ、やっとお前たちをまた迎えられる。

 

指で何かの印を結びながら激しく身体をくねらせ、自分たちの周りをクルクルと回り踊る。

曲調と共に二人の舞も激しくなり、肌には汗が浮かんで更に彼女達を輝かせた。

 

そして……何度も入れ替り立ち替り交差しながら自分の前に跪くと同時に、楽がピタリと止まった。

 

「「……」」

 

頬を微かに染めながら、こちらを見上げる二人。

その瞳は潤んでおり、涙を堪える自分の顔を鏡のように映していた。

 

「『それ』が其方への褒美である。好きにすると良い……」

 

「「「ーー!?」」」

 

帝がそう告げると、間が一気に騒がしくなった。

しかし……自分は目の前の二人から目が離せず、その喧騒も耳には入ってこない。

 

「……ウルゥル」

 

「隣が姉の……ウルゥル。わたしは……サラァナと申します」

 

ポタリ、と。

二人の瞳から、涙が零れ落ちていた。

 

そのまま、自分の足の甲へと口付けをする二人。

 

「ここに……新たな誓いの印を」

 

「わたし達の全てを捧げる証を……また貴方様へと」

 

そして、またこちらへと顔を上げる。

涙を溢れさせ、嗚咽を必死に我慢しながら……彼女達は自分に告げた。

 

 

「「主様に、永久なる忠誠を」」

 

 

「……ああ、またよろしく頼むよ……ウルゥル、サラァナ」

 

 

他の誰にも聞こえないように、自分はそう呟いた。

 

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