[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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クオン達に汚い物を見るような視線を向けられながら、自分は白楼閣へと戻った。

……ちなみに、双子の首には首輪が着いており、そこに繋がれた鎖の先端を二本、自分は持たされている。

 

双子曰く、必要な儀式らしいが……これ、以前もやったよな?

 

そしてあの野郎……オシュトルは馬車で一足先に帰っており、自分達は徒歩で帰ることになったせいで、通行人からもヤバい奴を見るような目を向けられた。

 

「やっと、帰ってこれた……!」

 

白楼閣にある詰所に到着した自分は、即座に鎖から手を離し中心にある座椅子に腰を下ろした。

ちなみに誰もこちらを見ようとはしない。クオンもアトゥイも、そして……ルルティエも。

 

「お疲れ」

 

「主様、こちらをどうぞ」

 

いつの間に首輪を外して茶の用意をしたのか、二人がこちらに湯気の立つ湯呑みを渡してくる。

 

「……ありがとう」

 

茶に罪はない。もちろん、この双子にもだ。

 

しかし……空気を読むということを知って欲しい気持ちもあるんだ。

 

「ハクさま……不潔です……不潔です……」

 

見てみろ。ルルティエがどす黒い波動を垂れ流して、死んだ目をしながらブツブツと何かを呟いてるぞ。呪いか?もしや、ルルティエも呪術が使えるのか?

 

暫くの沈黙……いや、正確にはルルティエの呟きだけが流れ続けていたが、やがてクオンが溜息を吐き自分達の前に座った。

ちなみにウルゥルとサラァナは相変わらずくっついている。

 

「……さて、ようこそ白楼閣へ。歓迎……うん、歓迎するね」

 

苦い笑みを浮かべながら、そう言い直したクオン。

 

「私はクオン、そっちの……今は少しだけ元気がない子がルルティエ。その隣がアトゥイかな」

 

そして一人ずつ手で示していく。

ウルゥルとサラァナは互いに顔を見合せ、静かに返答した。

 

「ウルゥル」

 

「サラァナです」

 

「色々と大変……だったのかな?私達で良ければ、いつでも力になるから、何でも相談してね」

 

クオン……お前は優しいな。

しかしなぜ自分をチラリと見たんだ?もしや、自分がこの二人の主になったことが可哀想だとか思っていないだろうな。

 

「……ふふっ……ルルティエです。よろしくお願いします」

 

怖い。ルルティエさん、目が笑ってないよ。

満面の笑みなのに、何故か薄く開かれた目が黒く渦巻いているように見えるよ。

 

「ウチ、アトゥイいうぇ。よろしゅうなぁ」

 

そしてアトゥイ。せめてこっちを見てくれ。

自分はまだしも、ウルゥルとサラァナに失礼だろう。

 

しかし、二人は全く気にしていないようで、アトゥイの方に視線を向け返答した。

 

「……シャッホロの狂い姫」

 

「お噂はかねがね。狂い咲く花のように見目麗しい御方とお聞きしておりました」

 

いや、その言い方……一見美しい褒め言葉にも聞こえるが、実際はアトゥイが戦闘狂だと言ってるようなもんじゃないか?

もちろん見目は麗しいとも思うが……見目だけは。

 

「うひひ、いややなぁ……照れちゃうぇ」

 

自分が苦い顔をする一方で、アトゥイは褒められたと思ったのか、嬉しそうにこちらへと振り向きニコリと笑った。

 

「さてと、それじゃあハク……もう一度、説明お願いかな」

 

クオンがそう言ってこちらに微笑み、その後ろにいるルルティエがブンブンと首を縦に振っている。

 

「いや、経緯はさっき説明しただろう?この二人は……」

 

「うん、やっぱりいいかな」

 

「は?」

 

クオン、どうしたんだ?

聞き直したかと思えば、それをすぐに撤回する。いつもの好奇心旺盛なクオンにしては、ありえない行動だ。

 

もしや……腹が減ってるのか?

 

「何かな?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

シュルリとクオンの背後に白い尻尾が揺れ、自分は即座に首を横にブンブンと振った。

 

「ク……クオンさま……お聞きにならなくてよろしいのですか……?」

 

「うん、やめとくかな。それに……どうせ聞いてもまたハクは誤魔化そうとするかな」

 

「うぐっ……」

 

……何も、言い返せん。

 

正直、ウルゥルとサラァナについては素直に言うべきだったと今は思ってしまっている。

以前は自分も戸惑っていたため、ここまで汚物扱いはされなかった。

しかし今はどうだ?爽やか紳士だった自分の評価が、嘘吐きの変態野郎へとだだ下がりだ。

 

「……食べる」

 

「お母様から頂いた甘味です。どうぞ、主様」

 

「……すまんな」

 

ああ、今はこの二人の空気の読めない優しさが身に染みる……

 

「うぅ……」

 

ルルティエ……頼むからそんなに睨まないでくれ。

心がさっきから悲鳴を上げてるんだ。泣き叫んでるんだよ。

 

「空っぽ」

 

「どうぞ、新しく淹れたものです」

 

サラァナから茶のお代わりをもらい、それを口に啜った。

先程とはどうやら茶葉が違うようだ。とても懐かしい、ホッとさせてくれるような……

 

「気に入った?」

 

「主様のお好きな、エンナカムイ名産の茶葉を使いました。いかがですか?」

 

「ああ、美味いな……」

 

つい、味わうようにその茶を口に含み、感傷に浸ってしまう。

毎日のように、この茶を飲んでいたからな……あの時は本当に大変だった。

 

……そういえば。

 

「なぁ、クオン」

 

「何かな?」

 

「ネコネとキウルはどうしたんだ?まさか、二人で逢い引きとか……」

 

冗談も混じえて自分がそう言った瞬間、クオンやルルティエ、アトゥイまでもが顔を逸らした。

その様子に、自分は疑問と少々の不安を覚える。

 

「……どうした、何かあったのか?」

 

そう聞いても、誰もすぐに答えようとはしなかった。

しばらくしてから、クオンが気まずそうな表情を浮かべ、こちらを見る。

 

「あの、実はキウルは突然仕事が入っちゃって……ネコネは……体調が優れないって言ってたかな」

 

「体調?どこか悪いのか?」

 

「う、うん……」

 

な、なんだこの感じは。

 

クオンの視線はあちらこちらへと動かされ、あまり自分と目が合うことは無い。

更にはルルティエもアトゥイもこちらを気まずそうに一瞥するだけで、何も話そうとはしてくれないのだ。

 

「……何か、隠してるのか?」

 

「え……?」

 

「別に無理やり話せとは言わないが……一応、自分はこれでもネコネが心配なんだ。せめて無事なのかだけ教えてくれ」

 

真面目な表情を浮かべ自分がそう言うと、クオンは申し訳なさそうに眉を寄せる。

 

「……うん、大丈夫……じゃないと、思う」

 

「クオンさま……」

 

「どういう事だ?ネコネに何かあったのか?」

 

ここまでクオン達が気まずそうにいい淀み、かつ自分に隠しているということは……ただの体調不良や病の類いでは無い。

一瞬あの日かとも思ったが……それなら尚更、クオンはすぐに話を終わらせるだろう。

 

ルルティエが良いのか?という視線をクオンに送り、それに頷いたのを見て、何か自分の中に嫌な予感が走る。

 

「ネコネは……」

 

「よぉ、帰ったぜぃ!」

 

クオンが口を開きかけた瞬間、詰所の襖が勢いよく開かれ、仕事が終わりご機嫌そうに快活な笑みを浮かべたウコンが入ってくる。

 

「ウコン……お前……」

 

なんてタイミングの悪い……いや、良いのか?

クオンからの話が途切れてしまった訳だが、これはネコネの事についてだ。兄にも話しておくべきだろう。

 

「クオン。ウコンにも話してくれないか?今帰ってきたばかりだろうし、コイツも知らないんだろう?」

 

「あ、うん……別にいいけれど」

 

「あん?」

 

「いや、お前もこっちに来てくれ」

 

菓子の恨みは後々返すとして、今はクオンから話を聞くことが優先だ。これが本当にただ不調なだけならばいいが……

 

「どうしたんでぃ。アンちゃんやネェちゃんはともかく、ルルティエ様やアトゥイ様までそんな隅っこに座っちまって」

 

「いいから早く来い」

 

「んぉ!?」

 

襖の前で周りを見回しているウコンの手を自分は強く引き、卓のすぐ近くに座らせる。

ウコンも困惑はしているが、クオン達の表情を見て何やら察したようだ。静かに表情を引き締めた。

 

そんなウコンに、自分は軽くこれまでの経緯を説明する。

 

「自分が帰ってきた時なんだが、ネコネとキウルが見当たらなくてクオン達に聞いたんだ。それでキウルは仕事が入った為居ないらしいんだが、ネコネは……何やらあったらしい」

 

「ネコネに……ネェちゃん、話してくれ」

 

そしてネコネの事と知った途端、更にウコンは表情を険しくした。

クオンはそんなウコンと自分に交互に視線を向けると、溜息を吐いて語り始めた。

 

「ネコネは……今は二人に会いたくないって言ってたかな」

 

「「…………は?」」

 

その言葉に、自分とウコンは同時に首を傾げた。

 

「ネコネが……自分に?」

 

「いや、アンちゃんならまだしも……俺もか?」

 

サラッと酷いこと言ったなコイツ。

しかし、間違いでもないわけなんだが……どうして自分だけじゃなく、ウコンまでなんだ?

 

ネコネは凄まじいほど兄一筋だ。その様子は実の兄だと言うのに恋心すら抱いているようにも見えるほど。

もちろん、それはオシュトルだけではなくウコンという姿でも変わりはしない。

 

「うん。私にも詳しいことは分からないけれど、なんだかとても辛そうだったかな……だからハクとオ……ウコンのお迎えは私達だけで行ったんだ」

 

「辛そう……か。なあウコン、自分ならともかくお前も何かしたのか?裸踊りとか」

 

「いんや、最近はしてねぇぜ?」

 

最近は……かよ。

しかしそれなら尚更意味が分からん。自分だって何かした覚えはない……何か……ん?

 

「そういえば今日の朝、ネコネとどこかで会った気が……」

 

妙に腹部が痛くなったが、今日の早朝……ネコネと会ったぞ。

確か……

 

「あっ」

 

「どうしたアンちゃん、何かしでかしたのか?」

 

ウコンが呆れたような目をこちらに向けたので、自分はそれに軽く睨み返しておく。

 

「いや……あまりハッキリとは覚えてないんだが、早朝にネコネが自分の布団にいたと思ってだな」

 

「アンちゃんのにか?」

 

「ああ、確かにいたはずだ。もしやそれか?」

 

自分は確認のため、クオンへと視線を向ける。

苦笑しながら彼女は首を振った。

 

「それなら、ウコンにも会いたくない理由にはならないかな。あっ、でも……ウコンがハクの布団に勝手に寝かせたなら……」

 

「おいおい、流石にそれは俺でもしねぇぜ? それに最近は、ネコネが俺の布団に潜り込んでくることも無くなったからな」

 

それも違う……のか。

自分とウコンが何も分からず唸っていると、クオンが仕方なさそうな笑みを浮かべた。

 

「あまり考えても仕方ないかな。少し、時間を置けば……」

 

「なんか、もうまどろっこしいぇ!」

 

そこに、アトゥイが面倒くさそうに顔を顰めて声を上げる。

突然どうしたんだと、自分は首を傾げた。

 

「あんなぁ、こういうんはやっぱ本人同士で話すのがいいと思うんよ。ネコやんがなんでおにーさんやウコンはんと会いたくないって言ってるんか、考え込んでも分からないぇ」

 

「なんだ。アトゥイは知ってるのか?」

 

「ううん、ウチも知らんけど……」

 

いや、知らないのかよ……しかしアトゥイの言っている事は正直間違っていない。

このまま考えてもクオン達さえ分からないことが自分やウコンに分かるはずもないだろう。

 

「……ネコネは、部屋にいるのか?」

 

最初にそれを聞いたのはウコンだった。

クオンは一瞬躊躇うように口を閉じたが、やがて肯定するように小さく頷いた。

 

「そうかい。んじゃ、行くかアンちゃん」

 

「こういうのは一人ずつ行った方がいいんじゃないか?」

 

「一人も二人も大して変わんねえさ。それよりも早く、ネコネと話した方がいいと思うぜ、俺は」

 

「……そうだな」

 

真剣な表情を浮かべるウコンに、やはりこいつはネコネの兄なのだと当たり前のことを再度思ってしまった。

 

そして自分とウコン、仲裁を頼む為にクオンにも来てもらい、ネコネの部屋へと向かったのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ネコネの部屋の前に到着すると、ウコンが襖越しにゆっくり声をかけた。

 

「……ネコネ、いるか?」

 

「っ……」

 

返答は無い。しかし、中にネコネがいることは確実だろう。

ウコンはこちらに一度視線を向け、そしてまた優しい声音で問いかける。

 

「入ってもいいか、ネコネ?」

 

「…………今は、そっとしておいてほしいのです。兄さま」

 

暫くの沈黙が流れ、中から小さくそう聞こえた。

やはりクオンの言う通り、ネコネは自分たちを避けているようだ。

 

「何かあったのか?俺でよければ、話を聞くが……」

 

「……兄さまだけ、ですか?」

 

「ん?あ、ああ……いや、アンちゃんやクオンのネェちゃんもいるぜ。ネコネのことが心配だとよ」

 

「…………ハクさんは、ダメなのです」

 

自分だけかよ……

あからさまにガッカリとした自分を見て、ウコンやクオンが頬を引き攣らせる。

 

「あー……なあネコネ。なぜ俺やネェちゃんが良くて、アンちゃんは駄目なんだ?」

 

「っ……そ、それは……」

 

ウコンの質問に動揺したのか、先程よりは声が大きくなるが……更に歯切れが悪くなり、最後の方は霞んで消えてしまう。

流石にここまでネコネが言うんだ。自分は去った方がいいだろう。

 

自分はウコンの肩を叩き、首を振ってみせる。

ウコンもその意味に気づいたのか、小さく頭を下げた。

 

「……じゃあ自分はどっか行っとくぞ。ネコネ、またな」

 

そう言って自分はその場から去ろうと足を進めた……時。

背後からバンッ!と勢いよく襖が開かれ、そこからネコネが飛び出してきた。

 

ウコンもクオンも突然の事で動けず、ポカンと口を開けてネコネを見ている。

しかしネコネはそんな二人など気にも止めずに、顔を伏せながら自分の目前に立った。

 

「……なの……です」

 

「ん、んん?なんだ?」

 

声が小さくて上手く聞こえず、自分はそう聞き返した。

そしてよく見てみると、ネコネの身体は震えており、床にはポタポタと涙が零れていた。

 

「ッ……ネコネ……」

 

痛ましい様子に、自分はネコネの頭を撫でる。

 

「どうした……嫌なことでもあったのか?自分で良ければ……」

 

いつものように話を聞いて、慰めるとしよう。

そう思い、ネコネへと言葉をかけるが……

 

 

「ッ……触らないで欲しいのですッ!!」

 

 

突然。

頭を撫でていた自分の手を、ネコネが強く打ち払い、こちらへと悲鳴混じりの叫びを上げた。

あまりにも突然の出来事に、自分は叩かれた手の痛みすら忘れ、困惑しつつもネコネの名を呼ぶ。

 

「ネコ、ネ……?」

 

自分に名を呼ばれたネコネは、まるで驚いたかのように涙の溢れる瞳を見開きながら、一歩ずつ後ろへと下がっていく。

 

怯えるような、そんな視線を向けて。

 

「……あなたは……誰なのです……?」

 

問い掛けられたその言葉に、自分が感じていた嫌な予感は正しかったのだと、既に遅くとも理解してしまった。

 

 

「あ……兄さま……」

 

 

「ッ……!!」

 

 

ネコネは……自分が兄だった事を……知っている。

 

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