[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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お久しぶりです。
色々とありましたが、やっと復興もひと段落し執筆を再開することが出来ました。
とはいえ、まだまだやらなければならないことがあるため、一日一本ずつの投稿となります。

避難所のご飯って凄いですよね。
一応自分でも色々と持ってきてはいたのですが、炊き出しの温かさは尋常じゃなかったです。

プライベートの話は置いといて、今回はミカヅチさんが活躍します。
それでは、どうぞ。


62 左近

 

とある日の夕方より少し前。

 

「ヌゥ……」

 

突然……屋敷に呼び出したと思えば、あまりにも恐ろしい形相でこちらを睨むミカヅチと自分は対面していた。

ちなみに背後にはミルージュもいる。ブルブルと真っ青な顔で怯えているが。

 

「な、なんだ。なぜ自分をそんなに睨む」

 

翻った声色でそう聞いてみるが、ミカヅチからの返答はない。

 

この男がよく睨んでいると勘違いされるのはよくある事だ。

目付きが鋭く、常に殺気のようなものを纏っているため、大体のヒトは恐怖してしまう。

 

実際のところ、特に睨んでいる訳じゃなく普通にこちらを見ていることが多い訳だが……しかし今回はどうやら勘違いではなさそうだ。

 

「……あぁ」

 

チラリと背後のミルージュを振り返ってみれば、今にも殺気にやられて気を失いそうになっている。

自分は溜息を吐いて、とりあえずミカヅチが口を開くまで待つことにした。

 

「お、これはエンナカムイの……」

 

緊張で喉が乾いたので卓に出された茶を啜ってみると、それは懐かしい味。

最近はウルゥルとサラァナがよく出してくれるため最初に飲んだ時よりは懐かしさもないが……これを飲むと、他の茶を飲んだ時よりも心が落ち着いてくれる。

 

「……貴様、エンナカムイを知っているのか」

 

「ん?」

 

やっとミカヅチが口を開いたかと思えば、何故かエンナカムイのことを聞いてきた。

 

「ああ、色々とあってな」

 

「ヌゥ……」

 

流石に自分がエンナカムイにいただなんて話をする訳にもいかず、適当に返したことが癪に障ったのだろうか。

またこの男は自分を睨み始めた。

しかし先程よりも殺気は収まっており、自分も気にせず茶を啜る。

 

このまま茶会……という訳にもいかないが、自分はこいつに呼び出されたんだ。

自分からできることも無いだろう。適当に話を振ることも出来るが、それでこいつが怒ったら面倒だしな。

 

「……貴様」

 

しばらくして、ミカヅチがこちらを呼ぶ。

 

「なんだ?」

 

「正直に答えろ……良いか?」

 

何を言われるかと思えば、突然そんなことを言われ、自分は首を傾げる。

その様子に更にミカヅチの眉間に皺が寄り、殺意の波動が強くなった。

 

「よく分からんが、とりあえず言ってみてくれ」

 

「……貴様、ネコネに何をした?」

 

「は?」

 

ネコ……ネ?

 

「最近、あの小娘の様子がおかしい」

 

……まさか、ミカヅチも気づいたのか。

 

確かに数日前、ネコネと自分達には色々とあった。突然自分のことを兄と呼び、胸に抱いた不安を吐露していたが……

 

それでも、翌日からは何事も無いように振舞っていたはずだ。今日なんて、ネコネを少しおちょくってみれば脛を蹴り飛ばされたほどである。

それに、仕事をしていてあの一件を知らないキウルや、たまに飲みに来るマロも気づいていなかった。

 

「……様子、とは?」

 

気づかれているとは思わず少々動揺しながらそう言うと、ミカヅチは腕を組み溜息を吐いた。

 

「怖がらんのだ、俺を」

 

「……はい?」

 

……そこ?というか、あのネコネがミカヅチを怖がらないだと?

 

「いつもの小娘ならば、俺と顔を合わせるだけで震え上がり、常に距離を離されていた」

 

「まあ……そうだな」

 

それをミカヅチ本人の口から聞くと、気持ちを知っている自分としては些か同情してしまう。

 

「だが、昨日ネコネがオシュトルからの文を俺に届けに来た時……いつものような怖がる素振りもなく、淡々と文を渡してきた」

 

「……どんな感じで渡されたんだ?」

 

「……オシュトルさまからの文なのです。目を通して欲しいのです。では、失礼するのです……以上だ」

 

「ぷっ……!」

 

い、いかん。ミカヅチの声でネコネの口調を真似されると、あまりにも面白すぎて……

 

「なんだ……?」

 

茶を吹き出しそうになった自分を見て、また殺気が強くなった。

……あ、ミルージュが気絶した。

 

「待て待て。茶が熱かっただけだ、だから睨むな」

 

「ヌゥ……そうか」

 

いや、そうかってミカヅチさん。まだまだ全然睨んでますよね。

それに先程よりも顔が近くないですか、ミカヅチさん。

 

「……ということで貴様、何をした?」

 

「なぜ自分に早速矛先が向いたのかは気にしないとして……確かに、ネコネと自分は色々あったな」

 

……あの時のネコネを思い出すと、胸が締め付けられそうになる。

 

悲痛な表情で自分を兄と呼び、なぜ兄と思えてしまうのかを問うた。それを自分は……完全に否定し突き放した。

 

……仕方が無いだろう。

 

もう今のネコネにはちゃんとオシュトルという兄がいるんだ。自分という偽りの者を兄と呼ぶ必要も無い。それに以前の何かを知ったところで、今更でしかないのだ。

 

「なぜ黙る。やはり貴様、ネコネに……」

 

顔を顰め硬直している自分に、ミカヅチは訝しんだのか声を低くして圧力をかけてきた。

しかし……素直に答える訳にはいかないだろう。突然ネコネが自分のことを兄と呼んだから、自分はそれを否定してネコネがいつも通りに振る舞うようになったなどと。

 

「……自分とネコネは少し……喧嘩しただけだ」

 

「喧嘩だと?」

 

なんとも幼稚な嘘ではあると思うが、ここは致し方ない。

 

「ネコネがいつものように自分に怒ってきたから、自分も言い返した。そしたらネコネが拗ねた……それだけだ」

 

すまん、ネコネ。

自分も情けないと思われる咎を背負う……だからお前も子供らしく拗ねたってことにしといてくれ。

 

「……そうか」

 

ミカヅチは自分の言い訳に納得したのか、表情を変えずに小さく頷いた。

そして何かを考え込むように顎に手を添えて固まる。

 

「……ミカヅチ?」

 

「ハク、今夜は空いているか」

 

「な、なんだ突然……まさかとは思うが……」

 

ネコネを悲しませた罰として、自分に何するつもりじゃ……

 

「……答えろ」

 

「あ……空いてはいるが……危険な事はクオンが承知しないぞ。多分、いや、きっと……」

 

いざとなればクオンに助けてもらおう。彼女ならミカヅチでも何とか……案外面白がりながら見ていそうだなアイツは。

 

「……そうか。ならば宴をするぞ」

 

「…………はい?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……で、なぜこうなった」

 

あの後、ミカヅチはオシュトルと話があると言って屋敷を出ていき、自分はミルージュに申し訳なさそうな笑みを向けられながら白楼閣へと送ってもらった。

 

それで後は適当に時間を潰そうと、自室に戻れば何故かオシュトルとネコネがいて、何故か自分が責められることになってしまったのだ。

 

どうやらミカヅチがオシュトルの屋敷まで突然来たと思えば、宴をするから仕事を終わらせて早く帰れと言われたそうな。

ちなみにその時、自分の名を出して全て自分の責任にしやがったため……結構怒られた。それもネコネに。

 

「い、いや……私にも分からないかな」

 

まあ、そこまでは良い。

宴となればタダ飯やタダ酒が頂けるし、自分としては少し怒られたくらいじゃどうとも思わん。

 

が……

 

「ほれアンちゃん!早くこっち来て飲むぜぃ!」

 

「ネコネちゃん、お酌してくれんか?」

 

オシュトルとミカヅチとの宴だったはずなんだが、何故か……ウコンと飴屋の爺であるサコンが自分達を待ち受けていた。

 

「飲み潰れてるし……」

 

ちなみにサコンの隣には徳利を持つネコネと、ウコンの傍には既に潰れたマロとキウル。

 

隣のクオンも、後ろにいるルルティエとアトゥイも、その光景に驚いている。

無理もないだろう。だって……

 

「……というか、ウコン。その隣のは誰だ」

 

「んぉ?」

 

自分は以前の記憶があるため、この爺さんがミカヅチであることは知っている。

 

しかしここでは初対面。未だ会話したことすらないのだ。

以前ならネコネ達と帝都を回った時や、皇女さんを家まで送った時なんかにくそ不味いトラウマな飴を寄越されたこともあったが……

 

「……お主がハクか。儂はサコン、ウコンとは親友じゃ」

 

「飴屋のお爺さんが……ウコンの親友?」

 

サコンの言葉に、クオンが首を傾げる。

どうやらルルティエもアトゥイも一度会ったことがあるようだ。キョトンとしながらサコンを見ていた。

 

「どうぞなのです」

 

「おっとっとっと……ぷはぁ、ネコネちゃんが酌をしてくれた酒は最高じゃな」

 

「うっ……そ、それほどでもないのです」

 

いやいや、なぜネコネは当たり前のように酒を注いでいるんだ。その爺さんに、いつもの人見知りを発動してないのか?

 

「と、とりあえず座ろっか」

 

「……ああ、そうだな」

 

クオンが苦い笑みを浮かべそう言い、自分やルルティエ、アトゥイと共にウコン達の席へと向かった。

 

「しかしなんだ……すごい料理と酒の数だな」

 

「す……すごいです……」

 

「はぇ〜、ご馳走がいっぱいや!」

 

卓の上には豪勢な料理が並び、これから酒盛りをすることが分かっているのか酒瓶や徳利も大量に置いてある。

自分としては有難いが……これ、カルラさんやトウカさん辺りが何か手を回してないか?

 

その証拠に……

 

「うわぁ、モロロだぁ!」

 

ビュンビュンと白い尻尾で空を切りながら、クオンが目をキラキラとさせている。

そう……何故か料理の中には、クオンの好きなトゥスクル料理が並んでいるのだ。

 

最近のクオンもどこか様子がおかしかった。

 

まあ、あんなことがあれば色々と考えることもあったんだろうが……どこか上の空というか、こちらから声を掛けても何かを考え込んでいるように、いつも眉を曲げていた。

 

……たまに、自分を見ると不安そうな表情も浮かべていたな。

 

「……良かったな、クオン」

 

「うん!いただきまぁす!あむ……むぐむぐ……」

 

嬉しそうな笑顔を浮かべ、料理を次々と口に運ぶクオン。

カルラさんやトウカさんには今度、色々とお礼をしなくちゃいけないな。

 

「ほれほれ、アンちゃんもただ座ってねぇで飲みなって」

 

そんなクオンを眺めていると、ウコンがこちらに盃を一つ手渡してくる。

自分はお礼を言って、早速ウコンから酌をしてもらった。

 

「おっとっと……って、もう酔ってるのか?」

 

「あぁん?まだまだってもんよ」

 

どうやら酔っているようだ。顔が赤いし、何より酒臭い。

自分達が来る前にミカヅチ……サコンと二人で結構飲んだのだろう。

だからネコネがあまり人見知りをしてなかったのか?

 

「んぐ……お、これは……」

 

……やはり、カルラさんとトウカさんが色々と手を回してくれたみたいだ。

どろりと濁った色、口に入れた瞬間に響く旨み、しかし後味はサッパリとしているこの酒……確か、祖国から仕入れた酒と言っていた。

 

「ぷは……うん、美味い!」

 

「だろう?今日はこのサッちゃんの奢りだからよ。たーんと美味ぇ飯や酒を用意してもらったのさ」

 

「なるほどな……んで、なぜサコンなんだ?」

 

「……というと?」

 

自分の問いに、ウコンは面白そうに口の端を上げた。

 

「自分に宴をしようと言ったのはミカヅチだ。しかしここにミカヅチはおらず、何故か飴屋の爺さんがいる……この状況を見て、説明を求めない方がおかしいだろう」

 

「……なんでい。アンちゃんも気づいてんじゃねえか。おい、サッちゃん!」

 

ウコンの呼び掛けに、ネコネから酌をされて嬉しそうにしていたサコンが少し睨みながらこちらを向いた。

 

「なんじゃ、邪魔をするでない」

 

「あのなぁ……ネコネが酌ばかりでこの美味い飯を食えてないだろう、爺さん」

 

「おぉ、すまんのネコネちゃんや」

 

自分の言葉にサコンは頭を下げるも、ネコネは小さく微笑んで首を振った。

 

「ハクさん、よいのですよ。兄さまが世話になってるとのことですし、お酌だけで良いのでしたらいくらでもするのです」

 

「そうか……ネコネが良いって言うなら構わんが」

 

相変わらず気まずい……というか、ネコネが自分と目を合わせてくれないことが悲しいぞ。

こちらを見ているようで見ていない、遠くを見るような目。

 

……いやいや、これで良かったんだ。

今の自分はハクであって兄ではないからな。

 

少々憂鬱になりかけた気持ちを酒で流して、自分はまたミカヅチへと問うた。

 

「しかしウコンと親友だと言っていたが、あんた何者なんだ?ただの飴屋の爺さんってわけじゃないだろう」

 

「ほほぅ……」

 

自分がそう言うと、サコンはニヤリと笑って静かに盃を置いた。

その笑みはこれまでの飄々とした笑みとは違う……獣を食らうような、あのミカヅチの笑みだ。

 

「俺、とヤツの関係か……」

 

まあ……先程、睨まれながら宴に誘われて気づかないわけもないが、クオン達にも出来れば正体を知っていて欲しいからな。

ここで色々とバラしてもらおう。それも派手に。

 

「百聞は一見にしかず……まずは見てもらった方が良いだろう」

 

声色が変わり、近くにあった手ぬぐいで顔を撫でるとシワが消えた。

そして、片方の手をゆっくりと頭の上へと運び、そのまま掴みあげると……

 

「……うな?」

 

カポッ、カポッとカツラを外しては付けるミカヅチ。

隣にいたネコネが、ぽかんと口を開けて固まった。

 

「……判ったか?」

 

そんなネコネにおどろおどろしい笑みを向けるミカヅチ。

 

「え……ぇ……?」

 

……しかしまだネコネは動けない。

状況についていけてないのか、手に持っていた徳利をぽとりと床に落とした。

 

そして賑やかだった周りの雰囲気も、その漢によってシンと静まり返る。

 

「むぅ?どうやら気づいていたのは貴様だけか……」

 

溜息を吐いて盃を傾ける自分と、ネコネやクオン達の反応にガッカリしただろうサコンは、また自分の頭上に手を持っていき、カポッと被り物を外す。

モッサリとした長い髪が溢れ出し、ネコネの視界を灰色が染め上げたことで、やっと気づいたのだろう。

 

「ま、まさか……」

 

「クククッ……」

 

ネコネの声に、先程まで顔を真っ赤にして潰れていたキウルが、いつの間にか身体を起こした。

そしてミカヅチの姿に顔色が段々と青くなっていき……

 

「ミ、ミカヅチさま……!?」

 

悲鳴をあげ、その場に平伏した。

 

「なん……」

 

「やてぇ……」

 

「……あぅぁ」

 

クオンとアトゥイも呆然としながら声を発し、ルルティエは気を失った。

その様子に自分は再度溜息を吐き、奴の名を呼ぶ。

 

「ミカヅチ、お前……」

 

「クク……やっと気づいたか。そこの男以外、永遠に気が付かぬかと思ったぞ」

 

「そりゃ自分はお前に誘われたから分かってはいたが……クオン達は分からんだろう」

 

「あ……あぁ……!」

 

ミカヅチが愉快そうに頬を歪ませてこちらを睨む中、隣にいたネコネが尻尾を震わせながら自分の方へと這いずる。

そんなネコネをミカヅチは見つめると、更に凶悪な笑みを深めた。

 

「ひぅ」

 

「ネコッ……ぐっ!」

 

そして小さな悲鳴を上げると、なんか久しい気もするが自分の腹へと突っ込んできた。

あまりの勢いにネコネの石頭が内蔵へとめり込み、その痛みで自分は蹲った。

 

……何が怖がらないだ?めちゃくちゃビビってるじゃないか……ミカヅチ。

 

「う、うぅ……ネコネ……」

 

「あっ」

 

腹の下で丸まったネコネに覆い被さるようにうずくまっていると、ピクリと身体が揺れた。

 

「ご、ごめんなさいなのです……」

 

そして小さくそう言うと、ネコネは這い出でるように自分の傍から離れ、未だ固まっているクオンへと飛びついた。

 

「……ネコネ?」

 

「違うのです……怖くて……」

 

「ヌゥ……」

 

心配した様子でクオンに呼ばれ、つい本音を言うネコネ。

ショックを受けたのか眉を寄せるミカヅチ。

 

「また……こうなる……のか……」

 

……久しい腹の激痛に、少し嬉しいような悲しいような微妙な気分を感じながら、自分はそのまま気を失った。





次回もこのままミカヅチ編が続く……かもしれません。

飴屋の爺さんであるサコンがミカヅチと判明し、ネコネの頭突きを受けて気絶したハクさんですが、後日談となるかそれとも続くのかはお楽しみにお待ち下さい。

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