[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
よろしくお願いします。
目が覚めると、酒の悪臭と数多のいびき。
自分がいた宴会場は、中々に酷い光景となっていた。
もちろん、女性陣は部屋にでも戻ったのか誰もいない。
しかし、マロやキウルはヨダレを垂らしながら何故か全裸で倒れており、ウコンも自分の横で潰れていた。
そして、月明かりが差し込む中……
「……起きたか」
寝ていた自分の眼前に、起きるのを待っていたのか凶悪なミカヅチの顔。
悲鳴を上げそうになるも、なんとか周りの連中を起こすまいと何とか自分は耐えた。
「……顔が近い」
「……ああ、すまん」
頬を引きつらせながらそう言うと、ミカヅチはあっさりと顔を離した。
水でも飲もうかと身体を起こそうとするが……
「いつつ……腹が」
久しぶりにネコネの突進を食らったせいか、ズキリと腹部に鈍い痛みが走る。
気を失う程の力とは……やはりこの世界のデコイ達は、例え子供であっても油断出来ん。
ネコネの突進を思い出しながら苦笑していると、いつの間にか襖の前に立っていたミカヅチがこちらへ静かに声をかける。
「貴様、少し付き合え」
「ん……?」
二の句を告げず宴場を出ていったミカヅチに、自分は言われるまま着いていく。
しばらくして出たのは、白楼閣の庭にある東屋だった。
「座れ」
「……あ、ああ」
腹痛に耐えながら、自分はミカヅチの対面にある席に座る。
するとどこに持っていたのか、ミカヅチが卓の上に徳利と盃を二つずつ置いた。
「いや、自分は……」
腹が痛くて飲めない、と言おうとしたが……ミカヅチの睨みによって、それは相殺された。
「……乾杯」
「か、乾杯」
蟲の鳴らす鈴の音に紛れて、盃がかち合う音が響いた。
ミカヅチは一気にそれを流し込み、自分はちびちびと口に触れる程度で済ませる。
「……で、どうしたんだ。急にこんな所へ呼び出して」
「貴様と少し……話をとな」
空になった盃に酒を注ぎながら、ミカヅチは静かに呟いた。
自分と話がしたいとは……ネコネのことだろうか。
そういえば、自分が気絶した後はどうなったんだ?あの美味そうな飯や酒は綺麗に平らげられていたし、裸踊りまでしたのかマロやキウルはすっぽんぽんだった。
……惜しいことをした。畜生、ネコネめ。
「ハク、と呼ばせてもらう……良いな」
「ん?ああ……」
ミカヅチに名前で呼ばれるのは……久々だからか少し擽ったい。
この漢とは色々とあったもんだ。
ウコンの親友として宴をしたかと思えば、戦乱ではオシュトルとして敵となり、そして最後には頼もしい味方として共にヤマトを……皇女さんを護った。
自分が神として世界から離れた後は、確か皇女さんやムネチカ、キウルと共に世直しの旅をしていたんだっけか。
楽しそうに悪者を退治する皇女さん達を見ているのは、自分も嬉しかった。
……その旅で、お前は死んだんだがな。
「……どうした」
「あ……?」
「顔色が優れん。先程、あの小娘にやられた腹が痛むのか」
少しからかうように口角を上げてそう言うミカヅチに、自分は溜息を吐いた。
「はぁ……なんでもないさ。んで、話とは?」
自分がそう言いながら、ミカヅチの盃に酒を注ぐ。
その盃をぐいと傾けると、夜空に浮かぶ月を眺めながらミカヅチは口を開いた。
「……ハク、お前は愛されているな」
「……はい?」
中々に気持ち悪いというか臭い言葉を吐かれて、間の抜けた返答をしてしまった。
……いや、本当に何なんだ突然。
「貴様がたかが小娘の力によって情けなく意識を失った……その後の話をするとしよう」
「……ああ」
さらりと貶された気もするが、それについては自分も聞きたかったので気にしないことにする。
突然現れた飴屋の爺さんが実は左近衛大将だったとか、ウコンの正体がオシュトルと知っている数少ない存在だとか……クオン達は動揺しただろう。
それに……マロとキウルが服を剥がされていたのも気になるしな。可哀想に。
「ハクが気絶した後、俺はサコンという姿についてかの者らに語った」
「そりゃ、びっくりしたろうな」
「……いや、そうでもなかったぞ」
「へ?」
そこまでアイツらは肝が太いのか……?
「……キウルと言ったか。彼奴は相当動揺していたようだったがな。それにオーゼン殿の末娘であるルルティエ殿も、中々に動揺しておられた」
「はは……可哀想に」
「しかし、クオンという薬師、シャッホロの姫であるアトゥイ様。彼女らは特に動揺した様子もなく、酒や飯を口にしながら俺の話を聞いていたぞ」
流石はクオン達だ。きっと美味い飯や酒に夢中で、ミカヅチなんて眼中になかったのにだろう。
……本当に惜しいことをした。近いうちにカルラさんの所へ出向き、あの素晴らしいしきたりのご相伴に預からせてもらおう。
「そして……ネコネ」
「ネコネか。どうせお前にビビって、どこかで丸まってたんじゃないか?」
きっとアイツのことだ。気絶した自分なんか放っておいて、クオンやウコンにくっついていたはずだ。容易に想像出来る。
「気絶したお前の……そうだな。看病をしていたぞ」
「……ネコネが?」
「ああ。そこらに居た女子衆に持ってこさせた布団に寝かせ、クオン殿が調合された塗り薬をお前の腹に塗っていた……あの時のウコンの顔は、中々に愉快だったぞ」
そう言って、ミカヅチはニィッと笑った。
相変わらず凶悪な笑みだと自分も苦笑で返しつつ、心の中では少しばかり困惑していた。
……あのネコネが、看病?
自分はこの前、彼女に酷いことをしたはずだ。それからはあまりくっついて来なくなったし、以前のようなトゲトゲとした態度に戻っていた。
嫌いなはずだ。自分のことなど……。
「……なあ、ハクよ。お前はネコネをどう思う?」
「ああ?それはどういう……」
「お前は……」
そこでミカヅチは一度言葉を区切り、フッと笑った。
そして盃に酒を注ぎ、また月へと視線を戻す。
「いや、これは愚問だったか」
「はぁ?」
そこまで言われたら、こっちとしては気になるんだが。
……しかしこいつが言うのをやめたなら、自分に追求することは出来ない。
無理に聞こうとでもすれば、今よりもさらに自分の身体は重傷となるだろう。
自分は今日何度目かの溜息を吐き、ちびちびと飲んでいた酒を一気に仰いだ。
それを横目で見ながら、ミカヅチが小さく呟いた。
「もう一人の兄……か」
「ん、なんだって?」
「……フッ、何でもない」
しかしもう一杯の酒を仰いでいた自分にその呟きは聞こえず、月夜へと溶けていく。
それからは特に会話もなくただ酒を酌み交わし、やがてミカヅチは屋敷へと戻っていった。
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「……なんだ、帰っていたのか」
ミカヅチと別れ自室へと戻ってくると、蝋燭の灯った部屋にはウルゥルとサラァナが座っていた。
「おかえり」
「主様。寝床のご用意は済ませております」
相変わらずこちらの考えを読んででもいるのか、畳には布団がシワもなく敷かれている。
「……ああ、ありがとうな」
しかし自分はその布団には向かわず、二人の前に腰を下ろした。
ウルゥルとサラァナが同時に首を傾げる。
「寝ない?」
「いかがされましたか、主様」
自分はこの二人に、色々と聞きたいことがあった。
ウルゥルとサラァナ……何故か自分と同じ、以前の記憶を持っているかもしれない存在。
これまで何度か話を聞こうかと思ったが、正直に言えばネコネとの一件で頭からすっぽ抜けていた。
もちろん、ネコネのことについては当日この二人から話を聞こうとした。
……しかし、何故かこの二人は分からないと言って、詳しくは話してくれなかったのだ。
だが……二人が何かを隠していることも、自分の知らない所で動いていることも分かっている。
無理やりに聞く必要はないかもしれないが……できれば知っておきたい。
彼女たちに、一体何があったのか。
そして……自分に何が起きているのかを。
「ウルゥル、サラァナ……これは命令じゃない。自分から二人への……そうだな、頼みとでも言おうか」
「夜伽?」
「私達は主様の所有物です。お好きなようにお使いください」
なぜそっち側に行ってしまうんだ……いや、ウルゥルとサラァナにとってはこれが平常運転だったな。
引き締めていた気持ちが緩みそうになるのを何とか堪え、一度深呼吸をしてから彼女たちへと向き直る。
「違う。自分はお前達と話がしたいんだ」
「ばっちこい」
「私達に答えられるものであれば、なんなりと」
「……んじゃ、お前たちは自分に何を隠している?」
その瞬間、双子の表情は明らかに変わった。
視線を逸らし、何か言い訳でも考えているような表情。
「自分も色々と覚悟を決めたんだ。これからを……変えてみせるってな」
その言葉に双子はゆっくりと顔を合わせ、口を開いた。
ウルゥルとサラァナ。
鎖の巫である二人が知りうる、全てのことを。