[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
私達の部族は、強大な力に対抗すべく創造されし種。
最高位たる我等、鎖の巫。
ヤマトに仇なすものを、其の力を以て封ずる運命を授かりしもの。
私達は、二人で一人。
片方は大宮司の記憶と意志を継承し、新たなる大宮司として主上を支える役目を。
もう片方は、次代のための新たな生命を宿す。
永遠に終わらず、それは輪廻となって永い刻を紡いできた。
「っ……!」
「な……なに……これ……!!」
私達は、貴方様に出会うまで。
「サラァナ……耐えて……!」
「……ウル……ゥル……!」
どちらかは母となり、どちらかは次の世代を育む。
そのはず……でした。
「「あぁっ……!」」
主上から命じられたのは、突然現れたその御方を見つける。
それが私達にとって、主上から初めて命じられたことでした。
クジュウリの、とある村。
クオンという少女が遺跡へと入り、主上でさえ見つけられなかった場所から連れてきてくれました。
「……いや……主……様……!」
「やめてっ……ください……私達、は……!」
主上は探していた。
永い永い時の中で、たった一人のその御方を。
「ぐっ……うぁぁあっ……!!」
「やだよ……ウルゥル……あぁっ!!」
そして……現れた。
『ヤマトに戻り、皇女さんを支えてやってくれ』
私達のお役目を、そして永劫に続く輪廻の檻から解放するその御方が。
『……命令だ』
すぐに分かった。
私達は、最初から主様の為だけに産まれてきたのだと。
『サラァナ食べて』
『……食べたくないよ、ウルゥル』
胸が締め付けられた。
釣り鐘のように胸が高鳴り、顔が火照りました。
『……主様の命令、守るために食べて』
『っ……はい』
すべて、必然。
巡り会ったこの方こそが、私達の『我が君』なのだと。
『……幸せに生きて、サラァナ』
『いやぁ……行かないで……ウルゥル……!!』
……うたわれるもの。
この方こそ、新たな大神となられる御方なのだと思いました。
『……もう一度会えるなら』
『……主様のお傍に居続けたいのです』
私達は、主様と共にある。
たとえ主上やお母様の言葉がなくとも、私達はいつか主様の元に馳せ参じていたでしょう。
『願い』
『許されるのなら、また貴方様と』
そう思わせてくれた。
私達は、それを知っています。
『『主様、愛しております』』
やっと……また。
主様のお傍に……。
クジュウリの西方、シシリ州のとある村。
「がぁっ!アァァァァッ……!!」
そこにある旅籠屋、月明かりが差し込む部屋で男は叫びを上げていた。
すぐ近くには白い尾の少女が、暴れる男の名を呼び続ける。
「ハク、やめて……!!」
しかし男は止まらない。
やがて無精髭を生やした男と、逞しい身体つきをした三人の男が部屋へと入り、その男を抑え込む。
「アンちゃん!!」
……その様子を、黒い外套を羽織った少女二人が見ていた。
いや、見ていたはずだった。
「っ……あぁっ……!!」
「あるじ……さま……!!」
少女達は両手で頭を抑え、悲鳴を上げながらその場に蹲る。
しかし誰も気づくことは無い。位相をずらし、白い霧に囲まれているために。
痛みに悶え、口々から零れる言葉はたった一つ。
「「主様……!」」
彼女達は記憶を見た。
それはこの世界では知るはずのない追憶。
まだ言葉さえも、そして顔さえも合わせたことの無い。
『ハク』と呼ばれる男との記憶。
大いなる父の生き残り、そして彼女達を産みだした主上の弟。
永い間見つけることは叶わず、とある遺跡にて眠り続けていたが、クオンという少女によって目を覚ました。
大切な仲間達と出会い、そして大切な親友を失い、残された家族さえもこの世を去った。
それでも彼は世界のために、仲間のために、愛した女のために……大神となる。
ウルゥル、サラァナ。
彼女達もまた、大神と共に行動していた。
心から愛していたからこそ、ずっとそばに居続けたい。
その想いを胸に抱えながらも、やがて大神の命によりその傍を離れることになる。
「……サラァナ……無事……?」
「ウルゥル……今のは……」
ずっと願っていた。
それはもう、叶わない願いだと思っていた。
大神の命でヤマトの皇アンジュに仕え、子を孕むことも無く命を閉ざしたから。
せめて常世で会えるだけでも、それでも良かったはずだった。
「主様……に出会えた」
「……やっと……やっとお傍に……」
だが……大神が願った。願ってしまった。
彼自身の中にいる、大神ウィツァルネミテアの力に。
‘もう一度、あの日常に戻りたい ’と。
そう願ったことで、男は願いを叶えられたのだ。
『大神の力』を『消滅』させることを、代償として。
しかし大神となったその男……ハクの力は、あまりにも大きくなりすぎてしまった。
それは願いに伴う理不尽で不安定な神の代償にさえも、抗えてしまうほどに。
ーー結果。
代償として『大神の力』は『消滅』させられず。
代償として『大神の力』は『封印』された。
そして、マシロと呼ばれた大神の『願い』は叶えられた。
何故か持つべきはずの無い、かつての『記憶』と共に。
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「代償は……やはり大神の力だったのか」
「……そう」
「しかし願いに対する代償は正しく支払われず、主様のお身体にはまだその御力が残っております」
これまでの二人の話を聞いて、驚愕のあまり視界が歪む。
咄嗟にウルゥルとサラァナが支えてくれたため、倒れることは無かった。
「つ……つまり、あの村でクオンを怒らせて荒れていた部屋も、ユゥリの護衛任務での一件も、そしてオシュトルと闘った時のアレも……その『封印された大神の力』によるもの、だってのか?」
「大丈夫?」
「主様……お水をどうぞ」
ウルゥルが自分の額に滲む汗を拭い、サラァナから水の入った湯呑みを渡される。
しかし……
「……あっ」
上手く手に力を入れることが出来ず、受け取ろうとした湯呑みを落としてしまう。
サラァナはすぐに新しい湯呑みに水を入れ、次は自分の口へと運んでくれた。
「す……すまない」
「休む?」
「顔色が優れません。一度お休みになられた方が良いかと思われます」
その提案に、自分はそっと首を振る。
「自分は大丈夫だ……話を続けてくれ」
「……分かった」
「では、主様に再び仕えるまでをお話しします」
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ハクが暴走した夜が明け、翌日の朝。
ウルゥルとサラァナは、未だ混乱している状態ながらも、主上である帝の命を遂行していた。
しかし、突如彼女達に起こった追憶……知るはずのない記憶が流れ込んだために、二人はハクと不用意に接触することは出来なかった。
何が起因となるのか、まだ分からなかったから。
「……駄目、サラァナ」
「でもウルゥル……主様が……!」
彼女達にとって、やっと再会できた愛する主を目の前にして、それはあまりにも辛く苦しいもの。
特に妹であるサラァナは今にも飛び出しそうだが、姉であるウルゥルに手を引かれ何とか耐えていた。
しかしそのウルゥルでさえも、勝手に動いてしまいそうになる身体を、心だけで抑えている状態。
それほどまでに、彼女達の前に主がいるという状況はずっと心から待ち望み願っていたものだったのだ。
「っ……今は、主上とお母様の命を遂行するだけ。だから耐えて、サラァナ」
「ウルゥル……ごめんなさい」
それからも、二人は耐え続けた。
村からヤマトへと向かう途中、盗賊に襲われた時も。
ヤマトに到着し、白楼閣で過ごしている時も。
オシュトルから隠密として雇われ、以前のように怠けたりサボろうとはせずに仕事をしている時も。
ずっと、耐えていた。
主の中にある大神の力がいつ暴走するか、そして何が起因してそうなるのか。
それを知るまでは、不用意に接触することは出来なかったから。
もちろん、主上である帝や母であるホノカにも報告した。
記憶喪失ではあるが、帝の探していた……今はハクと呼ばれる青年が見つかったこと。
しかしその青年は、とある大神に似た力を秘めていること。
力が封印されていることは分かったが、どのようにしてその枷が外れるのか分からず、暴走してしまうこと。
そして……彼女達に彼と過ごしてきた記憶が蘇ったことも。
ウルゥルとサラァナの報告に、帝もホノカもその原因は分からず、様子を見ることにした。
暫くの時が経ち、ウルゥルとサラァナの記憶もはっきりと思い出せるようになってきてからのこと。
ついにまた、ハクの中に宿る大神の力が暴走した。
ここで一度、区切ります。
これまで謎だったハクの願いによる代償が、双子によってついに明かされました。
次回は暴走の原因と、双子が抱えていた気持ちがハクにぶつけられます。
お楽しみにお待ちください。