[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
翌日。
自分はクオンに昨日のことを謝罪し、知り合いと間違えたと弁解した。
クオンは訝しげにしていたが、やがて折れたのか溜息を吐いて移動の準備を始めた。
自分もその準備を手伝いながら、クオンと会話をする。
「それじゃあ、記憶が朧気ってことかな?」
「ああ、自分が何者で、どこの誰なのかが分からないんだ。クオンを見た時は、なぜか知り合いと勘違いしたが、その知り合いも分からん」
嘘、である。
しかしなんとも流れるように嘘をつくものだ。口八丁手八丁は得意だと理解しているが、ここまで来ると罪悪感が半端ではない。
クオンはそれを聴きながら、うーんと手を顎に添えて悩み始める。
「ちなみにここがどこかは分かる?」
「あ、えっと……」
クジュウリの西方、シシリ州の奥。
「ここはクジュウリの西方……シシリ州の奥、と言えば判る?」
「……いや、分からん」
「あー……それじゃあ、あのタタリについては?」
大いなる父、オンヴィタイカヤンの成れの果て。
自分が解放してきた、同胞達。
「スライム状のあれか?」
「スライム……?よく分からないけど、タタリについて判っているのは、日の光が届かない地の奥深くに生息していること。そこに入り込んできた生き物を襲い食料とすること。そして……決して死なない、ということ」
「…………そうか」
「あまり驚かないんだ」
「いや、驚いているさ。驚きすぎて、言葉が出てこないくらいにな」
もし、また同じ歴史を繰り返すのなら、自分が大神となってタタリを解放すればいい。
しかし、どうしても自分には……あの神としての自分に戻りたくないという気持ちが、強い。
これは、責任放棄……だな。
「それはそうと、これからどうするつもり?」
「これから……か」
「ごめんね、ちょっと意地悪な質問だったかな。記憶の朧気な、自分の名前すら確かではないのにそんな質問をされても、困るだけだよね」
「あ……ああ」
「う〜ん、それなら……これも何かの縁。しばらくの間、あなたの身柄は私が預かるってことで、どうかな?」
そう、言ってくれるのか。
よく良く考えれば、自分なんて怪しすぎる。それにクオンにとっては知らない男。自分より強いからといっても、少々不安に思う点もあるはずだ。
これは彼女にとっての責任、だと前に聞いたな。
自分を起こしてしまったから。だから保護したと。
「いいのか?」
「一人で生きていける?」
「いや、無理だな。よろしく頼む」
「うん、賢明な判断かな。素直なことは、いい事だと思うな」
彼女はそう言って微笑むと、手をパチンと重ね合わせた。
「さて、あなたの今後も決まった事だし、とりあえず名前くらいは決めないとね」
「ッ……!」
その言葉に、目の奥がジンと熱くなる。
彼女に貰った名前、それが始まりだった。
これから始まる、大いなる運命の始まり。
「いつまでも名無しのままだと不便だからね。名前、まだ思い出せないんだよね?」
「ああ……そうだな」
以前の自分は、ここで自分の名前を自分自身で付けようとしていたな。
頭のおかしな名前をつける親もいるだろうし、何より男というのは一度くらいカッコイイ名前になりたいものだ。
しかし、そんなことは今は考えない。
自分には、クオンにつけてもらったあの名前があるのだから。
「そうだなぁ、貴方の名前は……」
小首を傾げ、天井を見上げるクオン。パチパチと燃える薪の音が、その間を緊張させる。
こ、ここで違う名前が出てきたらどうしよう……ヒロシとか……。
「ハ……ク……そう、ハク!」
「……ああ……ああ!」
「これからはハクと名乗ると……って、どうしたのかな?そんな天井を見たりして」
「い、良い名前だと感動したんだ」
そう、だよな。お前は、その名前を自分にくれるんだよな。
トゥスクルにおいて伝承の存在、うたわれるものである『ハクオロ』の名を。
「そう?それは良かったかな」
そう言って、クオンは嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔に、溢れそうになる涙を必死に自分は堪えたのだった。