[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い   作:ハラダ

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7 集落

 

「クッ……クオン……!」

 

まさかの事態だ。

心臓が爆音で叫び続け、もう両足は鉛のように重くて引きずっている。

よく良く考えれば、こうなるのも当たり前……なんだがなぁ。

 

「何?」

 

目の前の少女は、特に気にならないようで歩きながら平然と返事をする。

 

「いっ、いや……その……集落まではあと……どれくらいだ……?」

 

「うん、もうちょっと。もう少し先かな」

 

「そうっ、か……ハァ……」

 

相変わらずこのクオンとの差には驚かされる。

果たしてデコイという種が凄いのか、クオンという少女が凄いのか、それともただ自分が貧弱すぎるのか分からん。

自分が貧弱、というのは合っているな。兄貴や周りの人よりも運動は苦手だった。

 

「ハァ……ハァ……つ、着いたな」

 

死ぬ気というのは、こういうことを言うのだろう。ここまで体力が落ちているとは思いもしなかった。そりゃあ目覚めたばかりならこうなるだろうが……少しはオマケしてくれても良かったんじゃないか自分よ。

しかしクオンにかっこ悪いところは見せられん。ここは気丈に……

 

「案外……楽……だったな……ゼェ……ングっ!」

 

「……本当に?」

 

その訝しげで生暖かい視線をやめろ。

 

「あ、ああ!こんなもの、別に……な?」

 

「ふぅん、そっか……」

 

あ、まずい。

あの顔は何が企んでる顔だ。

素直が一番、だったな……自分。

 

「ハイ、到着!ここが旅籠屋だよ。この印のあるところがそうだから、覚えとくといいかな」

 

そう言ってクオンは布地の文様を指し、扉をくぐる。後について行くように自分も入ると、そこは懐かしい光景が広がっていた。

 

ここで、アイツらとも会ったんだよな……。

 

「あらあらクオンさん、おかえりなさい。ごめんなさいね、珍しく色々と立て込んじゃってたもんだから、気づくのが遅れちゃったわ」

 

「いえいえ、お気になさらず。あ、これ、頼まれていた薬草です」

 

二人が笑顔で会話しているのを横目に、自分は旅籠屋をもう一度見回した。

質素な作りだが、色鮮やかで夕陽が綺麗に部屋へ差し込んでいる。それにこの落ち着く気持ちは、やはりこの旅籠屋だからこそなのだろう。

女将さんも綺麗だし、ここは飯も酒も美味かった。今からまた食えるのかと思うと、つい胸が踊る。

 

「……そうだ、二人になるのですけど、構いませんか?」

 

「二人?」

 

クオンの言葉に、女将は首を傾げてこちらに視線を向けた。

 

「いろいろありまして。ちょっとそこで……拾ってきちゃって」

 

その言い方はまるでペットだな。いや正しいんだが。

 

「そうかい。別にこっちとしては構わないよ。さぁさ、疲れたでしょう?荷を下ろして、ゆっくり汗を流してらっしゃいな。晩御飯も楽しみにしておいておくれ」

 

「やった!あ、その前に……」

 

クオンがこちらをちらりと一瞥する。

おっと?これはまずいかもしれーー

 

「ハクにも出来る簡単なお手伝いとかありますか?」

 

ちょっと……待ってくれ。

 

「ハク……ああ、そこの男かい?そうだねぇ、もう遅いから子供のお手伝いのようなものしか残ってないけど、それでもいいかい?」

 

「はい、構いません」

 

決定、か。

仕方ない、どうにか身体に鞭打って頑張るか。

 

それからしばらくクオンは女将と話していたが、やがて尻尾をふわりとなびかせつつ振り返り、それはもう満面のイタズラな笑みを浮かべた。

 

その後、集落の隅では一人の男が少女にこき使われ、悲鳴をあげながら笑っていたと噂されたそうな。

ちなみに、その男は最後、旅籠屋の前で力尽きたそうな。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからクオンが女将に仕事の報告をした後、まずは飯にすることになった。……ちなみに仕事の支払いの時、前回と同じようにクオンは胸を張って間違えており、流石におちょくる体力は残っていないので、微妙な笑みを返しておいた。

 

「いただきま〜す!あむ……んむ……むぐむぐ……ん〜!美味しい!」

 

大きな口でアマムニィを頬張るクオン。

あまりにも懐かしい光景に、つい笑ってしまった。

 

「な、何かな?」

 

「……いや、美味そうに食うもんだと思ってな」

 

「ハクは食べないの?」

 

「ああ、頂くよ」

 

皿から溢れそうなほどの量の料理の中から、アマムの皮でちょびちょびと摘んでいく。この料理はアマムニィといって、自分にとっては食事なり弁当なりでよくお世話になった思い出の品だ。

 

「次は……これと、これにしてみよっと。……あれ?ハク、それだけでいいの?」

 

「いやいや、流石にクオンほど沢山は食えないな」

 

「……べっ、別にこれくらい普通かな。ハクが少食すぎるだけだって」

 

いや、騙されないぞ。

仲間達の中でその食い気を発揮していたのは皇女さんやノスリ、アトゥイくらいだからな。アトゥイはどちらかと言うと酒だったが……それでもその中で一番食っていたのはお前だろう。

 

皇女さんに……ノスリとアトゥイか。

 

「……ハク?」

 

「ん?ああ、すまん。それじゃ、いただきまーす」

 

……美味い。濃い味付けにアマムの皮がよく合う。これに酒を流し込んでっと……最高だな。ビールに近い感じもするが、柑橘の風味もあるから油っこい料理には最適だ。

 

それからクオンと会話に花を咲かせながら、食事を楽しんだ。

 

 

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