[24日まで一時休止]うたわれるもの 真白の願い 作:ハラダ
「ふぅ〜、美味かった」
適度に満腹、いや少し多すぎたか。それでも、自分にとっては最高の食事だった。
そして現在、クオンは久しぶりに風呂に入れるということで、尻尾をくねくねと踊らせながらご機嫌だ。
「風呂が好きなんだな」
「うん!……って、どうしてこれからお風呂に入るって分かったの?」
「あ!? そ、それはその……ほら、美味い飯の後は温かい湯に浸かるのが定石というか、な?」
「ふふん、ハクも分かるヒトだね。ちょっと見直しちゃった」
風呂の話題で見直されるのかよ。
「ただ、この辺りだとお湯には浸かれないんだ。蒸し風呂が普通かな」
「そうなのか」
「ハクも後で入ってくるといいよ。身も心も綺麗サッパリするし、疲れも癒されるから」
「ああ、そうさせてもらう」
今日は一日ずっと歩きっぱなしで、尚且つトドメの仕事連撃だったからな。汗もかいたし汚れている。お言葉に甘えて、ここはサッパリするか。
「……あ」
クオンが準備を終えるのを待ちながら茶を啜っていると、クオンがなにか思い出したような声を上げる。
そして顎に指を添え、何かを考えるかのように視線を泳がせた。
「ん……んん〜」
「どうした?」
「……そ、そうだ。まだやることが残ってたな〜」
「は?」
「うん、ちょっと時間がかかりそうだから、お風呂は先に入っていいよ」
「いや、それなら手伝うぞ?クオンも風呂を楽しみにしてたんだろう?」
ここはレディーファースト。自分も入りたいが、やはりクオンに譲るべきだろう。
それに仕事が残っているなら、少しくらいは手伝うことも出来るだろうし。
しかし、クオンは一切引かなかった。
「ううん、ハクが先に入っちゃって。疲れたでしょう?」
「んにゃ、クオンが先でいいよ」
「……はい、着替え」
「え?」
「お風呂の入り方が分からないなら教えてあげるけど……?」
「いや、ちゃんと分かるさ。でもいいのか?」
「いいの。ほら、入ってきて」
「お、おい!押すなって」
グイグイと背中を押され、着替えと共に部屋の外へと追い出されてしまった。
……怪しい、怪しすぎる。クオンが風呂に関して先に譲るなんてこと……いや、そういえば昔も確かこんな会話があったような。
ま、考えすぎか。
クオンの優しさということで、感謝しながら自分は風呂場へと向かった。
ここでちゃんと考えておけばよかった、と後悔することになったが。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「や、やっぱり強引すぎたかな?」
ハクが出ていった部屋で、クオンは苦笑していた。
「……だ、大丈夫。ハクは少し抜けてるところもあるし、何より疲れてるから……バレないかな」
そしてその苦笑は、悪い笑みへと変わる。
「さて……行きますか」
彼女は、大いなる父の遺産や遺跡に目がない。
そして最近、その頂点とも言える大いなる父そのものを発見し、尚且つ保護までしたのである。
というわけで、気にならないわけが無い。
大いなる父の身体、構造……について。
しばらくハクの足音が遠ざかるまで待っていたクオンだが、やがてそれが聞こえなくなると同時に動き始める。その様はどこかの暗殺者のように静謐であり、足音一つ立たず、気配も完全に消している。
そしてハクが風呂場の扉を開け中に入った瞬間、その裏へと回る。
実はこの風呂場、覗き穴があるのだ。
真ん丸の誰かに空けられたような穴ではなく、木造の建物のため壁の隙間から見える隙間だ。
クオンはこの穴場を知っていた。
なぜなら……いや、これ以上は話さないでおこう。
『ふぅ〜』
中心にある焼き石に水をかけ蒸発する音。それと共に、ハクの気持ちよさそうな溜息が聞こえる。
その様子を隙間から覗く一人の少女、いや保護者。
(ふむふむ、あまり他のヒトとは変わらないかな)
頷きながら、彼の体をじっと見つめる。
少々頬を上気させる様子は、他者から見れば恋心による行動にも見えるだろう。
しかし彼女にとってそれは興味。それだけである。
しばらくするとハクが自分の足を高く持ち上げ始めた。
足裏の怪我を見るためだろう。
さて、座っている時に足をあげればどうなるか。
手ぬぐいを巻いた状態でも、その答えは彼女の目にしっかりと焼き付いた。
ーーガタッ!
『ん……?』
しかしハクは気にしない様子である。
ちなみにクオンはと言うと……
(いっ……いったぁ……って、ななな……見ちゃった……かな)
強打した膝を片手で摩りながら、もう片方の手で口元を抑える。
『うお……皮がベロベロだ。久しぶりに結構な距離を歩いたからなぁ……』
その言葉に、クオンは少なからず後悔した。
目覚めたばかりなのに歩かせすぎただろうか、と。
しかし早めに集落へ降りなければ夜を迎え、野宿では獣に襲われることもある。
そのため、できるだけハクには危険が及ばないようにするための手段だったのだ。
(後で塗り薬を塗ってあげようかな。ハクも頑張っていたし)
そう思い、またクオンは意識を風呂場へと向けた。が……
『ん?』
そこで、ハクと視線が合いそうになり、凄まじい速度で壁に隠れる。
しばらく辺りを見回していたハクだったが、勘違いだと思ったのだろう。やがて足やふくらはぎをマッサージし始めた。
そして。
『よっと』
立ち上がった。
これにはクオンも驚きを隠せず、つい声を上げてしまいそうになる。しかし、そこは学術的興味の為に必死に堪えた。
(あ、危なかったかな……)
そうしてクオンが安堵した瞬間。
ーーハラリ
と、ハクの腰に巻いていた手ぬぐいが落ちた。
ガンッ!!
『お?』
これはまずい。
クオンは乙女である。ハクの保護者ということで、まるで母親のような態度をとってはいるが、中身は純粋な少女。
そんな彼女の脳裏には、確実に今の光景が刻まれただろう。
男の象徴でもある、そのブツが。
『誰かいるのか?』
流石にハクも怪しんでいる。
さてどうするクオン、と思えば……
「クルッ……クルルッ……クックルルッーー」
鳴き声であった。
下手糞、真似された動物が可哀想になるほどの哀れな鳴き声を出し、クオンは誤魔化した。
『……ふーん、小動物、か?』
ハクはそれでも訝しげにこちらを見つめていたが、どうでも良くなったのだろう。手足をブルブルとさせ始めた。
乗り切った、そう思いクオンは視線を隙間に戻す……
『ハイ、ブルブルブルブル……』
ガタンッ!ガッ!ゴガッ!!
「フギャッ」
『フンッ!フンッ!フハァッ!』
ゴトッ! カタカタカタ……
『ぶるぶるぺちんぺぺちんちん!!!!』
ドシャー!!ガタガタ!
『よし、そのまま……フッ!!』
その光景に耐えられなくなったクオン。
走り去ろうと入口に戻った瞬間。
「誰だっ!!!」
扉が勢いよく開かれる。
ピタリとその歩を止め、声の主へと視線を向けるクオン。
「……クオン?」
「あっ、ああっ……」
その視線は顔から胸、胸から下へと流れていき……一点に留まった。
ハクも流石にクオンだとは思わなかったのだろう。たらたらと冷や汗を流し顔を真っ青にしながら、頬を引き攣らせている。
「フニャァァァァーッ!!!」
その日、深夜の旅籠屋で。
聞いたことも無い獣の悲鳴が聞こえたために、集落の男達が集まった。