通常ノイザーが出てくる日常に戻ります。楽しんでいただけたら幸いです。
「ああ、私は……なんてことを……」
深夜。拳銃を手にした一人の少女が、震えて蹲っていた。その目の前には、少女に撃たれたであろう男が胸から血を流して倒れている。その男は、この街を裏から牛耳る〝ファミリー”の一員だった。ご法度とされたクスリに手を出してしまったゆえの末路。しかしてその下手人は、〝ファミリー”の始末人とされる少女は、撃ったことを後悔していて。
「ああ、なんで……
知己の仲だったのか、涙をこぼして嗚咽する少女に歩み寄る影。蛍光色のレッドで配色された、面長な顔と鋭い眼光が鮫か騎士甲冑を想起させる、長身の怪人。ジュール・ボクスだ。
「おやおや。ガゼッドとドゥエスの奴らが動けないから駆り出されたら……掘り出し物を見つけたようだね」
「ひっ……」
突然現れた怪人に向け、咄嗟に銃を向ける少女。脊髄反射なのだろう、身体に浸み込んだ動作と共に弾丸が撃ち出されるがしかし、ノイザーを撃ち抜くことは叶わない。
「素晴らしい!心と乖離した戦闘能力に、乖離しているがゆえに上質な絶望の音色のコラボレーション!また才能溢れた若人を見つけて、僕は感動している!そうだな、君にはこれなんかどうかな…?」
そう言ってレコードリルを取り出して少女に突き刺そうとするジュール。しかし、それは音もなく伸ばされた手に掴まれ止められる。それは、いつの間にか背後に現れた少女……チキチキ・オングの人間態だった。
「オング……なんで邪魔をするのかな?」
「ジュール。君の悪趣味じゃだめ……だ。この人間……は、珍しい性質を持って……る。これの実験に使うべき……だ」
「いや……!」
そう言って取り出したレコードリルを、背を向けて逃げだした少女の投擲。長い髪を突き抜け背中に突き刺して倒れ込ませるチキチキ・オングは、ゆっくりと歩み寄って口上を述べながら半時計回りに回した。
「音色反……転。この者の歴史の音……楽、アカシックレコード……よ。打ち込みしコード「反転」に染ま……れ、
「いや、あ、あああああぁぁああああっ!?」
楽曲を逆再生したかの様な不協和音が鳴り響き、音符が刻まれた五線譜の様な物が引きずり出されて、蠢いた五線譜の様なものが翼の様に広がったかと思えば、レコードリルに吸い込まれるようにして少女の背中に取り込まれていき、そして。何も起こらなかった。
「あれ、失敗かい?」
「……おかしい……な?」
「くう……っ!」
すると少女は苦悶に顔を歪めながらも何とか立ち上がって、路地裏から飛び出して行って。その場には、人間態である真っ白なワイシャツを着崩した爽やかな金髪のイケメンの青年に戻ったジュール・ボクスと首を傾げているチキチキ・オングだけが残された。
翌日。楽器店「forte」。いつも閑古鳥が鳴いている店ではあるが、本日は珍しくというか、繁盛していた。理由はただ一つ、先日居候となり店の一員になった男だった。
「あいや!そこの旦那もお嬢さんもちょいと待たれい。なにを隠そうオイラが働くこの“ふぉるて”!古ぼけていやすが、品質は負けておりませぬ!なんとなんと!“とらんぺっと”に“ばすどらむ”に始まり、“れこぉど”にラジカセ、琵琶に三味線まで置いていやがる品揃え抜群の店なんでい!質もいいよ!なにせあの“れぎおん”の社長さん自ら来るぐらいだ!しかぁも!今ならなんと!三割引きぃ!安いよ安いよ!この機会におひとつどうだい!」
「レコード見せてくれ!」
「三味線なんて珍しいな……ひとつくれ!」
「私も!」
ベベン!と霹靂万来で合いの手を入れながら、件の居候である枇々木万雷が店頭で熱弁していた。物珍しさから集まってきたお客さんが、その熱意と売り文句にかられてどんどん購入していく。この店始まって初の大繁盛だった。
「……なにあれ?」
「いや、客引きは任せてくれっていうから任せたらああなった……」
配信していたのだろう、十時に起きてきて首を傾げてるカナデに、レジしながら答える。あ、今度はバスドラムが売れた。配達業者にまた連絡入れなきゃ……。過去一忙しいんだが。すると、バンライの口上には目もくれず、店の中まで入ってきてレコードを物色する女性がいた。赤と黒を基調とした丈が短いドレスを身に着けた綺麗な銀髪を腰まで伸ばした整った顔の15歳ぐらいの少女だった。恐らく外国人だろうか?カナデにレジを任せ、歩み寄る。
「いらっしゃいませ。なにをご所望でしょうか?」
「いえ。80年代の代物まであって本当に品揃えがいいですわね。ここに来た理由を忘れてしまうところでしたわ」
「理由……というと?」
「初めまして。わたくし、ウィーダン家の当主の娘でシャルロッテ・ヴィーダンと申します」
スカートのすそをつまんでカーテシーを行う少女、シャルロッテ。所作のよさから高貴な家の人間だとわかる。聞こえてくる心の音色も、高貴さを感じられた。
「ウィーダン家……というと、この街の郊外に別荘を置いている資産家の?どういった御用でしょうか?」
「こちらの店主……
「……曲尾菊は俺の婆ちゃんだ。二年前に亡くなって、この店を引き継いだ俺が今の店長だ」
「そんな……そうでしたの。デリカシーの無いことを聞いてしまいましたわ……ごめんなさいですわ」
シュンとして落ち込んでしまったシャルロッテを慌ててフォローする。この人も、婆ちゃんが好きだったんだな。
「いや、気にしないでくれ。婆ちゃんがウィーダン家と厚意にしてるのは初めて聞いたけど。なにかご入用でしたら用意させていただきます」
「まあ。でしたらこちらの棚のレコードをすべていただきますわ!」
「すべっ…!?い、いや…お買い上げありがとうございます!」
満面の笑みでお礼を告げていると、レジの方からカナデの困っている心の音楽が聞こえた。振り返ると、短く首元で切り揃えた銀髪のショートヘアで、だぼだぼの男物のコートを着ている細身で色白の少女がカウンターに頬杖を突いて不機嫌そうに表情を歪めていた。
「だから、2004年……の、“産廃アンチノミー”の第二シングルのレコード。ない……の?」
「ご、ごめんなさい私バイトで詳しくなくて……」
「じゃあ店長を呼ん……で。直接聞くか……ら」
「俺が店長です」
「カケル~!」
慌ててシャルロッテさんを置いてカナデと交代する。こういう受け答えは俺の仕事だ。だけど、間が悪いな。たった今それは売れてしまった。
「産廃アンチノミーの第二シングル……えっと、さっきまであったのですが、つい今しがた購入したお客様がいまして……」
「そこのお嬢さ……ま?」
「え、えっと……ごめんあそばせ?」
冷や汗を流して視線をずらしながらそう答えるシャルロッテ。恐らく睨まれることに慣れてないのだろうか。
「ふーん……邪魔したね。また来る……よ」
そう言ってコートを翻して出ていく少女。大丈夫だろうか。しかし妙だな。心の音楽がまるで聞こえなかった。無心で話してたわけじゃないだろうけど……不調かなあ。
「気にしなくていいですよ、シャルロッテさん。ではお買い上げを……」
「いい店だな。コイツはいただく!」
シャルロッテの購入を行おうとした、その時だった。シャルロッテが買おうとしていたうち三枚のレコードが何かに引き寄せられるように店の外に吸い寄せられ、何者かの手に収まる。そこには、他にお客がいるので迂闊に動けないのだろう、霹靂万来を構えて鋭く睨むバンライと集まっていた客たち、そして。
異様なノイザーがそこにいた。
山羊の様な二本の角が生えた真っ赤な髑髏の様な顔。深紅のコートの様な爬虫類を思わせる生体装甲に包まれた長身ですらりとした黒い体躯に、鋭い爪を有した手足。まるで御伽話の悪魔の様な姿をしたノイザーが、斧の様な銃を右手に握り、左手にレコードを握ってそこにいた。
「ノイザー……!」
「皆様方!逃げるのでございやす!」
「「「「う、うわああああぁあああっ!?」」」」
バンライが逃げるように促すと、我に返り慌てて逃げていく客。繁盛してたのになあ、畜生。怒りのままにレコードライバーを手にして、それに気づく。シャルロッテが、残ったままだった。
「シャルロッテさん!?逃げてください!」
「貴方方はどうしますの!わたくし、無辜の民を置いて一人逃げることなどできませんわ!」
「ああ、くそっ仕方ない。カナデ、頼む!」
「わかったわ!」
カナデにシャルロッテを任せ、レコードライバーを腰に取り付けながら体当たり。バンライが引き抜いた霹靂万来の刃を受け止めていたノイザーにぶつかり、体勢を崩すことに成功する。
《レコードライバー!》
《レッツ・ミュージック!》
「そいつはうちの商品だ。買ってくってんなら安くしとくが、残念ながら既に買い手はついてるんだ。返してもらうぞ」
「おいらの初仕事、邪魔してもらっちゃあ困りやす!」
forteの前で、バンライと並び立ち、構える。同時に変身するのは初めてだな。クラシックの音楽と共に音声が鳴り響くと俺の足元にレコード盤が出現して回り出し、一回転しながらステップを踏み、ベルトを叩いて鳴らしていくとそのたびに合いの手が上がっていく。隣では桜吹雪が舞い散って万雷の拍手と共に拍子木と鼓を打つ音をBGMにした演歌風のメロディーが鳴り響いて、歌舞伎の見栄切りの様なポーズをとる。
「変身!」
「あ、へぇんしぅん!」
《ヘイ!ヘイ!ヘイヘイ!ヘンシーン!》
《シング!シング!シーング!》
それぞれ変身を終え、歌舞伎の大見得の様なポーズをとる残響と共に、くるりと一回転して人差し指を天高く立てる。
「さあ、レッツ!パーリータイムだ!」
「じゃあ、一気にいくぜ~?」
気だるげに銃を構えたノイザーと、俺達は激突した。
謎のノイザー登場。なんのライダーモチーフかわかるかな?
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