街の路地裏にて。リュックから取り出した新聞紙の束を置き、リュックから取り出したポリタンクから灯油をばら撒き、ポケットから取り出したマッチに火をつけて放り投げ、その場を後にする男がいた。
「ヒヒヒヒッ……燃えろ燃えろ!ああ、炎はなんと美しいことか…!」
遠く離れた高台から燃え上がる街の一角を眺めつつ恍惚な表情を浮かべる男は、連続放火犯だった。炎に魅入られた狂人は、己の興奮のために人々に絶望をばら撒く。「絶望」はなにも、本人のものでなくてもいい。
「聞こえるぞ、よい絶望の音色だ。これほどのものを奏でるとは、才能あるな」
「ああ?なんだぁ、お前は」
背後から声を掛けられ、男の視線の先に視線の先には大柄で無精ひげで白のTシャツジーパンにサングラスのスキンヘッドの大男がいて。至福の時間を邪魔された男は怒りのままに大男を睨みつける。
「なに、俺はお前の敵じゃない。子供のお守りの息抜きに出てみればいい素材がいると思ってな。俺はスカウトマンをやっているものだ」
「スカウトマンだあ?変な宗教の勧誘ならごめんだぞ」
「そうじゃない。お前をスカウトさせてくれ。力を与えよう。もっと、炎で世界を燃やしてみたくないか?」
「…それができるっていうのか?」
興味深そうに尋ねる男に、大男は手のひら大の漆黒のレコードリルを二本懐から取り出す。
「そうとも。できる、我らスタジオノイズは絶望の音色で世界を埋め尽くさんとする会社だ!我らが尖兵ノイザーとなれば好きなだけ燃やさせてやる。代償はたった一つ、人を捨て怪物となり、悲鳴や破壊音、負の音色を蒐集することだ」
《エネルジコ!》
そう言って大男がレコードリルの一本を己の胸に突き刺すと、突き刺した胸が光り輝いて大量のCDが出現するとUFOの様に飛び回り、大男の全身を隠すように積み重なって、歪んだCDを束ねた様な凸凹の煌めく頭部をしていて、全身に重ねたCDを模した円形の装甲を付けている、重装甲の怪人セロ・ドゥエスに変貌。異形の力を見せつけられた放火犯は隠しきれない興奮で拳を振るわせる。
「…いいぜ、乗ってやる。俺ぁ警察に追われる生活に嫌気がさしてたんだ。俺も怪物にしてくれ!いくらでも負の音色とやらを稼いでやるぜ」
「素晴らしい!お前の様な逸材は稀だ!」
そう言ってセロ・ドゥエスは男の胸にレコードリルを突き刺して、半時計回りに回すと楽曲を逆再生したかの様な不協和音が鳴り響き、音符が刻まれた五線譜の様な物が引きずり出される。その光景を嬉々として見つめる男は狂ったように両手を掲げて受け入れる体勢を取る。
「音色反転。この者の歴史の音楽、アカシックレコードよ。打ち込みしコード「竜騎士」に染まれ、
そして五線譜の様なものがレコードリルに吸い込まれるようにして男の胸に取り込まれていき、赤色に輝いて燃え上がる男の身体。現れたのは、赤と金で彩られた異形の騎士型のノイザー。人型の竜が炎の様に歪んだ甲冑を身に着けた様な前傾姿勢の巨体。胴体にはノイザーの証である五線譜が刻まれており、長い尻尾を地面に打ち付けて、翼と鋭い爪を有した両手を掲げて咆哮を上げる。
「グオアアアアアアアッ!」
「お前の名はこれよりドラグーンノイザーだ。空を駆り、お前の思う存分炎で街を焼き尽くすがいい!」
セロ・ドゥエスの言葉に頷き、両腕の翼を広げて飛び立つドラグーンノイザー。それを見送り、セロ・ドゥエスは背後に視線を向ける。
「…ちょうどいい。お前も手伝え。俺は前回の傷が癒えていない。今回もかぎつけて邪魔をしてくるであろうシングの足止めをしろ」
「わかりました…」
無機質な女の声に満足げに唸るセロ・ドゥエス。しくじった同僚であるガゼッド・ブーデと同じ轍は踏まないという意気込みに満ちていた。
スポーツカーノイザーを倒した数日後。ここのところスタジオノイズの対処でおろそかにしていた本業、楽器店「forte」の営業だ。カナデはVの方に専念してるため俺がしっかりせねば。
「ありがとうございました」
「こちらこそいつもいいものをありがとうねえ。そうだ、カケルちゃん聞いた?最近起きている放火の話」
いつも中古のレコードを買っていく常連のおばちゃんに一礼すると、手をちょいちょいと動かしながら物騒な話を持ち出してくるおばちゃん。心の音色は聞いてちょうだいよおと生き生きとしている。これは聞かないと長そうだ。放火っていうとあれか。最近、この付近で起きている連続放火事件。警察はすべての現場の付近で目撃されている男を指名手配にしたとかなんとか。
「それがどうかしましたか?」
「何でも昨日から頻度が増して被害も増しているって話よ。死人こそ出てないけど怖い話だわねえ。カケルちゃんもカナデちゃんと二人暮らしでしょ?怪しい奴には気を付けるのよ」
「はあ。そりゃあ気を付けますけど、おばちゃんも気を付けてくださいね?日中はいつもひとりでしょ?」
「あらあ。心配してくれるの?嬉しいわねえ。おばちゃん、舞い上がっちゃうわあ」
「ははは…」
本当に舞い上がるようなメロディーが聞こえる。この人はお得意様だけどこのノリにはついていけないな…と苦笑い。おばちゃんを見送り、淹れたコーヒーを飲みながら一服していると、店の奥の居住区に続く扉からカナデが出てきた。焦った顔だ。
「うん?カナデ、どうした?」
「カケル!ノイザーよ!メラメラパチパチって不快な音……近い、いや近づいてくる…!?」
「なんだって!?」
耳を押さえながら慌てて外に出るカナデを追って、机の上のレコードライバーを手に取って店の外に出る。すると俺達を横切っていく影。見上げれば、そこには翼になっている腕を広げた、甲冑を身に纏ったドラゴンの様なノイザーが空を飛んでいた。あの方角は……街の中心部か!
「カケル、お願い!」
「ああ、行かせてなるものか!」
手にしているレコードライバーを腰に付けると五線譜が飛び出してベルトとなり装着。懐からレコードリル【シング】を取り出すとレコード針を模してるレバーを上げてくぼみに装填してレバーを下ろす。
《レッツ・ミュージック!》
そしてアクセルを吹かしながらバックルの右側面を叩いてレコードリルが回転、クラシックの音楽と共に音声が鳴り響くと頭上にレコード盤が出現すると回り出し、片手でベルトを叩いて鳴らしていくとそのたびに合いの手が上がり、その言葉を叫ぶ。
《ヘイ!ヘイ!ヘイヘイ!ヘンシーン!》
「変身!」
《シング!シング!シーング!》
すると頭上のレコード盤がエネルギー体となって下降。俺の身体に装甲が装着されていき、仮面ライダーシングへ変身した。しかしながら毎度のことながら騒がしいな。
「この騒がしいのなんとかならないのか?」
「歌は気にしないで!」
「そこじゃねえよ!?」
「行ってきて、仮面ライダーシング!」
「…ああ!」
カナデのサムズアップに応え、店先に停めてあるマシンシングラーに乗り込み、アクセル全開で追いかける。ああいう空飛ぶ敵には…こいつか!左側面の一番下のスイッチを押しこみ、二回右側面を叩く。
《ガッキ・ウェポン!2!マラカスショット!》
するとレコードライバーのレコードリルからマラカスショットが飛び出して右手で握り、左手でハンドルを操作してスピードを上げながらマラカスショットを振って振って振りまくった。
《フレー!フレー!》
そうして銃弾を装填すると上空の奴に銃口を向けてエネルギー弾を乱射。何発か当たるが、甲冑で弾かれる。見た目通りの防御力ってことか!
「なんだ?俺の邪魔をするお前は!」
「ノイザーが喋った!?」
こちらに気づいて声を上げるノイザーに、驚く。セロ・ドゥエスみたいな幹部…?いや、自我を持ったままノイザーに変貌したってことなのか?そんなことが……。
「なにがしたいのか知らんが、お前は知っているのか!?悲鳴やらを集めて楽曲ができあがったら、もう二度と戻れなくなるんだぞ!?」
「知ったことか!俺は、すべてを燃やす!燃やし尽くす!人になんて戻るかよおお!」
「…噂の放火魔か?いや、本人が望もうが望まなかろうが…倒すだけだ!」
《フレー!フレー!パワー・テンポゥ!》
マラカスショットのグリップ底のボタンをバイクのメーター部分で押して、リズミカルに振るって弾を装填。エネルギーを溜めて両手で構えて引き金を引くと、強力な光弾が放たれる。こいつで……!
《ガン・テンポゥ》
「なに!?」
すると物々しい音声と共に別のところからも光弾が放たれて、俺の放った光弾と空中で相殺。ノイザーの真下で爆発する。なにが、と思ったその時。マシンシングラーの進む前方に黒い霧が立ち込め、その中からなにかが、現れる。
《ノイ…ズ…!アン…コ…ンセク…ション!ノォ…イズ!》
ノイズ交じりの物々しい音声がその場に響き渡り、姿を現したのはシングと同じ、五線譜と音符を象った戦士。しかししかし、靄に包まれていてシルエットしか見えず、16分音符を模した複眼だけが紫に光っている。
《アン・テンポゥ》
そのなにかは腰のベルトのバックルを操作して腰を低く構え、跳躍。靄に包まれたまま飛び蹴りを繰り出し、俺はハンドルを切るも間に合わず直撃。マシンシングラーから蹴り飛ばされて宙を舞い、アスファルトに倒れた。その間にノイザーは飛び去って行く。
「何者だ…?」
「……ノイズ。仮面ライダー、ノイズ」
仮面ライダーノイズを名乗った何者かは、踵を返すとその場を去っていった。なんだったんだ…?
仮面ライダーノイズの立ち位置は魔進チェイサーや仮面ライダーカリバー。
・ドラグーンノイザー
連続放火犯にセロ・ドゥエスが「竜騎士」のレコードリルを埋め込んだことで生まれた怪人。空を飛ぶという厄介さを持つ。モチーフは龍騎サバイブ。
・おばちゃん
forteの常連客。よくいる噂好きのおばちゃん。
・仮面ライダーノイズ
セロ・ドゥエスが派遣したボディーガード。スタジオノイズの名に冠する存在。シングに酷似している。
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