ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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モロバレだけど女神の名前は伏せます。


11 二冊目

 それは十年以上前の話。

 極東に、黒い神が訪れた。

 

「あら、いらっしゃいエレン」

 

「……何でそっちの名前が出てくるんだ?やはり君は変だ。玉藻の前」

 

 ここでは一応エレンとしておこう。その神がオラリオで『暗黒期』真っ盛りな時に、極東のとあるアイテムショップを訪れていた。

 そこのカウンターにいた玉藻の前と、六歳の姿をした明を見てエレンは頭を抱えたくなる。

 

「……少年趣味だったか?君は」

 

「ハルだったらどんな姿でも愛せるよ」

 

「ハル、ね。……天界にもいなかった天照の分け御霊(みたま)。そして規格外なファミリアらしき構成員。君は『英雄時代』を、そしてその前の『神代』の更に前を、知っているな?」

 

「それを聞いてきたのはあなたが初めてかも。極東の神はわたしのことをちょっとは覚えていても、いつから知り合いだったか憶えていないから」

 

 そんな意味深な会話を続ける二柱。ちなみに少年の明は玉藻の前に抱えられている。

 

「そんな確認がしたかったの?」

 

「……いや。君達の星見を頼りたい。探している人物と、見付けたい物がある」

 

「ザルドはカイオス砂漠のオアシスに、アルフィアはセオロ密林の奥深くの村にいる。お探しの薬草はデダインに僅かだけど群生している、噂の物だ。それと、彼女の持病は『大聖樹の枝』しかないだろう」

 

「……いや、気持ち悪いな。お前」

 

「これは失敬。神エレン」

 

 エレンが依頼内容を伝える前に明がスラスラと答えを告げる。それこそがエレンの知りたかった情報であり、星見のあり得なさを実感していた。

 

「さすが神と、調停者。物の見方が違う」

 

「ハルが調停者ってバレたのは初めて。ふふ、エレン。お代はまけてあげる」

 

「これはありがたい。手持ちが少なくてね。……そして君達にもう一つ、お願いがある。オラリオには『暗黒期』が終わってから来てくれ」

 

「良いですよ?危ない目に遭いたくないですし、オラリオのことはオラリオに任せます。だから『英雄時代』にもあまり接触しなかったんですから」

 

 あっさりと承諾を得られたことで肩透かしを食うエレン。

 目の前のファミリアがいたら予定している『大抗争』が起こらない。未然に潰される。そう思って命の危険も考えて訪れたのに、何もかもがあっさりとしすぎている。

 

 いくら未来を視ることができるとはいえ、これから世界の都市を破壊しに行くと言っているのに許可されるとは思いも寄らず。

 しかも邪魔だから来ないでと頼んで快諾とはこれいかに。

 

「ああ、そうそう。ゼウスとヘラに許可を貰った方が良いと思います。最後の眷属を借り受けるわけですから」

 

「あー、場所わかる?」

 

「地図をください。地名がない場所に住んでいるので直接書きます」

 

 エレンに詳細を書いた地図を渡す。そしてエレンは探し物を全て見付けて、『大抗争』を引き起こす。

 その前に出会った純白の少年に、一欠片の悪戯をして。

 

 

「忘れ物の本ですか?」

 

「はい。ベルさんは読書が好きと聞いたのでどうかなと」

 

 ベルとリリルカ、ヘスティアが『豊穣の女主人』で夕飯を食べていた時に、シルからそんなことを言われた。

 どうやらお客さんの忘れ物のようで、もう三日ほど経っているのに取りに来ないという。誰が置いていったかもわからないので、読んでみないかというお誘い。

 

 店長のミアも、返してくれれば持って帰って良いと許可を出す。

 真っ白な分厚い表紙に書かれていたのは『誰でもわかる!極東の民間伝承・英雄譚』。これに興味を持ったのはベルの失敗だろう。

 ベルは世界中の英雄譚に詳しいが、極東だけは疎い。なにせ極東は特殊な文化体系をとっていて、オラリオでさえ情報はまばらにしか得ていない。

 

 そこの英雄譚ともなれば、ベルが惹かれるのも仕方がないだろう。

 リリルカもヘスティアも装丁がちょっと豪華なただの本だと思ったので、借りるくらいは良いかと思っていた。食事が終わってリリルカを『星見の館』まで送っていってからベルは明日の準備をして早速本を読みだす。

 夜更かしする気満々だった。

 

「どんな物語かなぁ……」

 

 期待を浮かべて目次を開く。

 

 

 

 

 ざんねん!

 ベルはいしきを うしなってしまった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?あれ?僕は本を読んでいて……?」

 

 ベルの視界には真っ白な空間。見覚えのない場所だ。

 なぜこんなところにいるのかわからず、独り言を呟いてしまう。

 するとその声に呼応するように、ベルの前に真っ黒な影が現れる。ベルより少し背が高い大人の男性のシルエットだろうか。

 

「ベル。お前は何を望む?」

 

「何を……?」

 

「神速を得られる(いかづち)を手にした。それ以上に望む物は何だ?」

 

「……憧憬を燃やすような炎を。暖かい、僕の勇気を震え上げる事ができる、決意の炎を」

 

 ベルは影の質問に、しっかりと答える。質問の意図はよくわからなかったが、雷と一緒に欲しいと思ったのは炎だ。

 炎は英雄とよくセットになるものだ。それが欲しいと思った。

 

「わかった。ではお前には──」

 

「待て待て待てぃ!ベルには儂のような雷が必要じゃぁ!」

 

「グホラァ!」

 

「影の人ー!?」

 

 突然飛び膝蹴りをしてきた老人によって吹っ飛ぶ影の人。

 せっかく何かを渡してくれるところだったのに、髭を生やしたご老人がダイナミックなことをして防いだようだ。

 

「って、お爺ちゃん!?」

 

 ヤンキー老人。その正体は死んでしまった少年の祖父だった。

 

「このクソジジイ!テメエは【ケラウノス】をもう与えてんじゃねえか!」

 

「何個渡したってよかろう!なんたって儂の孫じゃからな!」

 

「はぁー?そういうことすると、強制的に冥府の力与えんぞ?今なら俺の血を通してそういうことできるんだからな!?ダンジョンも地下空間、絶対雷被りのジジイより有効だね!」

 

「んなもん使った瞬間ベルが疑われるじゃろうが!」

 

「もうウラノスに目付けられてるんだから大差ねーよ!」

 

 始まる二人の喧嘩。取り残されるベル。

 殴り合い・蹴り合いの応酬が始まる。

 そこに、追加で陽炎のように揺れて近付く何か。

 

「ぬおっ!ウルス!?お前さんまで!」

 

「炎って言われたからって……。ここは同窓会の場所じゃねーぞ!?」

 

「いや確かにお前さんは昔力を貸しておったが……大精霊の力はまずい!有名すぎる!」

 

「ブーメランだぞジジイ!テメエの雷なんてギリシャで有名すぎるわ!」

 

「待て待てーぃ!ベル君はボクのだぞ!」

 

「神様!?」

 

 さらにヘスティアまで参戦。取っ組み合いの喧嘩になって誰もがしっちゃかめっちゃかに。

 

「まずジジイを除外しやがれ!」

 

「いーや、外すなら君さエレボス!邪神はちょっと風評がヤバイ!ボクの胃を考えろ!」

 

『……!』

 

「ウルスも自己主張激しいな!?そんなに気に入った!?」

 

「今じゃ、そーれ!」

 

「うおー!?」

 

「影の人ー!?」

 

 ベルの祖父によって遠くに投げ飛ばされる影の人。

 彼が帰って来ないうちに、三者は円陣を組んで会議を始める。

 

「●●●。君は【ケラウノス】があるんだから譲らないかい?」

 

「いやいや、あの【九魔姫(ナインヘル)】とかいうハイエルフのチャンネーがスロットめちゃくちゃなことしとるんじゃろ?ベルだってそれくらいしてもいいじゃろうが」

 

『……』

 

「あー、はいはい。ウルスは確定で。ボクも炎だし、【ファイアボルト】とかどう?」

 

「んじゃ儂、ジュピター名義で」

 

「変質魔法で更に加わろうと?君、過保護だね……」

 

「はいはい決定じゃ!【ファイアボルト】にこの三人の変化。それを今回の魔導書会議の決定とする!閉廷!」

 

「ベル君の意見は全無視なんだね……。ここ一応彼の心象風景なのに」

 

 何故かいつの間にか大事そうなことが決まっていたベル。

 これには言葉も出ない。

 

「ちょっと、俺のことは!?」

 

「「却下」」

 

「俺何のために出てきたのさ!?」

 

「っていうかこれ、何の幻覚ですか?」

 

 エレボスのことは無視され、ベルのツッコミに誰も返さない。

 いきなり重くなる瞼。ベルはその感覚に身を任せて──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル君?もう朝だぜ?吟君とやってる早朝訓練はいいのかい?」

 

「えっ?」

 

 ベルはヘスティアに起こされる。すっかり朝日が昇っている。早朝訓練は終わっている時間だ。

 

「寝坊だー!?」

 

「あ、タマモの簡易式神。あー……。ベル君怒ってないって。体調悪いなら明日からどうするか一言欲しいってさ」

 

「あ、明日は大丈夫です!」

 

「昨日借りた本を読んで夜更かししたね?子供なんだから……って、ベル君?その本、本当に読んだのかい?」

 

「え?読んだと、思います……」

 

 読んだはずだが、内容は全く覚えていなかった。

 そして夢の内容も。

 

「それ、真っ白じゃないか」

 

 ヘスティアに言われて、開いていた本のページをめくる。めくってめくって。最後のページまで行って。表紙も見て真っ白で。

 二人は思い当たる物があった。

 数千万ヴァリスする、超高級品だ。

 

「「魔導書(グリモア)だこれー!?」」

 

 朝一で近所迷惑な大声が、響く。

 

 

「で。魔法が発現したわけですか。ああ、そのタイトルの魔導書、作ったのは明様です。星見で今朝、ベル様の元に届いたと知ったらしくて」

 

「明君は何でそんな紛らわしいタイトルをつけるかなー!?」

 

 リリルカが明から言伝を預かったのでベル達の元まで来て、告げた内容でヘスティアが叫ぶ。最も明は作っただけで、魔導書の管理ミスをしたのは渡した相手の方。明を責めるのはお門違いだ。

 なお、明も渡した女神も確信犯である。ベルが受け取りやすいようなタイトルにした。

 

 リリルカが来るまでに、ヘスティアは日課のステータス更新をしていた。最近は朝方にやるのがもっぱらで、吟との訓練後に更新することが多い。

 

 

 何故かって?

 夜にぶっ飛んだアビリティ上昇を見たら胃の痛みで夜寝られなくなるからさ。

 

 

 

 仕事中なら痛みを無視して仕事に集中できる。それだけのこと。

 更新したステータスを三人で覗き込む。もうリリルカが見ることに誰もツッコミを入れない。

 

 

 

 

 

────

 

ベル・クラネル

Lv.2

力 :H112→H146

耐久:H187→G234

器用:G211→G298

敏捷:G278→F336

魔力:H101→H132

 

幸運:I→G

 

《魔法》

雷霆を(ケラウノス)

・付与魔法

・雷属性

・速攻魔法

・追加詠唱をすることで魔法変質

・詠唱文【天空より更に彼方へ、黄金の雨となり、聖獣たる御牛をも震わせ、最果ての宇宙(カナタ)へあなたの証を届けよう】

 ・【世界の果てに、刻憧の雷霆(グレェヴン・ケラウノス)

 ・変質魔法

 ・追加詠唱により広域攻撃魔法へ変質

【ファイアボルト】

・速攻魔法

・追加短文することで魔法変質

 ・【ファイアボルト・ジュピター】

 ・速度上昇

 ・【ファイアボルト・ウルス】

 ・威力上昇

 ・【ファイアボルト・ウェスタ】

 ・回復魔法

 

【】

《スキル》

英雄達の船(アルゴノゥト)

・能動的行動に対するチャージ実行権

・鼓舞されるほどに威力上昇

・共闘時、チャージ速度上昇

 

────

 

 

 

 

 

「何ですかこの魔法……。ベル様は【九魔姫】にでもなるつもりですか?もう六個ですよ」

 

「僕だって聞きたいよ!これ、普通じゃないんでしょ?」

 

「スロットに一個の魔法が鉄則ですよ。【九魔姫】もあくまで三つの魔法に三つの派生のはずです。一つの魔法のスロットで攻撃魔法と回復魔法が健在しているなんて。しかも速攻魔法なんてまたレアなものを……。威力も補填できますし、何ですかこれ?」

 

「回復魔法もレアだって聞いたよ……。まさか明君が作る物はレア魔法が発現するとかいうことがあるんじゃ!?」

 

「そうだったら今頃あそこは大行列ですよ。お客さんはそれなりにいますけど」

 

 ヘスティアの思い付きにリリルカは冷静に返す。とはいえ、あそこに魔導書はまだ置いていなかった。

 これからは置くようになるかもしれないが。

 

「しかも何ですか?発展アビリティが二ランクも上がってる……」

 

「あ、ホントだ。魔導書と魔法で驚きすぎて気付かなかった」

 

「ん〜〜〜?たまたま借りた魔導書で魔法を発現させたっていう事実が『幸運』にプラス補正されたとか?いや、ボクでもわからないけど」

 

「でも【幸運】が上がったことは良いことだと思いますよ?このアビリティのおかげで明らかに魔石の質やドロップアイテムが見付かる確率、上がりましたから」

 

 ステータスから読み取れることを統計も含めて話していくリリルカ。

 ベルが一緒にいると、いつもよりモンスターがドロップする物の質が良かったり、純粋に量が多かったりと、確実に稼ぎの一助になっていた。

 その原因であろう【幸運】のステータスが上がったらどうなってしまうのか。これにも懸念を示すリリルカ。

 

「しっかしこの派生魔法……。ウェスタはいい。だってこれボクのことだろう?ジュピターはもう、あのバカ弟……!やっぱり介入してるじゃないか。それに火の大精霊(ウルス)ってどういうこと……?ベル君が魔改造されていく……!」

 

「まあ、新しい魔法は試すしかないでしょう。出ちゃったものは消せませんし。あとは、この魔導書を借りた相手への弁明ですかね?」

 

「「……借金生活だー!?」」

 

 色々なことが重なりすぎて忘れていたベルとヘスティア。まずは『豊穣の女主人』へ謝りに行くことに。

 朝の仕込みをしていたところで、ミアの一言。

 

「忘れな。そんな大事なもん何日も取りに来ないで忘れた方が悪い」

 

 この一言で借金地獄から解放。真っ白になってしまった魔導書はできるなら回収して欲しいと明から言われていたリリルカが預かる。

 そのまま『星見の館』に行ってベルが吟と銀郎に早朝訓練のことを謝り、魔導書で寝入っていたのなら仕方がないということで許され。リリルカは使い物にならなくなった魔導書を明に渡して。

 

 ヴェルフと噴水で集合してダンジョンへ潜る。その際新しい魔法を実験。

 ただの【ファイアボルト】は弱威力、超短文詠唱の炎が一直線に飛ぶ魔法だった。【ジュピター】は説明通り通常の魔法の倍速ぐらいの速さで、【ウルス】は体感1.5倍の威力。

 

 【ウェスタ】を怪我した部位に当てると、傷が塞がって完治。小さな傷なら問題ないだろうと判断。それと現れた炎そのものに治療効果があるようで、小さい範囲ではあるが範囲回復魔法だとわかった。

 

「速攻魔法なら立ち止まらなくても使えるし、ベルの立ち回りとしては魔法剣士での中近接ってところか?最初の魔法の、追加詠唱以外は範囲もそれなりだしよ」

 

「そうですね。パーティーの潤滑油と言ったところでしょうか。遊撃手、パーティーの足りないところへ手を差し出す。それが今後大きくなったパーティーで求められる動きだと思います」

 

「そっかぁ。状況判断が大事ってことだね」

 

 そこそこの稼ぎが終わった後、全員は帰還。

 帰る際にヴェルフから相談があった。

 

「いつまでも貸し出しの防具ってのもあれだし、気合い入れて防具作るからさ。三日ほどダンジョン行くの休ませてくれ」

 

「全然大丈夫だよ。ヴェルフの本業は鍛治師なんだから。僕の防具お願いね」

 

 ベルの防具は今の所ヴェルフが過去に作ったものを調整して使っていて、ベル用にオーダーメイドした物ではない。まずは武器を優先して作っていて、そのせいで防具はあり合わせの物になっていた。

 それも素材があまりなかったからなのだが、今回の七階層での稼ぎでキラーアントの甲殻が規定数揃った。これと以前ベルが討伐したインファント・ドラゴンからドロップした鱗で鎧を作ることになっていた。

 

 ベルの武器としては片手剣『兎刃(ピョンじん)』とサブウェポンで短剣の『跳躍(ドラゴンイーター)』の二つがある。どちらもヴェルフ作成の逸品だ。

 まずは戦う道具である武器が壊れてはいけないと、魔剣という壊れゆく武器を作れるヴェルフだからこその想いもあって武器作成を優先した。そのおかげで頑強度は相当高く、魔法を使っても罅が入ることはない。

 

 ヴェルフに激励を送って、この日は解散になった。

 ちなみにこの日三人での稼ぎはドロップアイテムを除いて二万八千ヴァリス。ヴェルフはドロップアイテムをもらっているために現金は良いと言っていたが、これだけ稼ぎがあるのだからとベルが渡していた。

 

 それでも遠慮して、ベルとリリルカが一万ずつ、ヴェルフが端数の八千ヴァリスとなった。

 ベルとリリルカはヘスティアを誘って、連日の『豊穣の女主人』での食事になった。魔導書隠蔽に協力してもらったので、せめて売上に貢献しようという話になったため。

 

 明としては正規の値段で売れた物なので気にもしていなかった。

 むしろクライアントの女神はオーダーメイドで最高級の魔導書を要望したので、かなり色を付けた値段を一括で支払ってくれているという裏事情は流石に話さなかった。

 

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