ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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リリも強化タグつけた方がいいんだろうか。


12 ソーマ・ファミリア

 オラリオで暗黒期が終わってすぐ。今から五年ほど前。

 最悪の『大抗争』から二年が過ぎた頃。悪派閥の動きが緩やかになって、大悪が潜み、小悪がのさばり始めた頃。

 リリルカ・アーデは貧困生活を送っていた。

 

 ソーマ・ファミリアは上納金制度に移りつつあり、(こす)いことをしてでも金を集めるようになる。闇派閥が大手を振るって行動していた時にはまともにダンジョンにも潜れなかったので金稼ぎも大変だったが、この頃はそうでもなくなっていた。

 

 産まれた時からファミリアに入れられていたリリルカは他の団員と変わらず神酒(ソーマ)の魔力にやられて火事場泥棒のようなことをして資金を集めていた。

 だが、それでも稼げるのは微々たる金額。そんな金額ではステータスの更新はできても、神酒を飲むことはできなかった。

 

 この当時は【人形姫】とも呼ばれていたアイズがダンジョンに突撃してランクアップをしたという話を聞いて、年端も変わらぬリリルカも装備を集めてダンジョンアタックをしていた。盗品でいいから装備を固めて、お金を払ってステータスの更新をして。

 その収支が合わなくなったあたりでステータスの更新ができなくなり、ダンジョンに潜っても階層を跨げなくなり。

 そして、魔力が切れた。

 

「……お酒のために、命を賭けていた……?ハハッ、バカらしい!」

 

 そこまでして飲みたいものではなくなってしまった。生活を切り詰めて切り詰めて装備を整えて命を賭けて。泥水を啜って様々な場所で遺品を漁って。貯めたお金でステータスを更新してもまともに数値も伸びていなくて。

 空腹を知って、絶望して。魅了が解けた。

 途端に今までしてきたことが恥ずかしくて卑しくて、死にたくなるほど。

 

 小人族という産まれからの弱者。せっかく発現したスキルも魔法も戦いには向かないと決め付け。

 闇派閥と戦ってきた正しい冒険者の姿を知って、盗みを働いてきたことで罪悪感に潰されそうになり。

 同じ穴の狢だったソーマ・ファミリアに戻ることに恐怖を感じて。

 路地裏で呆然としていた時に、彼女は出会った。

 

「あら、そんなところでどうしたの?」

 

 玉藻の前という中庸の神と。

 

「ハルが吟ちゃんと金蘭ちゃんを見付けた時もこんな気分だったのかな?とりあえず、お風呂に入りましょう?」

 

 保護されたリリルカは、それから基本的に魔法を使って小人族であることを隠した。ソーマ・ファミリアと関わりたくなかったために。そんな逃げの選択肢をとっていたが、一年前に彼女の存在がソーマ・ファミリアに露呈する。

 それがソーマ・ファミリアの首を締めることとは露知らずに。

 その一年前の逆恨みが、再燃する。

 

────

 

 ベルは朝練を終えて本拠で朝ごはんを食べて、ギルドの前の噴水で腰をかけてリリルカのことを待っていた。ヴェルフが防具作成に入って二日目になり、まだベルとリリルカの二人でパーティーを組んでいた。

 集合場所は基本この噴水にしているので、たまに全員が揃うのを待つこともある。この日はリリルカが遅い日だった。

 一人で待っていたベルに、話しかける狸人の中年男性。

 

「おい、お前。バカみてえなバックパック背負った小人族の女とつるんでる冒険者だな?」

 

 話しかけられて、言われている内容も理解して。

 ベルは彼のことを一瞥しただけで無視した。

 

「テメエ!ルーキーのくせに目上の人間の言うこと無視してるんじゃねえぞ⁉︎」

 

「だって、それ。答える意味ありますか?」

 

「あぁ?」

 

「悪意を持って話しかけてくる相手に、目上だろうと答える理由はありますか?」

 

 ベルは優しい。だからこそ、悪意を持って何かをしでかそうとする人間の言うことなんて聞かない。

 目の前の男がリリルカに何かしらの恨みを持って悪事を働こうとすることを隠していない時点で、会話をするつもりはなかった。

 リリルカは、大切な仲間だから。

 

「おそらくソーマ・ファミリアの人か、その人たちに雇われた人なんでしょうけど。僕の仲間に手を出すなら容赦しない」

 

「ガキが……!調子に乗ってるんじゃねえぞ!」

 

 その捨て台詞と共に去っていく男。こんな衆目集まる場所でやらかす蛮勇はしなかったようだ。すぐさまガネーシャ・ファミリアの憲兵に捕まるとわかっていたのだろう。

 

 ベルは吟の元で修行を受け始めたためにある程度動きを見れば相手の実力がわかるようになっていた。さっきの男はレベル一の、そこそこ。吟や銀郎、アイズの動きを見ていたために脅威に感じなかった。

 とはいえ、やっちゃった感はあった。

 

「あぁ、どうしよう……。集団で襲ってくるか、後はダンジョン内で怪物進呈(パスパレード)をされるんだろうなあ。いくらレベルアップしたからって全部倒せる自信があるわけじゃないし……。でも、女の子が狙われてるんだ。助けないと。笑顔にしてみせないと。アルゴノゥトなら絶対にそうする」

 

 やってしまったために、あとはやり通すだけ。リリルカを待つ間、持っている物を確認しておく。

 ベルはリリルカからソーマ・ファミリアの実態を聞いていた。そして一年前の襲撃事件についても。だからもしかしたらこんなことになるかも、とは伝えられていた。

 

「ヴェルフがいればもっと余裕を持てるんだけど。……今ヴェルフは頑張ってる。頼っちゃダメだ。僕がやらないと」

 

「ベル様?どうかされましたか?」

 

 考え込んでいると、リリルカが来ていた。彼女は道中襲われなかったらしい。

 

「ううん。今日も二人で頑張ろう。リリ」

 

「今更口にすることですか?」

 

 ベルは何もなかったかのようにリリルカとダンジョンへ向かう。

 敵が仕掛けて来たのは、七階層。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリルカ・アーデ。今度はそのルーキーの腰巾着か?」

 

 七階層の、正規ルートからちょっとだけズレた大広間。

 そこには三日月のように口を広げた三人の男がいた。話しかけてきたのは先程ベルに協力を訴えかけてきた狸人。

 ベル達は彼らがいることがわかっていた。彼らの先にはモンスターが少なく、安定した稼ぎができるように調整されていた。誘い込んだと思っている彼らだが、誘い込まれてあげたのはベル側だ。

 

 ベルはダンジョンに入ってから先程の出来事をリリルカに伝え、リリルカも迎撃することを決めた。いつまでもタマモノマエ・ファミリアに頼っていられないと。降りかかる火の粉は追い払うべきだと。

 

「しっかしオメエもよ、酷えことをしてくれたもんだぜ。オメエのせいで神酒を飲めなくなっちまった。ノルマを払わず、雲隠れしたテメエのせいでよぉ!」

 

 彼が言っているのは月ごとに決められた上納金を支払わず、脱退金も支払わずに逃げ出したことだろう。

 そしてそれがファミリアのルールだからと『星見の館』を襲撃し、一般市民に被害を出しながらも制圧され。

 結果としてギルドからペナルティを受けた。

 

 神酒の販売が止められれば上納金以外の主な収入源がなくなるわけで。神酒を作るには原材料にこだわる必要があるのでお金が必要で。

 結果作られる神酒の量が減った。

 

 ギリギリおこぼれをもらえる位置にいたこの男カヌゥはもらえなくなってこの一年乾き続けた。

 そしてもらえなくなった原因であるリリルカを陥れ、ついでに金品を奪おうと企てたのだ。

 

「装備はそこそこだったからこの階層までは来られるとわかってたぜ。どうだ?誘い込まれた気分は?」

 

「……本当にあの酒は恐ろしい。盗みを超えて、とうとう殺害にも躊躇わなくなりましたか。しかもキラーアントの習性を利用するなんて」

 

「なっ!?」

 

 誘い込んだはずなのに手の内がバレている。

 その理由はリリルカの魔法【シンダー・エラ】で犬人に変身して嗅覚と聴覚を活かしてカヌゥの後ろにいる男が持っている袋にキラーアントが入っていると看破したからだ。

 

 リリルカも酒に溺れている時は盗みをした。それでも、殺人まではしようとしなかった。

 あの時玉藻の前に拾われて良かったと、心の底から感謝した。

 

「それがあなたの切り札ですか?そんなもの、僕とリリなら切り抜けられる」

 

「レベル一が二人程度で調子に乗りやがって……!後悔しても知らねえぞ!おい、やれ!」

 

 カヌゥの声で、腰巾着の男が持っていた袋を真ん中に放り投げる。

 中から出てきたのはもちろん瀕死状態のキラーアント。

 だが、キラーアントは瀕死にされてから随分と袋の中に入れられていた。そして密閉もされていない袋で、声も特有のフェロモンも閉じ込められない。

 つまり。

 この場所は既に百匹を超えるキラーアントに囲まれていた。

 

「やるよ、リリ!」

 

「はい!ベル様!」

 

 ベルが剣を抜いたように、リリルカもバックパックから両手持ちの太刀を引き抜く。リリルカの身長を優に超える大武器だが、リリルカは【縁の下の力持ち】というスキルでそれを振り回すことを可能としていた。

 これは『星見の館』で売っている明の作品の一つだ。刀の理念である斬れ味と頑強さを追求した、吟も銀郎も使わない武器。

 

 正確には、銀郎が使う刀身変化という能力で変化する武器に似せた物を作ろうとした副産物。

 六個の内の一つ、『鬼斬り包丁』を模した武器だった。

 

 実はリリルカ、最近の早朝練習で見ているだけではなく、この太刀の使い方を銀郎から教わっていた。折角あるスキルに、本数もある試作品もあったので、最低限の振り方くらい教えてもいいだろうという話になった。

 

 リリルカが孤立した時に遠距離武器であるボウガンだけでは心許ないという話になり、持っている魔剣はいつ壊れるかわからない。

 ということでバックパックに入り、スキルの恩恵に預かれる近接武器としてこの太刀を所持していた。

 

 ベルとリリルカが剣を振るい魔法でキラーアントを倒している間にカヌゥ達は予想以上にキラーアントが集まったことで逃げようとしていたが、大群のキラーアントが、嬲られた同胞を見て許さない。

 

 モンスターからすれば襲う相手なんてどちらでも良く、犯人はどちらかなんて関係ない。その場にいた全員を喰らうだけ。

 罠にしようとした彼らが包囲されて喰われることは当然ある。モンスターを用いた罠なんてそんな当たり前のことが想定されるから誰もが使わない。闇派閥はキラーアント如きの低級な罠なんて使おうという発想にも至らない。

 

 彼らも抵抗しようとしたが、本質が他者を陥れようとする人間性だ。冒険もまるでせず、数には勝てずに足や腕を喰われ始めた。

 汚い悲鳴がルームに響き、ベルは顔を歪めながらも介入する。

 

「【ファイアボルト】!」

 

 速攻魔法でキラーアントを吹っ飛ばす。倒せなかった相手だけ斬り伏せ、一時的に三人の安全を確保していた。

 

「な、なんで……?」

 

「あなた達は許せないけど!見捨てるのは違う!またリリが狙われないように、生き証人になってもらう。リリに手を出したらこうなるって知らしめるために!」

 

 その発言に、少し離れた場所で戦っていたりリルカが嘆息一つ。

 言葉ではそう言いつつ、ベルはただ目の前で死んで欲しくないだけ。それが悪人であっても。

 

 人を見殺しにしたくない、ただの優しい少年だった。

 レベル二のベルの八面六臂の活躍でキラーアントは殲滅。そして手足を欠損して気を失っている三人を見てどうしようかと悩む。

 

「三人も上まで運べないんだけど……」

 

「ベル様。ロープで繋げて引き摺ればいいんじゃないですか?」

 

「たまに血も涙も無いこと言うよね、リリ」

 

「全員ソーマ・ファミリアですから。正直ここに捨て置いてモンスターの餌にしたいくらいですけど。……ベル様が許してくれないでしょう?」

 

「うん」

 

 その即答がわかっていたために、リリルカは頬を緩ませる。

 だが、実際問題三人も二人で運べないのだ。リリルカのスキルがあるので本当にロープで縛って引き摺るのが最適解に近い。ベルは道中のモンスターを倒してもらうためにフリーである必要があり、運ぶとしたらリリルカだ。

 

 ソリや台車があるわけでは無いので、本当に引き摺るしか無い。肩を貸すのは嫌だという生理的な理由で選択肢がない。

 どうしようと唸っているところに、リリのバックパックがモゾモゾと動く。

 そして袋口から出てきたのはゴンだった。

 

「ゴン様!?いないことを確認しましたのに!」

 

「バーカ。お前にバレないように姿を偽るくらいできるんだよ。リリルカ、そいつら運んでやろうか?」

 

「え?……ああ、本当の姿ですか?あの、目立ちません?」

 

「本当の姿?」

 

「気配と姿を隠すくらいできる。選択肢、無いだろ?」

 

 ゴンの言葉通りで、ロープで縛って四肢を欠損している人物を引き摺るなんて外聞が悪い。姿を隠してくれるというのならそれが一番だろうと思った。

 ゴンに頼むと、五Mを優位に超える巨体に変わり、陰陽術で自分の背中に固定して姿を消していた。

 

「ゴン様って凄い……」

 

「ああ見えて神の一柱ですから。想像以上にたくさんできますよ。お酒も作っています」

 

「えぇ!?あの身体で!……あれ?神様ってダンジョンに入っちゃいけないんじゃ?」

 

「そのはずです……。ホント、不思議な人達ですよ」

 

 こんな事態になったので今日の探索はここまで。キラーアントの魔石とドロップアイテムはしっかり回収してギルドへ向かった。

 三人は結局バベルで担架を借りて移送。事情聴取になってベル達はありのままにゲロった。待ち伏せされたこと。

 

 一年前の事件の報復だということ。キラーアントで嵌められたこと。百匹を越す大群で対処している間に彼らは抵抗できずにやられてしまったこと。

 たまたま近くにいた神が裁判員をしてくれて嘘がないことを証明してくれた。そのためベル達は巻き込まれた側として処理された。

 

「ありがとうございました。ロキ様」

 

「ああ、ええんよ。ギルドに用があったんやから。ま、ゴンをダンジョンに連れてったことは言わなくて正解やな。ギルドに怒られるでー」

 

「……気付いていたのですか?」

 

「そのバックパックからカオルに似た神性を感じるんやもん。タマモが入ってなかったらゴンしかおらへん」

 

 ベルはカオルのことがわからなかったが、リリルカの説明で玉藻の前とゴンが作っているお酒だと知る。

 そのお酒と似た雰囲気というだけで隠していたことを看破されたことに、ベルは純粋に尊敬した。

 

「ロキ様って凄いですね!」

 

「そやろそやろ?いやー、ドチビんトコの子やけど、可愛いやっちゃ。それにミノの件で迷惑かけてんやからこれくらい気にすんなや」

 

「いえ、助かりました。ありがとうございます」

 

「はいな。ゴン、タマモに今度の遠征について連絡よろしくー。十日後や」

 

「……今回はいつもの二人に足して道満もついていくそうだ」

 

「マジ!?フィンに伝えとくわー。んじゃ」

 

 ロキは帰っていく。それに合わせてベル達も帰って、それぞれの神に今日のことを伝えた。

 今回事件を起こした三人は四肢欠損により冒険者引退。そして所属ファミリアであるソーマには三人の独断ということで特に罰則は与えられなかった。これが後々の問題となる。

 

「まだそこにいたのか、リリルカ・アーデ……!お前は稼ぎに必要だ。取り戻してやる……。俺達は、ファミリア(家族)だもんな?」

 

 その悪意の発露は、まだ。

 

 

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