ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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14 遠征とのブッキング

 その日、ベルとリリルカは二人でダンジョンに潜っていた。

 ヴェルフはへファイストス・ファミリアでテナントに置く商品の会合があるとのことで欠席。ヴェルフは鍛治師なのだからお店に置く物についての相談は大事だ。

 二人は休みにしても良かったが、せっかくなのでベルが魔法を使って後方に徹して、リリルカを前面に出す役割分担を試すことにしていた。

 

 滅多なことがなければベルが前に出ず、武器も抜かないまま魔法でなんとかすると最初に決めて潜る。

 七階層までは問題なく潜れて、八階層で小休憩を挟む。

 

「それにしても噴水の所にたくさんの人がいたけど、あれが遠征なの?」

 

「そうですよ。まだ団旗は出していませんでしたけど、ロキ・ファミリアの遠征です。ウチからも道満様、吟様、金蘭様が参加されているはずです」

 

「深層、もしくは未到達階層に向けての大規模行軍……。憧れるなぁ。今の所何階層まで潜ってるの?」

 

「五十八階層だそうです。もっともこれはロキ・ファミリアの記録で、ゼウス・ヘラ両ファミリアはもっと深くまで潜っていたようですが」

 

「へー」

 

 ここでリリルカは一つ情報を意図的に隠していた。

 五十九階層以降に潜ったのは公式上一千年間都市の最大派閥として君臨していたゼウスとヘラ・ファミリアだけだが、非公式にはもう一つのファミリアがそれよりも奥に潜っている。

 公式記録を四十二階層と偽っている、たった七人のファミリア。等級はBのはずの規格外商業ファミリア。

 

 探索系ファミリアに喧嘩を売っているとしか言えない。オラリオに来てたった五年で四十二階層という記録を樹立したというだけで憤慨ものなのに、たった数年で一千年の偉業を超えたのだから知っている者からすれば呆れしか出てこない。

 

 ギルドからも探索系にシフトしないかと言われているが、玉藻の前が断っている。その交換条件のようなものがアイテム作成とロキ・ファミリアの遠征補助だったりする。もう一つの最大派閥はダンジョン攻略にあまり精を出していないので、手伝うならばロキの方になる。

 

「遠征前だと『星見の館』の商品も品薄になるよね。だいたいロキ・ファミリアが買っていくの?」

 

「半分くらいはそうですね。あとは売り切れになる前に愛用している冒険者様が買いに来て、後は転売ヤーです」

 

「転売、やー?」

 

「転売で儲けようとしている人達へ向けた蔑称ですよ。リヴィラの街の人間が多いです。あの人達はいつものことですけど、ダンジョン内で有用な物を上で仕入れて中で高額で売り捌く。そうして発展してきた街ですから」

 

 ダンジョン内のセーフティータウンだからこそグレーなのに看過されている悪質な転売。高価だとしてもそれで命を左右されるのであれば買わざるを得ない。

 それで助かった命もある。だから冒険者も高いと文句を言いながらも利用してしまう。お金で命を買えるなら安いものだと言い聞かせて。

 

「遠征についてはそこそこ情報が出回りますから。特にロキ・ファミリアは定期的に行なっているので周期も把握できます。なので耳聡い人が転売するために買い占めに走るんです。ディアンケヒト・ファミリアの回復薬もほとんど買われるのだとか」

 

「食料とか回復薬とかアイテムとか、必要な物が多そうだもんね。何かしらの大量購入があったら遠征かもって思われるんだ」

 

「一番わかりやすいのは第一級冒険者の皆様が複数、愛用の武器を整備に出したら確実ですね。一斉に整備に出すなんて遠征の前か後だけですので」

 

 そういう情報を聞き入れて行動する者が富を得るのだという。ちなみにソーマ・ファミリアはそういう稼ぎをしていないのだとか。

 まずソーマ・ファミリアが信頼薄く、酒を売っているところでアイテムを売っていたりしたら盗品かと疑う者が多いからだ。正規の値段よりも高ければ転売になる。

 

 しかもレベル二がいるとはいえ少数。リヴィラの街まで売りに来るにしても命懸けになる上、絶対来られるとは限らない。来るまでにアイテムなどを消費して採算が取れるかどうか。マイナスになりかねないほどの実力しかない者ではこの転売ができない。

 

 あとは、酔っているためにこの発想が出てこず、短絡的思考に走りやすいことも理由に挙がる。元手も必要であり、売れなければ損する。使わないアイテムを買っても意味がない。

 金稼ぎにそんなまどろっこしいことをしようとせず、奪う方が手っ取り早いと考えてしまう集団なので転売をしていなかった。

 

「ベル様もファミリアの等級がDになれば遠征に参加できますよ。というか強制ですね。ファミリア連合の遠征が年一回組まれるので、それに参加させられることになります。気の長い話ではありますが」

 

「そうだね……。まずはファミリアの人数を増やさないといけないから、当分先の話だろうな」

 

「ヘスティア様がバイトをしながら勧誘をしていると聞きましたが、成果はまだ出ていないんですね?」

 

「零細ファミリアだからね。僕がもっと強くなれば入ってくれる人が増えるかもしれないから僕はダンジョンに潜って、勧誘はギルドに張り出ししてもらう以外は神様に一任しているんだ」

 

 なおヘスティアは勧誘を熱心にしているが、ヘスティア自身があまり神っぽくないからか眷属になってくれるような人物はやって来ない。

 それに、邪神エレボスやゼウスの恩恵らしきものをもらっているベルのことを隠しながら勧誘しなければならないので中々難しいこともある。

 

 あとはそう。

 彼女を襲う胃痛が割と深刻で、あまり勧誘の時間を割けないことか。

 

「探索系ファミリアを名乗るなら、せめてファミリア内でパーティーをいくつか組めるようになっておきたいですね。そこに他派閥と協力して奥を目指す、といったところでしょうか」

 

「いつまでもリリやヴェルフに頼ったパーティー編成にはできないもんね。今日みたいにヴェルフの用事もあるだろうし」

 

「そうですね。ファミリア内ならある程度その日の事情などもわかっているでしょうから。他派閥と組む場合、何か問題があったら責任の押し付け合いにもなります。要らない心配のタネを抱えながらダンジョンに潜ることは危ないですから。タマモ様とへファイストス様ならそんな心配は要りません。お二方とも善神ですので」

 

 リリルカは自分を拾ってくれたことと、五年もの間ほぼ無償で保護してくれたから玉藻の前を善神だと信じているが。

 彼女はあくまで中庸の神。善にも悪にも染まらない公正な神とも言える。

 

 事実、『大抗争』を引き起こした邪神エレボスを見逃している。何をやろうとしているか知っていたのに、どれだけの人が死ぬか予想がついていたのに看過した。この時点で善神ではない。

 

 かといって、悪神寄りかと言われればそうでもない。善神の手伝いもすれば、実際オラリオにとって有益なことにも手助けをしている。

 ウラノスとの盟約もある。

 玉藻の前とそのファミリアはヘルメスと同じであくまで中立の神だ。交遊は深いながらもどこかへ特別な肩入れをしない。

 

 ロキとフレイヤは都市最大派閥だから援助の回数が多いだけで、特別なことはしていない。特別というのは、介入することで到達階層を一気に更新させたり、ランクアップの手助けをしてしまったりを指す。

 そこまでする気は無かった。

 

 話はその辺りにして休憩を終えて九階層へ向かうことにした。十階層からはダンジョンギミックで霧が出て視界が悪いので、今日の終着点は九階層にしていた。

 八階層を楽々突破して九階層に入ってすぐ。

 二人は違和感を覚える。

 

「モンスターが全然いない……?」

 

「それに静かすぎます。冒険者様の姿が見えないのはここで狩りをしている人がいないだけだとしても、モンスターに全然会わないのは……」

 

 二人が確認するように言葉を発すると、その言葉に反応したように重心の籠った足音と何かを引き摺る音が辺りに響く。

 音がした方面へ二人とも武器を向けて警戒をして暗い通路の奥から現れたのは、真っ赤な体毛に、巨大すぎる石斧。

 

 そして武人を思わせる威圧感に、ベルとリリルカを足しても余りある体躯。縦も横も太く筋肉質で、象徴である二本の角は片方が途中で折れていた。だがそんなことは関係ないというように獰猛な笑みを浮かべている。

 そして二人を見るのではなく、ベルだけを見てソレは歓喜の咆哮を挙げる。

 

『ブモオオオオオオオッ!』

 

「ミノ、タウロス……!の、強化種!?」

 

「強化種はレベルが一つ上とされています!つまりレベル三相応!敵いません!?そんなのがどうしてこんな階層に……!」

 

 いつかの巻き直しのような光景。上層にいるはずのないモンスター、その強化種。

 かのミノタウロスは通常持っている物よりも1.5倍はありそうな石斧を持って突っ込んでくる。

 二人の『冒険』が、始まる。

 

 

 ギルド本部前の噴水広場。そこには大多数の集団が出来上がっていた。団旗も掲げられていて、遠目からでもそれがロキ・ファミリアの遠征に同行する集団だとわかった。

 いつもであればロキ・ファミリアと若干数の他ファミリアからの助っ人で構成されているが、今回はちょっと違う。

 

 五十階層以降で見られた新種のモンスターの存在。武器を溶かす溶解液を放つ芋虫型のモンスターのせいで鍛治ファミリアであるへファイストス・ファミリアに正式に協力要請をしていた。

 そのおかげでいつもより規模が更に大きくなっている。

 

 団長同士の軽い打ち合わせということもあってフィンと、へファイストス・ファミリアの団長であるハーフドワーフでレベル五の椿・コルブランドと会話していたところ、最後の援軍が到着する。

 

「おや、すまない。どうやら我々が一番最後だったようだ」

 

「道満。気にしなくていいよ。まだ集合時間には余裕がある。今回はよく参加してくれたね」

 

 フィンは現れた人物と対等に、気さくに応じる。

 蘆屋道満。タマモノマエ・ファミリアの唯一のレベル六。【呪術師(アイテムメーカー)】の名前で知られる白髪の偉丈夫だ。線は細いながらも、陰陽術という種類の魔法でできることが多く、同行してもらえるだけで様々な恩恵が得られる人物だった。

 

 道満の後ろには吟と金蘭がいる。彼らは自分達が仕えるべき主人がいる場合、必ず後ろに控えるという従者気質が根底に根付いていた。

 

「おお、そちらが蘆屋道満殿か。手前は椿・コルブランドと言う。今回はよろしく頼むぞ」

 

「かの最上位鍛治師(マスター・スミス)のお噂は予々。今回は不壊属性(デュランダル)付与のために同行するのだとか」

 

「此奴ら専属の鍛治師がおらんからな。それに厄介な相手がいるとなれば手前達の出番というわけよ。そちらの刀剣技術も、かなり気になるがな?」

 

「それはセーフティーエリアで話すとしよう。出発前では時間が足りない」

 

「それはそうだな。その時を楽しみにしている」

 

 椿はそれだけ言って帰ってしまう。出発前の最終確認がしたかったのだろう。

 道満達は手持ちの道具以外荷物もないので身軽なものだ。ダンジョン内で道具を作成するにしても手軽な物しか作れないので、小さなバッグを道満と金蘭が持っているだけ。

 

「それで、今回はどういう風の吹き回しだい?君が一緒に潜るなんて」

 

「そういえば遠征で一緒に潜るのは初めてか。別に星見で嫌なものを見たとかそういうわけではない。仮にもファミリア最強だからな。吟と金蘭ばかりを最前線に送るのもおかしな話だと思ってな。私も深層の最前線を経験しておこうと思っただけだ。ドロップアイテムにも興味がある」

 

「……正直、僕の親指が疼くんだけど。何か視ていないのかい?」

 

「私は明と玉藻ほど星見は正確ではないからな。未到達階層の更新にはそれこそ未知があるだろうが、全てが危険とは思えない」

 

 道満はフィンの問いかけにそう答える。

 星見はフィンの親指同様、万能ではない。未来をいつでも好きなように視ているわけでもなく、ある程度の指向性が必要だ。

 それにダンジョンには危険なことなどありふれている。それを全て察知するとなれば脳がパンクしそうだ。

 

「そうか。でも何かわかったらすぐに伝えてくれ。それと君はどれだけ戦えると勘定していいんだい?」

 

「これでもレベル六だからな。治癒と方陣……結界魔法は金蘭に大きく劣るが、明よりは全般的に陰陽術の腕は上だ。二つ名の通り呪術が特に得意だな。君達で言うところの呪詛(カース)に近いが、私への代償などはない。ノーリスクで同じようなことができると思ってくれ。毒から呪い、金縛りまで嫌がらせなら任せるといい」

 

「君を敵には回したくないな。呪詛と似たようなことをノーリスクなんて。極東は魔境かな?」

 

 オラリオの外だと言うのに、第一級冒険者をこれだけ揃えられるタマモノマエ・ファミリア。極東出身者が全員ここまでぶっ飛んでいないが、過去にも技を極めてレベルが上の相手に致命傷を与えたという例もある。

 それに陰陽術も特殊だ。応用が効きすぎる。スロットという概念を吹っ飛ばす異質な物。それに助けられてきた身としては何も言えないが、それでも異常なものは異常だ。

 

 フィンの仲間であり魔導士としても才能があるリヴェリアでさえ魔法のスロットをフルで使って魔法は九。レフィーヤという有望株もエルフ限定であって、魔法の全てを扱うことはできない。

 だが道満と明は、陰陽術という枠組みであれば全ての術式が使えるという。

 

「ちなみに超短文詠唱は?」

 

「できる。先に言っておくが、苦手なことは接近戦だ。吟の猿真似しかできない」

 

「それ、苦手って言えるのかい?」

 

(想像以上だな……。彼らの協力を得られたのはロキに感謝しないと。明と同等以上の実力者。作ってくれるアイテムも役立つ物ばかりだし、彼らは到達エリアの更新に必要不可欠だ。吟もレベル六になったアイズですら勝てないかもって言ってたな)

 

 フィンはそこまで考えて、お礼を言うべきだと思い出す。

 アイズが早朝に出かけていき、楽しそうに帰ってきたことがあった。それをリヴェリアが目撃して、吟と銀郎に訓練をつけてもらっていると言っていたのだ。

 

「そうそう。アイズの件ありがとう。お礼は本人達と、明と神タマモノマエに言うべきかな?」

 

「ああ。謝礼は不要だ。彼女のためになっているか微妙だと言っていたからな。そうだろう?吟」

 

「はい。彼女の剣とおれの刀は別物なので。比較対象になることはあっても、彼女の剣が伸びるかは微妙で」

 

「いや、色々な経験が彼女には必要なんだ。そういうことを彼女が率先して行おうとしていることが僕達幹部は純粋に嬉しい。迷惑でなければこれからも続けさせてほしい。それに壁を乗り越えるキッカケにもなったようだ」

 

「ああ。ランクアップですか」

 

 ギルドに堂々と張り出されていたので吟達も把握していた。レベル六、単独での階層主の撃破。

 レベル五でウダイオスの単独撃破は確かに偉業だろう。吟も冒険者の質と恩恵がどういうものかこの五年で覚えたので納得した。

 まだ十六の少女が為すこととすれば、確かに偉業だ。

 

「ベートも吟を目標にしているようだからね。ウチは色々と刺激をもらっている。リヴェリアも道満や明には負けられないと躍起になってるよ」

 

「……全く、目標が低いな。ベートはザルドを。リヴェリアはアルフィアを目標とすべきだろうに」

 

「……!驚いたな。『大抗争』の時にオラリオにいなかった君からそんな人物の名前が聴けるなんて」

 

「少し調べればわかる。星見は過去も視られるんだぞ?ゼウス・ヘラの他の面々はあまり実感が湧かないだろうが、敵対していた人物なら実力も測りやすいだろう。レベル七としてもかの二人は規格外だったからな。……そも、アルフィアなんて十七の時点でレベル七だぞ?あれこそ才華の顕現と言うべきだ」

 

 それほど規格外だった、『大抗争』の敵二人。切り札、真打ち。

 オラリオを蹂躙した、真の化け物達。

 その恐怖は、『大抗争』を経験した者達にとって色褪せることのなく根差した忌み名。

 

「世界は広いなと実感したよ。そして残酷さも再認識した。いくら才能があっても環境や事情で容易くその才能は潰れる。……明の親友もそうだった。彼も才能があったが、活かす前に才能を使い潰されてな。アレは産まれた家が悪かった」

 

「へぇ。明の親友。そんな人物がいたなんて知らなかった。オラリオには来なかったのかい?」

 

「もう死んでいる。一分野だけなら、明も私も超える天才だったよ」

 

「……それは、惜しい人物を亡くした」

 

「ふむ。それを考えると確かに極東は魔境だな。分野ごとの天才が多い。辺境だからこそ技術体系の継承もしっかりしている上に、あそこのコミニティは特殊だ。タケミカヅチ・ファミリアなど最たる例だろう。あそこは神の戦闘技術を継承している。くく、面白い場所だよ」

 

 道満は意地悪く笑う。

 オラリオは世界最大都市だ。それは確実なのだが、そんなオラリオでも想像も付かない未知が広がる場所。

 それが極東だ。

 オラリオが全てと思っている人間からすれば、この事実は痛快だ。そしてそんな人間が多いからこそ道満は嗤っている。

 

「ああ、フィン。私達は先頭の部隊に組み込んでくれ給え。後続からゆっくり行くのは性に合わない」

 

「ん、ああ。それくらいはお安い御用だ。指の疼きもある。最初からそうするつもりだったよ」

 

「それは良かった」

 

 この後フィンの号令の後、遠征は始まる。

 その遠征も、最初から躓くことになるが。

 

 




明の親友、祐介は間違いなく難波明の唯一の親友でしょう。
天海薫(今作ではお酒の名前に使われている子)は玉藻の前の親友です。

二人にとってかけがえのない親友だといいなあと思って二人のことをちょっと匂わせています。
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