ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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ダンメモのグランド・デイの設定を用いていますが、あくまで言い訳として使っています。

なので推定レベルには突っ込まないでください。


20 命名

 その日は三ヶ月に一回しかない『神会(デナトゥス)』。神々が神の宴の次に楽しみにしている行事であり、特に今回の『神会』は神々の誰もが注目していた。

 楽しみすぎてはしゃいでいる男神。お淑やかに笑いながらも興奮を隠せていない女神。

 それに今回は楽しみである下界の子供達の話題以外にも話さなくてはならない事案がある。それはどの神からしても見過ごせない懸念事項だ。

 

 そのため今回はファミリアを持っている神々は、闇派閥と特殊な神を除いて全て出席していた。

 小難しいことは最後に持っていって、今回は一番盛り上がる子供達の命名式を初っ端に持ってきた。司会進行はロキが行う。

 

 本題ではない子供達の命名式が終わり、神々にとっては痛い、子供達にとってはカッコイイ二つなが与えられていった。この結果に盛り上がる場と、崩れ落ちる神々の明暗が別れていた。

 さて、そんな混沌とした場をロキが柏手一つ鳴らすことで静寂を作り出し、何もかもの集中を一身に集めていた。

 場を切り替えたことで、本題の一つ目に取り掛かる。

 

「んじゃあ次の子。んでもって今回の目玉の一つや。ヘスティアんところの、ベル・クラネルっちゅう子。冒険者登録は約一ヶ月半前。これはギルドで確認済み。初期ステータスも前例通りレベル一の0スタート。なのにたった一ヶ月でレベル三になりおった。

 

 ──さて、ドチビ?この観衆の中、正直に答えてもらおか。何かズルはしたんか?一応ウチも証言の一つをすると、冒険者になって二週間程度の頃はウチの子が確実に駆け出しにしか見えなかったと言っとる。ドチビはどんな魔法を使ったんや?」

 

 全員の目線が神々の中で一番小さい女神、ヘスティアに集まる。

 この日を想定してきたし、脳内シミュレートはかなり重ねてきた。こうなるとわかっていた。

 だが、それでも襲ってくる胃の痛みからは逃れられない。

 事前に飲んでおいたミアハ特製の胃薬の効果に期待しながら答える。

 

「この場で誓って、ボクは何もズルをしていないと証言する。そりゃあ魔法とかは些か特殊だけど、彼の境遇はギルドを通して公表した通りだ。付与魔法も公表したから、それを上手く使えば状況を打破できる可能性があるのは下界に長い君達ならわかるだろう?

 

 ──ミノタウロスとの上層での遭遇。これの足止めと生還。【怪物祭】での、レベル二への関門とされるインファイト・ドラゴンの単独撃破。これでレベル二にランクアップできるようになったよ。

 

 そして、闇派閥の仕業として公表された強化種のミノタウロスをペアで撃破。それもレベル四相応だと道満君が認定してくれた相手をだぜ?偉業としては十分どころか過剰すぎるくらいだと思う。当時は色々と後遺症も残ってたし、かなりのリスクを負ってあの子が得た『経験』だ。

 

 あの子にはそれを突破できる実力と運と助けがあった。本当にそれだけのことなんだ。それにボクがやらかしたなら、今頃ウラノスが黙ってないだろ?」

 

 ヘスティアは言い切ると、そばに置いてあったコップを掴んで水を飲み干す。

 緊張で喉がカラカラだった上に、こんな大勢の前で話すなんて初めてだった。

 しかも前例がないベルの話をするために、信じられるかわからない話をしなくてはならなかった。

 

 一応味方の神は少しだけいるが、この場で表立って助けられる話でもなかった。

 そのため、都市を守護するウラノスの名前も出しておいた。何かあった場合、ウラノスが必ず声明を出すはず。

 それが今のところ、ない。

 

 それと赤毛のミノタウロスの件だが、道満がフィンに簡易式神を送ってひとまず闇派閥の仕業ということにしておくことで口裏を合わせていた。実際の黒幕はこれ以上目立って今回のような試練を与えないからだ。

 対象者がレベル三になったことで、これ以降の試練はダンジョン内で行えば自然と危険でありいつものイレギュラーとして処理される。今回のことほど大事になることはないのだ。

 

「まあ、闇派閥の連中が活発に動いてるのは事実や。ディオニソスもやられたんやし、ウチの子らも遠征中の出来事だったから伝令もくれた。タマモんところの【呪術師】も文をくれたしな。それにベルの功績はギルドも認めてる内容。実際超えた偉業の内容からは、レベル三はおかしくはないんや。……期間が問題なだけで」

 

「ボクは下界について詳しくないけど、たった十七歳でレベル七になった女の子もいたんだろ?ベル君も大差ないじゃないか。むしろその子と比べたらベル君は遅いくらいじゃないかい?」

 

「……ドチビ。その女のことを誰から聞いたのか知らんが、それを比較に出すのはアカン。あんな病気持ちでイレギュラーな成長速度。病気さえなければ欠点の存在しない女傑。比較対象として適してないんや」

 

 ヘスティアが例に出したアルフィアという、『大抗争』を生き残った者達に大きな爪痕を残す女性。

 ヘスティアは玉藻の前から聞いた凄い子を言っただけなのだが、当の玉藻の前はあちゃーという表情をしている。それを見て珍しい表情が見れたとフレイヤが微笑み。

 

 会話そっちのけでフレイヤに見惚れていた男神数柱があまりの尊さに失神していた。

 そんな異様な光景が生まれていても、会議は滞ることなく進む。

 

「何がそんなにおかしなことなんだい?」

 

「その女、ヘラの眷属や」

 

「げ。……主神(おや)が親なら、眷属()も子かい?」

 

「さりげに自慢すんのやめーや。まあ、ドチビがズルするとは思ってないんやから、ただ確認したかっただけやけど。皆もそれでええ?」

 

「「「異議ナーシ」」」

 

「途中にも出てきたけど、闇派閥の動きにも注意してーや。ディオニソスは闇派閥と繋がってる食人花をウチと一緒に調査してた矢先にこの事態。怪物祭でも仕掛けてきたし、見境がなくなってるのかもしれん。『暗黒期』に戻らないためにも、報告連絡は密にしていこーや」

 

 二つ目の話題でもある闇派閥についても注意喚起できた。

 ついでのようにオラリオへ攻め入ろうとしている隣国ラキアの動きについて、こちらは優先度低めで伝えておく。

 

 そしてとうとう。

 神々のメインディッシュたる話題に、ロキが切り込む。

 むしろ今回この一件で本当にロキが司会進行で良かったのかと心配する神々もいた。

 

「んじゃあ最後。……フレイヤ。いきなり二人ランクアップかいな」

 

「ええ。詳しい資料は用意したわ。ヘルメス、配って」

 

「はい。フレイヤ様」

 

 フレイヤは小間使いへ命令するように旅の神、オラリオにおいて中立のヘルメスが紙の資料を神につき一冊手渡す。

 そのタイトルからして驚いた者もいれば、その内容こそ重要だと早速読み解く者もいた。

 

 

 『オラリオ外にて発見された黒き竜巻。それの元凶たる亜種ベヒーモスの討伐作戦と作戦成功の報告について』と題された資料。

 

 

 オラリオの外でベヒーモスという既に討伐された三大クエストの一体の亜種が現れたというだけで問題なのに、それを討伐したという資料が配られたのだ。

 これには日和見主義だった神々も目をかっぽじって読み始める。

 

「詳しくはそれを見て。その結果が二人のランクアップ。これも順当だと思うけど?ベヒーモス本体のドロップアイテムから派生した亜種。オッタルの結果からレベル八以上でしょう。もしオラリオに向かっていたらどれだけの被害が出ていたことか」

 

「見付かってなかったベヒーモスのドロップアイテムを体内に取り込んだモンスターが変性……?の上に、レベル八以上に進化やと?フレイヤ、ドロップアイテムが他になかったことは確認してるんやろな?」

 

「ええ。これで私がたまにオラリオの外へ行っていた理由がわかったでしょう?これの調査と後始末よ」

 

 本当はただの気まぐれや気分転換だったが、そういう言い訳として利用していた。オラリオ外部の協力者と提携して事に当たっていたと。

 そして今月とうとう見付けて討伐。その結果が二人のランクアップだと神々の前で演じてみせた。

 

 ヘルメスもオラリオでは珍しく外へよく出る神だが、この事実に気付かなかった。後出しのようにフレイヤから情報を得て、しかも御大層なドロップアイテムを持ち、戦場となった場所では確かに都市最大派閥が暴れたような状況ができていてこれを認めた。

 

「都市の外で活動する闇派閥が、実験として魔石じゃなくドロップアイテムをモンスターに食べさせたらどうなるのかというおぞましいことをしていたみたいだわ。それの成果が出たからこそ、超級のモンスターから見付からなかったとされるお宝を探して、見事に引き当てたそうよ。その後始末の結果二人のランクアップ。……ああ、その闇派閥もついでに潰してあるわ。質問は?」

 

 フレイヤと玉藻の前が揃えた状況に、口を出せる者はいなかった。状況証拠も揃っており、実際にこれだけのことをしたということはオラリオを守護したに等しい。

 それを水面下でやりきり、しかもその結果としてのランクアップ。誰も異論を挟めなかった。

 

「ないみたいね。じゃあ楽しい命名式に戻りましょう?私の眷属は今のままでいいから、とても有望な兎さんの名前を決めないと」

 

 フレイヤの言葉で、まだベルの二つ名を付けていないことに気が付く神々。

 楽しみを後回しにしたのは、今回取り扱うには大きすぎる案件が複数あったからだ。

 

「あー、決めてなかった。けどベルきゅんどうしよっか?」

 

「【狼印の子兎】は、なんつーか俺達の悪ノリだし」

 

「今となっては名前負けだよなあ。それに他派閥だしな。【凶狼】」

 

「零細ファミリアの団長で?唯一のレベル三?」

 

「つーか眷属一人」

 

「【孤軍奮闘(アーミー・ワン)】!」

 

「ボクの眷属が増えたら意味ないだろ!」

 

「ペアでミノタウロス倒したって言ってたけど、もう一人誰?」

 

「ウチで預かってる女の子ですよ。預かっているだけなので眷属じゃありませんけど」

 

「タマモのところの子なら、まあ」

 

「ん……?タマモが預かってる女の子?んでベルと一緒にダンジョンに潜ってる……?」

 

 玉藻の前の言葉でロキの冴え渡る頭脳が気付いてはならないことに勘付く。

 ソーマ・ファミリアの強襲に弁護をしたのはロキだ。そしてゴンがオスだと知っていて、ロキはカサンドラのことを知らない。

 その上で見るからにサポーターといった風貌の小人族が脳裏に浮かび、その少女がベルのペアだとしたら。

 

 そっちの方が問題ではないかと思って玉藻の前へ視線を向けるが、玉藻の前は唇の前で人差し指を立てて秘密にしてとお願いする。

 あとで聞いたろ、とだけ思ってロキは進行の仕事に戻るべく会話に耳を傾ける。

 

「【未完の少年(リトル・ルーキー)】とか?」

 

「格好良さが足りないな。【小さな巨人(リトル・ルーキー)】でどうだ?」

 

「【男の娘(ベルきゅん)】(ボソッ)」

 

「「「それだ!!!」」」

 

「そんなもん認めるわけないだろー!?」

 

「んじゃあ【白雪王子(ホワイト・スノウ)】」

 

「それいいかも……」

 

「童話なんてどれもこれも原本はグロいぞ。やめとけやめとけ」

 

 いつもの様相を醸し出してきたベルの二つ名。

 それからもわいのわいのと二つ名候補が挙がっていくが、どれもピンとこない。

 そこでフレイヤが手を挙げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【英雄候補(イノセント・ラビット)】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二つ名、決定。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【英雄候補(イノセント・ラビット)】、ですか?」

 

 『豊穣の女主人』にて。

 ベル・リリルカ・ヴェルフ・ヘスティアがベルとリリルカの快気祝い兼ランクアップおめでとう会を開いていた。

 ベルは今日決まった二つ名をこの場でヘスティアから聞いていた。

 二つ名は冒険者からすればカッコいいものだが、ベルの二つ名はそうでもなかった。

 

「見た目まんまか」

 

「無難なもので良かったではないですか。あんまり呼ばれたくないような二つ名もありますし」

 

 ヴェルフとリリルカがベルの二つ名をそう賞する。ヘスティアもこの無難な名前を勝ち取るために頑張ってきたんだと酒を煽っていた。

 ヘスティアの場合、諸々のプレッシャーからの解放が大きいだろう。まだレアスキルのことは隠しているが、ベルのことを公表できて自衛できるような力をつけてくれたために肩の荷が降りていた。

 

 これでベルの巻き込まれ癖がなくなれば胃薬から解放されるだろう。

 残念ながらそんな日は訪れないが。

 

「ベルさんらしくて良いと思いますよ?」

 

「ええ。とてもあなたらしい」

 

「シルさん。リューさん」

 

 シルとリューも仕事にひと段落がついたのか、飲み物を持って席に着く。

 美少女が二人も増えたことにリリルカはちょっと嫌な顔をしたが、先日の共同討伐をしたのは自分だけと、その優越感で嫌な気持ちを相殺させていた。

 なおヘスティアは既にハイペースで飲み始めて、泥酔状態だ。給仕達が席に着いたことに気が付いていない。

 

「しかしあなたの世界記録も、もう二人の偉業で陰ってしまっている。今回は【剣姫】の偉業もあったので注目度は分散されてしまった。残念です」

 

「あはは……。むしろ分散してくれて助かりました。嫌味も結構言われてますから」

 

 ギルドにランクアップの報告をして公表されてから、ベルは陰日向に暴言中傷強襲を何回か受けてきた。全て実力でどうにかしてきたが、それにうんざりしているのも事実。

 オッタルとアレンの快挙でそれらの嫌がらせも減ったのでベルとしてはありがたかった。

 

「レベル八……。ゼウスとへラ・ファミリアを除いて初の快挙ですか」

 

「その二つを詳しく知らないからなあ。ベルもだろ?」

 

「うん。噂くらいでしか」

 

「……なるほど。あなた方は『暗黒期』の後にオラリオへやってきたのでしたね。なら知るはずもない。『暗黒期』にオラリオにいた私でさえ、片鱗しか知らないのですから」

 

 記憶しているのは神々と上位ファミリアの古参と呼ばれる面々、後は運の良い市民くらいか。冒険者で知っている者は今や少ない。

 『大抗争』で死にすぎたために。

 リューはあの時代を知らない世代のことを、嬉しく思う。それは彼女達の頑張りが無駄ではなかったという証明のようでもあったために。

 

「ベルさん達は知らなくて良いと思います。知るべきことと知らなくても良いことはありますから。例えばその二つのファミリアの主神同士が夫婦喧嘩のためだけにオラリオの天気を変えてしまったとか」

 

「え?そんなことあったんですか?」

 

 シルの噂話に驚くベル。

 神々は下界に降りてきて権能のほとんどが制限されているはずなのに、それでも天気を変えるなどという超級の現象を夫婦喧嘩で起こしたとなれば驚く。

 

「わたしも聞いただけですけど。それくらい神様も眷属の方々もおかしかったんです。サポーターの方でも今で言うと第二級冒険者だったとか」

 

「なんつうか……。普通のファミリアじゃなかったみたいだな。聞いたことねえぞ。サポーターがそんな高レベルなんて。第二級冒険者が遠征のためにあえてサポーターをやるって言うのは聞いたことがあるが、専属のサポーターが高レベルって」

 

「話を聞くだけでも凄いよね。しかもそのゼウスって神様、ヘスティア様の弟なんだって」

 

「ああ、それへファイストス様も言ってた。ある意味そっくりだってよ」

 

 そんな他愛のない会話で夜が過ぎていく。

 こんな休息も、たまにはあって然るべきだ。

 

 

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