ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
21 中層へ行く前に
神会が終わって休養もしっかり取った翌日。
ベル、リリルカ、ヴェルフはまたパーティーを組んでダンジョンに潜ろうとしていた。ミノタウロスに壊された武具の新調も終わって、その試しも兼ねて今までよりも深く潜ろうという話をしていた。
今まで潜ってきたのは上層。十一階層まで。
中層には足を踏み入れたことがなかったので、ベルのレベルも上がったことだし行ってみようという話になった。
ヴェルフもできれば深い階層に行って経験値を貯めてレベルアップしたいと考えていた。なので今回のレベルアップは渡りに船である。
「つーわけで中層を目指すわけだが……。リリスケ、サラマンダーウールを買わなくていいってどういうことだ?高レベルの冒険者じゃない限りアレは中層で必須だぞ?オレらじゃヘルハウンドの炎は防げねえぞ?」
「その辺りは織り込み済みです。リリだって中層には潜ったことがありますから」
本当の到達階層をヴェルフに伝えないまま、リリルカは背中のバックパックを漁る。そしてそこから出てきた物は黄金色の布だった。全員の全身を覆えるローブのようでもある。
「こちら、『星見の館』の非売品、『
取り出したのは三枚。自分の分を残して、ベルとヴェルフに渡していた。
突然の支給に驚く男子二人。
この宣伝でも十分な高級品だとわかるが、実際にはもっと深くでも通用する逸品であることはリリルカが保証した。
もし値を付けるとしたら、バカみたいな金額が必要だとリリルカの目からしても明らか。しかも三枚なんて都市最大派閥でも揃えられるかわからないほど高額になることは確か。
そこまでは伝えないが。
「なんだ、この手触り……!?何を使えばこんなもんが出来上がる!」
「さあ?リリも受け取っただけで製法は一切お伺いしていないので」
「ヴェルフ、これってそんなに凄い物なの?多分高級品だってことはわかるんだけど」
「効果だけで常軌を逸してるぞ!それにこれ、防具としても機能するほど何層にも渡って折り重なってやがる。……オレじゃあ天地がひっくり返っても造れない」
「そんなにも違う物なの?」
「ベル様。あの魔導書を作るような人が作った防具です。それにヴェルフ様が言うように、その効果だけで誰もが欲しがる眉唾物のイカレ性能ですから。ただの商業系ファミリアが作る物じゃありません。生産系ファミリアに喧嘩を売ってます」
ベルは超高級品をほぼ知らない。魔導書二つは存在を知らなかった上での事故で、あと知っている高級品は生産系ファミリアのショーケースに入っているような物で実際に触ったことがない。
それとベルがダンジョンや冒険者についてもまだまだ知識不足ということも関係している。どんな物を作れるのか、必要なのか。最上位の冒険者達がどんな装備をしているのか。そういった諸々をまだ知らない。
あとは『星見の館』の規格外さにも慣れていないから基準が曖昧なままでオラリオの常識にも疎い。だから一般冒険者が求める質についてピンと来ていない。
これは彼が零細ファミリア所属だということと、彼の成長率が『普通』じゃないことも大きな要因だ。
「とにかく。こちらベル様のランクアップ祝いと、ヴェルフ様には初めての専属契約成立祝いということで明様始めタマモノマエ・ファミリアの皆様からの品です。お納めください」
「ベルはまだしも、オレのことなんて些細すぎて気が引けるぞ……」
「それを言ったらリリなんて、いつもお店を手伝ってくれるからなんて理由で渡されましたよ」
これ以上は話が進まないので、貰った物を装備してダンジョンを潜る。
またイレギュラーに襲われるかもしれないので警戒しながら進んでいったが、十一階層までは問題は何も起きずに順調に進んでいった。ランクアップしたベルからすれば上層は余裕すぎたので、基本的にはリリルカとヴェルフに対処を任せて、危険な時だけ魔法で手助けする形を取っていた。
十二階層の奥まで行ったら一息入れようと決めていたところで、ダンジョンの壁から新しいモンスターが産まれる。
それは三人とも知っているモンスター。
数Mある巨躯に赤く主張する鱗。四本足で地面を這う翼のない凶悪なモンスター。上層の階層主とまで言われるレアモンスター。
インファイト・ドラゴンが産まれていた。
「……ワリィ。ベル、リリスケ。オレ一人でやらせてくれ」
「ヴェルフ!?」
「……あなたのステータスは知りませんが、勝算はあるんですね?」
「んなもんねーよ。でもオレがやる。ベルがこうも結果を残してるんだ。歳上として、冒険者の先輩として。そんでもって専属鍛治師として情けねえところは見せられねえ。ただそれだけだ」
ヴェルフの理由にもなっていない進む理由。
それを聞いてリリルカは溜息と一緒に頷いていた。
「リリは止めませんよ。ただし危ないと判断したら介入しますのでそのつもりで」
「リリ!?」
「おっしゃあ!んじゃ行ってくる!」
ヴェルフは大太刀を担いでインファイト・ドラゴンへ突撃する。
純粋なヴェルフの技量でインファイト・ドラゴンと渡り合っていた。攻撃を喰らいながらも逆に斬り返し、攻撃を見極めて避けて、見通しが甘くて吹っ飛ばされて防具が割れて。
それでもヴェルフは助けを求めることなく勇猛果敢に攻め立てる。あまり防御はせずにノーガード戦法と呼べる戦いを選んでいた。
そんなヴェルフの、壁を乗り越えるための決闘に、ベルは両拳を強く握りながら見ていることしかできなかった。
「ベル様。ダメですよ。ヴェルフ様は今まさしく『冒険』をしています。この前のリリ達みたいに」
「それはわかるよ。……僕はいつの間にか、ヴェルフに負担をかけていたのかな?」
「さあ?ランクアップしたいと考えているのも、ベル様の力になりたいと考えているのも全てあの人の意志です。それが意欲になるか、負担になるかはその人次第ですよ。リリからすればヴェルフ様はそういう御仁ではないと思いますが」
ベルは目の前の戦いで、ヴェルフが傷付く様子を見ていられなかった。
自分が戦いに加わればヴェルフは傷を負うことなく勝てるとわかっているからだ。
初めて戦った時は付与魔法を使ってようやく互角だった。だというのに、今ではインファイト・ドラゴンの動きが随分とゆっくりに見える。
これが器を二回昇格させた者の見る世界。発展アビリティも【耐異常】という二つ目を修得した第二級冒険者の仲間入りを果たして。
まさしくレベル差を実感させるような出来事となった。
今のベルはかなり目が良くなっている。朝練で銀郎の動きが僅かに見えるようになってきたこともあり、比較してしまうと上層のモンスターの動きは遅すぎた。
そしてその目に相応しい動きをすることもできる。
ヴェルフは今自分のために頑張っている。それを邪魔してはいけないと理性ではわかっていても。
仲間を助けたいという本能を抑えるのは難しかった。
「リリは、ヴェルフのことよくわかるみたいだね」
「ベル様を見る目線が同じですから。さっきのヴェルフ様の言葉のほとんど、リリがミノタウロスとの戦いで思ったことと同じですよ?」
「え、そうなの?」
「はい。ベル様と一緒に頑張るにはもっと何かをやらないとなーと思わされるんです。ヴェルフ様の場合は【鍛治】アビリティの取得でしょうね。リリも何か考えているんですが、ちょっと考えに行き詰まっていて。周りをそう思わせてしまうほどベル様は魅力的なんですよ。明様達も似たような理由でここまで豪華な援助をしてくださるんでしょうし」
「そうなんだ。……?……ッ!?」
ベルはヴェルフの戦いを見ていたために返事はなんてことのなしにしてしまったが、リリルカの発言を反芻して顔の温度を一気に上げていた。
危険のあるダンジョンで起こしてしまう反応ではない。
(え、魅力的って何!?ヴェルフは専属鍛治師として僕に色々してくれるけど、リリは……。初めは明さんに言われてだけど、もしかして……?)
ちょっと脳内がお花畑に行きかけた時に、豪快な斬撃音と竜の叫び声が轟く。
ベルはハッとなって視線をリリルカからヴェルフに戻すと、ヴェルフが血だらけになりながらもインファイト・ドラゴンの首を両断して魔石と赤い鱗を手にしているところだった。
「はっはっは!やってやったぞ!ベルにできることはオレにもできるんだぜ!」
「いやいや、凄いですよ。インファイト・ドラゴンなんて本来パーティーで挑む相手ですのに。しかも立派な魔石とドロップアイテムですね……」
「凄いよ、ヴェルフ!」
「そうだろそうだろう!……おっと」
戦いが終わって気が抜けたのか、もしくは血を流しすぎたのか。ヴェルフはその場に倒れこんでしまう。ベルはすぐに魔法と回復薬を使ってヴェルフの治療を始めた。
幸い傷は深くなく、治療が完了した後は問題なく動けるようになっていた。
「中層に行く予定でしたけど、どうします?ヴェルフ様はこんな状態ですし、インファイト・ドラゴンなんて結構なイレギュラーですよ」
「「行く(ぜ)!!」」
「……では、十三階層だけにしましょう。軽く見て回って、今日は中層の空気だけ知って帰りましょうか。無理は禁物です」
リリルカは男子二人の意気込みを否定せず、中層に行くだけなら大丈夫だと思い込んだ。久しぶりの中層で忘れていたのだ。
イレギュラーはダンジョンにつきものだということを。
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「しっかしあの爺さんも嫌なことを頼むなぁ。孫の様子を見てこいだなんて。なんとなくの様子は把握しているくせに」
「ヘルメス様。どうされるのですか?かの少年をしばらくは観察するのでしょうか?」
「そうだなぁ。アスフィ、食人花を管理していたと思われる闇派閥の様子はわからないんだな?」
「はい。例の食物庫も壊滅状態で……。私達だけでは下層は危険ですのでダンジョン内の捜索も限界があります」
「だよなぁ。星見の彼らには頼りたくないんだけどなあ。そうも言ってられないか……」
「調査することや雑用が多すぎます。亜種ベヒーモスのことや闇派閥、それにお使いですか?手が足りません」
「そんなことはわかってるけど、やるしかないんだよ。英雄が産まれなければ、この世界はおしまいだ」
「黒龍、ですか」
「今は『とある槍』で休眠状態になっているが、それだっていつまで保つか。その辺りも玉藻ちゃんに聞かないと」
「信用できるのですか?かのファミリアは」
「……しなくちゃならないってところか。アスフィには言ったが、エレボスの最後の言葉。『玉藻の前とその家族を敵に回すな』。これを知っているのはオレとアストレアだけ。実際玉藻ちゃん達はダンジョン攻略を手伝って、冒険者に役立つ商品を産み出して売っている。星見の能力も疑いようがない」
「その彼らが支援する少年。異例の世界記録更新。ヘルメス様は彼らが関わっていると思いますか?」
「全部じゃないだろうけどな。善よりの神なんだろうけど……。オレは天界で彼女に会った事がない。それは他の神々もそうだが、極東の神は違う。極東のマイナーな神だとして、公表されている通り天照の分け御霊だとして。そんなビッグネームの分身が知られていない理由は何だ?この辺りの違和感が抜けないと、全面的に信頼はできない。……持っている力が優秀すぎて頼りたくなるのも問題だな」
「それでも敵対はできないでしょう?」
「オレ達は中立だからな。でも探りはこれからも入れていく。ウラノスが静観しているから大丈夫だとは思うが、ウラノスだって完全じゃない。ディオニソスも怪しい情報が出てきたからな……」
「本当に人手が足りません。そんな中でお使いをすると?」
「せざるを得ないんだよ。オレはあの爺さんに逆らえないからな」