ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
「来たぜ、中層!」
ヴェルフの声が霧を抜けた先のフロアに響く。
十三階層。中層のファーストラインだ。上層最後のダンジョンギミックである霧もなくなり、見晴らしが良くなっている。
ヴェルフは不容易に叫んだが、モンスターも発生しておらず、他の冒険者も見当たらなかったので何も問題はなかった。
「ここが中層かぁ。リリは何回も来た事があるんだよね?」
「とは言っても、規格外の方々にただくっついていただけですので。リリがちゃんと戦って進むのは初めてです」
「明さん達と一緒に潜ったんだっけ?」
「ええ。ヴェルフ様には言っていいですかね。あの人達、リリを拾ったその日にゴライアス討伐のついでで五十一階層まで進軍したんですよ」
「……ハァ!?五十一階層!?」
ベルはリリルカからその話を聞いていたので驚かなかったが、初耳のヴェルフからすればとんでもないことを聞いてしまったことになる。
五十一階層に行けるのは探索系ファミリアでも最上位だけ。元々聞き及んでいた四十二階層という時点で商業系ファミリアとしては頭がおかしかったのに、更なる階層主まで突破して深層のセーフティーエリアまで辿り着いていたなんて驚き以上の感情が湧いてくる。
だが、その事実は隠蔽する理由もわかったためにヴェルフは公表しないことに納得する。個人についても、組織についても。
「リリスケが拾われた時って五年前だったか?そん時に深層を経験したって?」
「なのでミノタウロスとも戦えたわけです。この五年でサポーターとして何度も潜ってきましたし。くっつくだけと実際に戦うのは別物でしたが。凄い安全地帯で魔石とドロップアイテムを回収するだけでしたからねぇ。しかも皆さん運が悪いのかドロップアイテムもそこそこでしたし」
「あー、他派閥のオレに言って良かったのか?」
「ベル様の専属鍛治師になった時点でもう引き返せませんよ。へファイストス様に告げるのは大丈夫でしょうけど、他の方は勘弁願います」
「言わねーよ。顧客の情報は守る」
そこはヴェルフの信念から他に漏らさないことを誓う。この辺りのことを信用した上でリリルカも情報を話していた。与える情報も取捨選択している。
「ん?じゃあこのローブももしかしたら深層の素材を使っているのか?」
「リリも素材には見当がついていません。持って帰ったドロップアイテムをそのまま換金に当てていたら深層の深くに潜っていたことがバレるので自分達で消費しているとは思うのですが」
「でもそれならお店のアイテムが高性能なことも頷けるよね。深層のアイテムを使えば便利な道具が作りやすいって聞くし」
実際にタマモノマエ・ファミリアは深層の珍しいアイテムを複数持ち帰っている。それをアイテム作成に使用したり、死蔵させていたり。
全部が全部使えるわけではないらしく、また使えても彼らの求める水準に達していなかったら使うことをしなくなる。
そして、このローブを作れるのは玉藻の前だけだ。製法から素材から、これは他の神々とファミリアには決して真似できない。
何度も来たことのあるリリルカの案内でベル達は順調に中層を進んでいく。途中でベルにそっくりなモンスターであるアルミラージに遭遇したり、放火魔とも呼ばれるヘルハウンドにその名の通りの炎を吐かれたりしたが、『
中層でも問題なく攻略ができていた。
「やっぱりベルの攻撃力は頭一つ抜けてるな。レベル三は伊達じゃない」
「ヴェルフの武器があってこそだよ。この新しい『黒剣・
「レベル四相当のミノタウロスの角だからな。むしろそれくらいの効果はないと素材に申し訳がたたないぜ?」
中層名物のモンスターの大量発生があっても、最悪ベルの魔法で一掃できるので会話をする余裕があった。話しながらも全員で周りを警戒するほど緊張感が保たれたままということもある。
ベル達はとてもいい感じでダンジョン攻略を進めていたが、彼らが悪くなくてもハプニングが起きてしまう。それがダンジョンだ。
十三階層を一通り回ったら帰還する。それもできそうになかった。
・
ダンジョンの中層で複数人のパーティーが撤退行動をしていた。
そのパーティーはタケミカヅチ・ファミリアの構成員だけで組まれたパーティー。
中層へアタックをしたことはいいものの、見積もりが甘く負傷者を続出させて、しかも回復アイテムも底をついていた。
何人かは動けない団員に肩を貸して走っている。その後ろから追いかけてくるモンスターは放火魔で有名なヘルハウンドという名の狼型モンスター。
彼らは驕っていたとしか言いようがない。ランクアップした者が増えて、団員の練度も上がったと思い中層へ潜った結果、窮地に陥っていた。
「すまない、
タケミカヅチ・ファミリアの団長である桜花が、今はぐったりしている同僚に謝罪の言葉を投げかける。その言葉も届いているかどうか。
彼らは意気揚々と中層へのファーストアタックを決め、十三階層を悠々と突破できたことから十四階層にも降りた結果。十三階層とは比べ物にならないほどのモンスターの大量発生に対処が間に合わなかった。
いくらレベル二が二人いるとしても大半はレベル一。中層はまさしくレベル二が挑む場所。レベル一ではアビリティが足りない。敵を殺すための力が、攻撃を防ぐための耐久が、敵の攻撃を避け切れるだけの敏捷が、相手に攻撃を当てられるだけの器用さが、一発逆転を狙える魔力が、絶望的に足りなかった。
それが結局のところ、彼らが失敗した理由だ。
撤退を続けていく中で、十三階層になんとか着いた時にはちょうど良さそうなパーティーがいた。三人パーティーだが、モンスターに相対していない様子を見ると余裕がありそうだ。
だから桜花は、団長として一つの判断をする。大事なのは自分達だと。
「このまま
「桜花!?」
「飲み込め、千草!この後俺を罵ってもいい!」
生き残るために。
他のパーティーもよくやる常套手段をやってしまう。
・
「やられました!?『
「ふざけろ!こっちの事情なんて御構い無しだな!?」
「【ファイアボルト】!」
やられたベル達は即応してヘルハウンド達を倒していく。ベルも魔法を惜しみなく使っていき倒していくが、数が多すぎて十三階層の奥へ追い込まれていく。
そしてその奥には、ダンジョンの正式ルートではない縦穴ができていた。ヘルハウンド以外のモンスターも湧いてきて、たった三人では対処できないほどの数が押し寄せる。
「これ以上は無理だぜ!?最初はこんな大群じゃなかったのによ!」
「これが中層の怖いところです!キラーアントなんて目じゃないほど集まってますよぉ!」
「……リリ。ここを突破して地上に帰還するのと、セーフティーエリアを目指すの。どっちが生還率が高いかな」
「あー、思いついちゃいました?今ならロキ・ファミリアの遠征終わりで上がってきていて、道満様達が十八階層にいらっしゃる可能性は高いです。帰る時に一緒なら生存率は絶対です」
「じゃあ、下だ」
ベルは即決する。決めたら即行動。
ヴェルフとリリルカの腰に両腕を回して横抱きの状態にした。
「え、ベル?」
「まあ、それが一番安全ですかね……」
飲み込めないヴェルフと、諦めるリリルカ。
次の瞬間。
ベルは縦穴の壁伝いに下へ走り出した。
「うおおおおおお!?」
「舌噛みますよ!」
「ごめんね、二人とも!【雷霆よ】!」
レベル三となったステータスに付与魔法で更に身体能力を増して、ベルはとにかく疾走する。ルームに溢れたモンスターを一掃するより、逃げてモンスターのいない場所へ行くことを選んだ。
ベルの予想通り下の階層には目の前にモンスターがおらず、精々が同じように縦穴を下ってきたモンスターだけ。
リリルカが魔法で犬人になって索敵を担当。ヴェルフは視界担当になり、ベルはステータスに物を言わせた移動するだけの存在となった。
リリルカの正確な記憶と、ベルの速力。それが合わさり敵との戦闘を避け続け。
ゴライアスが産まれなかったのをいいことに、彼らはセーフティーエリアへ転がり込んだ。
その頃にはマインド・ダウンに陥り、ベルはセーフティーエリアに着いた安心感から、限界も訪れたことで緊張の糸が切れて気を失う。
「「ベル(様)!!」」
ヴェルフがベルの身体を支えて、リリルカは精神力が回復する物をバックパックから漁るがそんな物は底を突いていた。モンスターの大群から身を守るために余裕があれば精神力回復薬を飲み、中層を爆走している時も付与魔法を切らさないように飲み続けていた。
いくら稼げるようになったからといって、精神力回復薬は高級だ。普通の回復薬よりも高い。ダンジョンに潜るためにある程度の余裕を持って用意はしていたが、ミノタウロスとの激戦もあって金銭的余裕があるわけでもなかった。
「ヴェルフ様、ベル様を担いで森林地帯へ!あちらなら休めると思います!」
「おうよ!」
「ああ、心配はいらない。リリルカ君にクロッゾ君。フィンに話は通してある。精神力回復薬も用意してあるぞ」
三人の前に現れた道満と金蘭。
縋ろうと思っていた相手は既に千里眼で状況を把握しているようだった。
「よくぞここまで辿り着いた。君達も休みなさい。ようこそ、
・
ベル達が中層のセーフティーエリアを目指している頃。地上はすっかり夜の帳が下りていた。冒険者のほとんどが遠征などで泊まり込みの場合を除いて地上に帰ってきているのだが、それでも帰ってこない冒険者がいる。
そうなるとその冒険者の主神は心配する。具体的に言うとヘスティアが『星見の館』に突撃していた。
「タマモ!ベル君とサポーター君が帰ってきていないんだ!失せ物探しは100ヴァリスだったかな!?」
「リリルカちゃんが帰ってきてないんだから、お金なんて取らないよ。ハルが視たけど、まだダンジョンの中層にいるって」
「中層……。確かに今日行くとは言ってたけど……。いくらベル君がランクアップしたからって大丈夫じゃないよね?」
「そうだね。ちょうど道満達が中層のセーフティーエリアにいるみたいだから、こっちからも探しに行こう。ハルと瑠姫ちゃんがいれば戦力としては十分だよ」
玉藻の前がそう言うと、お店へ明と瑠姫が降りてきた。レベル五とレベル四だ。中層を探すのにこれ以上とない戦力だろう。しかも片方は千里眼というぶっ壊れがある。
四人がお店の外へ出ると、極東の出で立ちをした集団が一斉にヘスティアと玉藻の前へと土下座を敢行していた。
「すまん、ヘスティア!玉藻!お前達の子供が帰ってこないのは俺のせいだ!」
「タケ!?」
「顔上げて、タケミカヅチさん。あ、眷属の子供達もね。事情はわかってるから」
ヘスティアの神友タケミカヅチとその眷属達が綺麗に揃った土下座をしていたのでヘスティアは驚いてしまったが、玉藻の前はなんてことのないように応対する。
事実彼女からすればなんてことのないことだから。
「今のところ全員無事ですよ。へファイストスのところの子供も巻き込まれてるので、彼女にも事情の説明をお願いします。わたし達はこれからダンジョンに迎えに行きますが、あなた達も来ますか?ああ、タケミカヅチさんは残ってくださいね?怪我してる子の治療が必要なので」
「……占星術か。わかった。へファイストスにも話そう」
へファイストスにも会ってからタケミカヅチが事情を説明。眷属が生き残るためとはいえ『
ヘスティアと玉藻の前も、大切な眷属のために直接ダンジョンへ向かうことにした。ダンジョンは神々を嫌っているが、ヘスティアからすれば唯一の眷属の危機。何が何でも行くつもりだった。
玉藻の前が神々の気配を限りなく消すローブを手渡すことで二柱がダンジョンへ入ることを隠蔽する。へファイストスは中層まで潜れる眷属のほとんどがロキ・ファミリアの遠征についていってしまっているので人員を割けないことを伝えた。
そこで、一柱の神と二人の女性がヘスティア達に近付く。
「ヘスティア、玉藻!オレも君達の神友として是非協力させてくれ!」
「ヘルメス!何で君まで!?」
『『星見の館』の近くで神ヘルメスとその眷属は盗み聞きしてたのニャ。そっちの覆面はヘルメスの助っ人といったところかニャ?』
「……ご名答、瑠姫君。玉藻に用があったんだけど、急ぎだったみたいだからオレが取り揃えられる戦力を急いで引っ張ってきたってところさ」
ヘルメスとヘルメス・ファミリアの団長アスフィ、そして謎の覆面エルフが捜索隊に加わる。アスフィと覆面エルフはレベル四ということでかなり戦力が増えた。
これなら中層まで無傷で全員を送り届けられるほどの過剰戦力だ。
「ヘルメス、『お使い』ご苦労様です」
「……星見ってズルくない?」
「勘の良い人間と大差ないと思いますよ?」
「それは勘の一言で片付けちゃダメだろ。……見逃してくれない?」
「
十八階層でやろうと先程考えた計画が全て見越されている。それがわかったヘルメスは肩を大きくガックリと落とした。
「……『お使い』、優先させていただきます」
「ならそっちは邪魔しません。ご自由にどうぞ」
「眷属使って妨害しない?」
「しませんよ。試練のつもりでしょう?あなた達とわたし達の思惑はある程度一致していますから」
「
「はい。『天の逆鉾』は十年以内に外れますよ。その辺りがラストチャンスですねー」
「うわぁ……。聞きたくなかった」
ダンジョン内で玉藻の前とヘルメスの秘密の会話は終了。
道中はレベルのゴリ押しによって快適に一行は中層のセーフティーエリアへ進んでいった。