ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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23 見てきたもの

『大抗争』が終わった夜。

 数々の死者が出て、闇派閥の暴動も収まった新しい朝を迎えるための最後の儀式。

 闇派閥の首魁、邪神エレボスの処刑という名の神の送還。

 

 それはエレボスの懇願によってバベルの頂上、オラリオで一番高い場所で行われることとなった。

 執行者は『正義』の女神アストレア。見届け人はエレボスの神友ヘルメス。

 そこで問答が行われていた。

 

「あなたにとって『正義』とは?」

 

「──『正義』とは理想だ。

 

 『正義』とは、選ぶことではなく、掴み取ることだ。

 

 ありえないを、ありえるに変える。天秤を打ち壊す。

 

 人々はそれこそを『正義』と信じ──神々は、それを『英雄』と讃える。

 

 これより待ち受けている、いかなる困難にも屈さず、『理想』を求め続ける眷属達の輝きが。

 

 ──世界が欲する、『英雄』が」

 

「それがあなたの『正義』」

 

「『正義』なんかじゃないさ。これは、『悪』なんだ」

 

「──貴方の『悪』とは、『絶対悪』ではなく『必要悪』。この、天邪鬼」

 

 確認が終わって、最後に残った、盗み聞きをしていた眷属が逃げ出すのを確認して。

 この場であったことを話さないと誓わせた後に、エレボスはもう一つ忠告を出す。

 

「ああ、そうそう。これも下界から去る前に伝えておかないとな。お前達、『玉藻の前とその家族を敵に回すな』。ゼウスに近しいヘルメスならこの意味、わかるな?」

 

「……!お前、あの星見に頼ったのか!?」

 

「ヘルメス?玉藻の前って、誰?それに、星見?」

 

 ヘルメスはエレボスの言いたいことがすぐにわかったが、アストレアはその意味がわからない。

 何せ玉藻の前は天界にいなかったイレギュラー。極東の神でもなければ名前もその存在も知るはずがない。

 逆にその事実を知っていれば、その名前が示す重要性についてもすぐに察しが付く。

 

「なに。ただの極東にいる、マイナーな分け御霊だ。その神と家族に手を出すなっていう忠告だよ。アストレアへの褒美だ」

 

「それが褒美になるの?……ヘルメス?」

 

「──ゼウスとヘラが黒龍に負けた後。黒龍が世界で暴れないように封じ込めた槍がある。それを作って、封印を施した神。それが玉藻の前だ」

 

「──ウソ」

 

 ヘルメスが語る真実は、オラリオを知っているアストレアだからこそ信じられなかった。そんな規格外の力を持つ神をオラリオという世界の中心に居ながら知らないのはおかしいと思ってアストレアはヘルメスの言葉をウソだと言ってしまう。

 だが言ったヘルメスも、エレボスも首を横に振る。

 

「事実だ。その槍が外れるまでが下界の刻限(タイムリミット)。ゼウスとヘラが失敗した時点で俺が強引にでも時間を進めたかったのは、これが理由だ。ゼウスとヘラがイケると思って刺激してしまった。その刺激がありながら何故黒龍は大人しくしていると思う?」

 

「『神の力(アルカナム)』を用いた神がどうしてまだ下界に居られるの?そんなことをしたらこの下界は……!」

 

「俺達の『神の力』とは異なる力だそうだ。俺もゼウスもあの槍を見たが、性質はゼウスの雷霆(ケラウノス)に近いらしい。つまり下界で制限された中でも使える、当たり前の力だけを使った封印だそうだ。その玉藻の前を刺激すれば、下界は黒龍によって蹂躙される」

 

「やっぱりゼウスとも下界で面識があったのか、エレボス……。オレも見たけど、事実だアストレア。オレも玉藻の前には一度しか会っていないが、ゼウスに言われて会っただけだ。封印の槍についても聞いた」

 

「あの子、めっちゃ家族思いだからな。下手に突つけばオラリオは俺がやった以上に崩壊するぞー?」

 

 エレボスの煽りも受けて、アストレアはその神に手を出さないことを誓う。知っていることと知らないことでは大きすぎる差が産まれてしまう情報だった。

 

「その神と眷属、オラリオに来るの?」

 

「来てもおかしくはない。ヘルメスが俺から頼まれた、とでも言えばオラリオの復興にも手を貸してくれるだろ。基本は善よりの神だ」

 

「お前、そんなにあの子と交流があったのか……?」

 

「いやいや。俺も会ったのは二度だけ。冒険者と眷属について知りたいとも言ってたからな。ヘルメス、最大派閥となった二つのファミリアにも彼女のことを紹介しておけ。彼女がその二つをどうするか、静観しろ」

 

「……たとえ滅ぼしても?」

 

「その時は俺の目が腐ってただけの話だ」

 

 エレボスは小さく笑う。ダンジョンで産み出した神の試練を突破したメンバーにはロキ・ファミリアの構成員がいる。ザルドをフレイヤ・ファミリアのオッタルが、アルフィアをアストレア・ファミリアが。

 この三派閥がいれば、冒険者は先に進めるだろうとエレボスは信じていた。

 

「時にアストレア。君のところは男子禁制だったか?」

 

「え?今の子供に男子がいないだけで、別に男子禁制にした覚えはないわよ?女の子ばっかりで入りづらいとは思うけど」

 

「ふうん?もしかしたら『英雄』が数年後、オラリオにやってくるかもしれない。その時はその子が君のような女神の派閥に入れるといいんだが」

 

「外の子なの?」

 

「ああ。『英雄』の面影を見た。俺はあの子に、拭いきれない罪を押し付けた。だからこれは贖罪だ。フレイヤなら勝手に見付けるだろう。ロキは知らん。君のところならまっすぐな少年に育つ。そんな、老婆心だよ」

 

 エレボスは言いたいことが終わったのか、天界へ送還された。

 結局アストレアはその『子』のことはわからずじまいなままオラリオを去ることになる。

 ヘルメスはその『子』がゼウスの孫だと知って後からエレボスに言いたいことが増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルが目を覚ますと、そこはテントの中だった。ご丁寧にベッドまで置かれていて、その上で眠っていたらしい。

 中に誰もいなかったので、とりあえず起き上がる。マインド・ダウンで倒れていただけで外傷などはなかったのですぐに起き上がれた。ちょっと頭痛がしただけで、体調は万全に近い。

 

「ああ、起きたね。ベル・クラネル」

 

「フィンさん!?」

 

 ベルがテントの外に出て、一番はじめに会った人物は【勇者】フィンだった。そのフィンの周りにはロキ・ファミリアの幹部が勢揃いしていて、リリルカの予想が合っていたことを知る。

 

「いやいや、まさかこの短期間でアンダーリゾートまで辿り着くとは。ベル、ランクアップおめでとう」

 

「ありがとうございます!……あれ?僕、ランクアップしたってフィンさんに伝えましたか?『神会』があったのは皆さんが遠征に出ている間のことですし……」

 

「道満からあのミノタウロスのレベルを聞いていてね。ランクアップしていなくちゃおかしいと鎌掛けをしたのさ。それにパーティーの他の二人はレベル一だという。君がランクアップしていなければ中層に挑むなんて無茶はしないだろう?」

 

「あ、なるほど」

 

 ベルはフィンの言い分に納得するが、二人の間で勘違いは発生したままだ。

 フィンはベルがレベル二になったばかりだと考えているし、ベルは道満がほとんどのことを話したのだろうと思っている。ベルも千里眼や星見の規格外さに慣れてきたからこそ、そう考えてしまった。

 

 実際にはフィンは状況証拠だけで話していて、道満やリリルカ、ヴェルフから真相を聞いたわけではない。道満達も他派閥の個人情報を伝えるようなマナー違反をするはずもなく、ベルの実力に関しては何も伝えていない。

 

「治療をしてくださったのはロキ・ファミリアの皆さんですか?」

 

「いや、僕達はそのテントを貸し出しただけだ。診察も治療も全部道満と金蘭がしたよ。お礼なら二人に言うといい」

 

「いえ、遠征の間にテントを貸してくれたんですから!ありがとうございます!」

 

 ベルは腰をしっかりと折って頭を深く下げる。この辺りは祖父の教育のおかげで礼儀正しくなっている。正確には反面教師にしたと言うべきか。

 

「あの、ヴェルフとリリルカは?」

 

「鍛治師の彼は僕達と一緒に来ているヘファイストス・ファミリアの団長に捕まってる。リリルカ君はこちらで歓待しているよ。これは主に道満達が、だけど」

 

「無事で良かった……」

 

「案内しよう」

 

 連れていかれた場所は数あるテントの真ん中にポッカリと空いたスペースである広間。そこには姦しい声と一緒にリリルカの悲鳴が響いていた。

 ロキ・ファミリアは主神の意向で女性構成員の方が多い。その女性達におもちゃにされているリリルカの姿があった。

 

「何このローブ!?私達の使ってる物よりも高級品なんだけど!この素材何!?」

 

「いやいや、こっちのバックパックの方がおかしいって!この伸縮性と柔らかさ、中の道具を阻害しないのにしっかりと重量のある武器も納められる底の頑丈さ!それにめちゃくちゃいいニオイがする!」

 

「この子の髪も肌もスッゴイキメ細かいんだけど!?何の化粧品を使ってるの!?」

 

「た、助けてください〜〜〜〜!?」

 

「り、リリーーーーーー!?」

 

 揉みくちゃにされているリリルカを、どうにかして引き剥がすベル。可愛がっていた者達が全員レベル二だったために何とかベルでも引き剥がせたようだ。

 道満や吟もバックパックや中身のアイテムなどを回収していた。その早業に馬鹿らしいとまともに見ていなかったベートが目を見張るほど。

 

 目標を再認識した上で、そんな音もなく高速移動する技をたかだか荷物回収如きで使うなと怒りだしそうだった。

 リリルカは涙目になりながらも、金蘭にあやされてことなきを得ていた。

 

「フィン。リリルカさんが泣いたと知ったら玉藻様が怒るわよ?」

 

「申し訳ない。彼女達にはキツく言っておく。大丈夫かい?リリルカさん」

 

「いえ……。これっきりにしてください。ベル様、起きて早々助けてくださりありがとうございました」

 

「あ、うん。僕の方こそ気絶しちゃってごめんね。道満さん達も、ありがとうございました」

 

「気にするな。……お嬢さん方、リリルカ君が使っているのは我が『星見の館』で作っているものだ。バックパックは特注品だが、化粧品や武器はいくつか品がある」

 

「「「買いに行きます!」」」

 

 ダンジョンの中で商売を始める道満に、ロキ・ファミリアの幹部から冷たい目線を向けられる。

 五十九階層という未到達階層を突破して死者を出さなかったことについては道満達タマモノマエ・ファミリアの助力が大きいと考えているが、時と場合を考えてほしかった。

 

 前の遠征では帰り道で気を抜いてベルとリリルカを巻き込んでしまった事件を食い止められなかったのだから。

 フィンは、小人族のリリルカとの会話を切られてしまった方が問題と言えたが。

 

「ところでフィン。お前達はもう今日にでも帰るのだろう?我々は折角クラネル君達が来たのだから、少しここに滞在してから帰ろうと思っている。中層なのだから、我々がついていかなくても良いだろう?」

 

「それは問題ないが……。彼らには僕達も恩義がある。九階層でのことだ。アレを見ていなければ五十九階層で全滅していたかもしれない」

 

「だから残ると?ロキが心配するだろう。それに──自分の我欲を優先させるものは、組織の長としてどうかと思うぞ?」

 

 道満には色々とバレていたようで、フィンは少しだけ苦い顔をする。一瞬だけのことだったのでティオネ(乙女センサー)には反応されなかったようだ。

 

「確かに、十分な休息はとった。これ以上はロキが我慢できないか」

 

「ああ。それに休めるとはいえ、ダンジョンの中だ。心からは休めないだろう。これだけの人数の心労を与えてまで優先させることがあるなら聞いてみたいがな?我々のような少数の集団と、これだけの大規模な集団を率いるには話が違う。それに協力者達にも余計な時間を浪費させるのか?」

 

「……わかったよ。彼らのことは頼む。そういうわけだ、ベル、リリルカさん。僕達は間も無く帰らせてもらう。もし今回のことに恩義を感じているのなら、遠慮なく僕達のファミリアの門を叩いてくれ。歓迎するよ」

 

 そう言ってフィンは号令をかけて撤収作業をさせる。中層から先なら道満達がいなくても問題なく帰れる場所だ。

 しかも厄介な毒などにやられたわけでもない。ここに留まる理由はまさしく休憩以上の何もない。

 ロキ・ファミリアが慌ただしく動き始めた様子を見て、道満は小さく呟く。

 

「フィン。時には我欲を求めなければ『英雄』などにはなれないぞ。野望に長としての品格や矜持、しがらみに囚われたことを良しとする姿勢。自分のことを『人工の勇者』などと嘯いているようだが、今のお前は【勇者(ブレイバー)】すら名乗れない。烏滸がましい。

 小人族に執着している時点で論外だ。広い視野で物事を動かし、時には蛮勇と呼ばれてでも一つのことを為す。それが世界や人間のための出来事だと認識されて、人々に勇気を与えて。ようやく勇者となる。神々に敢えて付けてもらった名前では、人工どころか子供のお遊びだよ」

 

 道満は本物の英雄を知っている。

 たった一人の妹のために人を殺める技術を戦争で培って、神の影をも斬り殺した兄を。

 己に流れる異形の血に抗い、人を喰らうことなく人を護った武士(もののふ)を。

 愛する男のために死後も一緒に地獄に落ちる覚悟まで決めて悪の道を進んだ少女を。

 

 

 

 自らを道化として、人々を、時代を、英雄が闊歩する次のステージへ昇華させた。無力を痛感した、雷公を詐称した雄牛殺しを。

 

 

 

 道満が考える英雄はエゴの塊だ。その強い我こそが結果的に世界に影響を与えたり、悪逆を為して世界に名を遺したり。

 保身に走って安全に石橋を叩いて渡るだけでは勇者や英雄どころか、冒険者でもない。それを今回の遠征でまざまざと感じた。五十九階層で現れた精霊の分身(デミ・スピリット)を倒すことを偉業だと考えているのだから。

 

 穢れた精霊を救うという発想をしなかった時点で、道満はフィンを見限った。アイズという精霊の関係者がいるにも関わらず、生き残ることだけを考えていた。

 タマモノマエ・ファミリアとしての最終試験を、ロキ・ファミリアは見事に落第したのだ。これで玉藻の前がフレイヤに宣言した通り、援助は片方だけに絞れる。

 お店に客として来る分にはちゃんと対応するが、それだけだ。

 

 あとは見込みのある者だけへの援助に限ることにする。

 具体的に言えばベートとアイズだ。他にも候補はいるが、それは今後次第。今のところは前述した二人ほどは手助けをしない。

 

 道満は既にダンジョンに入っている玉藻の前へ簡易式神でロキ・ファミリアとかち合わないように言伝を送ると、吟へ目線を向けた。

 吟もすぐに察して、ベルに声をかける。

 

「ベル殿。早朝訓練を始めましょうか。フィン達がいなくなったら、今のあなたがどれだけできるようになったのか知っておきたい。リリルカさんも」

 

「あ、はい!お願いします!」

 

「ダンジョンの中でもやるのですか……?」

 

「こういうのは継続が大事だからな。私も混ざるとしよう。あくまで吟の猿真似程度だが、私も剣舞には一家言ある。二人が良いものを見せてくれたら、良い物をあげよう」

 

「また変な物を渡すつもりじゃ……」

 

「リリルカ君、失礼な。回復薬とは異なる治療用の丸薬だ。あとは金蘭と瑠姫の手料理を。まだクラネル君には振舞っていなかったはずだからな。クロッゾ君にも深層で手に入ったアイテムを渡して練習素材にして、鍛治の腕を磨いてもらうか。リリルカさんが話してくれたおかげで在庫処分ができる」

 

 酷い言い草だったが、そろそろタマモノマエ・ファミリアの倉庫も市場に流せないドロップアイテムの山で溢れかえっている。それがベル達を間接的に強くできるのであればと、六十階層よりも奥で手に入れたアイテムを渡そうと考えていた。

 道満や金蘭が様々な用途で使っているが、使い切れないのだ。死蔵させるくらいなら、口の固そうな、信頼できる人間に与えた方が良い。

 

 ロキ・ファミリアが撤収した後、リヴィラの街から離れた森林地帯で剣技の訓練が始まった。これにはヴェルフも参加して、ヴェルフが道満と吟の使う刀を見られたこと、技量も見せてもらえたこと、実際に打ち合えたことで大興奮。

 ついでとばかりに、今回ロキ・ファミリアが五十階層で休んでいる間に見回りをしてくると言っている間に行ってきた六十階層以降で採れた鉱石を褒美で与えると、これまたヴェルフは大興奮。

 

 同じ鉱石は地上に戻れば山になるほど在庫があり、これで武器を作って欲しいと冒険者依頼をヴェルフに発注。報酬は深層のドロップアイテムで、これにヴェルフは二つ返事で了承。

 

「ああ……。こんな素材を貰える上に、いくらでも使ってよくて、しかも満足のいく武器ができれば追加報酬……?鍛治師冥利に尽きるぜ」

 

「良かったね、ヴェルフ」

 

「二人ともこの方々に毒されすぎですよぉ……」

 

 迎えに来ているヘスティアの心配をよそに、三人の間にはほのぼのとした空気が流れていた。ヴェルフは先ほどまでいた椿から自力で持って帰ることを条件に移動式の炉を借りていて、このまま製造作業に入っていった。

 ベルは折角来たのだからとリヴィラの街を散策。ヴェルフの側に吟を護衛として置いておき、他の面々はぼったくりの街を歩いて諸々の説明を受けながら観光をした。

 ヘスティア達がやって来たのは、街の散策も終わった頃のことだった。

 

 




ヴェルフを道満が優遇する理由は黒龍退治にベルの武器が必要だから。
そして深層のアイテムも在庫の圧迫具合もまずいので本当に在庫処分感覚で渡しています。

あとはやはり、『アルゴノゥト』を知っているからですね。
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