ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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24 神威

 ベル達がリヴィラの街を見終わって、この街の頭目であるボールスとも顔つなぎをした頃。道満が面白いことがあると、十七階層に繋がる道へ案内し始めた。ベルは十八階層に辿り着いた時気絶していたので、道案内は正直助かった。

 そうしてベル達が階層の入り口に着くと。ガヤガヤと話し声が聞こえた。どうやら冒険者パーティーが辿り着いたらしい。

 誰だろうと待っていると、その先頭はとても小柄で、黒髪が映えるツインテールをした──。

 

「ベル君!?」

 

「え、神様!?どうしてダンジョンにいるんですか!?」

 

「君達が心配だったからに決まってるだろー!?」

 

 ヘスティアはベルとリリルカの姿を確認すると、二人の首へ抱きつくようにダイブ。二人はヘスティアの勢いに地面に倒れてしまった。

 そのヘスティアの後に続くように、タケミカヅチ・ファミリアやヘルメス・ファミリア、更にタマモノマエ・ファミリアがやってくる。ベルとリリルカは続々とやってくる人に驚きを隠せない。

 その中に、ヘスティアの他にも神様がいるとなればなおさらだ。

 

「タマモ様!?明様に、瑠姫様も!」

 

「ベルくんとリリルカちゃん、無事で良かったー。まあ、星詠みのおかげで知ってたけど。ヴェルフくんはここには居ないのかな?」

 

「クロッゾ君なら武器を作っているぞ。元気に槌を振るっている」

 

「なら良かった」

 

 玉藻の前と道満がそんな確認をする頃にはベルとリリルカは立ち上がっていた。ヘスティアが一人で中層まで来られるわけがないので同行者がいるだろうとは思ったが、それにしても多い。

 

「やあやあベル君初めまして。オレの名前はヘルメス。ヘスティアと玉藻の神友で、今回の君達の危機に馳せ参じた神だ」

 

「あ、えっと。ヘルメス様、ありがとうございます」

 

「良いってことさ。まあ、主目的があるのはオレじゃなくて、彼らでね」

 

 ヘルメスがそう言って半身になって、タケミカヅチ・ファミリアの三人が見えるように退く。すると三人は一斉に、その場で頭が地面に擦り切れるほどの土下座を敢行。

 

「「「すみませんでしたーーーーー!!!」」」

 

「え?え?」

 

「オレが『怪物進呈(パス・パレード)』を主導した!中層に初めて来たパーティーだと思わなかった!本当に、すまなかった!!」

 

「ああ、そういう……。別に大丈夫ですよ。全員無事ですから。それに『怪物進呈(パス・パレード)』ってそこまで珍しい行為ではないんでしょう?」

 

「それで許すのはどうかと思いますよ、ベル様……。本当なら十三階層を回って帰る予定でした。それにゴライアスがいたらどうなっていたことか。道満様達が十八階層にいらっしゃらなかったらあのぼったくりの宿で休むしかなかったわけですし」

 

 ベルがあっさりと許したことで、リリルカは一応状況説明をする。精神力回復薬だってタダじゃない。それをかなり消耗し、下手すればぼったくり宿で三人分の宿泊料を取られていた。

 階層主が復活していたら、ここまで来られなかった可能性もある。

 

「ここにはいないヴェルフにも謝ってくださいね。そうすれば僕は特に何も。ミノタウロスに襲われたわけではありませんし」

 

「よっぽど君の中でミノタウロスは鬼門になってるんだね……。まあ、その気持ちもわかるぜ?また強化種にでも襲われたらってボクも気が気じゃないしさ」

 

 モンスターをなすりつけたことには、これで一応解決。ベルとしてはレベル四相応のモンスターを押し付けられたわけではなく、実際モンスター相手に怪我をしたわけではないので気にしていなかった。

 だがヘスティアが心配して、わざわざダンジョンに潜るという危険な真似までして来てくれたのは嬉しかった。なのでそのことにお礼を言って、他にも来てくれた人へお礼をする。

 名前がわからない人ばかりだったので名前を聞きながら、自己紹介もしつつ回っていくと覆面のエルフの女性を見てベルはあっと声を出してしまう。

 

「リューさん……!」

 

「クラネルさん。私は元冒険者だ。あまり私の名前を呼ばないでほしい」

 

「え?じゃあなんて呼べば……」

 

「ひとまず人目のあるところで名前を呼ばないでいただければ」

 

「えぇ……。あ、お店の方は大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫ではありません。私は帰ったらミア母さんに怒られるでしょう。ですがあなたはシルの将来の伴侶だ。何かあったらシルが悲しむ。私も悲しい」

 

「は、はい!?」

 

 色々と突然言われたことにベルはびっくりする。お店が大丈夫ではないことも問題だが、その後の発言なんて初耳だ。

 ベルが、シルの将来の伴侶などと。

 それを聞いていた隣のリリルカが、ベルの太腿をつねる。いきなりの痛みに「ひぎぃっ!?」と情けない声を出してしまっていた。

 

「な、何の話ですか!?」

 

「シルはいつもお店であなたのことを話しています。あなたがお店で話された内容を、凄い凄いと何度も我々に話すのです。それはもうあなたに盲目な生娘のように。ええ、あれが恋する乙女というものでしょう」

 

「ヘェ〜〜〜?良かったですねえ?ベル様。とても可愛らしい方ですからね」

 

「痛い痛い痛い!?リリ、つねる力を強めないで!?」

 

 そんな茶番もあったが、キリが良いところでヘルメスがごほんと咳払いを入れる。それだけで注目を浴びるのはさすが神。

 ヘルメスが何をするのかわかった玉藻の前はヘスティアを掴んで、神の気配を消すローブを頭から被せて集団から距離を置く。

 

「さて、すまないねタケミカヅチ・ファミリア。君達を利用させてもらった。突発的な事故とはいえ都合が良かった。だからこれは誠意として一応謝っておこう。すまない」

 

「神ヘルメス……?」

 

「ヘスティアにも。無理矢理神威を使わせようとしたが、それは不誠実だ。茶番をしてまでやったことは、『英雄』の試練に相応しくない。まあ、同行の良い言い訳になった。利用して悪かった」

 

「んん?何言ってるのさヘルメス。っていうか、タマモ?そんなしっかりボクを掴んでどうしたのさ?」

 

「まあまあ。ちょっとだけ見守ってて」

 

 ヘルメスの突然の語りに、誰もが首を傾げている。話の流れがよくわからないからだ。アスフィは事前に説明されていたので状況はわかっていたが、いつもの無茶振りをされて正直気が滅入っていた。

 それでも誰かがヘルメスを害さないようにと、ヘルメスの矢面に立って警戒していた。

 

「これが本題だ。ベル君。オレはね、とある神達の使いっ走りだ。もっとも、その内の神友と呼べる奴は今や天界だけどね」

 

「はぁ……」

 

「その神達に頼まれたのさ。君という可能性の発芽を。君が冒険者として大成するかどうかを見極めろと言われた。もうかの神がオラリオを去って十五年だ。あの好々爺もオラリオの事情には疎くなり始めた。世界にとっては、オラリオにとっては。十五年は長い年月だからね」

 

「……!まさか、ヘルメス!?」

 

 ヘスティアはヘルメスの言う天界や好々爺という単語。そしてベルに関係する神と言うことで玉藻の前と道満から聞かされた話から誰の言葉で動いているのか理解した。

 

「『英雄』だか何だか知らないけど、ベル君の偉業としては例のミノタウロスで十分だろ!?世界記録の樹立、それ以上に何が必要だって言うんだ!」

 

「ヘスティア。君には聞いていない。オレが尋ねているのはベル君だ。主神といえども、首を突っ込むな」

 

「ッ!ヘルメス、やめるんだ!」

 

 ヘスティアへの返事として、神威を発動してまでの回答をする。

 この場にいた者のほとんどが、初めてその身に神威を浴びた。これこそが神だと実感できる圧力、神聖さ。そういったものを五感全てで感じ取り、膝を屈する者までいた。

 そしてその力は光の柱となり、ダンジョンに神がいることを伝えていた。

 

 ダンジョンは神が嫌いだ。神がいれば抹殺しようと刺客を放つ。だから神々はダンジョンに入らない。入ることを禁じている。

 下界の人間と変わらない身体能力しかない神では、あっさりとその刺客に殺されてしまうからだ。神々も自分の命は惜しい。と言うより、下界を楽しめなくなることは嫌だと自重するわけだ。

 ヘルメスはそんなことも気にせず、神威を放っている。

 

「ベル・クラネル。オレが良い報告をするために、君という存在を魅せつけてくれ。オレはあいにく魂が見えたり、何でも見えたりするわけじゃない。君の資質を、君自身が教えてくれ。下界に希望があることを、オレに焼き付けてくれ」

 

 ヘルメスの神威に反応するように、ダンジョンがうなりを上げる。それは地震のようにダンジョンを揺らして、セーフティーエリアである十八階層の壁がひび割れる。

 モンスターが産まれないからこそのセーフティーエリアだというのに、モンスターが産まれる予兆が発生していた。

 

 しかもそのひび割れは極大。通常のモンスターが産まれる予兆よりも遥かに大きい。リヴィラまで辿り着いている冒険者なら一度は見たことがある変化。

 階層主級のモンスターが産まれる時の予兆だ。

 

「まったく。これじゃあエレボスのことを非難できない。結局同じことをしでかしてるんだからな」

 

 ヘルメスがぼやきと共に神威を抑える。

 その頃にはひび割れの中から、黒い巨人が這い出ようとしていた。

 見覚えのある階層主。だが、見覚えのない黒い体表。

 ゴライアスの強化種が、楽園へ一歩を踏み出していた。

 

「ヘルメスゥゥゥ!?君ってやつは、何をやらかしてるんだ!?っていうか、何でそこでバカ弟が出てくるんだよ!?」

 

「頼まれたからさ。そしてオレはミノタウロスの偉業を見ていない。それが周りへどんな影響を及ぼしたか、オレは見ていないんだ。見ていたという道満。教えてくれるかな?」

 

「……観客が少なかったからな。効果もイマイチ。吟の煽りほどの成果は得られなかった。吟の場合暴力を用いたものだから比較には適していないかもしれないが、クラネル君の場合範囲は広くて効果が薄い、といったところか」

 

「ではこの大多数がいる場面での実験は適していると思う。見ている者もベル君よりも強者というわけでもなく、レベルの差異が少ないこの場面の方が将来的に役に立つ」

 

 話題に上がっているベルは、よくわかっていない。

 ミノタウロスを退治した時のことを言われているのだろうが、範囲だの効果だのと身に覚えがなかった。

 それは周りを英雄へ引き上げる引力とでも言えば良いのか。英雄としての魅力、周りを英雄にする魅力とも言う。

 

 その効果が、ロキ・ファミリアにはあまり効いていなかった。彼らが元々強者であったということもあるが、ベートやアイズ、それにティオナとレフィーヤくらいにしか伝播されていない。

 吟の場合はオッタルとアレンを煽り、結果としてはランクアップまで導いた。それと比べるとベルはそこまでの憧憬を燃やせなかった。

 

「さあ、ベル君。英雄の卵よ。あの黒い脅威からこの街を守って魅せてくれ」

 

「これってどっからどう見てもマッチポンプだろ!?ヘルメスのバカーーーーー!?」

 

 ベルがまた厄介ごとに巻き込まれたために、ヘスティアの胃が崩壊する。それを見て即座に瑠姫が治癒術をヘスティアのお腹に当てていた。

 

「リリ、ヴェルフを呼んできて!道満さん、明さん!簡易式神で街の皆さんに避難指示を!それとアレを倒すのを手伝ってください!」

 

「わかりました!」

 

「すまないベル君。俺達はミクや神ヘスティアを守るために大規模な方陣を組み上げる。リヴィラの街も覆えるほどの物を作る。アレを任せたい、と言ったら怒るかな?」

 

「いえ、神様達をお願いします!リューさん、手伝ってください!」

 

「無茶をする……!ええ、行きます!」

 

 ベル、リリルカ、リューがそれぞれ走り出す。ゴライアスの強化種、つまりは推定レベル五以上。

 それにレベル三と四が突撃するのは正直無謀だ。

 

「アスフィ。オレのことはいい、手伝ってあげなさい。リューちゃんとは息を合わせるのも難しくないだろう?」

 

「……行ってきます」

 

 アスフィも出撃する。タケミカヅチ・ファミリアもできることはあるはずだと、恩を返す場面だと何かできることを探しに行った。

 ゴライアスが進む中、街の周囲に方陣が作られる。明・玉藻の前・道満・金蘭・瑠姫の五人を主軸にした方陣。五行を意識した方陣はゴライアスが踏みつけようとするが、その足では踏み潰せないほどの強度で弾き返していた。

 

 リヴィラの街からも、何人も冒険者が駆けていく。ゴライアスが産まれた際に討伐するのはほとんどがリヴィラの住民だ。

 たとえ強化種であっても、彼らは愛着のある街を守るために走り出す。

 彼らにとってゴライアス退治は、無謀なものではなかった。

 

 

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