ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
「明君や道満君が戦えば、あのデカブツも問題ないんじゃないのかい!?わざわざ守ろうだなんて!」
「アレは神々を狙っています。『大抗争』の際に神を贄にしたダンジョンのモンスターは神を執拗に狙った。あの時もリヴィラの街です。条件が揃いすぎている。しかも今回は三柱も神がいるのです。正直何が起こるかわからない。神ヘスティア、これは最適な行動と思っていただきたい。恨むなら神ヘルメスを」
「……ヘルメスゥゥゥ!?」
「はは、悪いヘスティア。これは神友としてのエレボスの、最後の願いを叶えたと思って見逃してくれ」
「闇派閥の当時の首魁のワガママって言われて、見逃せるはずがないだろ!?」
世界で一番安全な方陣の中で、ヘスティアがヘルメスに怒る。いくら当時ヘスティアは下界にいなかったとはいえ、事態の凄惨さは知っているつもりだ。
ヘルメスがそういう神格だというのは知っていたつもりだった。だがダンジョンで禁忌を犯してモンスターをけしかけるまでは予想できなかった。
「しかし玉藻。君は良いのかい?オレのこと見逃して」
「言ったでしょう?これは神の試練。見極めに必要なら、わたしは見逃します」
「まったく。エレボスが信用するわけだ」
「待て待て待て!?タマモ、君エレボスと面識あるのかい!?」
「ありますよ?ベルくんにもたらされたもの。それを似た状況で確認したいだけです。そういう意味ではヘルメスの今回のことは渡りが良かったんです」
もうヘスティアの胃は限界だ。イレギュラーな黒いモンスター。それを意図的に呼び出したヘルメス。その行為を看過したどころか求めていた玉藻の前。
それに巻き込まれている、自分の唯一の眷属。
「何でベル君なんだよおおおおおお!?」
「ゼウスとエレボスが認めたから」
「そういう運命だったから?」
「ヘルメスゥゥゥ!ゼウスの場所を吐け!直接ぶっ飛ばしてやる!!ゲフッ!」
「オレに吐かせる前にお前が吐くなよ!?胃潰瘍か!?」
「仕方がないですねえ。皆さん、一時任せます」
ヘスティアがあまりのストレスで喀血したことを見て、金蘭が一時的に方陣の担当を離れてヘスティアの治療に移る。
今の所黒いゴライアスは、方陣に辿り着いていなかった。
・
「クラネルさん!何か勝機はあるのですか?強化種となれば推定レベル五、しかも黒い強化種で神が呼んだモンスターとなればその強さは桁違いです!私にも覚えがある!」
「僕の最初の魔法は、威力が桁違いです!そして威力を増すスキルもあります!それを併用すれば多分……!」
「推測が多い上に、ファミリアの人間でもないのに私に平然と魔法やスキルのことを……!帰ったら説教しますからね!」
「え、ええ!?」
ベルとリューは走りながら勝算について話し合っていた。リューは自分ができることを話していたが、それでもレベル四。あのゴライアスよりはおそらく下。
二人が話している内に後ろからアスフィが追いつく。なお、レベル四でかなり飛ばしてきたのにレベル三のベルに追いつくのに苦労したというのは口に出さない。
「リオン!あなたと私であのゴライアスを牽制します。【
「【
「今あそこは世界で一番安全らしいので」
ベルとリューが後ろを振り向くと、既に方陣は形成されていた。ベルもリューも方陣について詳しくなかったが、あそこに残っている面々を思い浮かべてその言葉を信じた。
「【
「えっと、広域攻撃魔法です……」
「リヴェリア様と同じ種別ですか……。確かにスキルもあればいけるかもしれません」
「私達は彼に攻撃が行かないように誘導ですね。しかし二人でどこまでできるか……」
「やらなければならないでしょう。最高戦力は神々を守るためにアレを展開している。せめてもう一人第二級冒険者がいれば……」
「それは言っても仕方がないでしょう」
三人はゴライアスの前まで辿り着く前にベルが付与魔法を施していた。しかも二重に。アスフィは自前の魔道具で空に浮かびながら牽制を。リューは並行詠唱をしながら果敢に攻め込んだ。
『ゴアアアアアアア!』
だが、レベル四の攻撃でもまともな傷にならない。付与魔法で肉体が活性化していても傷は浅い。
そもそもが階層主だ。バカみたいな体力に、通常のモンスターからはかけ離れた力を持っている。階層主だってレベル四が二人で足止めするのも厳しい。通常のゴライアスですらそうなのに、目の前にいるのは神々に怒ったダンジョンが送り出した使い。
通常のゴライアスほどではない。
「【雷霆よ】!」
ベルも付与魔法を使って、リューの援護に入る。アスフィは空中を飛ぶことで攻撃は避けられているが、リューは地面にいるので足や手が届きそうになる。だから別方向で注意を引くことでリューに攻撃が当たらないようにしていた。
「クラネルさん、これでは本末転倒だ!」
「でも、このままじゃ詠唱もまともにできません!」
「くっ、やはり絶望的に数が足りない!」
ベルは並行詠唱ができない。そして前衛が圧倒的に足らない。
ベルのスキルも魔法も時間がかかる。その時間稼ぎを立った二人ではできないほど、黒い巨人は屈強だった。
「魔法部隊、放て!」
男の声でゴライアスに数多くの魔法が突き刺さる。威力としては低くて傷にはならないが、それでも注意を引くことはできる。
号令を出したのはこのリヴィラを率いる頭目、ボールスだった。
「【狼印の子兎】が前はってんだ、ルーキーにカッコつけさせて終わりじゃねえよなあ!」
「ボールス、情報が古いぜ!今のあいつは【
「畜生、速えな!?確かにレベル三相応だぜ!ズルしたんじゃねえかって思ってたけど、あれだけ動ければレベルは詐称してねえ!」
「街はタマモノマエ・ファミリアが結界魔法で守ってくれてる!俺達がやるのは周りの雑魚退治と、アレの注意を引くことだ!いつものゴライアス退治を思い出せ!」
リヴィラを拠点としている冒険者達がゴライアスへ魔法を放ったり、ゴライアス以外にも現れた雑魚モンスターを討伐していく。何度も崩壊しているし、この中層でも真ん中辺りのエリアまで進出しているだけあってここにいる冒険者はほぼ全員レベル二以上だった。
魔法が使える者はゴライアスに当てて。使えない者は雑魚モンスターを近接戦で狩っていく。そうして今戦える者の中で上位者達の行動を援護するように動いていく。
この場にいる者が一致団結していく様子を見て、ベルの背中が熱くなっていく。
「ゴライアス相手なら俺達の方が一日の長があるんだよ!」
「今日初めてこの街に来たような奴が切った張ったやってるんだぞ!負けてられるか!」
「傷付いても金蘭の姐御と瑠姫の猫が治してくれるんだ!何も怖くねえ!」
「復興資金がかからねえなら全力でアイテムを使ってやる!後で消耗した分は上で買いつければいい!」
「アレを呼んだ神はぶっ飛ばす!」
「「「同意!」」」
それぞれの理由で、モンスターを倒す。この街に愛着があるようで、後はルーキーが頑張っているからこその意地か。
一ヶ月半前に冒険者になったばかりの子供が頑張っているのに、ベテランの自分達がアレを放置するのかと。
そんなものはちっぽけなプライドが拒絶した。
「アレを倒せば俺もランクアップできるかもな!」
「ああ、推定レベル五だ!偉業としては申し分ない!」
「どけどけどけ!俺だってランクアップしてえんだよ!そんでもって稼いだ金を歓楽街で使うんだ!」
「オレだってランクアップして綺麗どころとお楽しみしてーよ!」
「って言うかアレ倒したらギルドに報告すれば金もらえるんじゃね?階層主の強化種っぽいのとか、初目撃例だろうし!」
「っていうか、アレ呼び出したヘルメス・ファミリアにふっかければいいんじゃね!?」
「「「それだ!!!」」」
「ヒィ!やっぱり飛び火した!
冒険者達の好き勝手な思いと発言に、飛び火したアスフィは戦いながら背筋が凍る。こうなるとは予想していたために一度は反発したのだが、ヘルメスはやると決めたら絶対に続けただろう。
止めても無駄なアスフィはそのまま放置して、その結果がこれだ。
ヘルメス・ファミリアの運営資金が少ないのはひとえにそのファミリアの活動上、外にいくことが多くあまりダンジョンに潜らないため稼ぎが少ない──ことだけじゃない。
アスフィが開発した魔道具を市場に流したりして資金を得たりしているが、魔道具で便利な物を多く開発するタマモノマエ・ファミリアという競合相手がいるせいで左団扇ではいられないためにそこから得る資金も少なくなっている。
明達のとばっちりを受けたファミリアの一つとも言える。
「ベル様、お待たせしました!リリに付与魔法を三重がけで!」
「リリ!【雷霆よ】!」
リリルカも参戦して、『鬼斬り包丁』を持って突撃する。足へ斬りつけて一度は斬ったが再生能力があるのか足が生えてくる。
四重がけはアミッドに禁止されたが、三重は禁止されていないためにリリルカはそこまで付与させてもらう。というかそこまでしないとリリルカではアタッカーなどステータス的にできはしなかった。
「ベル、遅くなった!この短時間で作るしかなかったから魔剣になっちまった。新しい武器はまた次な!【
「ヴェルフ!」
クロッゾの魔剣を短時間で鍛えたヴェルフが、炎の魔剣をゴライアスに放つ。その威力は魔剣と呼ばれる即座に魔法を放つ剣の中でも最高クラス。同じファミリアの椿に主神であるヘファイストスの言葉を告げられ、プライドと仲間の命を天秤にかけることをやめた結果、最初に打とうとしたのが血の関係する魔剣だった。
それを連発してゴライアスを怯ませる。その隙にリューが魔法を放ったり、アスフィが顔面を斬りつけたりした。
「チャージします!一分、時間を稼いでください!」
ベルは右手にスキルを発動して白い光を集め始める。
ベルの声はよく響いたのか、周りの雑魚を倒した冒険者達が投擲武器や弓、魔法やそれこそ普段使いしている剣を投げたりしてゴライアスの注目をばらけさせる。
リィィンと鐘の鳴る音が響き始める。それにゴライアスも気が付くが、周りの妨害があってベルの元へ足を踏み出せない。
右手の白い光が、ベルの全身を覆うほど大きくなる。ベルの最大チャージは右腕を覆うほどだったが、【
それと同時に、最大値も底上げされていくようだった。
その光景を見て、ヘルメスは光悦の表情を浮かべる。
「ああ、ゼウス!エレボス!見ているか!?あれこそが望んだ『英雄』の輝き!人工のものでもない、
ゼウスやエレボスが見た、『始まりの英雄』の輝き。それはこういうものだったのだろうとヘルメスは思った。
冒険者達はここを放棄して、第一級冒険者に応援を頼むという手段もあった。だというのに、全員がレベルの上では劣るというのにできることをやって討伐に手を貸している。
ルーキーがやっているから、という理由はあるだろう。だがそのルーキーの無茶を見て心を動かされた者は多い。リヴィラの街でもベルに疑いを持っていた者も多かった。それだけ人類最速のレベル三というのはあり得ないことだった。
それに嫉妬した者もいたが、それを本人の行動と強さで黙らせた。そして彼は決して孤独ではない。手を貸してくれる仲間がいる。
それが、憧憬の灯を繋げていった。
「【天空より更に彼方へ、黄金の雨となり、聖獣たる御牛をも震わせ、最果ての
ベルの詠唱が始まる。
高まる魔力に、チャージも合わさった白と紫電の混ざり合うスパーク音がベルの周りから聞こえ始める。
「あと一踏ん張りだ!出し惜しみすんな!」
「やれ、ウサギ!」
「ぶっとばせええええええええ!」
数々の応援が、ベルを後押しする。
極まった白い極光が、右手と共に放たれた。
「【
それは全てを焼き尽くす雷霆。
この日より十八階層の小高い丘と大壁には。
消えることのない雷撃の跡が刻まれ、一層モンスターが産み出されなくなった。
・
「アスフィ、これほどいてくれよ」
「不可能です。そのまま反省していてください」
ゴライアスを退治した後。
諸々の元凶であるヘルメスは簀巻きにされて木から吊るされていた。むしろこれだけで済んでいるのが奇跡に近い。
本当なら誰かが言っていたように賠償金をしこたま取られるところだったが、消耗した回復アイテム類はタマモノマエ・ファミリアが全て補填。武器も整備はヴェルフと明、道満が行い新品同然に。
武器がなくなってしまった者はタマモノマエ・ファミリアを訪れてくれればある程度の武器を格安で提供することを提案。なお期限は二週間以内となったので、この後こぞって多くの人間が上に上がるだろう。
そんな補填がしっかりしていたので、ヘルメスが失うものは尊厳だけになった。
ちなみに。すっかり夜になってしまったのでベル達は全員リヴィラの街に泊まることになったのだが、ここは立役者への奉仕ということでボールスが気を利かせて今日の宿泊費は無料にしてくれた。
街への被害も出ず、あんなモンスターに襲われたために特別解放とのこと。
「そもそも、これくらいの罰で済んで良かったと思わなければ。奇跡的に死者が出なかったからこんな温情ある対応なのでしょうが、神の気まぐれでたくさんの死者が出るところだったのですよ?神タマモノマエに感謝すべきかと」
「呼んだかな?アスフィちゃん」
アスフィの声に呼応するように、明と玉藻の前がやってくる。ヘルメスは彼らの姿を確認して一つ溜息。
「玉藻……。これってオレが悪い?」
「ダンジョンで神威を使っちゃうのはね。神々でも使わないようにって決めてることだから。
「うん。やっぱり君は紛れもない神だ。……エレボスが警戒するわけだ」
「えー。見逃してあげたのに、そんな言い草だったの?」
「神エレボスはずっとそんな感じだっただろ。ミク」
明と玉藻の前はヘルメスの近くに座る。それを見て一応報復されないかと警戒して立っていたアスフィも座る。
「満足?ヘルメス」
「満足だ。『正義』のファミリアは壊滅してしまったが、意志は巡った。フレイヤ様も良い二つ名を付けられた。ゼウスの孫なだけはある」
「それは良かった。これで何人かランクアップしてくれると良いんだけど。あのエルフさんもヘスティアちゃんのところに改宗しないかなー」
「……君達の目線は、オレ達神からしても異質に過ぎる。どこまで視えているんだ?」
「さあ?夢と判別がつかないこともあるから大変だよ?でもとりあえず、ベルくんはこれからも色んな試練がいっぱいってことは変わらないかなあ」
「成長のチャンスが多いというのは良いことだよ」
「そうだね。あ、ヘルメス。今回のこと、貸し一つだから」
「……確かにこの程度で済ませてくれたのは君達のおかげか。ありがとう」
ヘルメスのお礼を聞いたところで、二人は立ち上がる。しかもしっかり恋人繋ぎをして。
「おや。どこに行くんだい?」
「せっかくハルとダンジョンに来たんだから、デートに行ってこようかなって。水の都とか言われる中層を見たいかなって」
「さすがに俺一人だと危ないだろう。二十階層でどうだ?よく光る石が多くて幻想的なんだ」
「ハルがそう言うならそこにしましょう。ヘルメス、アスフィちゃん。他の人には内緒ね?」
そう言って二人は下の階層へ向かう道へ行ってしまう。ダンジョンでデートをする神と人間のカップルなんて初めて見たのでヘルメスとアスフィは呆れてしまう。
「……ヘルメス様」
「監視は続行だ。しかし勘弁して欲しいよなぁ。全員が武闘派の商業系ファミリアってなんだよ……」
ヘルメスも胃が痛くなってきた。他の神々に、自分と同じような中立の神と思われておらず善神だと思われながら暗躍する姿に、恐怖しか感じなかった。