ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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僕等のウォーゲーム
26 酒場での喧嘩


 そこはダンジョンの中でも知る人ぞ知る秘密の部屋。むしろ表向き知っている人間は極少数。知っている者はほとんど神々。その神々も眷属に話していない者だらけ。

 その隠れ家に、明と玉藻は入っていく。

 そこはダンジョンの例に違わずモンスターだらけ。だが、その瞳には理性的な光が宿り、冒険者が持っているような武器や防具で武装している者も多かった。

 

 そして多種多様。ダンジョンのフロア毎に出現するモンスターの大別はほぼ決まっているが、それを無視したように上層から下層に至るまでのモンスターがそこには生息していた。

 モンスター達のまとめ役である蜥蜴人(リザードマン)が、二人を見て声を掛ける。

 

「おお、アキラっちにタマモっち!久しぶりじゃねえか」

 

「やあ、リド。皆も元気そうで良かったよ。約束どおり、食料を持ってきた」

 

 明が陰陽術を使うと、何もなかった空間から様々な地上の食料に加え、とても大きな魔石がゴロゴロと出てくる。

 

「ヒャア。またこんなおっきい魔石を……。どこのやつだ?」

 

「深層、五十二階層以降のドラゴンとワイバーンの魔石だ。中層以降の者に食べさせるように。上層が生息地だった子は強力すぎて拒絶反応が出る」

 

「あいよ。お、小さいのもいっぱいあるな」

 

「小さい子にも魔石は必要だと思ったので。ああ、武器も持ってきましたよ?」

 

 玉藻の前も同じように様々な武器を出す。刀や鉤爪、槍など。明が試作した物や玉藻の前が作ったローブなどをそれぞれに渡していく。

 数々の贈り物に喜ぶモンスター達。明と玉藻の前も笑顔で返す。

 

「吟っちと銀郎っちは次いつ来るんだ?」

 

「しばらく先になるかも。人間の組織にも派遣することになったから。でも今回みたいにダンジョンの奥深くまで歩いて団体行動とかはなくなるから、暇を見付けて連れてきます」

 

「任せたぜ。まだオレっちはあの二人に勝ててないんだからな」

 

「リド、お前は冒険者で言えばレベル六相応の力はあるんだぞ?」

 

「関係ねえ。オレっちの目指した高みはあそこだ。乗り越えてみせる」

 

「それはいいことを聞いた。──さて、そこの黒い毛のミノタウロス。新入りだな?名前を聞かせてもらっても?」

 

「……アステリオス。吟や銀郎というのは、あなたよりも強いのだろうか?」

 

「吟は接近戦においては世界最強だ。──君も知っている、白髪の剣士だよ」

 

 アステリオスと名乗ったミノタウロスは、明の言葉で脳裏に浮かんだ人物がいた。

 以前、勇者の後に戦ってくれた剣士のことだと。

 

「彼と、戦えるのか?」

 

「ああ、いいぞ。今度は連れてこよう。今日は人目のある中抜け出してきていてね。二人でしか来られなかった」

 

「その時を、楽しみに待つ」

 

「どうせなら待つ間、深層にでも潜ってくるといい。モンスターごとに戦い方が違う。君はその多様性を知るべきだ。今度来る時には一報を入れよう。その連絡係として、これを君に」

 

 明はアステリオスに蝶形の簡易式神を渡す。これは連絡用で、アステリオスの肩に止まった。

 

「深層から帰ってくる時間も考慮して連絡を入れよう。吟もしばらくは派遣で忙しくてね」

 

「感謝する」

 

 これが明達とウラノスの密約。

 ウラノスからすればロキ・ファミリアへの援助なんて二の次。どちらかと言えば彼ら喋られるモンスターの露見を防ぐための監視目的で同行させていた。

 だが、それも終わり。

 何せもうすぐ彼らは、露見する。

 

「よーし!飯と酒があるんだ!アステリオスの歓迎会やるぞ!宴だ、騒ぐぞー!」

 

「「「おおおー!」」」

 

 アステリオスは歓迎会をしてもらった後、明の言葉通り深層へ行ってくる。これからアステリオスは深層とこの二十階層を何度も往復することとなる。

 

 

 

「「「乾杯!」」」

 

 そこは『焔蜂亭』という酒場。こじんまりとしているが、鍛治師などに人気の穴場だ。

 ここにベル・リリルカ・ヴェルフがお酒を飲みにやって来ていた。中層へのアタックからのゴライアス騒ぎから二日。ヴェルフが良い報告があるので馴染みの酒場で飲もうという話になり、こうして集まっていた。

 

 三人ともあれだけのことがあったのでしばらくは休養に充てることにしていた。階層を一つ跨ぐためにはそれなりの修練とアビリティの上昇がなければ不可能だというのに、無理矢理十八階層まで潜ったのだ。

 帰りはタマモノマエ・ファミリアのおかげで全員無事に帰っていたが、それは第一級冒険者が複数いたからであって、レベル二が複数いても中層は危険な場所だ。

 三人が最初の一杯目をそこそこ飲んだ頃、ベルが本題に触れる。

 

「ヴェルフ、ランクアップおめでとう!これで『上級鍛治師(ハイ・スミス)』の仲間入りだね」

 

「おう、ありがとな!」

 

「まあ、当然の戦果を挙げていますからね。インファイト・ドラゴンの単独撃破。中層へのアタック、あのゴライアス退治への参加。これでランクアップしていなかったら、何が偉業なのかと考えてしまいますよ」

 

 そう、ヴェルフは今回の探索の結果ランクアップしていた。【鍛治】の発展アビリティを無事獲得できたので、これで晴れて上級鍛治師を名乗れる。テナントに置く商品の扱いなども変わってくる。

 

 今までのようにお店の端っこの方や、誰かの作品と一緒くたにされることもなくなる。

 『神会』は終わったばかりなので二つ名は今のところないが、それは次の『神会』の開催を待って決定される。

 

「ヴェルフはこれからも僕とパーティーを組んでくれる?」

 

「当たり前だろ?専属契約してんだ。鍛治の外せない用事があるわけじゃなかったらこれまで通り一緒に潜るさ」

 

「ありがとう!」

 

 そんな話をして盛り上がっていると、ベル達のテーブルとは別の方向から大人にしては声色の高い大きな声が聞こえてくる。

 

「なんだぁ?オイラにはどっかの兎がズルでランクアップしてイキってるように聞こえたなぁ?」

 

 声がしたのは品の良い服装をした小人族の男。その見た目は麗しく、どこかの屋敷に勤める従者のようだ。

 やっていることは酷く醜かったが。

 酒場の盛り上がりも、その声が大きすぎたせいでピタリと止まる。そして店内にベルがいたことで何でそんな話題になったのか理解したようだ。それでも酒や食事に戻る者も多い。成り行きを見守ろうと目線だけ向ける者もいた。

 

 なぜそんなに物分かりが良いのかというと、ここの常連客はほとんどがこのお店の隠れ家的な雰囲気を好んで来ているため、何か問題を起こして出禁になりたくなかったこと。

 話題になっていたのが異例のレベル三、ベルだったこと。

 そして話題に挙げたのが、色々問題のあるアポロン・ファミリアだったこと。服の上に弓矢と太陽を模したエンブレムがあったので即座に看破できた。

 

「へへ、良いよなあ。オイラには怖くてできねえよ。一ヶ月でレベル二ですら法螺話だってのに、一ヶ月半でレベル三?ふっかけすぎてて信憑性のカケラもねえよ」

 

「だとさ、ベル。お前がやってきたこと言ってやったらどうだ?」

 

「ギルドで公表されてないんだっけ?」

 

「確かされていないはずですよ。神々とギルドの上層部のみで隠蔽したようです」

 

 ベルに公表されているのは、付与魔法が使えること。そして後は期間だけが発表されていて内容は他の者のように公表されていない。他のランクアップした者は何をしたことでランクアップしたかほぼ全ての人が発表している。

 階層主を単独撃破したアイズも、ベヒーモスの亜種を倒したとされるオッタルとアレンも、その内容を公表している。

 

 ベルは何故隠蔽されたか。

 付与魔法が早い段階で習得できたこともあったが、彼は基本リリルカとだけ組んでモンスターのほぼ全てを一人で倒していた。ヴェルフが加入して上層でも奥の方へ進み、『怪物祭』ではインファイト・ドラゴンを撃破。

 その後も上層の奥深くでモンスターを狩り続け、この前ミノタウロスの強化種をペアで撃破。

 

 簡単に言ってしまうとほぼ単独でダンジョンに潜ってモンスターを倒し続けて強敵を倒したらランクアップした。しかもその相手は格上ばかりで話を聞いたら信じられないほどの強い相手だ。

 数々の冒険者が真似して死ぬことを防ぐためにギルドも神々も隠蔽した。異様なアビリティの上昇と、運が悪かったら一山いくらの冒険者と変わらない末路にしかならないアクシデントの連続で、たとえベルでも同じことがもう一度できるかどうか。

 

 それにこの絶対条件として、フレイヤの試練とサポートがなければ成しえなかったことだ。

 

 ただし神々はベルという成功例もいるので付与魔法や強力なスキル、魔法が発現した子供には護衛をつけて潜らせれば比較的早く成長できるのではないかと画策していたりする。

 そのサンプルにしようとしていたが、ベルが急成長したのはヘスティアが隠した希少スキルである成長促進があってこそ。ここまでのスピードはこのスキルがあってこそだ。

 

「じゃあ言わない方がいい?」

 

「そうですね。酒場で言うことではないと思います。どうしても知りたければ主神に伺えばいい話です」

 

 リリルカの言葉で、ベルは口をつぐむ。口を割らせたいということはそれなりの理由があるから。面倒ごとだと思ったのでベルは無視することにした。

 だが、相手の小人族ルアンの言葉にそれはできなかった。

 

「あのグータラ駄女神のたった一人の眷属って時点でイカサマだと思うべきだったんだ!どうせ周りの奴におんぶに抱っこなんだろうな!それで強くなって威張って、イイ御身分だよまったく!」

 

 まだ続けようとするルアンだったが、それ以上先のことは言えなかった。

 本気でキレたベルが彼の顔面にグーを叩き込んでいたからだ。

 レベル三の、しかもそれなりに上がったアビリティから放たれた一撃はルアンの頬が膨れ上がり、地面に叩き付けられた結果ピクピクと動くだけの何かになっていた。

 むしろこれだけの一撃を不意に喰らって生きているのは偉業かもしれない。

 

「いつも頑張ってくれている神様と僕の仲間を侮辱するな!リリなんてあの時死にかけたんだぞ!」

 

「ベルー、そいつには聞こえてないぞ」

 

「あーあ、やっちゃいましたね……」

 

「この野郎!」

 

 周りにいた同ファミリアが敵討ちとばかりに立ち上がってベルに殴りかかる。レベル三はいなかったのでベルでもどうにかできたが多勢に無勢。ヴェルフも立ち上がって参戦した。息の合ったベルとヴェルフにあっという間に制圧されたが、突如として立ち上がった男がヴェルフを殴り飛ばす。

 

「ぐあっ!?」

 

「ヴェルフ!」

 

 ヴェルフの心配をしたのと同時にベルも投げ飛ばされる。そこまで痛い一撃ではなかったために立ち上がろうとしたら、側に来たリリルカがベルの頭を抱きかかえて抑える。そして首を横に振ったので仕返しのために立ち上がることはしなかった。

 

「どうした?撫でただけだぞ?やはりレベル三なんて出まかせだったか」

 

「あいつ、ヒュアキントスだ……。アポロン・ファミリアの団長」

 

「ってことはやっぱり、いつものやつかよ」

 

「手段選ばないって馬鹿すぎだろ。他の派閥敵に回しまくってやることがコレクションとか、マジで神。悪い意味で」

 

 美しい貌をした美丈夫。その人物はヒュアキントス。周りの言葉通り、この馬鹿騒ぎは彼らが意図的に引き起こしたことだ。

 

「女に庇われて、無様だな。それに一発は一発だ。残りの分も私が支払うとしよう」

 

 ヒュアキントスがベルとリリルカ、ヴェルフを見下しながら更に追撃をしようとすると、カウンターの方からジョッキをテーブルに叩きつける音がした。

 全員がその音の発生源を見ると、ベートが一人でやって来て酒を飲んでいたようだ。

 

「ここは劇場じゃねーぞ。馬鹿の、喜劇とも呼べねえクソみたいな演目を続けるつもりなら出てけ。酒が不味くなる」

 

「【凶狼】……」

 

「格下と思った奴らを蹂躙。強奪。飽きたら捨てる。今時子供でもやんねーぞ。お前のところの主神は愛だの何だのってほざいてたか?本当に愛してるならその愛を最後まで貫け。ロキとは質の違う愛なんだろうが、ただの利己的な愛なんてわざわざファミリアに入れる意味もねーだろ。しかも捨てるなら尚更だ」

 

「貴様……!アポロン様を侮辱するのか!」

 

「あ?何怒ってんだよ。お前らがそいつにやったことじゃねーか。なのにレベル六()には手を出さねーの?それがてめーらの本質だ。下水みたいに臭くて、のくせに見た目だけ着飾ってる。うわべと中身が違いすぎるぞ」

 

 ベートの煽りが効いたのか、ヒュアキントスは「失礼する」とだけ言って去っていった。ベートに挑んだら負けると分かっているからだろう。レベルの差が三つはありすぎる上に一対一だ。どんなズルをしても勝てないと悟っていた。

 

 やられた団員達も急いで起き上がって店から撤退していた。ヒュアキントスが撤退して、ベートとやりあうほど馬鹿ではなかったらしい。

 ベートは鼻を鳴らした後、酒の追加を頼む。

 助けてもらったベルはヴェルフを介抱した後、頭を下げに行った。

 

「ベートさん、ありがとうございました」

 

「礼ならそこの女にしておけ。あれ以上やって、お前の立場を悪くさせないために第三者の意見を使うその手腕は見事だ。だが、俺を利用しようとしたのは気に喰わねえ」

 

「……気付かれていましたか」

 

 リリルカは意図を読まれていたことを、悪びれもせずに受け止めていた。ベートが睨んでいたが、足を竦ませることなくしっかりと目を合わせていた。

 強い女だと、ベートは頷く。

 

「たりめーだ。調子に乗った馬鹿を抑えるにはイイ手段だが、相手を選べ」

 

「はい。【凶狼】様だからこそ、できたことです」

 

「……さっさと帰って手当してやれ。おい、給仕。こいつらの支払いと、壊した物の弁償代寄越せ。半分は俺が持ってやる。後はあのクソファミリアへ送りつけろ。ああ、あいつらが壊した分とかはちゃんと分けろよ?そこまで払ってやるつもりはねえ」

 

 給仕に頼んで、伝票を受け取ってさっさと支払いを済ませる。大量のヴァリスが入った麻袋を給仕に渡している様子を見てベルは慌てて止める。

 

「あ、あのベートさん。僕達の喧嘩にそこまでしてもらうのは……」

 

「話は聞こえていた。これはミノの時の餞別代わりだ。そこの鍛治師もお前の武器を打ったんだろ。なら関係者だ。……さっさとここまで上がってこい。女に守られるんじゃなく、守ってやれ。頭じゃその女には敵わないだろうが、ならお前にできることは何だ?」

 

「強くなること」

 

「そういうことだ。もし気に障るならさっさと登りつめて返しやがれ」

 

 酒を一気に煽り、支払いも済ませてベートは帰ってしまう。その後ろ姿にベルとリリルカは頭を下げて、ヴェルフを担いで『星見の館』へ向かう。

 そこでベルとヴェルフは玉藻の前と金蘭によって治療された。

 

「ふふ、喧嘩かあ。随分一方的だったんですね。アポロンもおバカさんなんだから」

 

「馬鹿じゃなかったら、こんな招待状を送ってこないだろう?」

 

 明もやって来て、手にしていたのは上質な紙に封蝋が施されている一通の手紙。差出人を伝える徽章には弓矢と太陽のエンブレムが刻まれていた。

 アポロン・ファミリアからの、『神の宴』の招待状。

 

「今回は神の他に自慢の眷属を一人、参加させていいらしい。星見で視るまでもなく何をするつもりなのかわかるな」

 

「ふふ。じゃあハルとデートだね」

 

「これは神ヘスティアの所にも送られるだろう。むしろ君達を呼び出すための隠れ蓑だ。大勢の前で今日のことを糾弾したいと見える」

 

 そんな明の話を聞いて、起きたヴェルフを家まで簡易式神で送り届けた後にベルも本拠へ帰っていった。

 喧嘩したことは、ヘスティアに絞られたことをここに記載する。

 

 

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