ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
ベルは一応、昨日酒場であった喧嘩についてギルドに報告するためにリリルカとヴェルフと一緒にエイナの元へ訪れていた。ヘスティアからも他派閥との暴力沙汰はマズイと言われていたからだ。
相談されたエイナは、やはり良い顔をしない。
「そっかぁ……。いくらファミリアの主神をばかにされたからといって、先に手を出しちゃったのはベル君だからね。それを発端として『
「『戦争遊戯』……。でもどうして?僕のランクアップが異常だから晒し者にしようと?」
「いえ、ベル様。恐らくはベル様自身が目当てかと」
「だよなぁ。あの男神のことはオラリオでは有名だからな」
「僕自身?レベル三の僕が戦力として欲しいってこと?」
「うーん、どうせその内わかるから言っちゃうね。神ロキが美少女・美女が大好きでそういった眷属ばかり集めてるのは周知の事実だけど。神アポロンは男女問わず美しいと思った下界の子を集めてるの」
「はい?」
リリルカ、ヴェルフ、エイナの説明を聞いて首を傾げるベル。
田舎者で純真な少年だからこそ、ベルは知らなかった。衆道という言葉や同性愛というものを。
そしてベルは中性的な容姿をしている、まだ幼いと表現できる少年だ。それはもう、アポロンの好みど真ん中である。
アポロンは『神会』でその人相書きを見て、実際実物を見て。欲しくなってしまったのだろう。
「神アポロンはその強引さでも有名でね。大陸の果てまで追いかけて眷属にしたり、街中で戦闘を吹っ掛けて相手の心身を折ったり。そういうのを平気でやって、オラリオの中でも迷惑な神として有名かな」
「そんな方に、目を掛けられたんですか……」
「酒場の連中も言ってたが、お気に入りじゃなくなったらポイ、だ。ポイッて言っても派閥からは抜けられないから居場所がないとかって聞くな」
「うわぁ。まるでソーマ・ファミリアだ……」
「主神が主導しているか、無気力かの差はありますけどね」
そんな説明を受けてベルは段々目が死んでいく。
自分しかいないが、今のファミリアを気に入っていた。ヘスティアのことが好きだった。そんな訳の分からない神なんて御免被るとベルは言い切る。
「あれ?でも眷属の『
「それを覆せるのが『戦争遊戯』の勝敗による誓約なんだよね。神々が承認するから、その場合やまだ一年経っていない内に神が送還されたりすると特例で『改宗』が認められるの」
「つまりベル様は今後、ヘスティア様を守りながらアポロン・ファミリアを警戒しなければなりません。事故に見せかけてヘスティア様を送還する可能性も考えられます」
「今日は神様をタマモノマエ・ファミリアに預けてきて正解だったんだね……」
今朝起きたら明から簡易式神が来ていて、ギルドやダンジョンに行くのならヘスティアを預けていくようにとメッセージがあった。その通りにして良かったと安堵するベル。
アポロン・ファミリアがソーマ・ファミリアの二の轍を踏むことはないだろう。何せ全員がレベル四以上の猛者。団長がレベル三なのでいくら団員数が居てもあの要塞を突破はできないだろう。
今後はヘスティアを守るために暫くの間ダンジョンに潜ることは取りやめる。エイナからもギルドを通して注意してもらうことをお願いしたが、『戦争遊戯』になってしまったらどうしようもできないと言われた。
ベル達がギルドの相談ボックスから出ていくと、それを待っていたかのように二人の女性がいた。
一人はしっかりしていそうな赤髪の綺麗な女性。もう一人は濡れ羽色の髪をした、オドオドした女性。
赤髪の女性の方がベルの白髪と紅い瞳を確認して近付いてくる。
「アンタがベル・クラネル?これ、受け取って」
「あ……」
ベルは渡された封筒に見覚えがあったので小さい声を漏らしてしまう。昨日明が持っていて、渡されるだろうと予測していた物と全く同じ物。
アポロン・ファミリアの徽章がされた、『神の宴』への招待状。
「じゃ、渡したから。御愁傷様」
「ダフネちゃん、今からでもアレ取り返して!破いてよ!私達、皆雷に引き裂かれちゃう!」
「また夢?いい加減にしなよ。雷が落ちるならまだしも、引き裂くって。それ、主神に渡してね」
「ダフネちゃん!……あの、ベルさん。リリルカちゃん。お、お手柔らかに!」
それだけ言って二人はギルドから出ていく。アポロン・ファミリア所属の二人のやり取りに唖然としながらも、ベルはリリルカと目線を合わせる。
「……カサンドラさん、やっぱり夢を見たのかな」
「でしょうね。それにあの言葉、『戦争遊戯』かそれに準ずる出来事は確実みたいです」
「二人とも、あの黒髪の方は知り合いか?」
「ええ。明様やタマモ様が直接指導している、リリのような居候です。それこそさっきヴェルフ様が言っていた、ポイされた方ですよ」
「マジか……。んで、その二人が指導してるって、星見についてか?」
「ええ。彼女の場合は未来限定で、特殊な夢を十五行の詩に合わせて見るようですけど。明様曰く未来を変えることはできるが、何もしなければ百発百中、だそうです」
「ウッヘエ。それはまた凄いスキルだな」
「スキルではないようですけどね」
その日は取り敢えず全員帰ることとする。アポロンの『神の宴』の日数も迫っていた。
・
大きな動きはないまま『神の宴』の開催日。ベルとヘスティアは奮発しておめかしをして会場へ向かった。ガネーシャのように本拠で行われるわけではなく、本拠とは別の場所を借りて『神の宴』は行われる。
この場合ガネーシャが特殊なのだ。
会場には多種多様な神と、その眷属が全員煌びやかな服装で談笑していた。有名なファミリアや冒険者が多く、ベルとヘスティアは気後れしてしまう。
そんな空気の中、知り合いがいた。とはいえヘスティアとその相手の神もお互いを見て「ゲッ」と嫌そうな声を挙げていたが。
「ロキ!」
「ドチビ!かー、一応マシな格好して来おったんか。にしてもチンチクリンで浮いてんけどな」
「君だってその貧相な胸のせいで女には見えないぞ!」
「んだと!?」
「やるか!?」
いつも通りに取っ組み合いになる二柱。それを見ていつも通り盛り上がる神々。他の眷属達もこれが噂の、といった具合に見守っていた。
その間にアイズと挨拶を交わしておくベル。パーティーなんて参加したことがなかったのでこれからどうしようと思っていると、ベルは後ろから声を掛けられた。
「あら、噂の兎さん。初めまして」
「は、初めまして。……フレイヤ様、ですよね?」
「ええ。オッタルがいるとサプライズにならないわ」
嘆息するフレイヤ。その憂いげな表情すら悩ましく美しい。この場にいた男性のほとんどが神々も含めてそれだけで魅了され、パートナーの女性に足を踏み抜かれていた。
ベルは会ったことがなかったが、冒険者最強のオッタルが付き従っている美しい女神となれば間違いようがない。あまりの美しさにベルもびっくりするほど。
「あら?あなたは魅了されていないのね。……ふうん?ただ私が発するだけの力に負けるほど、あなたの魂は弱くないのね」
「え?」
「気に入ったわ。ダンスの時間のようだし、一曲いかが?本当は男性に誘ってもらいたいけど、そこは女神の特権だと思って。ね?」
「えっと、あの……」
「ヘスティアはまだロキと喧嘩してるから」
ベルも言われて振り返るが、ヘスティアはベルをほっといて取っ組み合いを続けていた。近くにいるアイズも止める気がないらしい。
そんな主神の様子に呆れながらも、美の女神の誘いを断るのは怖いので受けることにした。都市最大派閥の主神に喧嘩を売るなんて、零細派閥のベルにはできっこなかった。
だから恐る恐る手を差し伸ばす。フレイヤの後ろにいるオッタルも、何も咎めなかった。
「一曲、踊っていただけますか?女神様」
「ええ。喜んで」
ベルはフレイヤの手を引いて踊り始める。とはいえ、音楽もまともに知らない曲で、ダンスなんて初めての経験だ。どうやって踊るのかすらわからない。
ただ周りの見様見真似でステップをしたり、フレイヤの動きに釣られて動くだけ。
そんな不恰好なダンスをしていても、相手のフレイヤはクスクス笑うだけで楽しそうだった。
「ベル君。神フレイヤの動きをよく見て、周りを見て、彼女が動きやすいようにしてあげるといい。彼女は自由な存在だ。ただ支えるだけでダンスになってしまうんだよ。そしてそれだけで綺麗に見えるんだ」
「明さん」
「それがフレイヤちゃんの凄いところだよね。わたし達はしっかり動きを覚えたのに」
会場の真ん中で注目を浴びるように明と玉藻の前が踊っていた。その二人の動きを見て、フレイヤの表情を見て。
自然と足運びが変わっていた。
腰へ手を回してターン。彼女が回りたいと思った時には、ベルが手を掲げて彼女を回転させる。止めたい時にはしっかりと手を掴んで、周りの人の邪魔にならないように空いているスペースへステップ。
時には彼女を抱き寄せて、彼女と手を伸ばし合って。
フレイヤを見ているだけでどう動けばいいのか、ベルは本能的に最適な動きを把握していた。
(何でだろう?初めて会う神様なのに、こうまで動きが読めるなんて。似たような動きの人を、見たことがある?でも、どこで?)
ベルは謎の既視感から首を傾げたくなるものの、周りに見られていることとフレイヤが楽しそうなのでその動きを我慢して踊るだけに留める。
最後は左手で腰を支えて、右手はしっかりと掴んだまま手を伸ばしあってフィニッシュ。音楽も止むと、周りからは拍手喝采。最後はそういうものなのかとベルも手を叩こうとしたが、その拍手が向けられている対象がベル達と明達のようだったので辞めた。
「楽しかったわ。ベル」
「あ、僕も光栄でした。女神様とダンスを踊れるなんて。初めてだったので不恰好でしたでしょうけど……」
「こういうのは楽しめればいいのよ。あなたの初めてを貰えて嬉しいわ」
フレイヤは会場のど真ん中でベルの頬に手を当てて、そのまま唇を当てようとするが、それは流石に突撃してきたヘスティアに止められていた。
「フレイヤ!?ボクのベル君にこんな衆目の場で何をしようとしてるんだ!」
「あら、ご褒美をあげようと思っただけなのだけど。
「ご褒美にしては過剰なんだよ!」
その小さい身体でベルのことを後ろに隠すヘスティア。ウガーとでも言いたそうな表情だったのでフレイヤはこれ以上ちょっかいを出すのを諦めた。
会場中の注目を集めたところで、この宴の主催者たるアポロンが奥からやってくる。
「やあやあヘスティア。私の宴は楽しんでいるかな?」
「アポロン……」
「ああ、そうだ。ヘスティアには言わなければならないことがあったんだ。ウチの可愛いルアンが君の眷属に酷い目に遭ってね。ルアンは大怪我で話すこともできなくなってしまったんだ!ああ、可愛い顔が台無しだ!」
アポロンがやってきた奥から、台車が運ばれてくる。その台車の上には包帯でグルグルになった小人族が乗っていた。顔に至っては全部包帯に包まれていて、誰なのか判別もできない。
「もがもがもが」
「顎の骨が折れてしまったんだ!どうしてくれるんだ、ヘスティア!」
「その子が喧嘩を吹っ掛けてきたんだろう?冒険者同士のいざこざなんて自業自得じゃないか。だからベル君も君のところの団長に一発貰ったわけだし」
「顎の骨が折れてるんだぞ!」
「君のところはこんな宴を開催する余裕があるんだろう?料理とかも随分豪勢じゃないか。万能薬を一つくらい都合できそうなものだけど」
「それは君が用意するのが筋じゃないか?」
「怪我する覚悟もなしに、その子は喧嘩を吹っ掛けたのかい?だったらモンスターと戦うなんて無理だ。冒険者を引退することを勧めるよ」
ヘスティアが理路整然と応対できる理由は、明と玉藻の前の入れ知恵のおかげだ。未来視でこうなることを予想できていたので、受け答えの用意をしていただけ。
そんな共謀者の玉藻の前が二柱に近付く。
「アポロン。その子、治してあげましょうか?」
「へ?タマモノマエ?」
「その子の怪我が言い争いの原因でしょう?ベルくんもあなたの団長にしっかりと制裁を受けているようですし、喧嘩両成敗ならその子が完治すれば言い争いも終わるでしょう?三日も戴ければ、完治できると思います」
「他派閥は口を出さないでくれ!ヘスティア、私は君のその態度から反省していないと判断した。よって君へ『戦争遊戯』を宣告する!」
玉藻の前の提案を断って、アポロンが大声で宣言する。玉藻の前とフレイヤは苦い顔をして、周りの神々は沸き立つ。
「オイオイオイ。やりやがった、アイツ」
「面白くなってまいりました」
「ゴライアスを倒せる中堅派閥が、眷属一人の零細派閥にすることじゃないんだよなぁ」
「……フレイヤ様のお気に入りっぽいベルきゅんに手を出すとか、アイツ大丈夫か?」
「「「あ」」」
そんな神々の反応は別として、ヘスティアは凛とした表情でアポロンへ返答する。
「断る!受ける理由がない!」
「眷属がやられたことへの、正当な報復の手段だぞ!」
「そんなにその子が可愛いなら、ディアンケヒトの治療院にでも入れれば良かったのに。そうすれば今頃完治してたんじゃないかい?」
「お、商売の話か!?」
「ディアンケヒト!今は下がってろ!」
儲け話が転がってくるかと思った神が茶々を入れようとして周りの神と一緒に、アミッドが止める。首を突っ込む段階ではない。
「それとこれとは話が別だ!」
「じゃあ『戦争遊戯』を受けるかどうかも別の話だ。タマモの好意を断った時点で、その脅しが成立する筈がないんだよ。ボク達は失礼させてもらうぜ。ベル君、帰ろう」
「はい」
これ以上話すことはないと、ベルとヘスティアは会場を後にする。他の神々も宴が終わりだと思ったのか好き好きに帰ってしまう。
アポロンの目は、ヘスティアを睨み続けていた。