ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
ベル達がアポロンの『神の宴』から帰ってきて翌朝。ベル達はいつも通り朝ご飯を食べて今日のこれからについて話し合っていた。
アポロンの出方は正直予想できる。そのため今後もヘスティアはバイトができずにバイト先のおばちゃんに休むことを伝えなければならない。おばちゃんを巻き込むわけにはいかないからだ。
ベルが護衛を務めたままおばちゃんのところへ向かおうとする。本拠の教会の扉を開けた瞬間、ベルの目には数々の冒険者が様々な得物を構えているのが見えた。
即座に、ベルはヘスティアを俵抱きにして本拠から離れる。全速力で離れたおかげで、ベル達に放たれた魔法や弓矢が当たることはなかった。
その代わり、教会の外壁などにはその魔法や弓矢などが刺さって嫌な音を立て始めたが。
「ああっ!折角明君達に直してもらったボク達の本拠が!」
「神様、命あっての物種です!」
ベルは後ろを振り返らずに走る。街中にも関わらず平然と魔法を使ってくる相手の神経を疑った。人通りに関係なく襲ってくるその姿勢から、ベルは人通りを避けて裏路地などへ逃げ込んでいく。
レベル三の圧倒的なステータスをもってして、ベルは逃走劇を繰り広げる。何一つベルもヘスティアも被弾することなく、時には建物の壁を蹴り、時にはそのまま壁を走って建物の屋根に躍り出て必死に逃げる。
「ベル君、ギルドか『星見の館』だ!流石にギルドの中までは襲ってこないだろうし、タマモは巻き込むけど明君達なら怒らないと思う!」
「ギルドは向かうまでに人通りが多すぎると思います!まだ『星見の館』の方が良いかなって!」
「あーもう!アポロン・ファミリアって馬鹿ばっかなのかい!?しかも無駄に顔が良い子が多いのが腹立つ!」
ベルはアポロン・ファミリアを引き離したことでひとまず攻撃が止む。そして本拠があった方から火の手が上がっていることに気付く。
「あ、あぁ……!」
「くそ、アポロンめ!いくらボク達が零細ファミリアだからって、本拠を燃やすとかどういう神経してるんだ!こっちから『戦争遊戯』を仕掛けさせようとしてる……。天界にいる時から思ってたけどクソすぎだろ!?」
ベルがまだ短いながらも想い出の残る本拠から火が出ていることに絶望していると、ベル達へ簡易式神がやってくる。それは人型だったが、それがやってきた時点で良い予感がしない。
「ベル君、神ヘスティア。緊急事態だ」
「明さん!緊急事態って、僕達が襲われたことじゃなく……?」
「本拠の方は地下部分に方陣を仕掛けた。上澄みは燃えてしまうだろうが、本拠自体は無事だ。……問題は、リリルカさんがソーマ・ファミリアに攫われたことだ」
「えっ!?」
「サポーター君が?いや、そもそも何でソーマ・ファミリアが関わってくるんだ?」
簡易式神から聞こえてきた明の言葉に混乱が生まれる二人。本拠が無事だったことには喜んだが、緊急事態の内容から喜びよりも別の感情が上回ってしまった。
「彼女を意図的に狙った行動のようです。一緒にいたヴェルフ君も襲われて今こちらで治療を受けています。そのヴェルフ君からの情報でして、多勢に無勢で、リリルカ君は攫われたと。彼らも街中で、辺りを気にせず襲ってきたようです。すみません。吟との朝練を取り止めたこちらのミスです」
最近は色々ありすぎたので非常事態ということもあって吟と銀郎との早朝特訓を取り止めていた。それをやっていれば相手も襲ってこない可能性が高かったと明は言っているのだ。
だが辞める判断をしたのはベルだ。
ヘスティアを守るために、一人にしないようにしていた。その結果がリリルカの誘拐。
「リリルカさんはカサンドラさんから夢の内容を聞いたらしくて。防具の新調とソーマ・ファミリアに出向いて『改宗』を願い出る予定だったようです。一筋縄ではいかないと判断して武具を整えようとした矢先に、向こうに先手を取られたと」
「明君。ソーマとアポロンは手を組んでいると思うかい?」
「確実に。神ソーマは我々に手を出したせいで資金不足です。趣味神である彼が酒を造れないことそのものが苦痛でしょう。それを解消させてくれる資金提供を頼まれれば、彼は頷く。何よりも優先すべきは酒造りであるために。それに、リリルカさんを手にすれば更に資金が稼げると眷属から唆されれば二つ返事で指示を出すでしょう」
「リリがどうやって大金を稼ぐんですか……?まさか人質?」
ベルはリリルカのことを優秀なサポーターだと理解しているが、それが酒造りの資金集めになるほどのことだと結びつかなかった。深層にも潜ったことはあっても、それは明達がいたからこそ。
彼女一人では大量の資金を集めることなどできないと考えていた。というより、ほとんどの冒険者がそうだ。レベル一のサポーターが稼げる方法があるのなら、誰もが実践して今頃大金持ちばかりになっている。
「彼女の変身魔法だ。世の中には怪物趣味の金持ちが居てね。その連中に魔物の姿で買われた後、彼女が自力で逃げる。そうやって資金集めを繰り返すのだろう。闇取引というのは、一回で莫大なお金が動くからね」
「そんな理由で、リリを……!」
「……ベル君。団長同士の一騎討ちなら、アポロンにも勝てるかい?」
「ソーマ・ファミリアにだって勝ってみせます。リリのことを道具としてしか見ていない人達のところになんて、居させられません」
「ああ、その通りだ!先ずはアポロンを黙らせる!明君、アポロンに宣戦布告した後にソーマ・ファミリアへ襲撃を仕掛けるよ!あっちが手段を選ばないなら、こっちだって本拠に攻め込んでやる!」
ベルとヘスティアの意気込みに、明は簡易式神越しに微笑む。誰かのために立ち上がれる強い少年と心優しき女神の姿が、明には眩しかった。
「わかりました。ただし、ソーマ・ファミリアを壊滅させるのではなく、あくまでリリルカさんの奪還。そこを履き違えると彼らの同類になってしまいます。そこだけは留意して、攻め込みましょう。リリルカさんがどこにいるのかはこちらで探っておきます」
「よろしく。ボク達はアポロンに白い手袋を投げつけてやる。周りを巻き込んだ馬鹿みたいなことを、
「はい!」
二人は街の西南にあるアポロン・ファミリアの本拠へ向かった。そこはタチの悪いアポロンの石像などが置かれた趣味の悪い本拠で入るだけで気色が悪かったが、それでも中へ入ってヘスティアがアポロンの顔に白い手袋を投げつける。
これにて『戦争遊戯』が決定。この騒ぎを聞き取った神々が久しぶりの祭りに色めきだった。というか、こうなると予想してアポロン・ファミリアに集まっていた。
「ベル君。もうここに用はない。タマモ達と合流してソーマ・ファミリアを潰すよ」
「はい。他の皆さんも『戦争遊戯』に注目していて、一つのファミリアになんて気にも留めていないでしょうから」
『戦争遊戯』の詳しいことは臨時の『神会』で決めることをアポロンから通達されて。両ファミリアは『戦争遊戯』が始まるまで一切の干渉が禁止された。
ここに、おそらくアポロン・ファミリアと同盟関係であるソーマ・ファミリアにヘスティア達が関わることを禁止した取り決めはない。
それを逆手に取って速攻を為す。
『星見の館』に集合した彼らは、傷も癒えたヴェルフも加えてタマモノマエ・ファミリアの眷属全員とソーマ・ファミリアへ向かった。
・
「『改宗』を願い出るなら、
連れてこられた牢屋からドワーフのチャンドラ様の手助けもあって抜けられて。同時にソーマ・ファミリアへ誰かが襲撃を仕掛けたようで人のほとんどは出払っていた。
そのまま運良くソーマ様がいらっしゃる場所まで辿り着いて『改宗』を願い出た答えが、さっきの言葉。小さなお猪口に、リリにとっての悪夢である
市場に出ている失敗作ではない。まさしく目の前の神が心血を注いで作り上げた本物の神の酒。
何者をも酔わせて魅了し、心を塗り潰す劇薬そのもの。
簡単にそれに溺れてしまうからこそ、こうでもしないと眷属の言葉とて信じられない。至高の逸品を造ってしまったからこその、落胆。
それを取り除くには、これを飲むしかない。
飲む。
呑んで、しまった。
頭が作り変えられていく。感情が支配されていく。これほどの美味いものがあるのかと、舌から伝わる蜜の味がわたしという存在を、この快楽のみへと誘っていく。
もっとこれが欲しいと、脳が叫ぶ。心臓が高鳴る。体温が急上昇し、全身が熱くなる。表情が、吊り上っていく。
これはとても心地よくて、気持ち悪い。
度数が強すぎる。
味覚が狂う。
たった一口だけで酔いが回って、これ以上を考えられない。
こんなの、何が楽しいのか。
路地裏で塞ぎ込んでいたボロボロの少女に与えられた普通の団欒は、とても暖かかった。
初めてできた仲間との、冒険の果てに飲む祝杯はとても楽しかった。
他愛のない話をしながら飲んだお酒の方が不味くて──よっぽど美味しかった。
思い起こされるのはこんなわたしにも笑ってくれた人達。対等な人間として扱ってくれた人達。
子供のように笑う、白兎を彷彿とされる少年のこと。
感性はどこにでもいる田舎者のようで。そのくせその髪の色のように純白な魂をした、わたしとは違う少年。
灰被りでしかない、こんなに汚れたわたしには眩しすぎる彼。
生きるために汚いことをした。汚泥を啜って生に執着した。そんな醜かったわたしを知って欲しくない。けど、彼には全てを伝えたい。そんな矛盾が駆け巡る。
わたしを隠したくて発現した魔法。姿を偽って、自分と誰かを見比べて、その人に憧れて。そんなわたしの嫉妬心が産み出した唯一の魔法。
彼のように、祖父への憧れから現れた魔法じゃない。
そんな真反対の彼だから、惹かれた。
彼とまた冒険をしたい。隣にいたい。助けたい。言葉を交わしたい。
この想いを、伝えたい。
この暖かさに比べれば、あの優しさに比べれば。
ただ美味しいだけの酒なんて、何ともない。
こんな駄作の酒に、いいようにされるのは気に喰わない。
「わた、しは……!まだあの人達に何も、返せていない……!あの危なっかしい男の子を、放っておけない……っ!ソーマ様、わたしに、ベルの隣に居られる自由を、許してください……!」
それを口に出して、視界が真っ白になる。
たったあれだけの量なのに、身体に神酒が回ってしまった。久しぶりの劇薬に、身体がついていかなかった。
後ろへ倒れ込む直前──お日様のような暖かさに包まれた気がした。
・
「……何なんだ。この子は」
「あなたの眷属ですよ。ソーマ」
この場に一人でやってきた玉藻の前が、気を失ったリリルカを受け止めてそのまま治療していた。ソーマは目の前で起きたことが信じられないのか、目の焦点が合っていない。
神酒に打ち勝った人間を、初めて見たのだ。その衝撃はいかなるものか。
「強い想いは、時に神の試練に打ち勝つってことです。……人間は愚かな存在も多いけど、彼女みたいに強い子もいるんですよ」
「……ベルとは、誰だ?お前の眷属か?」
「いいえ。ヘスティアちゃんの眷属です。ふふ、恋ってすごいでしょう?」
「……想い。それだけでこれだけの強さになれると……?まるで他の子供とは違うじゃないか。最早別に種族だ」
「さすがインド神話の神ですね。そこまで視えるなんて。恩恵やレベルが全てじゃないんです。あなたのお酒も絶対じゃありません。彼女以外にも魔力から逃れてる子供はいますよ?」
「……目を、逸らしすぎたか。濁っていたのは私の方だと。……下界は、本当に上手くいかないな」
ソーマはリリルカの背中に手を触れ、恩恵のロックを解除する。これで彼女はどこのファミリアへでも『改宗』できるようになった。
「『戦争遊戯』には参加するって言っちゃったんでしょうし、ベルくんとリリルカちゃんに滅ぼされても文句は言わないでくださいね?」
「『戦争遊戯』?そんな金にもならないことに、なぜ参加しなければならない?賭けが催されるくらいだろう?」
「あ、そこまで放任だったんですね……。もっと眷属の手綱を握った方が良いですよ?『戦争遊戯』の賠償金に、今回の街中での騒動によるギルドからの罰則。それに団長のザニスが闇派閥と繋がりがあること。またお酒が造れなくなりますよ?」
「……酒も造れず、材料を育てることもできない。金だけは集められると思ったら後先考えない能無しだったか……。一年前の金欠騒ぎもその男のせいか?」
「そうですよ。『戦争遊戯』、本当にあなたについてきてくれる人だけ残して参加させれば良いかと。そうすれば断罪の雷が邪魔な人を冒険者引退まで追い込んでくれますよ」
「それは都合が良い。……賠償金やらは、これまでのツケとして諦めよう」
ソーマは知らないところで進んでいた話に嘆息する。これからはファミリアの運営にも力を入れようと考え直す。
そんな時、この部屋に唯一ある扉を蹴破る音と共に白髪の少年が飛び込んできた。
「リリ、無事!?って、あれ?タマモ様?」
「ベルくん、リリルカちゃんなら無事だよ。んー、ソーマ・ファミリアに逆恨みされてるかもしれないから、ベルくんもリリルカちゃんもヘスティアちゃんも、ちょっと姿を隠した方が良いかもねえ」
ひとまずベル達はリリルカの奪還を成したので撤退。
そして玉藻の前の言葉通り、ヘスティアは『星見の館』へ、ベルとリリルカは明から姿を誤魔化す幻術が使える呪符を受け取ってそれを用いて二人で宿に泊まることに。いつ襲撃されるかわからないので、『戦争遊戯』までの期間そうやって過ごすことにした。
その宿で、一悶着あったがそこは割愛する。
次はちょっと別の形で投稿したいと思います。