ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
今回はその後の話です。
宿屋での甘い逢瀬から翌日。
ベッドで朝日を浴びて起きたベルとリリルカは顔を真っ赤にしながら宿を出る準備をした。これからやることがあるのだ。
それはリリルカの『改宗』。ヘスティア・ファミリアへ入るための儀式。
ヘスティアが待っている『星見の館』へ向かう二人。なお幻術の設定が夫婦だったこともあって二人は手を繋いでオラリオを歩いていた。
だがその繋ぎ方も歩き方もぎこちなく、新婚夫婦でもそうはならないだろうという有様だった。
「……ベル。ありがとうございます」
「えっと……何に対してのお礼?」
「昨日は言いませんでしたけど、ソーマ様の神酒に打ち勝てたのはベルのおかげでもあるんです。リリだけじゃダメでした。だから、背中を押してくれてありがとう」
「よくわからないけど、どういたしまして。話には聞いてたけど、そんなに凄いお酒なんだね」
「ソーマ様には悪いですけど、あんな悪酔いするお酒、二度と飲みたくないですよ」
リリルカは神酒のことを思い出して嫌な顔をしながらも、『星見の館』に到着。全員が迎えてくれて、ヘスティアはベルとリリルカの様子を見た後、一つ頷いてから玉藻の前に一つ部屋を借りてリリルカを連れていった。
部屋の中にはリリルカとヘスティアだけ。他の者は一切立ち寄らなかった。
「さて、リリルカ君。『改宗』の前に言いたいことがある。……ベル君をよろしく頼むよ。彼はもう本当の家族が誰もいない。だからこそボクが
「……はい!」
万感の想いを込めて、リリルカは返事をした。その声と様子を見て、ヘスティアはまた頷いて『改宗』の準備に取り掛かる。
ステータスの更新のように『神の血』を零す。背中の恩恵が変化していった。
そしてそこに刻まれたものを、羊皮紙に書き写していく。その変化に、ヘスティアは慣れていることのように苦笑しながら現れたステータスを書き出していった。
出来上がったものを、リリルカに渡す。
「おめでとう、リリルカ君。ランクアップできるよ」
「え?」
リリルカはうつ伏せになったまま背中のヘスティアから羊皮紙を受け取る。そこにはこう書いてあった。
────
リリルカ・アーデ
Lv.1(ランクアップ可能)
力 :I42 →S912
耐久:I42 →C603
器用:H143→S999
敏捷:G285→S999
魔力:F317→S999
《魔法》
【シンダー・エラ】
・変身魔法
・変身像は詠唱時のイメージ依存。具体性欠如の際は
・模倣推奨
・詠唱式【貴方の
・解呪式【響く十二時のお告げ】
【】
《スキル》
【
・一定以上の装備過重時における補正。
・能力補正は重量に比例
【
・【英雄達の船】スキル保持者と共闘時、器用・魔力能力補正
・【英雄達の船】スキル保持者と共闘時、成長促進補正
・【英雄達の船】スキル保持者の想いの丈により補正に上昇効果
────
六年ぶりの更新の上に、ミノタウロスの強化種を二人で倒しているのだ。ランクアップは予想していた。この数値もかなり高いが、ヘスティアとしてはベルほどぶっ飛んでいないので全然余裕だと受け入れられた。
リリルカは受け取った羊皮紙が信じられないのか、ワナワナと震えている。ヘスティアとしてはおそらく新しく現れたであろうスキルについてからかいたかった。
「いやいや?ベル君に愛されてるねえリリルカ君?ま、このスキルは誰にも言わないでおくよ。成長促進なんてレア中のレアだろうからね」
「……意地が悪い。ヘスティア様もやっぱり他の神々と変わらないのですね」
「何のことかな〜?あ、発展アビリティは【幸運】と【耐異常】が出てるけどどっちにする?」
「……【幸運】で。運は大事だと思います」
「わかった。じゃあ、ランクアップもしちゃうよ」
そのまま続けて『神の血』を垂らしてランクアップをしていく。ヘスティアもベルで二回もしたので慣れたものだ。
そして作業が終わってステータスを書き写そうとして、羊皮紙に書き写そうとした手が止まる。リリルカは背中の上のヘスティアが何故か震えていたので首を傾げた。
「ヘスティア様?」
「……た、タマモー!?緊急事態だ!君だけで部屋に入ってきてくれ!?」
ヘスティアはそう叫ぶ。部屋の外にいた面々は首を傾げながらも玉藻の前だけに用事があるのだろうと部屋の中も覗かずに玉藻の前だけが中へ入っていく。
ヘスティアの叫びに玉藻の前は浮かない表情だったが、ヘスティアが震えながら指差すリリルカの恩恵を見て、机の上に置いてあったランクアップ前の羊皮紙と見比べてああと頷いた。
「ヘスティアちゃん。何も間違ってないから大丈夫。そのまま書き写しちゃって」
「ぼ、ボクが何か間違えたんじゃなくて!?だって明らかに
「リリルカちゃんは六年もステータスの更新をしてなかったからね。そういうこともあるよ。それにゴンに恩恵を刻んだ時も同じようなことがありました。恩恵というシステム上、スタートはレベルが一ですけど、刻む前から偉業を為していればステータスが高かったり
「……え?」
リリルカは玉藻の前の説明で、ようやくヘスティアが何に驚いていたのかわかる。ヘスティアもリリルカへの説明のために、玉藻の前が保証したこともあって羊皮紙にそのステータスを書き記していった。
その結果は。
────
リリルカ・アーデ
Lv.2(ランクアップ可能)
力 :B746
耐久:D422
器用:S999
敏捷:S999
魔力:S999
幸運:I
《魔法》
【シンダー・エラ】
・変身魔法
・変身像は詠唱時のイメージ依存。具体性欠如の際は
・模倣推奨
・詠唱式【貴方の
・解呪式【響く十二時のお告げ】
【】
《スキル》
【
・一定以上の装備過重時における補正。
・能力補正は重量に比例
【
・【英雄達の船】スキル保持者と共闘時、器用・魔力能力補正
・【英雄達の船】スキル保持者と共闘時、成長促進補正
・【英雄達の船】スキル保持者の想いの丈により補正に上昇効果
────
「な、何ですか、これ……?」
「ほら、リリルカちゃんってよくハル達と深層に行ってたでしょ?レベル一にとって深層なんて未知の冒険。その冒険の結果がレベル一から二への上昇だと思う。で、今回のは正真正銘赤いミノタウロス討伐の成果だよ」
二段階ランクアップ。こんなことを為した例は玉藻の前が知る限りゴンという特例を除いて
為した偉業がとてつもないことであればこのように器の昇華を二連続で為してもおかしくはない。ただ実例がほぼゼロなだけ。
システム的には何もおかしくはないとのこと。
ランクアップできるのならと、リリルカはこのまま昇華を選択。
ヘスティアも胃の痛みからは逃れられないなと今更ながらのことを思いながら承諾してランクアップの実行。なお出た発展アビリティは【耐異常】のみだったのでこれを選ぶだけだった。
今度現れた数字は、ヘスティアの胃に優しかった。
────
リリルカ・アーデ
Lv.3
力 :I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
幸運:I→H
耐異常:I
《魔法》
【
・変身魔法
・変身像は詠唱時のイメージ依存。具体性欠如の際は
・模倣推奨
・模倣相手の能力擬似模倣可能。模倣精度は相手への理解度に準ずる。
・模倣相手の魔法を使用する場合、詠唱式を正しく把握する必要あり。
・詠唱式【貴方の
・解呪式【響く十二時のお告げ】
【】
《スキル》
【
・一定以上の装備過重時における補正。
・能力補正は重量に比例
【
・【英雄達の船】スキル保持者と共闘時、器用・魔力能力補正
・【英雄達の船】スキル保持者と共闘時、成長促進補正
・【英雄達の船】スキル保持者の想いの丈により補正に上昇効果
────
「チクショウ!?数字がマトモだと思ったら魔法がトチ狂った!?」
「ヘスティア様!その言葉の方がトチ狂っています!」
「あら、魔法の変質ですか。随分使い勝手が良くなりましたね」
ヘスティアが数字が当たり前になって喜んだ後に、魔法が規格外になって近くの机を思いっきりバン!と音が鳴るほど拳を叩きつけていた。ベルにしろリリルカにしろ、ヘスティアという神に優しくないらしい。
上げて落とされた分、ヘスティアの落胆は大きい。
「まったく君達ってやつは!君達ってやつはぁーーーー!!こんな零細ファミリアでとことん規格外にならないでほしいんだけど!?後ろ盾なんてないようなもんなんだからさ!」
「それをリリ達に言われましても……」
「んー、ヘスティアちゃん?これってヘスティアちゃんのせいでもあるんだよ?」
「ほえ?」
ヘスティアの叫びに、玉藻の前から思わぬ返しが来たので呆けた声を出してしまう。
言われた意味がわからなかったからだ。
「ぼ、ボクのせいって、どういうことだい?」
「そのままの意味。恩恵ってシステムはまったく平等じゃないの。子供達の才能もそうだけど、与える神側の要素も大きいんだよ?いくら下界に降りてきて『神の力《アルカナム》』を制限していても、天界での実績や神そのものの本質は変わってない。百の力を一に制限するのと、一万の力を百にする。どっちも百分の一に抑えてるけど、全然違うでしょ?」
「……なるほど。都市最大派閥の神ロキと神フレイヤは北欧神話で有名でしたね。前の最大派閥も神ゼウスと神ヘラ。こちらもギリシャ神話で有名な神です。ヘスティア様は……有名ですか?」
リリルカは玉藻の前の説明を聞いて、力のある神の派閥だから屈強になっていくのだということは理解できた。派閥の構成員全員が強くなるわけではないが、それでもほとんどが上級冒険者だ。
子供を見極める良い目を持っているということもあるのだろう。大きくなっていった派閥は施設やコネなどの環境が良くなって相乗効果で成長していったのだろう。
だがこの仮説が正しいのであれば。以前『豊穣の女主人』で聞いたゼウス・ヘラファミリアの規格外性にも頷ける。
そして眷属になったリリルカにあまり知らないと直接言われてしまったヘスティアはがっくりとしていた。
「まあ、ボクはあくまでゼウスの姉としての側面が強いだろうからねえ」
「でもヘスティアちゃんはギリシャの神々にとっては崇敬の対象であるオリュンポス十二神の中の一柱なんだから、力はそれこそゼウスに匹敵するでしょう?」
「そんな称号、ボクはさっさと明け渡したかったよ」
ベルやリリルカの恩恵が希少なものになっていくのは何も二人の才能があったからだけではない。主神であるヘスティアの影響力も確かにあった。
とりあえず『改宗』に関わる事柄はこれで終わり。これからベルとリリルカは明と吟、銀郎に『戦争遊戯』に向けて鍛えられることとなる。
場所は市外壁の上。いつも朝練をしている場所よりも更に広い場所へ来ていた。この場所の周囲にも認識阻害の術式を用いて、誰にも気付かれることがないように準備を整える。
やることは一つ、集団戦だ。
「さあ、百を超える簡易式神と、接近戦をする前衛が二人。魔法を使う後衛が一人。これくらいしないと、アポロン・ファミリアとの総力戦には敵わないぞ?ああ、簡易式神の力はレベル二を想定している。さあ、突破してみせろ」
「いくよ、リリ!」
「はい!」
そうして訓練を積んでいる間に、臨時の『神会』が開かれる。
・
『戦争遊戯』をするために、ルールなどを取り決める臨時の『神会』。定時の『神会』はまだ先だが、久しぶりの『戦争遊戯』となるお祭りだったために、全神がバベルの三十階に集まっていた。
中央の円卓に当事者たるヘスティアとアポロンが腰を掛け、『戦争遊戯』の内容の確認としてロキが確認係を、他の楽しんでいる神々が書記などを行う。
「私が勝ったらベル・クラネルを貰う。それ以外に要求はない」
「ボクが勝ったらこっちの要求をすべて聞いてもらおう。それでいいだろ?なんたってこっちは零細ファミリア。派閥の等級も団員数も段違いだ。しかもそっちは『戦争遊戯』を断ったら本拠を襲撃してオラリオにも被害を出したんだぜ?これくらい飲んでもらわないと首を縦には振れないな」
「いいだろう」
アポロンは余裕を持って頷く。そのあまりの道化さにフレイヤなんて吹き出しそうになっていた。それを隣にいた玉藻の前が背中をさすって抑えさせる。
勝利後の要求はこれで終わり、今度は対決方式になる。
ヘスティアはまだ表向きベルしか団員がいないので一対一の決闘を要求。しかしアポロンは数を活かした集団戦を提示。
「派閥の構成員が少ないのはヘスティア、君の怠惰が原因だろう。こちらがそちらの事情を鑑みる理由はない」
「そっちが吹っ掛けてきたのに?」
「我が愛しのルアンを最初に殴り、重傷にしたのはそちらだぞ」
このままでは平行線にしかならなそうだったので、公平にくじにしようと誰かが言った。祭を楽しみたい神々もただの蹂躙劇など見たくなく、かといって集団戦は見てみたいという欲もあり、一対一も見てみたいというそれぞれの主張があった。
なら運任せにしちゃえばいいじゃない、として箱の中に各々が見たい決闘方式を紙に書いて入れていく。
そして誰が引くかだが。お互いの利になりそうな神が引くのを避けるために中立の神が引くことになる。ヘルメスだ。
ヘルメスは手を箱に突っ込んで、紙を一枚引く。折り畳んであって中が見えなかったので開いて見てみると、ヘルメスは一気に顔を青褪めさせて脱力していた。
「へ、ヘルメス?どうかしたのかい?」
「……内容は、『攻城戦』だ」
「フハハハハ!どうやら天運は私を味方したようだな!まさかヘルメスが、私の書いた物を引き当てるとは!」
「クソゥ!」
ヘルメスが発表した内容に、アポロンは高笑いを。ヘスティアは忌々しげに机を叩いた。
ヘスティアとしても、いくら眷属二人が規格外になっているとはいえ数の暴力の怖さは知っている。団員総出による決戦はヘスティアとしても避けたかった。
だが何度見たって、ヘルメスが見せている紙は攻城戦と書かれている。いやに丸っこい文字だが。
「……ん?アポロン、君の文字ってあんな丸文字だったかい?」
「は?私は達筆で、決して丸文字ではないぞ?」
ヘスティアに言われて、アポロンは提示されている紙を見る。その時ようやく自分が書いた物ではないと把握したようだ。
ヘルメスが紙を持っていた指を動かし、紙の上部を持つようにする。すると今まで指があった場所にとある神の名前が書かれているではないか。
その名前と、その神物がその内容を書いたことに、周りの神々は驚く。なにせこの前の『神の宴』でベルをお気に入りにしているような言動をしていたのだから。
「……フレイヤ様。記名する必要はなかったのでは?」
「あら、ごめんなさい。でもどのような内容になったかは、一筆入れる者として責任の所在を明らかにしておこうと思っただけなの。ヘスティア、ごめんなさいね?」
「裏切られたぁああああああああああ!?」
「ふは、フハハハハハハッ!ツイテる!私は過去最高にツイテいるぞ!かの女神にも祝福されているなど、残念だったなぁヘスティア!」
ヘスティアはベルをフレイヤが気に入ってるからこそ、アポロンに盗られる可能性の高い攻城戦ではなく、一騎討ちを提案してくれると信じていた。だというのにこれは酷い仕打ちだと叫ぶ。
一方アポロンは都市最大派閥の後ろ盾を得たかのように大歓喜。
はっきりとした明暗が、できていた。
「場所の選定や移動時間を考えると、一週間後くらいかしら?楽しみにしているわ」
「わたしがギルドに伝えてきますねー」
フレイヤはどこか楽しそうに微笑み。玉藻の前は『神会』の決定をギルドに報告するために一足早く退場する。
『戦争遊戯』、攻城戦に決定。
人数比の問題でアポロンが守る側。ヘスティアが攻める側となって、『神会』は終了した。