ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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今更ですが「オンモフ」側の弩級のネタバレ含みます。


32 断罪

 ベル達がオラリオに凱旋すると、誰もが喝采の拍手を送っていた。格上殺し(ジャイアント・キリング)は見ていて爽快ということもあるが、攻城戦におけるワールドレコードも叩き出したのだ。

 今まではベルのレベル三ランクアップの世界記録も眉唾ものだと思われてきたが、今回の一件でレベル三としての実力を遺憾無く発揮した。もう疑う者はいない。

 

 そしてもう一つは、相手がアポロン・ファミリアだったことだろう。街やダンジョンで勧誘のために騒ぎを起こして邪魔をされ、実害も受けていたが結局は襲われた側が泣き寝入りしたことでどうしようもなかった。

 大きな派閥でもあるためにギルドからの制裁もなんとかしてしまい、そして実力があることも輪をかけて彼らの横柄な行動を看過せざるを得なかった。

 

 しかし、今回はっきりと制裁を受けたのだ。しかも零細派閥に、完膚無きまでに。

 だからこそ、ベル達を受け入れる声は大きく、暖かかった。

 ベルはヘスティア・ファミリアの代表としてバベルに向かった。バベルの入り口にはヘスティアが待っていて、ベル達四人を歓喜の表情で抱きしめた後力なく項垂れた。これからのことが心配なのだとか。

 

 バベルの、神々が待つ場所に入れるのは指名されたベルのみ。そういうことで他の三人はバベルで待つことになった。

 ベルとヘスティアが通称円卓の間。『神会』が行われている場所へ入ると神々が既に待っていた。むしろ今か今かと待ちきれなかったようだ。

 

 アポロンとヒュアキントスの姿もある。ヒュアキントスも団長としてこの場に召集されており、判決の結果を聞くために急いで治療を施されてオラリオに送られていた。

 

 他の『戦争遊戯』に参加した団員のほとんどは動かすことも困難なため、開催場所の近くの村に移送されて治療を施されている。死者は出なかったが、重傷の者が多い。カサンドラも彼らの治療のためにあちらに残っている。

 ヘスティアは前に出ると、アポロンへ人差し指をビシッ!と向けた。それが死刑宣告のようで、アポロンはそれだけで表情を蒼褪めさせた。

 

「アポロン。まず一つ目の要求だ」

 

「……ああ」

 

「被害を出した相手への直接謝罪。全員に誠意を持って謝れ。君達が過去にやらかした案件も含めて全てだ。関係者全員で謝るように。ギルドでリストアップしてあるそうだ」

 

「わかった」

 

 まずは無難なところ。これがなければ始まらないとして、ヘスティアは第一の要求としていた。

 

「二つ目。被害を受けた相手への金銭賠償。ボク達の本拠のように魔法で燃やした家や、壊した家もあるそうじゃないか。そういった家への賠償を絶対にすること。もちろんボク達の分もだ」

 

「いつになったとしても必ず払おう」

 

「足りなかったら物を売ってでもすぐに払うんだよ!悠長なこと言える立場だと思ってるのかい?家を壊しておいて踏ん反り返ってるとか、闇派閥よりもタチ悪いって自覚ある?」

 

 ヘスティアの正論に、アポロンは項垂れる。今までは『戦争遊戯』の勝者として、そして勧誘した下界の子に頷かせて有耶無耶にしてきたが、今回はそのようにはいかない。

 今まで勝者として好き勝手してきたのだ。今回はそれを受ける側になってしまっただけのこと。しっぺ返しを受けているだけだ。

 

「三つ目。無理矢理派閥に入れた眷属を即時『改宗』可能にすること。これ以上君が拘束することを禁止する」

 

「……あぁ……」

 

「四つ目。オラリオからの永久追放。天界に送還されないだけありがたいと思え」

 

「……配慮、痛み入る。ヘスティア」

 

「五つ目。これ以降無理矢理な方法による眷属を増やすことの禁止。外でファミリアを作ろうが知ったこっちゃないけど、君には前科がありすぎる。相手が望まないのに眷属にすることは禁止だ。ボク達からの要求はこの五個。ベル君からは何かあるかい?」

 

 ヘスティアは全ての要求を言い終えたのでベルに話を振る。

 ベルとしては自分達を馬鹿にした者へ直接制裁を加えられたので、割と満足している部分がある。

 だからか、せめて言うことがあるとすれば。

 

「……アポロン様。神様には難しいことかもしれませんが、一つだけお願いがあります。僕達人間の短い時間を、奪わないでください。神様達にはそれこそ途方も無い時間があるのでしょうけど……。エルフだって、神様達と比べたらずっと短い寿命のはずです。僕達は神様達の物じゃありません。神様達の力も借ります。知恵も借ります。一緒に生活をしていきます。それでも、あくまでファミリアは家族で、仲間なんです。奴隷じゃありません」

 

 ベルがアポロンのやり方を聞いて思ったことだ。

 ファミリアに憧れを持ってオラリオにやってきた。闇派閥のことなどを聞いた時には残念に思ったし、ソーマ・ファミリアやアポロン・ファミリアのような実態には落胆したほど。

 ヘスティアに拾われて心の底から良かったと思えていた。

 

「僕はオラリオに来て、たくさんの人と出会いました。たった二ヶ月かもしれないですけど、出会えて良かったと思える人達ばかりです。出会えなかったら、なんてもしもは考えたくありません。そんなもしもがありふれた、素晴らしい場所なんです。そこが神様達の好き勝手でめちゃくちゃになったら、この出会いもなくなっていたかもしれない……。そう考えるだけで僕は怖くなります。もちろん神様達だけが問題じゃないことはわかっています。それでも──神格として、見守っていてくれませんか?僕達の歩みを。人間の生き様を」

 

 ベルの言葉に感涙する者、目を逸らす者、その輝きに頬が緩む者、それぞれだったがこの場にいる神々全員に何かしらの影響を与えていた。

 その純粋な想いが、願いが。

 人間の口から出たことで人間の可能性を噛み締めていた。

 

「──ああ。人の歩みを、見守らせてもらう。それが私の司る、太陽の役目だろう。ベル・クラネル。君の活躍を、遠い地から応援しているよ」

 

 アポロンの真摯な受け答えにベルは満足がいったのか。

 フニャッと柔らかい笑みを見せた。

 それが男神女神問わずクリティカルヒットしてしまったのは余談だろう。

 

 

 アポロンがヘスティアとの約束通り謝罪行脚と賠償の諸々を済ませた後。『戦争遊戯』での決定通りオラリオからの追放処分によってオラリオを離れようとしていた。

 アポロンについていこうとする酔狂な元眷属も多かったが、オラリオ側が冒険者を国外へ放出することを拒み、アポロンについていくことを許可しなかった。

 

 最も、そんな決定に抗って勝手についていこうとするから酔狂と呼ばれるのだが。

 そんなついていこうとするヒュアキントスを始めとした何人かの人間は、ギルドに見付からないようにアポロンとは別ルートで外に出ることを画策していた。

 だが、合流するまではアポロンは一柱だ。

 

 オラリオを出て少しして。オラリオの外壁も小さくなってきた平原でアポロンは見覚えのある人影が見えた。

 明に玉藻の前、それにヴェルニカだ。

 

「やあ、タマモ。わざわざ外まで見送りかな?君も太陽を司る分け御霊だそうじゃないか。同じシンパシーを感じてこうして来てくれたのかい?」

 

「……わたし、あなたにシンパシーなんて感じたことはありません。見送りは、ある意味正しいんですが」

 

『ある意味大物よの。そして神というのはいつまでもその性根が変わることはあらぬ。超越存在(デウスデア)として存在が固定されておる。どこぞの好々爺が正妻に何度叱られようが女を口説くことと同じで、あの白兎の言葉を受けても忘れたらそれまでじゃ』

 

 アポロンは友好的に話しかけたが、玉藻の前とヴェルニカの言葉は冷たい。

 玉藻の前からすればアポロン・ファミリアは悪質集団であり、司っているものが同じだからこその嫌悪感があった。まるで陰陽術を呪術とするかのように。

 

「神アポロン。神ヘスティアに対する禊は終わったと思うが、やはり彼女は甘い。あなたの罪はまだ償えていないんだ。あの程度で終わっていいはずがない」

 

「罪、だと?人間が、私に罪を問うか?」

 

「ええ。賠償、謝罪。下界では当たり前の処置をしただけでしょう。ですが、それでは天秤の釣り合いが取れていない。あなたが奪った命は、あなたがこの下界から去ることで償われるべきだ」

 

 明の言葉に、人間の言葉に、アポロンは苛立つ。

 神格に対して上から目線で語る目の前の男が、神としてのプライドを刺激されて額に青筋が立っていた。

 

「私が奪った命だと?」

 

「無理な勧誘の余波で亡くなった人もいれば、仲間を守るために参加した『戦争遊戯』で亡くなった眷属もいた。その責任の所在はあなたにあると言っているんだ。神アポロン」

 

「あなたの我欲で亡くなった人達への賠償は、謝罪と金銭では解決しないんです。カサンドラちゃんの家族も、彼女を守るためにあなたと敵対して亡くなっています。それを流罪で済ませるには、元調停者としてわたし達は見過ごせません」

 

 アポロンが強引な勧誘をした結果、命を落とした者は少なからずいる。その死者への弔いはヘスティアの取り決めでは何もなされない。

 だから明達は動いた。何も殺すわけではない。

 神は殺そうとしても天界へ送還されるだけだ。

 

「これからもあなたのために人間が搾取されるのであれば、世界のバランスを守るためにあなたを下界から追放する。ON」

 

「あああああああああ!?」

 

 明が短文詠唱をした瞬間、アポロンは全身を焼かれる。その炎によってのたうち回るような痛みと共に、アポロンは怨嗟の声を上げる。

 

「人間が神を殺すことは大罪だ!貴様には必ず、天罰が下る!」

 

「……本当に、オラリオの皆さんは気付いていないんですね。ハルは極東では神の一柱ですよ。気付いているのはフレイヤちゃんくらいでしょうか」

 

「晴明神社、なんて知らないだろうからなぁ。こんな混ざり者でも神なんだ。天罰は下らない」

 

「ば、バカなああああああ!?」

 

 アポロンは一定量の致命傷を受けて、光の柱となって天界へ消えていく。その柱が見えなくなった時点で、アポロンを追いかけようとしていた眷属達にかけていた迷う幻術を解除する。

 これでようやくアポロンに追いつけるようになったが、そのアポロンは既にこの下界から去ってしまった。

 

「で、神の送還を見た感想は?ヴェルニカさん」

 

『つまらん。要するに神気によって下界用のボディを用意しただけで、あの光の柱はその神気が天界の元の場所へ戻っただけ。仕組みとしては単純すぎる。そして、余程の神格でなければ分身を地上に送れるのも一度だけ。何せ天界──神の御座(みざ)との穴は閉じたまま。そこをこじ開けるので普通の神格は限界じゃ』

 

「だからこそ神々のほとんどはその能力を著しく制限されてしまうのですが。ゼウスのような規格外でもなければそれも当たり前なんです。今オラリオにいる中だとフレイヤちゃんが一番強い神格ですね」

 

『ああ、あの放蕩女神。オラリオ最強とかいう者も見たが、あれも道理じゃ。あの女神の派閥と白兎達が強くなれば、今度の討伐にも芽が出て来る』

 

 世界最強(ヴェルニカ)のお墨付きが出た。ならば一層両女神の派閥には肩入れをしようと明達は決心する。

 彼らはここにいたという痕跡を残さず、この場を去る。ヴェルニカはそのまま旅を再開した。

 

 次の日には、元アポロン・ファミリアの眷属が一斉に恩恵を失ったことでアポロンが天界に送還されたことがギルドから公表された。

 犯人は分からずじまい。神々の見解ではオラリオの外でモンスターにでも襲われたのだろうという話で決着がついた。

 

 




神の御座とは「オンモフ」における天界のようなものです。
この二つの世界観を統一させるためにダンまち側に独自解釈がすごく多くなっています。
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